64、賊と貴族と義賊 27
謎解き編
ペスタチシアの街から少し……いや、歩いてだとだいぶ離れた場所に小さな丘がある。
丘に登ればペスタチシアの街が一望……は街が大きすぎて出来ないけど、それなりに見渡せられる。それだけ小さい丘だ。
街道から外れる上に微妙すぎる場所に殆ど人は立ち寄ることはない。鳥の囀り程度しか聞こえない場所に一人の人物が長い尻尾を揺らしながら座って街を見ていた。
その手には出来立てであろう丸い肉が詰まった饅頭を抱えて、そして口に頬張れば笑顔を浮かべて嚥下する。
それが丁度食べ終わるころに自分の目的がやってくるだろう。
そして最後の一口を飲み込んだところで足音が聞こえた。
「なんでこんなところなのよ? 普通、街からもっと近いところにいるべきじゃない? なんでこんな無駄に歩く場所にいるわけ!?」
「いや、知りませんよ。そんなこと本人に聞いてください。ほら、いましたよ」
一人の女性と、一人……一匹? の精霊のやり取りが聞こえてきて、立ち上がってから振り返って手を振った。
文句を言っていた女性、レイナはこちらを振り向いた相手を軽く睨むと名前を呼んだ。
「なんでこんな辺鄙なところにいるのよ! ジル!!」
多分、色々聞きたいことはあるだろうに、最初に出てきたのはこんな場所まで歩かされた不満だった。
ジルはおかしくて声を出して笑った。
笑ったことでさらに視線はきつくなったが、手が出てこない辺りあくまで不満で終わっているらしい。
すぐ傍まで来るのを待ってからジルは話しかけた。
「よくここがわかったな」
「シオンが見つけたのよ。ここに同じ気配を感じるからジルがいるんだろうって」
「あーそっか。そうだよな、シオンがいればわかるよなぁ」
どこかしみじみと呟くジルに対して、レイナは内心で首を傾げる。
シオンとジルで何かわかりあっている物があるようだが、レイナはそれの説明をいまだに受けてはいない。
先程の言葉はシオンが言っていた言葉をそのまま口にしただけで、理解まではしていない。
気にならないわけではないが、多分、その理由はこれからわかるはずだと、どこかで確信していたから聞かなかった。
「……で、なんで帰ってこなかったの?」
「途中まで忘れられていたのに?」
「そういうことは真実でも黙っておく! てかなんで知ってんのよ!!」
「そもそも、貴方は強制的にどこかに囚われていたのではないのですか? いつ、抜け出したんです?」
どうやらシオンの中ではジルが自ら抜け出したことは確定のようだ。そしてそれは間違いではないのでジルは首を縦にふる。
「強制的に移動されて直ぐかな。結構強度の強い結界がはられてたし、魔法無効もあったけど、まぁそれだけだったからな」
「その状態で抜け出したの?」
「まぁ、凄腕の魔法使いや魔術師でも多分抜け出すのは無理な状態だな」
「は?」
「魔法使いじゃ無理だったから、別のを使うことにしたんだ」
そういうとにかっとジルは笑った。
レイナは眉を潜めてただ怪訝そうにジルの顔を見つめて先を促す。だが、ジルが何かを言う前にシオンがコホン、と一つ咳をして間に入ってきた。
「その部分を話す前にハッキリさせたいことがあります」
「おう。答えられる範囲で答えるぞ」
「貴方の本名を教えてください」
シオンの言葉にジルよりもレイナが僅かに反応する。少しだけ警戒するように体の向きを変えた。
それを見たジルが苦笑して首を横に振る。
「ジル、も本名だよ。偽名じゃないって」
「……では、正式名称でお願いします」
「……オレの名前はジル。海石竜子のジルアリーチェ」
告げられた名前に警戒してはずのレイナは驚愕の表情を浮かべて警戒を解いた。
なぜならその名前を知っていたからだ。
魔法を使う者ならきっと知っているであろう、名前。
「四大賢者ロード・ルカの愛弟子で、氷の精霊使いのジルアリーチェ……」
レイナが思わず呟いた内容にジルは苦笑を浮かべて「愛弟子はオレだけじゃないんだけどな」と付け足す。
四大賢者の内の一人、ロード・ルカ。
四大賢者といえば子供でも知っている有名すぎる人物。色んな物語にすら登場する、魔法使い、魔術師達の頂点に立つ四人。
その殆どは謎に包まれているが、このロード・ルカというのは四大賢者の中で一番、親しみを持つ人物だ。
