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某国の女騎士と仲間達の日常物語?  作者: しんり
第1章 女騎士とその仲間達
6/71

6、東の森騒動と魔法使い 6

 暫く誰一人微動だにせずその謎の石碑を見ていたが、それ以後は特に動く気配もなく。

 少しだけ空気が緩んでまず一足先にネーナが一つ息を吐いた。


「取りあえず近くに行ってみませんか? 大丈夫です。いままで多少の動きはあってもそれ以外は何もないですから」

「本当だな?」

「……た、多分」

「まぁ確かにここにいても先に進みません。多少の魔力感知も出来ますからまずは私が先に見てきましょう」


 同じやり取りをしそうになる空気をいい加減打破したいシオンが溜息交じりに言う。


「見てくるだけです。触りませんよ。確認だけです」

「硬いですわよ」

「触りません。絶対触りません」


 近くにだって本当は行きたくないと思っているのだろう。頑なに触ることだけは拒否している。

 既に触ったことのあるヒリカは触ることには抵抗はないようだったが。

 それでも不気味なものは不気味だ。出来る限り視界にはいれたくはない。


 その場に留まる三人を尻目にシオンは石碑のようなもの側まで飛んでいく。

 それから石碑の周りをグルグルとゆっくり回りながら観察した。

 時折穴やら模様が動くとシオンの動きも止まったが、すぐにゆっくりと周回し始める。

 5,6周した頃にシオンは何かを考える素振りをみせてからレイナ達のもとへと戻ってきた。


「確かに何か力は込められているようですが、多分ただの結界ですね」

「結界?」

「はい。あのぬめっとした……表面の質感がそれです。あれ自体が結界のようです」

「……結界ってぬめるの?」

「ぬめりません。そう見せているだけでしょう。ちょっとしたアレンジだと思います。なんでぬめるように見せてるのかはわかりませんけど」

「その方が面白いからじゃないですかね」

「まぁ師匠ですから。それくらいのことはしそうですわ」


 お前達の師匠ってのは本当に何者なんだ。ただの変わり者なのか。

 そう言いたげなレイナの視線を受けてネーナもヒリカも苦笑するか首を傾げるかするだけだった。

 今は二人の師匠が何者であるかより、目の前の物体の正体だ。

 シオンはさらにその結果について語る。


「あれはただの強化結界です。ただし魔法のみですので物理には弱いでしょう」

「両方じゃないんですか?」

「貴女方が来ることを予想されていたのでしょう。魔法のみの結界です。見た目からしてお二方はあまり物理的な力はお持ちではないのでしょう」

「そうですわね。日常生活に支障が出ない程度……というところかしら」

「仮にもダークエルフがその程度ってどうなの」

「種族だけである程度の定義を決めるのは野蛮ですわよ! 人それぞれ個性というものがあるでしょう。それを理解なさいませ」


 個性ありすぎだ。お前は。

 それを言ったらここにいる全員だいぶ個性は強いのだが、きっと本人達自身は自分はまともだと思っているのだろう。

 むしろ無個性を見つけるほうが世の中難しいとは思うが。

 それはさておき。

 シオンはこの石碑……のようなもの自体にはその結果意外は特になにもないと言う。

 じゃあなんであれこれ動いてるのか、という部分はシオンは答えなかった。

 その代わり、結界に見たものを不安にさせる効果が付属しているとのことだ。

 どうやら沸き起こる不安感は見た目だけの問題ではなかったようだ。


「人を近づけない為ってところか」

「でしょうね。何のためにそうしているのか」

「やはり何かが隠されているのでしょうか」

「その可能性は高いですね」

「近寄らせない魔法もかけてまでやっているということは、やはりあそこにはとても貴重なものが……!」

「それは見つけてみないことにはわかりませんね。ところで」

「何よ」


「調査するにあたっての労力、結果報告等々の私の働きに対する料金は後程請求書を作成してお渡ししますね。もちろん、お三方に」


 ニッコリとそれはそれはいい笑顔でシオンは告げた。

 思わず三人は絶句する。


「詐欺だ!!」

「ちゃんと見てくると事前に告げました」

「料金請求するなんて聞いてません!」

「タダほど高いものはこの世にありませんよ」

「明らかな詐欺ですわ!!!」


 三人に反論されるがどこ行く風。実際にシオンが見てこなければ先程の結果はわからなかった。

 実際に結果が出ている以上、そう強く批判することはできない。

 だがまぁ、詐欺だが。

 しかしそこはシオン。詐欺だろうがなんだろうが「妖精のきまぐれ」といって要求を押し通す。

 確かに騙したわけではない。ただ言わなかっただけだ。

 のらりくらりと三人の抗議を躱してシオンはまんまと請求書を送りつけることに成功した。

 納得出来てない顔をするレイナ達だが取りあえず今はそれで何時までも言い合いをするわけにはいかず、渋々了承。


 そんなやり取りをしつつ、本題へと戻る。

 では、この石碑をどうするか。


「物理に弱い」

「まぁそういうことですよね。私達の魔法ではどうにもならなかったので」

「それ以外に魔力はない」

「ええ、結界だけのようですわ」

「つまり石碑の中、もしくは下に何かが隠されている」

「そうなりますね」


「シオン、金は支払ってあげるから今最も必要とされるアイテムをひとつ貰える?」

「毎度ありがとうございます。ではこちらをどうぞ」


 請求されいい笑顔でシオンが取り出したアイテムは



 鉄バットだった。



「なんでですの!?」

「今必要ですか!?」

「よーし! それじゃやるかー!」

「何を!?」



「無論、ぶっ壊す」



 魔法使い見習い二人が悲鳴を上げる。

