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某国の女騎士と仲間達の日常物語?  作者: しんり
第1章 女騎士とその仲間達
55/71

55、賊と貴族と義賊 18

レイナサイドの話が続きます。

 周りは酷い熱気に包まれ、否応なく体中から汗が溢れ出す。

 唯一、精霊という存在であるシオンだけは何事も変わりなく、この熱気の中を涼しい顔で飛んでいる。


 さて、この場においてのレイナの勝利条件とはなんだろうか。


 無論、現状の打破だろう。

 では、敗北条件は?

 そう考えた時、レイナは首を傾げる。ただし心の中だけで。

 そもそも、この状況は目の前の相手にとって、どういう状況なのか。

 わかっているのは自分と戦いたいと望んでいるらしいこと。それはなぜだ。目的は?

 それとも時間稼ぎ? 無事にオークションを終わらせたい、というのだろうか。

 だが、それならばこちらにとっても好都合。元々レイナ達はオークション終了付近まで潜伏する予定だったのだ。

 それはそれで問題はない。だが、相手も時間を欲しているのはなぜという疑問が浮かび上がる。

 何かがある、もしくは何かが起こるのを待っている。


 と、なれば、敗北条件は時間切れだろうか。


 それならば相手を出来る限り早めに倒さなくてはいけない。

 しかし、やはりレイナは剣を手に取るという判断を下したくはないと考える。

 別に意地とか、そういうのではない。そういうレベルの話ではないのだ。

 先程もいったが、相手が古き扉(レトロフロンテ)であることは確実。はっきり口に出してないのが厄介ではあるが。


 しかし、古き扉(レトロフロンテ)()()()()に関わっていたという証拠はない。


 例え目の前にその人物がいようと証拠がなければ意味がない。


 裏の人物に()()()()()()が剣を持って対峙するという事実があってはならないのだ。


 レイナが何者であるかなど、裏の情報網を使えば即座にわかることだろう。

 そしてその事実が浮かび上がった時、国の体面は表でも裏でも一気に悪くなるだろう。

 微妙なバランスを保っている裏と表の関係が崩れかねないのだ。


 レイナが古き扉(レトロフロンテ)相手に今、剣を取れるのは証拠を手に入れた時だけ。


 この件に確実に関わっていたという事……つまり、伯爵を確保できた時だ。

 伯爵さえ捕まえる事が出来れば、思い切って屋敷の捜索も大胆な取調べも出来る。そこで伯爵の口から古き扉(レトロフロンテ)の存在を吐き出させればいい。

 とはいえ、それが出来るのは結局、今ではない。後日、確実に口を割らせる事が出来れば話は別だが、それも絶対ではない。

 不確定要素が多い中、賭けに出るわけにはいかない。


 剣を取らずして、時間切れになる前に相手を倒さなくてはいけない。


 だが、逆をいえば剣さえ取らなければいいのだ。

 もう少し柔軟に考えれば、最悪、時間切れにさえならなければいい。


 レイナは今一度目の前の相手の見る。

 双剣を手に、笑みを浮かべている相手。


「両脇は崖の一本道。上に行くのも崖しかないつー場所。そんなところで得物を持った相手にどれだけ逃げられっかな」


 そんな台詞と共に襲い掛かってくる。

 上下左右、両方から向かってくる刃を後退して避けるが、相手も勢いを殺さずそのまま体を回転させて、今度は先程の逆方向から間合いをつめて攻撃される。

 これには大きく後方に飛びのいて避けると、背中が岩に当たる。確認するように一度手で崖を触り今にも取れそうな岩を手に握りこんだ。

 一番端まで来たことを確認するとレイナは相手の方に体を向けたまま、片足の踵を崖にかけ、一瞬だけ崖に体を押し付けてからまるでバネのように飛び上がる。

 反動をつけて飛んだことにより、目の前の相手を跳び越して背後へと回る事が出来た。

 だが、シェーダもレイナが飛んだと同時に後へと振り返り、双剣の片方をレイナが着地するであろう場所へと投げつけた。

 着地すると同時か、その前あたりに剣は地面に刺さるだろう。


 刃の上に着地などするつもりもなければ、着地した足を刃に貫かれるつもりもない。

 レイナは手に握りこんでいた岩を、着地地点より少し前の地面へと思いっきり投げつける。

 ほんの小さな岩だ。剣をどうにかすることは出来ないだろう。だが思いっきり投げつけたことで軌道はずらすことは出来る。そして案の定、岩に当たった剣はレイナの着地点より手前で地面に刺さって終わった。

