66、海の魔獣と貴族剣士 1
丁度一ヵ月経ちましたので投稿を再開します。
とはいえあまり溜まってはいないので、またすぐに間が空いてしまうかと思いますが改めて気長に楽しんで頂ければ幸いです。
そして毎度の如く、今回は説明回です。
大国レインニジアの王都はデカい。
大きな城が聳え、その後ろには山がある。そしてそれを大きく囲むように街がある。それが王都だ。
様々な区画があり、その中でもっとも賑わいがあって毎日がお祭り騒ぎ……とまでは言わないが、常に賑わっているのが城の門前に広がる城下町だ。
城下町は様々な店や見世物があり、裕福層も多く住む場所だ。ちなみに貴族が住む場所はまた別の区画となっている。
娯楽や日用品、飲食や衣服など様々なものが沢山軒並み揃えて佇んでおり、幅広く取られた道は荷馬車よりも人を乗せる多種多様の馬車が多く行き交っている。余裕で馬車はすれ違うこともでき、さらに人々も数人固まっていても余裕で間を通り抜けられるくらいの幅があるくらいだ。
民から貴族まで様々な者が訪れる城下町。そんな場所に一人の若い青年が少し足取り重く歩いている。
黒に近い青髪が耳が隠れる程度まで伸びている短髪。ぱっちりとした琥珀色の瞳。普通の服を着ているが纏っているローブがただの庶民でないことを表しているようだ。だからといって冒険者でもない。
普段は穏やかな笑みを浮かべているその表情は少しだけ陰っているようにも見える。
「レイー! 買い物かー!?」
「あ、マークス」
ゆっくり歩いていた青年は、名前を呼ばれて振り返る。
こちらに向かって大きく手を振る自分と似たような年齢の青年が小走りで近づいてきた。
ローブを纏っているのは見習い騎士で、黒星団長の息子で、国王専属騎士の義弟でもあるレイ。
小走りで近づいてきたのは同じく見習い騎士で同僚になる、レイの友人のマークスだ。
赤茶の癖っ毛の短髪に目は吊り目。そばかすがあり細長い印象があるマークスだが騎士を目指しているだけあって筋肉はしっかりとついている。
鋭い目つきとは裏腹ににかっと笑った顔は茶目っ気があって親しみを持つことが出来るムードメーカーだ。
レイもマークスも今日は公休だ。だからこの場で出会ったのは本当に偶然。
「なんだ、元気ねぇな。なんかあったのか?」
「ううん、あったというか……逆に何もないというか」
「ハッキリしねぇな」
「最近、色々仕事が忙しいみたいでね。黒星団長とは顔を合わすけど、姉さんとは全然会えなくて。この間、仕事から帰ってきて報告に城に上がったみたいなんだけどそのまま何か調べ物があるっていまだに家に帰ってこないんだ。仕事で長期王都から出てたのに、王都にいる今でも帰ってこないんだよ。もうずっと姉さんの顔見てないんだ。心配だし会いたいし、なんかずっと胃がぐるぐるしててもう」
「うんわかった。お前の姉大好き症状はよく知ってるからそれ以上は言わなくていいよ。知ってるから黙っとけ」
「なんかそれも酷くないかな?」
「お前のそれ、やっかみ持った奴らにはからかいや嫌味の元だったのにいつも熱心に語るせいで逆に「姉」と「国王専属騎士」って単語が禁句になったって知ってる? そいつらだけじゃなくて、俺らも禁句にしてるって知ってる?」
「え? そうなの? むしろ全然伝わってないかと思って語り足りてないのかと思ってた……」
さらっと平然に言うレイに思わずマークスの口端が引きつる。
普段こそ穏やかに誰とも会話できるレイだが、家族の事で何かが溜まってくると怒涛のように滔々と語りだすのだ。それが今みたいに姉に会えない日々が続いたり、義父である黒星団長に構い倒してもらって嬉しい日が続いてたりだとか様々だが、大体は姉であるレイナ絡みであることが多い。
初めこそレイの境遇を羨んだり妬んだりしていた者が貶めたりする理由としてレイに姉のことを持ち出してくることがしょっちゅうだった。
しかし、言われるレイは然程気にしたことがない。大体が聞き流していることが多いのだが、何かがトリガーになって反論する時がある。
そうすると先程のようにレイは語りだすのだ。只管ずっと。途中で絡んできた相手がドン引きして口を挟むのだが、見事にレイはそれを無視する。いや、聞き流す。
しかし、ここまでなら皆が禁句にするほどのことでもない。厄介なのが次の行動だ。