ロード・ルカは割とどこにでも姿を現す。そして才能ある者を選び自分の弟子として手元に置く。その為、四大賢者の中でも多くの弟子を持ち、その弟子達の多くは世に名前を轟かせる程の実力を持ち、有名となっている。
ジルアリーチェもその内の一人。弟子の中でも特に有名だ。
彼は魔法使いであり、精霊使いでもある。
精霊使いとは魔法使いのように己の魔力を使うのではなく、精霊の力を使って術を練る。その為、魔力とは全く違う性質のものが出来上がる。そこに自身の特性も属性も関係はしないが、力を借りる精霊の種類である程度は決まる。
精霊使いはなろうとしてなれるものではない。魔法使いとしての実力もあり、精霊から信頼と愛をもらわなくてはならない。そもそもそれ以前に精霊が見えなくては意味がない。
そして、そんな条件でも難易度は高いというのに氷の精霊から力を借りるというのは、この世にたった一人しか存在しない。存在出来ないのだ。
この大地に存在する氷の精霊はたった一つしか存在しないからだ。
妖精もいない、下位も上位も存在しない、たった一つの個体。唯一の存在。
そんな氷の精霊に愛される、ただ一人の存在。
「氷の精霊、ウェンティ。それが彼女の名前です」
シオンが溜息と共に紡いだ言葉が言い終わると同時に、背中がゾクリとする。
周りの温度が一気に下がったのだ。冷気が肌をなでる。
レイナがそんな経験をするのはこれで三回目だ。
だが、今回は冷気だけで終わらなかった。冷気が目に見えるようになり、そしてジルの周りに雪が舞う。パキッと音が聞こえるとそれはジルの肩を抱くように現れた。
青く透き通った肌と髪をした美しい少女の姿をした精霊。氷の精霊、ウェンティ。
彼女はこちらを見て、ニコリと笑った。
「……つまり、魔法で壊せないから、精霊を使って壊した」
「おう。ウェンティに頼んで全部凍らせて貰った。それからすぐに屋敷に向かったよ」
「……ということはネーナが魔法をミスした時に炎で囲まれたアレを収めたのも」
「ウェンティだよ。それとオレが自己紹介した時に冷気を感じたよな? ごめんな、ウェンティがレイナさん達を警戒して威嚇してたんだ。直ぐにシオンさんが窘めてくれたけど」
それを聞いて、ああ、それでか。とレイナは納得した。
ジルと初めて出会った日、シオンが例のランタンを出して鳴らしたことがあった。あれはウェンティに抗議していたのだろう。
実際、すぐに冷気はなくなった。そういえばあの時からシオンは時々不機嫌そうにしていた気がする。
と、そこまで考えると横からシオンが溜息をついた。
「ええ、本当に余計なことをしました。まさかアレで懐かれるとは思いませんでしたよ。確かに唯一である氷の精霊は孤独だと知っていますが、仲間を見かけてあそこまで擦り寄ってくるとは思いませんでした」
そこまで言うと少し遠い目をするシオン。ジルの肩に抱き着くようにいるウェンティは嬉しそうにシオンに向かって笑いかけている。
シオン曰く、あの挨拶とも言える叱咤により、なぜかウェンティに懐かれてしまい、ジルのそばに行くとやたらと纏わりついて構い倒してくるようになったそうだ。
故にシオンはジルの傍には寄りたくなかった。近くにいればウェンティがやたらと纏わりついてくる。多少ならば気にしない。だが、しつこい。本当にしつこいのだ。常にニコニコしているシオンがしつこすぎて不機嫌になってしまうほどに。
とはいえウェンティは基本的に誰の目にも映らない。ジルがウェンティのことを口に出さない以上、シオンがその存在のことを口にするのも野暮というものだ。だからシオンは不機嫌にはなっても、その理由を今まで口に出さなかったというわけだ。
「ああ、セイルスさんもウェンティは見えていたよ。会話もしていたようだしね。ほら、ウェルバと出会った時、ネーナさんに頼んで義賊達を魔法で吹っ飛ばしたことがあっただろう」
「ああ……うん。あったわね」
それでウェルバのドMが刺激されたとは流石に口には出さないが。
「あの時、セイルスさんが制御に失敗したと言ったの覚えてる?」
「ああ、あのわざとらしく言った……え、もしかして」
「ごめんな、アレ、ウェンティを介してセイルスさんにそうしてもらうように頼んだんだ」
『調整、間違えちゃいました。まだまだ練習が必要なようですね』
首を傾げて照れるとか、改めて思えば本当にわざとらしい。