 着地したレイナはそのまま手を地面に付け、再び岩を握ると今度はすぐさまシェーダに向かって投げつけた。

 無論、それでどうにかなるわけでもなく、間合いをつめてくるシェーダは勢いを殺さず岩を払いのける。

 だが、レイナにはその一振りだけの動作の時間があればよかった。


 岩を投げつけた勢いのまま、レイナは地面に手をつけた状態で近くの自分と同じくらいの岩に回し蹴りをいれた。

 勢いを失わずに衝撃を受けた岩は見事に砕け、前方へと弾き飛ばされる。

 ソレは、宛らいくつもの鋭い刃が弾丸のように降り注ぐかのように。

 これにはシェーダも足を止め、鋭い岩の破片を打ち落とすことに集中する。

 全て叩き落とす頃にはレイナは更に距離をとり、しっかり対峙する構えもできている状態だった。


「ジャンプしながら身体強化ってか。てか、それでもでかい岩を蹴るっつー発想がよく出来るなアンタ」


 まるで面白いと言わんばかりにシェーダは笑って言う。

 そう言っている間にもレイナは足元に転がっている岩をシェーダに向かって蹴り飛ばしていた。

 身体強化された体で蹴り飛ばされた岩は先程のように弾丸のような勢いで向かってくる。

 シェーダはそれをひとつひとつ叩き落とす。が、勢いがついてるおかげで一つ一つがだいぶ重い。

 常に蹴り飛ばされてるせいでなかなか間合いがつめられない。


「つか、なんだかんだ言いながら攻撃してるじゃねーか」

「いやいや、これはただ地均ししてるだけで、別に攻撃してる訳じゃないよ。邪魔な岩を退かしてたらたまたまそっちに岩がいってるだけで」

「屁理屈!」


 屁理屈だろうがなんだろうが、これは攻撃ではない、と言い切れればいい。

 だが、そろそろ周りの岩もなくなり始め、本当に地均しが出来てしまう。

 まぁ、でも丁度いい頃合だろう。

 周りで蹴れそうな岩が大体なくなったあたりでレイナは蹴るのをやめた。

 動きを止めたことで、シェーダも若干探るような視線を寄越したが、すぐにそんな視線も緩和させる。


「じゃ、次は俺の番ってことで」


 そうしてシェーダはいつの間にか投げて地面に刺さっていた片方の剣を拾い上げ、再び両手に得物を持ってレイナへと詰め寄った。

 一瞬、という言葉が出てくるほどそれは早く、気づけばシェーダはレイナの目の前にいた。

 だがレイナは動かない。ただ目線だけがシェーダの動きを捉えるように動いている。

 左右からまるで挟むようにシェーダの得物がレイナを切り刻もうとした瞬間。


 焼けるような空気がその場に襲い掛かる。


「!!」


 完全にその空気に飲まれる前にシェーダは勢いを殺さずに後に下がるという器用な真似をしてみせた。

 一瞬だけ熱気のような空気に触れた場所がじくじくと痛み始める。

 そしてシェーダはその原因、目の前の光景を見て理解する。



 レイナの前の地面にどろりとした真っ赤な液体……いや、固体が広がっている。そしてそれはすぐに黒へと変色した。



「は? 嘘だろ。溶岩がなんでここまで……」



 確かにここはそこだが、流石に自分達がいる場所まで溶岩が噴出してくることはない。

 噴出してくるほどの近くに溶岩があれば、そもそも呼吸など出来ていない。

 そして何より、そうならないようにシェーダが作り出しているのだから。

 だが、実際シェーダを襲うかのように溶岩がここまで噴出してきた。

 焼けるような空気はすぐ側まで溶岩が来ていたからだ。


 そこまで不安定な空間だっただろうか。それとも


 と、考えてシェーダは再びレイナへと詰め寄る。

 だが、あと少しという所で再び熱気を感じた。

 今度は体に熱気が触れる前に下がると、はっきりとシェーダに向かって溶岩が襲い掛かる様を見る事が出来た。

 そこでシェーダは確信する。


「おいおい、マジかよ。そんな”技”があるとか、おかしいだろ」


 明らかに溶岩を「操って」いる。

 やっているのはシェーダの目の前の女だろう。

 魔法、ではないはずだ。溶岩は「火」特性ではない。操るなら「闇」特性だろうか。

 だが、それでも普通はありえない。


「魔法じゃねーな。スペルティか?」


「いや、魔法だ」


 レイナは笑う。