レイはその語りが満足するまで語る。語るきっかけを作った相手にひたすら語るのだ。
もちろん、相手も途中で逃げようとするのだがなぜかレイが逃がさないのだ。後をついて行ったり、腕をつかんで逃がさなかったり。これでもレイは見習い騎士だ。腕力は強い。とにかく相手を絶対に逃がさず、延々と付き合わされる。
レイの語りが終わる頃には相手は大体ぐったりして倒れていたりするのだから、ドン引きどころか恐怖する始末だ。
そんなわけで、レイに対して周りの者誰もが禁句用語は言わない様にしている。もしくはタイミングを計って言うことにしているのだ。
しかし、それが本人にとってはただの語り足りないで済まされていたとは……
「いや、十分だから! って、そうじゃなくてな。まぁ、お前んところも大変だな。でも流石にしばらくすれば会えるだろ」
「だといいなぁ」
そう言って苦笑をレイは浮かべる。やはりそこには一抹の寂しさが見え隠れしていた。
マークスはそれをあえて見ないふりして話題を変えることにした。
「俺さ、これからドバ爺さんのところに行くんだけど、レイも一緒に来ないか?」
「ドバさんのところに? 新しい剣でも買うの?」
マークスが口にした名前にレイは首を傾げる。
ドバ爺と呼ばれた人物は、この王都に店を構える鍛冶職人だ。ドバロスというのが本名だが皆親しみを込めて「ドバ爺さん」と呼んでいる。
かなり腕のいい職人で信頼も信用も厚い。その理由も彼がドワーフであることも一因である。
ただ一般のイメージであるドワーフとはその姿は違っていて、ずんぐりむっくりしたものではなく、背は人間の一般男子と変わらず、筋肉もしっかりとついていて騎士団にいてもおかしくない肉体を持つ。
え? 本当にドワーフ? と日々疑われているがドバ爺さん曰く「故郷のゴマナバーケンじゃ今じゃこの体型が普通だっつーのに、誰も信じねぇ! お前ら一度ゴマナバーケンまで旅行に行ってこい!」とのこと。
最近のドワーフは進化したらしい。
ちなみにドバ爺さんの奥さんもすらりと背の高い美人のドワーフだ。美の拘りが強いんだとか。ドワーフってそんな種族だったっけ?
種族の話はそれはさておき。
マークスがドバ爺さんのところに行くのはもちろん武器を見に行くためだそうだ。
見習い騎士は普通の長剣が支給される。それ以外は自腹で買い求めるものとなる。
訓練以外で帯剣することは許可がないと出来ないのだがそれでも自分だけの剣というものに皆憧れるものだ。
ただしドバ爺さんの作るものは値段はそれなりにする。見習い騎士の給料ではとても手が出せるものではない。
何せ彼の腕前は城お抱えとして声をかけられる程だ。それでも今城下町にいるのは彼がその話を蹴ったからだ。
好きなことに没頭していたい、研究、追及していたいという職人魂が城下町を選んだのだ。ちなみに現在城勤めとなっている鍛冶職人はドバ爺さんのお弟子さんだとか。基本的に騎士団に所属し、武器の調整や一人一人に合った武器を作るのが仕事だ。
城で抱えている専門職の方々は基本的に同じ城勤めをしている人達の為に雇われている。
その為、お弟子さんが相手をするのは城勤めの者だけだ。大体は本隊となる騎士団がメインではあるが。
見習い騎士であるレイ達は相手にしてはもらえない。というかそこまで手は回らないのだ。
見習い騎士と本隊とでは色々対応が違っている。
そもそも、騎士団とは。見習い騎士とは。
ここ、王都では「兵」と呼ばれる職種はいくつかある。
警備兵、衛兵、近衛兵、見習い騎士、騎士団がその括りだろう。
警備兵は主に王都を守る兵だ。所属は区となる。纏めているのは区長だ。その区画ごとに所属は異なり、区民から募っている。
衛兵は警備兵の上司にあたる。所属は城となる。区長と城との中間管理職のようなものだ。騎士団へ直通でお目通りも可能だ。
近衛兵は城と王族を守る兵だ。所属は城となる。主に「守備」に優れている部署で騎士団とは全く別物である。城の隅々はもちろん王族の身辺まで付き従う為、任命される為の最重要箇所は「信用信頼」だ。特別な契約も当然交わしている。
見習い騎士は名の通り。ただし、所属は城だが、管轄は王都となる。城に勤めることは出来ない。異世界の言葉を借りれば「アルバイト」というものが一番近いかもしれない。扱いはほぼ警備兵と同じだが、メインは訓練となる。