 しかしそんなものは知ったことではない。

 物理に弱いとわかった以上、やることは一つだ。

 石碑をどかして暴くなんていう時間かかることはしない。


 ただの石なら砕けばいいじゃない。


 そこでこの鉄バット。まさに怪しい石碑を砕くには打ってつけ。日々の鬱憤も一緒に晴らすことも出来ます。

 鉄バットにそんな簡単な説明をシオンが付け足せばレイナはウキウキしたようにその鉄バットを持って石碑に駆け寄った。

 もちろん今も結界の不安要素をあおる効果は効いている。

 だがそれ以上にレイナの「この鉄バットを思いっきり振って石碑を粉砕する爽快感」の方が遥かに上をいっている。

 石の中に何かが隠されていた場合、一緒に粉砕されてしまうと思うのだが残念ながらレイナはそんなことは気にしない。


 なぜなら自分には関係ないものだからだ。


 むしろこの騒動の元となった代物だ。なんであろうと一緒に壊れてくれれば二人が求めるものもなくなり今回の騒動も完全に終息する。

 レイナにとっては願ったり叶ったりだ。

 壊れて危険ではないだろうかと思うだろうが、そもそもそんな危険なものを一緒に壊れる要素のある石の中に埋め込むはずがない。

 なのでそういうった要素はないと踏んでいる。

 自分に害はなさそうならば後は全力で砕くのみ。



「せぇぇぇのぉぉぉ!!」


「いやぁぁぁ!!」

「やめてぇぇぇ!!」



 ドッゴォォン!


 レイナの2倍はあった石碑は恐ろしい勢いで振りかぶった鉄バットの一撃により見事に粉砕したのだった。






 では結果から言おう。

 石碑自体には何もなかった。


「よかったな」

「貴女が言わないで下さい!!」

「心臓が止まるかと思いましたわ!!」


 ぐったりとした見習い二人を他所にレイナとシオンは砕けた石を適当に払ってその下を探っていた。

 そして見つけたのは小さな蓋だった。

 あれだけの大きなものがありながらそれは本当に小さく、小物収納程度の大きさの扉式の蓋だ。

 特に鍵などがかかっている訳でもなく、それは簡単に開いた。

 そこに入っていたのは2枚の折りたたまれた紙だった。

 それをシオンは手に取り丁寧に開いていく。

 文章が綴ってあり、シオンは暫くそのまま読んでいると何も言わず一つレイナへと渡した。

 渡されたレイナもシオンと同じくそのまま読む。

 そんな様子を眺めていたネーナとヒリカはいまだに声を発しない二人をそわそわとして待っている。

 読み終わったらしいレイナが溜息をひとつ。


「あ、あの! 何が書かれていたんですか!?」


 もう聞いても大丈夫だろうとネーナがレイナに少し興奮気味に声をかけた。

 レイナはネーナを一瞥すると無言で手にしていた紙を渡した。

 渡された紙をネーナは嬉しそうな顔で読み始め、その横からヒリカも覗き込む。


「13日、レインニジアにて行列が出来るお菓子屋さんで予約した商品受け取り。

 15日、レインニジア出発。

 20日、オランジュイにて海が見えるレストランにて高級魚コースを堪能。

 25日まで観光。出発。

 5日、ベレルにて最新の劇場で話題の劇を観劇予定。


 ……………………え?」

「まさか……」


「見ての通り、ただの予定表スケジュールですね」


「「なんでーーー!?」」

「最後まで読めばわかるわよ」


 期待がでかかっただけに二人の顔から一気に血の気が引いていく。

 レイナに促されて二人は慌てて続きを読んだ。

 その予定表は紙の下まで、随分と先の予定まで書き込まれていた。

 そして最後に誰かに宛てた様な言葉で締めくくられていた。



『これを無事見つけることが出来て期限内に追いつけたら合格点をあげよう!』



 バッと二人は紙から顔を上げて急いで今が何日かを確認した。

 それから再び紙の中の予定表を見比べる。

 暫くそのまま見つめて


 パタリ……


 声もなく二人は倒れこんだのだった。


「もう手遅れですけどね」

「とっくに全部過ぎてるじゃない。どんだけここで争ってたのよ」

「まぁ今までの争いが全て無駄に終わったんですから気絶もしたくなりますか」

「というか完全に個人的なもので他人巻き込むんじゃないわよ! こっちはこんなくだらない事でここまで足を運んだっていうのに!」

「まぁまぁ。無事事件解決ってことで」

「釈然としないけど! 取りあえずこいつらは城に突き出すけどね」


 そうして倒れこんだ二人をレイナはどこからともなく取り出した縄で縛り上げていく。

 そんな様子をシオンは後ろで眺めつつ、もう一枚の紙をそっと自分の荷物へとしまった。


(これは今はまだお見せするわけにはいきませんね)


 それからシオンは最後に紙の綴られていた名前を思い出す。


 トミニカルファ・ユーリシカ


 その名前がどういった意味を持っているのか、それはまた後日の出来事となる。

 今はただそれがネーナとヒリカの魔法使い見習いの師匠だというだけだ。

 シオンは思い出した名前を再び記憶の奥へと押しやり、目の前の人物達に目をやってから今度は空を見上げる。

 生い茂った木々の間から夕闇がみえた。

 なかなか印象強い出来事だったがそれが起こった時間はほんの僅かの間。

 そんなことを思っているうちにレイナは無事、二人を縛り上げて担いでいた。

 こうして今回の出来事は終わった。



 城に帰ったレイナがシオンに請求された金額を必要経費として書類に書いてを提出するも「他にやりようがあったでしょう」という宰相の一言により却下されて返却され、地団駄を踏むことになった。

 無論、国王からも報奨金をふんだくることは出来なかったのは言うまでもない。



●14567

◎3

12

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