 覚えているだろうか。レイナの特性と属性と、その二つで成り立つ魔法を。

 あの魔法の応用だ。

 土属性と、火特性で作り上げた魔法。鉱物と熱を加えて出来るもの。


 溶岩構築ラーヴァファーレ


 その魔法を応用して作り上げた魔法。



溶岩創造ラーヴァクレシオ



 溶岩を元にして、更に()()()()()()()()()魔法。

 レイナが言葉を口にすれば、溶岩が再び盛り上がってきてシェーダへと襲い掛かる。

 まるで操られているかのように動く溶岩。だが、実際は複製に複製を重ねているだけで操っているわけではない。

 襲い掛かる溶岩に慌ててシェーダは避ける。ギリギリで避けても熱気で怪我をするのだからたまったものではない。

 ここに来て初めてシェーダは顔を歪めた。


 そして次の瞬間、ぐにゃりと視界が歪む。


 はっとする間もなく、視界一面が遊技場へと変わる。

 その事に動揺することなく、レイナは溜息をひとつつく。


「潔いわね。もっと抵抗するかと思ったのに」

「冗談だろ。自分の技なのに不利なステージのまま踊らされるとか、どんな恥曝しだよ」


 案外、頭の回転はいいようだ。判断が的確だといえるだろうし、下手な挑発に乗らない。


 事実、レイナがあの場所に変化した時点で自分に有利だと思っていた。

 土と火は実にレイナにとって相性がいい。

 あの場所になってすぐに崖下にある溶岩へと魔力を練って送り続けていたのだ。そうして複製を続けて、ようやくあのタイミングで自分の元まで作り上げた。

 流石にだいぶ魔力を消費したがその様子はおくびにも見せない。

 見せられるワケがない。


 何せ相手も、まったく魔力を消費したように見えないのだから。


 スペルティだって物によっては魔法のように魔力を消費する。

 現物を再現する力なんて、どう考えても魔力を消費するタイプの技だ。しかもあれだけの広範囲。平面だけでなく多岐にわたる空間までも再現してみせた。

 一部の複製だけでだいぶ魔力を消費するというのに、実物の再現だ。複製など可愛いものに思える。

 それをやって見せた相手は涼しい顔して目の前で立っているのだ。

 底が知れなくて笑える。そりゃあもう、乾いた笑が出るくらいに。


 なんてことを思っていると、対峙していたシェーダは手にしていた自分の得物を腰の鞘へと収めた。



「なぁ、アンタさ、自分がヤバイことしてるって気づいてんのか?」



「は?」

「あ? 自覚なし? 普通に考えてよー、溶岩複製とかおかしいだろ」

「何言ってんの。ただの魔法じゃない。アンタのスペルティの方がおかしいわよ」

「ありゃあ、生まれつきだからな。溶岩が作れるってことは、アンタ土属性と火特性だろ」

「まぁ、あんなことやれば誰でも気づくわね。そうよ」




「人間が土属性で鉱物生成するつーのは、()()()()()




 思わず息を飲んだ。

 土属性で大地の力を扱うのは普通のことだ。鉱物生成もそれに含まれる。

 ありえなく、ないはずだ。


「……属性とは、そもそも「相性」のようなものです。特性と違い、鍛えて扱えるようなものではありません。精々、恩恵をうけるだけでしょう。例えば、天属性ならば太陽に関するもの。日照り、雨、風の影響を受けたり。雨女とか晴れ男とか呼ばれる方がいるでしょう。そういう方々は天属性の恩恵を受けているからそんな天候がたまたま続くんです。その属性に特性の力を組み合わせることで様々な力を身につける事が出来ます。空を飛ぶ事が出来るのは各特性に天属性というものが付属しているだけに過ぎません」


 今まで手も口も出して来なかったシオンが唐突に二人の間へと入る。

 コホン、とわざとらしい咳をひとつ。


「土属性は、基本的には土に恵みを与えてくれます。その人がいると作物がよく育つなーくらいのものですね。ですので、鉱物をどうにかする力というのは本来、備わっていません」


 その言葉に、思わずシオンを凝視してしまった。

 だが、シオンは「しかし」と言葉を更に続ける。


「あくまで基本、です。種族によってその属性の強さは違います。例えばドワーフ。土属性の力を強く引き出す事ができる為、鉱物の扱いは随一といわれています。それこそ作成、生成は息をするように出来るでしょう」