騎士団は軍隊だ。所属は城であり、国となる。要請があれば当然王都以外の領にも行く。城に本隊を置き、各領にも城所属の騎士団が派遣されている。とはいえ、メインで活動するのはその領地で勤めている隊であり、騎士団はあくまで補佐になる。だが力関係では上になる為、何かあれば指示を出すのは騎士団だ。場合によっては領主よりも発言権がある。
実力主義になってからは騎士団の地位はかなり高い。城に勤める「本隊」と呼ばれる者達は特に実力が上位の者の集まりだ。
なんだかんだと実はかなり発言力は高い。だが彼らは自分達が騎士であることを理解し、誇りにしている為、滅多に口を挟むこともないし、権力で物を言わせることは殆どない。そう、殆どない。
忠誠心溢れる騎士達は、守るものが脅かされる事があれば使えるものは遠慮なくありとあらゆる手段をつかってでも守る。ということはする。
さて、兵というもの理解したところで話はマークス達の方に戻ろう。
見習い騎士であるマークスの誘いに、レイも断る理由はない。むしろレイだって自分だけの剣というのは憧れがある。
共に行くことに頷いてレイはマークスの後をついていくことにした。
他愛もない会話をしながら城下町を過ぎると、二人は居住区を通り抜け工業区までやってきた。
意外に城下町から工業区までは遠い為、乗合馬車を使うことになる。馬車を降りると町並みは城下町と然程変わらないが、活気の種類が違う。
賑わいが、こう、やけに熱い。熱気がこもっているというか流石職人の集まり。力強さがそこかしこから伝わってくる。
専門の店が立ち並ぶ中、レイ達は目的の場所まで歩き出す。するとすぐに別の後方から声をかけられた。
「あら~! レイちゃんじゃなぁい? こんなところで奇遇だわぁ!」
女性のような喋り方なのに声は低い。
思わず二人が振り返ればこちらに手を振る見覚えのある女将がいた。……女将と言ったが、その見た目は女性とはかけ離れている。
筋肉がついたすらりとした長身にしっかりとした胸板、幅の広い肩幅には黒紫色の長髪を編み込んで頭の上で一括りにしたサラサラとした髪が雪崩かかっている。
黒紫色の吊り目だが笑っているおかげできつさは感じない。顔は細身だろうが骨格はしっかりしている。目の下に独特の隈取がある、れっきとした男性の魔人。
城の食堂を任されている殺人蜂の働き蜂、スペキラが二人に向かって近づいてきた。
「こんにちは、スペキラさん」
「はい、こんにちは。あら、貴方も見習い騎士さんよね。たまに食べに来てるのみたことあるわ」
「は、はい! マークスといいます。城の食堂はとても美味しいのでよく食べにいっています」
「まぁ! 嬉しいこと言ってくれるわ。今度サービスしてあげるわね」
スペキラにウインクと共に貰えた言葉にマークスは小さくガッツポーズをする。
スペキラの食堂は城に構えているだけあって、味はとてもいい。元は城で働いている者達の為の食堂だったが評判が広がり、食堂を拡大して一般開放にまで至ったのだ。
見習い騎士達も通ってでも食べたいと思っているくらいだ。しかし、城勤めではないので一般として普通に購入して食べるしかない。
流石に毎日食べるには見習い騎士達の給料では厳しい金額なのだ。サービスという言葉は食べ盛りの青年には嬉しいことこの上ないのだ。
知り合いではなかったが、スペキラ自体は騎士達の間では食欲で大変お世話になる相手だけに有名でその話題は見習い騎士にも伝わっていて、姿は知っているのだ。
「スペキラさんも工業区に用ですか?」
「ええ、新しい包丁を見積もりに来たのよ。そろそろ使えないのが何本か出てきたからいっそのこと全部買い替えようかと思って」
「ああ、なるほど。厨房で使うもんだし、普通の包丁じゃあ駄目なんですね」
「一般の家庭とは使い方が全然違うんですもの。職人の特別製じゃないと持たないのよねぇ。研ぎ直しも何度も出してるけど、これからを考えるとやっぱり新しいものに今のうちに代えておかないとねぇ」
「ええっと、包丁と剣って打ち方って違うんですか?」
「あら、物にもよるわね。包丁専門もあれば剣も作ってるところもあるわ。二人は剣が目的かしら?」
