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某国の女騎士と仲間達の日常物語?  作者: しんり
第1章 女騎士とその仲間達
9/71

9、盗賊とエルフ戦士 3

「俺はグリーンって言うんだ。旅人だよ」


 髪色が名前第二号。

 思わずレイナはシオンを見るがシオンは首を傾げるだけだった。

 なんでもないと告げて再びグリーンと名乗ったエルフを見る。

 名乗られたのだからこちらも言わなくては失礼だろう、ということで財布を取り返してもらったネーナからお礼も兼ねて感謝と名前を伝える。それに続くようにレイナとシオンも自己紹介を軽くした。


「なんか変わった組み合わせだな」


 騎士と魔法使い(見習い)と精霊という組み合わせ。これから冒険にでもいくのだろうか、と思うメンバーだ。


「そういう貴方も珍しいですね。エルフの戦士ですか」

「まぁそんなところだな」


 見た目の軽さや特に目立つ武器を持っていなかったし、先程の蹴りが鮮やかだったのもあって戦士と思いシオンは伝えると、グリーンと名乗ったエルフは笑って頷いた。


「……で、この町で何したの?」

「え、なんかいきなり疑われるようなこと聞かれた気がするんだが」

「そりゃそうでしょ。周りに気づいてるでしょ」

「あー……まぁな。うん」


 レイナが胡散臭そうに視線を投げればグリーンは苦笑する。

 そう。先程から行き交っていた人々が若干遠巻きになった。しかもジロジロとこちらを不躾に見つめる視線も多い。

 単純に精霊やエルフ、騎士が揃っているのが珍しいからかとも思ったがどうやらそうでもないらしい。

 そもそも精霊と騎士という組み合わせは先程からあったものだ。

 騎士は城下町から遠くないここならばそう珍しくはないはず。精霊は確かに目にすることはないだろうが、こう長閑な場所だ。精霊に対する信仰も多少はあるだろう。珍しくはあっても不躾に視線をなげるなんてことはしない。