そもそも今まで制御に失敗したことがないのに、あの時だけミスをするとか普通に考えればおかしな話だ。
実はそんな裏があったとは。とはいえ、何のために。
と、そう考えて直ぐにレイナは理由に思い当たる。
ウェルバの「魔力吸収」。あのスペルティの存在にジルが気づいていたなら。本来の火熱単爆破の威力ではウェルバに当たった所で足止めにもならなかったのだろう。
実際、ウェルバはあの時のネーナの威力の高い魔法を受けても怪我などしなかったどころか、ネーナを瞬時に助けた程だ。そしてあれほど威力が高かった魔法をウェルバが受け止めても平気だとジルは確信していた。
とはいえ、ウェルバ以外の義賊達は直撃は免れたが殆どが気絶して回収されることになっていた。炎を纏った魔法だったら確実に大火傷は負っていただろう。
それにしても……
「……あそこで私がネーナに頼んでなかったらどうしてたのよ」
「そん時はオレがやってた。セイルスさんにも頼んでなかったよ」
「ネーナのあのバカ高い魔力に気づいてたってことね」
「んー、オレも魔法使いだからな。それくらいは出会った時にすぐ気づいたって」
「確かに出会った時に感づくことは可能でしょうが、それ以外もあったのでしょう?」
ジルの返してきた言葉に、シオンがさらに追及の言葉を投げかける。これについてもジルは苦笑を浮かべた。
それ以外ということは、ジルは出会った時以外でネーナの魔力の高さに気づいていたということだろうか。
「ネーナだけではありません。初めから知っていたのでしょう。レイナが国王専属騎士だと」
「え?」
「あー……」
「レイナ。貴女は気づきませんか? ジルをよく見てください。主に顔と尻尾を見て何かを思い出しませんか?」
「へ? 顔と尻尾?」
シオンに言われてレイナは改めてジルの容姿を見る。
跳ねた黒髪、黒眼鏡をかけているが金だとわかる瞳。その目はくりっとしているが吊り上がっている。耳はとがっているがエルフのように長くはない。
尻尾は海石竜子というだけあって爬虫類の長い尻尾。ずるずると引きずるくらいに長い。
そういえばこの尻尾を見て、どこかで見たことがあると思ったのだ。
もっともそう思った後に海石竜子という種族名を聞いて納得した。見たことあるはずなのだ。
なぜなら、王都にも海石竜子がいるからだ。
ジルのように髪がはね気味の金髪で、吊り上がった金の目……吊り上がった……
「うん? ……あれ?」
尻尾と耳は種族特有だと思う。でも目の形はきっと違う。どちらかというと血縁。
そう、彼はサシィータのパシリ……もとい、右腕。貴族。
「……もしかして、アンタ、うちの文官、レオルバ・ハーバウストの家族?」
「……叔父さんだな。でも貴族なのは叔父さんだけだ。オレは田舎出身のただの魔法使いさ」
納得した。酷く納得した。
ジルの謎の情報源。謎の身分詐称元。文官でサシィータの右腕程の実力を持ってるのが身内にいればそれくらい出来る。
というか、それをサラッとしらっとやってのけてしまうレオルバも中々食えない奴だ。これがバレたら色々厳罰ものだというのに。
サシィータにいいように扱われて胃を痛めている苦労人かと思えば、案外そうでもなかったということか。
やることはやっている。だが、サシィータが目をかけているということは国に損益を出すことはしていないのだろう。きっとサシィータも気づいているはずだ。そして目を瞑っている。レオルバも加減を見極めつつの情報横流しだろう。もっとも相手が有名な氷の精霊使い相手なのだから、横流しという言い方よりも提供と言った方がいいのだろう。それなりの見返りはもらっているはずだ。
「……案外、図太い繋がりを見てしまった気分ね」
「いや、悪用とかしてないからな。むしろオレだって叔父さんに情報提供してるから、持ちつ持たれつって奴だぞ」
「あー、それで外の状況にやたら詳しかったのねあの人。個人的にそういう「影」を持ってるのかと思ってたけど、まさかの有名どころを情報源にしているとは」
これは益々レオルバを手放すことは出来ないだろう。四大賢者と関りを持つ者の知り合い、どころか身内がいるとは。そんなパイプを逃すようなことを国がするわけがない。
そもそもあの城、平凡と言われるような人物はほぼいないんじゃ……
そんなことを思っていると、ジルは少し困ったような顔をするともそもそと首に巻いていたマフラーを口元まで引き上げた。