「はい! これからドバ爺さんのところに行くつもりです!」
マークスが元気よく答えれば、スペキラも「私も一緒に行こうかしら」と笑って言ったのでレイもマークスも快く承諾した。
行く途中も話は弾み、スペキラは物知りで見習い騎士二人の知らないことを色々と教えてくれる。
これから見にいく剣についても話してくれて、それならばギルドに行ってみたらどうだとお勧めされた。
「剣を見るのにギルドですか? 商人ギルド?」
「鍛冶や工芸品は職人ギルドね。商人ギルドは貿易や原産物とかだから食品や鉱物とかその辺りを扱ってるはずよ。職人ギルドへ行けば各職人の商品を纏めてみることが出来るから見比べるならギルドがお勧めよ」
「「ギルド」って数が多いですからね。どこのギルドに何があるのかいまいち把握しきれなくて」
「そうねぇ。私も全部把握してるわけじゃないけど、この王都で有名なギルドは「商人ギルド」「冒険者ギルド」「魔道具ギルド」かしら」
内界には様々なギルドが存在している。
先程スペキラが挙げたギルドは有名どころだが、ほかにも細々としたものがあり全部を把握するのは難しい。
そこはギルド同士の繋がりややり取りで発生したらしいが、詳しくは専門職でないとわからない。
この王都にも先程挙げたギルド以外も様々な物が存在している。その殆どは支部ではあるが。
「例えば「商人ギルド」の本部が置かれているのはオランジュイよ。何せあそこは唯一外界と貿易出来る場所だもの。色んな物資が行き交う場所だから商人には持って来いの国ね」
「あ、じゃあ「魔道具ギルド」の本部って魔道具開発技術国のベレルだったりする?」
「正解ー! 魔道具であそこに勝るものはないわ。ベレルが魔道具の最先端よ」
「「冒険者ギルド」にも本部があるんですか? どこがが取りまとめているという話は聞きませんが……」
「「冒険者ギルド」の本部は武力国家のバルディッタよ」
「「えー!?」」
「いやね。バルディッタだって全土が脳筋の集まりってわけじゃないのよ。あの国が一番冒険者が集まる国なのよ。魔獣も多く発生するから依頼も多いのよね」
「知らなかった……」
「むしろ冒険者として旅立つ人が多い国かと思ってた……」
「まぁ、それもあると思うわよ。なんだかんだで腕自慢の国だからねぇ」
ギルドの本部というのは色んな場所にある。大体各国に一つは何かのギルドの本部が存在する。
だが、このレインニジアにはギルドの本部は実はなかったりするのだ。
なぜなら、レインニジアには「教会」の本部があるからだ。
あのティアナが仕切る神殿。あれが教会の本部となる。
女神の塔が直接関与できるのがその本部。とはいえ、直接関係者が訪れることは殆どない。
その神殿の影響は大きく、故に他のギルド本部を置くことが出来ないのだ。強い勢力を複数置いておくのは色々と難しい。
その代わり、支部は各所に様々な物がある。
「そういえば最近、商人ギルドの子がちょっと困っていたわね」
「商人ギルドの人ですか? スペキラさんって顔が広いんですね」
「食堂の常連さんなのよ。その子。ねぇ、騎士団でも話に上がってないかしら?」
「え? 騎士団に商人ギルドのことですか? レイは何か知ってるか?」
「ううん、そういう話は聞いてないかな」
「もしかして厄介なことですか? それって俺達が聞いちゃ駄目なんじゃ……」
「そんなことないはずよ。魔獣退治関連のようだから」
「そうなんですか?」
魔獣退治は騎士団では至って普通のことだ。極秘にするような任務ではない。
スペキラ曰く、商人ギルドの貿易経路にやっかいな魔獣が出ていて支障を来たしているという話だ。
しかもそれは海路らしく、外界との貿易に大きな打撃を与えているという。
「外界って……でも、魔獣でも女神の結界は越えられないんですよね? あんだけ広い海なんだから回避出来ねぇのかな」
「流石にその辺の情報はわからないわぁ。オランジュイの船がどういう経路で結界を越えているのかは知られていないのよね」
「女神からの許可が必要だそうですけど、内容は極秘でしたね」
「そうね。外界の情報も極力抑えられているものねぇ」
「ええっと、外界で貿易出来るのも一つの国だけなんですよね?」
「そうよ。唯一、外界で内界と貿易が出来る国」
「三大国家のうちのひとつ、ザーガディスタ帝国」