 となると遠巻きになってジロジロ見られるようになったのはエルフであるグリーンのせいだということになる。

 先程の対処が間違っていたわけではない。むしろ感謝されて当然の行為だ。

 にも関わらずグリーンがこの場に来てからの周りの視線は痛い。此方を見ながらボソボソと眉を潜めて会話をしてる者もいる。

 もちろんエルフだから注目を集めているという可能性もある。

 だがエルフは城にも城下町にも普通にいるし、旅人だからといって珍しいものではない。


 まぁ戦士という肉体武器を使うところは多少珍しくはあるが。

 エルフは元々が魔力が高い種族だ。前回のダークエルフのヒリカみたいなのもいるが殆どのものが魔法使い並に魔法を扱うことが出来る。

 自然を愛する種族でもあるから森にいることが多く、それ故に複雑な森を制覇するために俊敏さも兼ね揃えている。

 得意とする武器は遠距離系の弓やボウガン、魔砲銃というちょっと変わったものを使う。

 その為、あまり体力関連が強い種族ではない。

 そのエルフが戦士、というのだから少なくともエルフ達の中では少数派だろう。


 だがやはり周りから向けられる視線はそういったことでもないだろう。

 どう考えても好意的な視線ではない。

 グリーンは一度、頭を軽く掻くと考える素振りをする。


「それがよくわからねぇんだよな。俺がこの町に着いてからずっとあんな感じで遠巻きでみられるんだ」

「自分が何かやったわけではないのですか?」

「んー特に悪さをした覚えはねぇな。むしろ最近ここで物騒な話聞くから警備の手伝いしてるくらいだぜ」

「おお、自主的にやるなんて凄いですね。でも、その、そしたらこんな風に見られることはないのでは……?」

「だよなー。警備のおっちゃん達とは結構仲良くなったんだけどそれ以外からは話しかけてもすぐ逃げられちゃうし」

「疑うわけじゃないけど、本当に何もしてないのね?」

「ああ、ここに来てから警備の人達のところに世話になってるからそいつらに聞いてくれよ。保障してくれる」


 自信ありげにグリーンは答えた。それに対してレイナも頷く。

 周りの視線はいいものではないが、だからといってそれにつられて目の前の人物を疑うのもおかしいだろう。

 だからといって良い人だと判断するのも時期尚早というものだ。

 この町で何があってこの男がどうに関わっているのかは追々確認すればいい。したくはないが。

 面倒くさいことが嫌いなレイナがわざわざ確認をとろうと思ったのは、当然今回の事件の関係者じゃないかと思ったからだ。

 しかし、これで確認して別件が浮上した場合は問答無用で切り捨てるつもりでいる。

 城に連絡して別の人物捕まえてあたらせる気満々だ。


「何はともあれ、今回は助かったわ。そこに倒れてる奴は貴方に任せるわ」

「ああ、後で警備の奴に連絡しておく。そういうお前達はこの町に何しに来たんだ? 変わった組み合わせに見えるけど」

「あ、やっぱり変わった組み合わせに見えますか」

「まぁ一般人には見えねぇよな。騎士と妖精と……その服装は魔法使いか?」

「正確には魔法使い見習いです。レインニジアのお城に今お世話になってるんです」

「ああ、なるほど。だから騎士と一緒ってことか」

「随分とこちらのことを聞いてきますね」

「いや、不躾だったな。悪い。さっきも言ったけど俺、ここで警備手伝いしてるからさ。ちょっと気になったんだ。悪気はない」


 少し眉を下げてグリーンは謝り、笑った。

 その笑った顔には裏はなさそうにみえる。笑い顔でもシオンみたいに常にニコニコしてて裏がまったく読めないタイプもいるので「笑う」一つとっても様々だ。

 さて、そんな好青年のことは追々調べるとして今は領主の所に行くのが先決だ。

 向かうところがあるから、と告げてレイナはグリーンに別れを告げようとする。

 それに待ったをかけたのは目の前にいるグリーンだった。


「お前、城からきたんだろ? やっぱり今回の騒動を調べにきたのか?」

「……そうだけど」


 なんか嫌な予感がした。

 とても面倒くさそうな予感が。


 グリーンはいい笑顔をレイナに向ける。

 無邪気そのものの笑顔だ。レイナは顔を背けたい。だがその笑顔がそれを許さなかった。


「俺も一緒に行っていいか。町の俺への態度とかどうも無関係に感じねぇんだよ。頼む」


 面倒な案件来たーーーー!

 顔を背けられなかった時点でレイナの敗北だ。

 別に極秘任務でもない。相手は盗賊だ。人手が多いことに越したことはない。

 ないのだが……


(どうも気になるのよね。こう、関わっちゃいけないような……どう考えても面倒ごとしか背負ってない気がする。このエルフ)


 だがそんなことを知り合った相手にいうワケにもいかず。

 騎士の服を着ている以上、面倒だからお断りですなんて言葉も使えない。そんなことを言ったという話が城に届けば国王や宰相に何を言われるかわかったものではない。面白おかしくいじられまくった後、また別の依頼で飛ばされるんだ。そんな未来しか見えない。

 しかし、レイナは気づいているのだろうか。


 自分が一番、面倒ごとを背負ってやってきていることに。








 多少予想外な出来事があったものの、然程時間のずれもなくレイナ達はそれから暫くして領主の屋敷へと辿り着いた。

 事前に連絡してあった為、訪ねたレイナ達をすぐに執事らしき男性が出迎えた。騎士服を着たレイナを確認してそのまま門を通す。

 ただやはりここでもグリーンを見た時に眉を顰められた。しかしそれだけで何か口に出すわけでもなくジロジロみるわけでもなく、自分の職を全うするべく背筋を伸ばして先導する。どうやら教育はきちんと行き届いているようだ。

 それから屋敷内に入り、ひとつの客間へと通されると領主を迎えに執事は一度退出する。

 すぐにメイドから茶を出されるが手をつける前に領主が現れた。

 中肉中背のそれなりに年がいっている男性で、目元は穏やかだがやはり上に立つ人間だけあって雰囲気は凛としている。

 レイナは立ち上がり挨拶を交わす。それからすぐに向かい合うように座ると話は早速今回の盗賊事件の話となった。


「どうやらこの付近に盗賊が住み着いたようなのです。自然が多い場所ですので身を隠すところが多く、警備も然程多いとはいえません」

「警備はどうしても王都から近いこともあり、そちらから呼ぶのが無難とされていますね」

「ええ。普段は平和そのものですので私兵もおりません。自主的に民達が見回りや警備をしている状態です。主に狙われるのは町から出た街道です。すぐに小さな森に入るのですがそこで襲われるのが多いようです。街道自体は整備され広いのですが何分周りは身を隠す場所が多いもので」