「……ごめん、ウェンティ。寒いからそろそろ帰ってくれないかな?」
ジルがそう告げるとウェンティはガンッとショックを受けた表情をした後に暫くジルの周りをウロウロしていたが、その後は大人しく姿を消していった。ウェンティの姿が見えなくなってジルは小さく溜息をついた。
そこでシオンが「ああ」と呟く。
「難儀な子に好かれましたね。そもそも爬虫類系の獣人、亜人は体温調節が苦手でしたね」
「そうなんだ。特に寒いのは駄目で。体が動かなくなる。ウェンティには申し訳ないけど、こればっかりは種族柄どうしようもなくて」
「海石竜子は水魔法を得意として中には氷魔法すらも使えると聞きますが、それ、大丈夫なんですか?」
「そこは自分の魔力だから。関係ないみたいだ。でも精霊は力を「借りる」から氷そのものを感じるんだよ。前にもウェンティ呼んでぶっ倒れたことあってさ……」
「あー爬虫類系に寒さは大敵ってことかぁ。確かに難儀ねぇ」
四大賢者の愛弟子であり唯一の氷の精霊使い。そんな有名どころが一気に可哀そうなアベコベコンビになってしまった。
だから常にマフラーをしているのかと、レイナは納得してジルの肩は労わる様に二度叩く。
「さて、私達とジルの話はここまでにして。今度は貴方と今回の事件についてお伺いしましょう」
「なんで今まで解決後も姿を現さなかったのか、からいこうかしら」
「うーん、怠けてたわけじゃないんだけどな。ディオさん……ああ、ウェルバのお父さんの話は聞いた?」
「ああ、うん。というか貧困層の人達の救助と一緒に挨拶されたわ。なぜか」
レイナは答えつつ当時の光景を思い出す。
伯爵の人身売買は紐解くと、やはりというべきか謎になっていた貧困層の人々の行方と結びついていた。
ようは貧困層を作り替える為に追い出された人々を秘密裏に売り捌いていたのだ。しかも普通に行っていればいずれ足もつくとして、売り捌いた者達が表に出ないようにと人体実験や贄として使うものとして売買をしていたのだから相当悪質だ。
では今までその人々がどこにいたか、というと。
覚えているだろうか。レイナ達が最初にこの街に訪れた時。街の隣に公園のように綺麗な林があるということを話した。
その林の中にいたのだ。ただの林の中に。
「隠蔽の魔法ね。しかもあれだけの規模、多分、あの護衛の魔法使いがやってたんでしょうよ」
「小屋がいくつかあり、そこに人々を押し込んで過ごさせていたようですね。食事はきちんと出ていたようです。可もなく不可もなく三食。林の中はいたって平穏ですし、小屋で寝起きしてるだけで三食食事が出来る。貧困層の人間にとってその状況はとても恵まれた状況です。何せ今までその食事も寝る場所も確保できずに過ごしていたものが多数いるのですから」
貧困層で暮らしていた時よりもいい生活かもしれない。仕事をしないでも食事も出来て、雨風を凌げる場所もある。最低限以下の生活をしていた者にはこれほど恵まれた生活はない。不満をあげる者などいなかった。誰もそこから出ようとは思わなかったのだ。
たまに何人か連れていかれるだけでそれ以外は干渉もない。売買する側も食事も与えているおかげで状態も悪くないものを出品出来るという。そういう循環が生まれていた。
だが、その隠蔽された人々の存在に気づいた人物がいる。
「それがウェルバのお父さん、ディオーダさんだ。彼は人々を逃がさないようにはられている結界の中に入って実態を知った。けど、その結界から出ることが出来なかった。どうやらそういう結界だったようだ。だから彼は魔道具を使ってウェルバとオレに連絡を取ったんだ。……まぁ、やろうと思えば結界壊せたんだろうけどな」
「壊せた? そもそもウェルバの父親ってどういう人物なの? なんか言い方からして強そうだけど?」
「ディオーダさんはオレの兄弟子だよ。師匠の……ロード・ルカの愛弟子の一人で闇に特化してる魔法使い。いや、魔術師だったかな。おかげで逃げるのが凄く上手い」
連絡をつけるのもいつも一苦労して大変だ、とジルは愚痴も交えて説明する。
闇特性は空間系の魔法が得意なのでもちろん結界についても熟知している。ウェルバの父であるディオーダは当然、林の中にある結界も破ることは可能だった。しかし彼はそれをしなかった。曰く
息子の成長に丁度いい。
だ、そうだ。