「だが、アンタは「人間」だろう? ドワーフじゃねぇよな」


 シオンから視線を外して、シェーダを見れば、実に楽しそうに笑っている。

 面白いものを見つけた、と、まるで隠しもせずにその顔は物語っている。




「なぁ、アンタは一体「何者」なんだ?」




 何者、と言われれば、人間だ、と返すのが当然だろう。

 しかし、シオンの説明を聞いたせいか、その当然を返す事が出来なかった。

 動揺したわけではなく、少し頭の中で整理する事が出来なかったのだ。

 だが、それも一瞬。レイナは一つ深呼吸すると言葉を返そうと口を開く。

 そうして何か言葉を発する前に、シェーダが先に声を出した。


「「普通じゃない」って言われたこと、ねぇか?」


 しん、と物音一つしない空間が広がった。

 レイナは口を閉じ、じっとシェーダを見つめた。

 だが、先程と違ってその姿に驚きはない。

 シェーダは笑い出しそうになるのを堪えるように顔を歪める。


「まさか、いままで気づかなかったと──」

「貴方、馬鹿ですか?」


 愉快そうに喋るシェーダに被せる様にシオンが言葉を遮る。

 その後に、大きな溜息を吐くのも忘れずに。


「普通じゃないって、それをいいますか? このレインニジアで。そもそもですね、レインニジアの城に働いてる者達が「普通」なわけがないでしょう」

「……は?」

「アレが普通だったら、秩序崩壊してますから。大体、国王という存在そのものが普通じゃないでしょう。あの国王をみて普通とか、絶対にありえません」


 それには同意する。激しく同意する。

 実にまったくもって、あの悪魔……いやいや、国王様に関しては「普通」なんて言葉は当てはまらない。むしろあれが普通であってたまるか。

 そんな国王の下で働いてる者達だ。確かに普通とはいいがたいかもしれない。


 ……あれ? ちょっと待て。そうしたら、私だって普通じゃないってことにならないか? うん?


「普通」という言葉がゲシュタルト崩壊してきたぞ。

 普通ってなんだっけ?


「……そもそも、普通って何が基準になるの? 平民? あ、でも平民達の導きである女神信教とかアレよ。アレなのよ。アレが普通であっていいの?」

「ちょっと変な追及をしないでください。大体、宗教って物自体が普通じゃないですから」

「普通とは一体……」

「いや、だから追及しなくていいですから。まぁ、とにかくレインニジアではそういうのは気にしないんですよ」

「……ふーん、なぁ、お前なんで今更、口出してきたんだ?」

「おや、私はレイナの付き添いですからね。普通に口出しますよ。おかしいですか?」

「…………へぇ」


 確かに、シオンはレイナがシェーダと対峙している間は何もしてこなかった。

 落ち着いてから口は出してきたが、今更といえば今更ではある。

 だがシェーダはそれ以上は追及はしなかった。笑った顔のままシオンを見るが、どうもその目は鋭さが増している。

 当然、シオンはそんな視線を浴びても特に気にしない。

 暫く微妙な空気が流れたが、シェーダが肩を竦めたことで空気が一変する。


「まぁ、いいさ。楽しめたことは楽しめたしな。今日はこんなもんでいいんじゃねーの?」

「……今日は?」

「ああ、今日は。だから引いてやるよ。今はな」

「…………」

「それになぁ、なーんか気に入った」

「は?」



「アンタの事が気に入った。次会えるのが楽しみだぜ、国王専属騎士さんよ」



 じゃーな、という言葉を聞いた時には、既に姿はなかった。

 突然、姿が消えた。そしてレイナの口の端は引きつった。


 言ってない。国王専属騎士だなんて、口に出して言ってないのに。


 つまり、初めから知っていたというのか。

 ウェルバやネッタにすら言ってないというのに。

 相手を退けることは出来たが、なんだ、これは。この、掌で転がされていたような感覚は。


 そして気づけば部屋の中がガラリと変わっている。

 何もない真っ白の空間に扉が一つ。

 どうやらもうここにいる必要はないようだ。

 シオンに時間を確認してもらうと、まだ余裕はある。

 どこか釈然としないまま、レイナは部屋から出た。


 もやもやする。

 こんな落とし穴があるなんて。



「普通」にある能力しか身につけてないと思っていたが、的が外れた。



 城に戻ったら、今一度確認してみよう。

 初心に戻り、「一般的」な魔法の勉強をするべきだろう。

 まだ時間に余裕があるため、レイナは特に急がず、最終目的を果たす為に動き出す。


 そういえば、ウェルバとネッタは無事にネーナとグリーンに合流できたんだろうか?


 と、今更ながら仲間達の状況が気になったのだった。


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