内界では大国としてレインニジアが上げられるが、外界では三つの国が大国として名を馳せている。
他にも国は多く存在するが、その情報は殆ど耳にすることはない。というよりも内界にその情報を持ち帰ることは禁止されている。
外界も然り。内界の情報を外界へ持ち出すことは出来ない。精々貿易を行っているオランジュイと大国レインニジアの事だけだろう。いや、レインニジアの存在すら知らないかもしれない。
ザーガディスタ帝国。
詳しい情報は当然入ってこない。ただ最近皇帝が代替わりをしたという話は内界にも入ってきている。
それ以外の国の詳しい情報、主に政情は徹底的に遮断されている。
ただザーガディスタ帝国以外に、王国、司教国がありそれが三大国家となっているという大まかなものは仕入れの都合上情報は入ってきていた。
「外界へ貿易に出る船も決まっているし、行ける人物も完全に固定なのよね」
「あ、その理由は聞いたことあります。確か、外界の種族は人間が大半だから人間以外の種族が外界に行くことを禁止してるって」
「そうね。獣人や亜人もいるけど、希少になっているらしいわ」
「亜人や獣人のかたでも外界には行けないんですか?」
「それが外界の亜人や獣人は、内界の獣人亜人とちょっと違うらしいのよね」
「え? 違うんですか?」
「そうらしいわ。どうに違うかわからないけど、だから内界の獣人亜人も駄目ってことらしいわ。本当に決まった人間のみだそうよ」
「でもさ、それで本当に情報の流通とか密輸とかされてないんかな。その船に乗ってれば外界にもいけるし、内界にも来れるってことですよね」
「それはないわね」
何せ生きている物が女神の結界を越えた瞬間、霊界行きになるからよ。
スペキラが面白いことを言うみたいに軽くウインクしながら紡がれた言葉に、レイとマークスはヒュッと息を飲む。
さらっと、本当にさらっと言ったが、内容はそんなサラッとはしていない。
霊界行きということは「死」を表す。魔力、命あるものを通さないというのはそういうことだ。
命は魔力で動いている。魔力がなくなれば死んでしまう。ただ、命を動かす魔力と普段使う魔力は使い道が違うので命を消耗してまで魔力を使うということは体の作りを変えない限り起こることはない。
既に魂や魔力を刈り取ったものなら行き来は出来る。生きたままの家畜等は連れだせない。魚類も完全に締めてからの出荷となる。
船に乗っている者達は女神の塔が許可が下りている者達だ。
正式な手続きをして、なおかつ女神の塔からの色んな契約、制約を付け加えてようやく許可が下りる。女神の塔からの特別な施しを体に受けることで結界を行き来することが出来るらしいので、他人への譲渡は出来ない。
何を施されて、どんな契約、制約をするのかは門外不出となっている。そこは厳重にオランジュイが管理しているようだ。
もっとも、そこまで徹底しているからこそ外界と貿易出来るとも言える。
「ま、それでも馬鹿な子ってのはいるのよね。こっそり船に乗って霊界送りになって発見されるとか、割と多いみたいよ」
「う、うわぁ……」
「外界ではそもそも霊界というものがお伽噺のような物になってるみたいだし、信じないのが多いんじゃないかしら」
「お伽噺ですか。僕達にとっては外界の方がお伽噺のような話ですけど」
「そうだよなぁ。魔法とか魔道具がない世界ってどうやって魔獣と戦うんだろうな。だって強化魔法も使えないんだろ? スペルティだってないって聞くぜ」
「うーん、よく魔法もスペルティも禁止して模擬戦をやることあるけど、あれに近いんじゃないかな」
「いや、あんなんじゃ魔獣に効かねぇだろ。「俊足」だって使えないんだろ? 普通に走って剣を振るだけで倒せるもんなのかな」
「外界と内界じゃ魔獣もまた違ってくるんじゃないかしら。外には魔力がないんだもの。魔獣だって魔法のようなものは使えないはずよ」
「あ、そうか。外界の騎士って本当どんなんなんだろうな。ちょっと気になるよな」
そんな外界へ思いを馳せながら三人は工業区を歩いていく。
知らないからこそ色んな想像をしつつ、自分達がもしそうだったらなどと話をしては笑い合う。
だからそんな三人も当然知らない。
外界にも「例外」というのが存在することに。