「まぁ無難な場所でしょうか。そこの見回りも?」

「ええ。行っています。ですがそれも読まれているらしく、見回りの際は決して姿を見せることもありません。そしてそういった警備をつけた馬車も狙うことはありません」

「では被害は商人や裕福層の方ということでしょうか。貴族までは手を出さない、と」

「そのようです。現に私達の馬車は狙われたことはありませんが旅商人や荷馬車、定期的に行き交っている馬車を狙うようです。時には荷物だけでなくそのまま馬車ごと乗っている人も攫っているとか」

「おや、そうすると奴隷売買の可能性も出てきますね」


 レイナと領主が淡々と情報を確認していると横からシオンが口を出した。

 その言葉に領主が驚き顔を青ざめる。


 内界と呼ばれるこの場所は、どこの国も奴隷を禁止している。

 多種多様の種族が存在している為でもあるし、そもそも奴隷という立場を作ることは女神が許さないとしている。

 女神の話に関してはまた後日触れることにしよう。

 しかしそれでも裏と呼ばれる場所では今なお奴隷の売り買いはされている。どれだけ炙りだそうともそういった場所はなくなることがない。

 種族の能力、見た目の美しさ等々、扱われるものは多種多様だ。しかし奴隷が禁止されているのだから表立って扱うことはできない。つまり働かせることが出来ない。

 ということは殆どの奴隷売買は「鑑賞」目的が多い。もちろんそれ以外もあるが大体が芸術関係と言われている。

 検挙する騎士達の間でも「金持ちの悪趣味すぎる遊び」と比喩するが、まぁ間違いではない。

 もちろんそんな軽いものでない。だがやっている側は殆どがそのくらいの気持ちなのだ。誇り高い騎士達が嫌悪するのも当たり前だ。


 荷物だけでなくこの地に住む人間すら売り飛ばされている可能性がある。それを耳にして不安にならないわけがない。

 正しい領主ならば。


「では……攫われた者達は」

「わかりません。もしかしたらただ捕まってそれなりに金持ちなら人質になりえるでしょうし。そのまま小間使いとして扱われるかもしれません。ですが奴隷売買の場所はかなり綿密に隠されていますから簡単に行うことも出来ないはずです」


 こいつ、探れば奴隷売買の場所まで知ってそうだな……

 さらりとシオンがもたらした内容に、つい怪訝そうにレイナはシオンを見るがやはりこの精霊はニコリと笑うだけだった。

 多分、必要なときに多額の金額と引き換えに売るつもりなんだろう。絶対そうだ。


 領主は青褪めた顔を軽く振ってから小さく溜息をつく。

 それから少しだけ眉根を潜めてこちらを見た。いや、正確にはグリーンの方をみた。


「それから、その盗賊なのですがどうやら複数存在するようで」

「複数?」

「はい。森でも狙われますがそれ以外の場所でも被害が出ていますし、稀に町中でもあります。襲う遣り方、持ち去るものの種類などが様々で……種族も多様にいるようです。そこから盗賊は一つではなく複数存在しているのではないかと予測しています」

「……種族が様々、と」

「はい。 ……その中にどうやらいるようなんです」

「…………」

「その、エルフの集団が」


 じっとグリーンを見ていた領主に、話を聞いたレイナは額を押さえた。

 シオンとネーナは領主につられる様にグリーンの方を振り返る。

 見つめられたグリーンはただただ目を大きく見開いて固まった。しかしすぐに慌てだす。



「え、もしかして俺、いままで疑われてた!?」



 そういうことだよ! むしろなんで今まで気づいてなかった!


 この町の人達からの視線の意味をようやくグリーンは気づく。

 思いっきり怪しまれていたのだ。余所者のエルフを。そりゃ疑うだろう。盗賊騒ぎが起き始めてから旅人として居ついたエルフなんて怪しすぎる。


 さっそく面倒ごとが起こりそうでレイナは深い溜息をその場でついたのだった。


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