自分がここにいることで息子がどう動いて解決するのか見たかったそうだ。もちろんヒントを与えることも忘れずに。
そしてその補佐をジルに頼んだという。だからジルは初めから「仲間ではない」と言っていたのだ。あくまでウェルバの補佐として。
間違っていたら正して。子供として力不足なら少し手助けや成長を促して、情報を与えて多少は動きやすく、でも決定権はウェルバに与えて。
そうやってジルはウェルバの手助けをしていた。そしてディオーダはその成長を見れない代わりにジルに随時報告することを義務付けもしていたという。
獅子は我が子を千尋の谷に落とす、というが、ディオーダは落としておいてわざわざ谷に色んな形の足場を作って登らせるようだ。
「しかも報告までしろっていう。一日でも忘れると催促がくるんだ。あれって親馬鹿っていうんだろうな」
ああ、そうそう。実は結界の中に捕らわれていた人達の中には教会の神子様もいて、それ繋がりで教会に協力してもらっていた。とジルは続けた。
神子はどうやらディオーダとは別経路でその場所を見つけていたらしいが外と連絡を取る方法がなく、伯爵たちにバレない様に身を隠していたという。ディオーダが来てくれたおかげで教会とも連絡がとれ、義賊達に手を貸していたということらしい。
「つまり。今回の事件の真相を知っていて黙っていた、と?」
「まぁ、そうなるか? オレもディオさんもあまり表に出るの好きじゃないんだよ。のんびり自分の好きなように生きたいからな。今まで姿見せなかったのもディオさんと連絡とってアレコレしてたからだし、領主の後始末は国がしてくれるだろうしね」
「なんで最初に王都に連絡しなかったのよ」
「ウェルバに解決してもらいたかったんだって。それに何もしなくてもいずれ勝手に王都の人間が動いてくれるだろうって」
「しかし、その間に犠牲になった方々もいらっしゃるでしょうに」
「ああ、それは大丈夫。何の為に義賊達が商人達を襲っていたと思ってるんだ」
近場はそう対処してたし、国外に買われていった相手も多分無事だろう、とジルは告げる。
「ディオさん、空間とか卑怯なくらいいじれるからな。結界内にいる間に目印をつけて、買われた後にその後を追ったみたいだ。この間、自信満々でそういう報告してきたよ。どこに匿っているかは知らないけど」
流石にそれは本人に聞いてほしい、と付け足してジルはその話を終わらせた。
そこまで聞いてレイナは思わず額に手を当てて深い溜息をつく。
これは王都が手を出さなくてもいずれ解決していた案件では……いや、しかし古き扉のこともあったのだから結局は国が口を出さないといけなかった……逃げられたけど。いや、でも実際は正式に動いたわけじゃないからこれでいいのか……
結局のところ古き扉も何がしたかったのかがわからない。もっとも、これについてもシオンがある一つの結論を出している。
シオン曰く「後始末じゃないですか」とのことだ。
つまり裏表関係なく手を広げすぎた伯爵を監視し、最終的に”なかった”ことにするためにいたのではないだろうか、と。
レイナ達はタイミングよく訪れた為にこれ幸いと利用されたのではないだろうか、と。
実際、今でも伯爵とその家族は行方不明のままだ。
正直、イラッともしたが実にもっともな理由なことに、真相はわからないもののレイナはそういうことにしておくことにした。
「は~、スッキリしない終わりね」
「見ただけではきちんと終わったような雰囲気ですがね」
「そうね。で、アンタはこれからどうするのよ。ウェルバも帰ってこないってソワソワしてたわよ」
話はこれで終わりだというようにレイナはジルに今後の話を振る。
ジルは話を振られて首を傾げたが、それからにっこりと笑った。
「オレはこのままいつもの旅にでるよ。役目も終わったしここにいる理由はなくなったからな」
「挨拶はいいの?」
「いいよ。だって、ディオさんの子だからな。いつかまた会えるさ」
そうしてジルは笑って歩き出した。一度だけ振り返ってこちらに手を振ってからは街とは反対の方向へとそのまま歩いて行った。
姿が見えなくなるまでレイナとシオンは見送ると
「じゃあ、私達も帰るかー。王都に」
シオンの返事も聞かずにレイナは歩き出す。ジルが歩いて行った方向とは反対方向に。
仲間が待っているだろう、今日も賑やかに栄える国境領地ペスタチシアへと向かって。




