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某国の女騎士と仲間達の日常物語?  作者: しんり
第1章 女騎士とその仲間達
46/71

46、賊と貴族と義賊 9

 


『魂の冒涜は禁忌とされている』



 全ての魂は霊界ゲーゲカイを治める霊王が管理している。

 その魂を貶めることは霊王の怒りに触れるということ。

 死後の世界において霊王の裁きを永遠に受けることになるという。


 では、魂の冒涜とはどういったことなのだろうか。


 色々と細かい定義はあるらしいが、そこまで詳しい内容を知るものは殆どいない。何せ霊王が事細かく決めているもので、霊界ゲーゲカイなんて死後でなければいけない場所だ。内容を知るすべは本来はない。

 だが細かいものは知らなくてもある程度は知れ渡ってはいる。


「生贄」「人体実験」「魂の研究」


 これらは全て「冒涜」の定義に当てはまる行為だ。

 自分の利益の為に他人を死に至らしめる、故意の行為。ただしそれも様々な理由があるだろう。

 弱肉強食という言葉も本来は生きる為の循環だ。生きる為に食らい、生を繋げる。

 力の強いものが弱いものを貶める行為のことではない。

 だが人というのはそれをよく勘違いする。

 他人の生を自分が満足する為に使うことを霊王は最も嫌う。

 魂の研究など、霊王を侮辱しているのと同じことだ。

 その為、魂の冒涜行為は見つけ次第、即女神の塔の聖騎士が粛清に向かう。

 ちなみにこの三つの行為はあくまで一例であり、他にも該当するものはある。

 一番重いものは「禁術」だ。

 取りあえず今回は語る必要はないのでそういうものがあるというだけで流しておこう。


 さて、これで今回上がった取引会場がどれだけ悪質なものかが把握出来ただろうか。





「……よく今まで粛清を受けなかったな」


 そう零したのはウェルバだ。

 その表情が少し青褪めているのは、冒涜行為が行われていたことか、それとも聖騎士の粛清を受けることなく生き続ける貴族の意地汚さについてなのかはわからない。


「相当厳重に管理しているようですよ。身分の把握も徹底しているようですし、一度使った会場は二度と使いません。売り物の身分も完全に消してからの売買をしているようです」

「……最低だな」

「そこまでやってるから粛清をいまだに受けてないってことだな。オレもシオンさんの話を聞くまで知らなかったし。それにそこまで厳重に管理出きるのもどうやら"古い扉"を使ってるみたいだしな」


 古い扉、という単語に僅かに反応をしたのはレイナとシオンだけ。

 他は首を傾げてジルの言葉をオウム返しで聞き返していた。

 ジルはそれに対して「まぁ秘密の抜け穴みたいなものだな」とだけ返していた。


 古き扉(レトロフロンテ)の存在を知ってるって相当の情報網を持っているわね。


 思わず眉間に皺がよりそうだったのを息を吐くことでどうにか回避した。

 古き扉(レトロフロンテ)の存在はあまり知られてはいない。王国の人間ですら城内部の僅かな人だけが知っている。

 一体この人物、本当何者なんだろう。只者ではないことはわかったし、取りあえず敵ではなさそうだ。

 もっとも、味方を装った敵というのも考えられるけど、多分その線は今回はないだろう。

 わざわざ自分から古き扉(レトロフロンテ)の存在を仄めかす理由がない。むしろそうしたところで自分の首を絞めるだけだ。

 そんなに甘い組織ではない。やるなら徹底してやる組織だ。簡単に表の世界で名前を出すようなことはしない。


「で、会場の場所はわかっているんだな」

「当然です。それなりの金額……いえ、話をしていただいたのですからきちんと正確な場所をお教えします。なんだったら次に開催予定の場所も教えて差し上げますよ」


 さらりと金額って言ったぞこいつ! 本当、いくら出したの!?


 思わずレイナが引き気味になってシオンを見るが、シオンはそんな視線もなんのその。

 ウェルバが思わずジルの方を見るが、ジルは思いっきり視線を反らしつつ、長い尻尾でウェルバの視線を遮断した。

 うん、ここはもう見ないであげて話を進めよう。その方がきっと皆幸せだ。


「そういうわけですので、手っ取り早くその会場を潰すことを目標にしましょう」


 さらりとなんでもないことのようにシオンは言う。

 つい先程、一歩間違えれば自分が商品という怖い台詞を言ったにも関わらず、至極当然のように言い放つ。

 ジルが額に手を当てて俯いた。レイナは逆に天井を見上げた。


 あー……面倒くさいんだろうなぁ。








「とはいえ今までこれだけのことをしてのほほんと逃れてきた貴族です。現場を押さえただけではある程度の言い訳が通ってしまうでしょう。確実に潰す為に、動かない証拠を手に入れます」


 動かない証拠とは。

 やはり確実なのは屋敷にあるであろう証拠だろう。しかしシオンはそのことを示したわけではないようだ。

 ならば取引会場にその証拠があるというのだろうか。

 だが、一度だけしか使わない会場に重要なものをおいておくとは思えない。

 ならば重要な証拠が残るようなことをさせればいい。


「貴族当人達を誘き寄せて実際に取引させます」


 本人達の取引現場を押さえれば言い訳は通じない。

 しかし、それをどうやってやるというのだ。


「餌をまきます」


 そういってシオンが指差したのはセイルスだ。


「餌に罠をしかけます」


 そこで具体的な内容が入る。

 若干顔が引きつった者が数名。


「巣穴を荒らします」


 おまけの屋敷の証拠探しの話が入る。

 こちらは成功してもしなくてもどちらでもいいようだ。


「炙って」


 更に数人、引いた。


「潰します」


 ちなみに、ここまで実にいい笑顔でシオンは語った。







 まずはジルが貴族側へと行くことになった。

 専属魔法使いとして売り込みに行く。その際に発生する義賊達の情報流出は予定調和だ。

 信用を勝ち取る為に暫くは義賊達の襲撃失敗が続くだろうが、それも事前に話してあるので問題ない。

 そうしてジルは見事に街の領主の信用を得る事が出来た。専属魔法使いとして側に仕えることになる。


 次にジルが売り込みを始める。

 曰く、人の姿をした精霊が貴族でいる。曰く、精霊の力は強大だ。曰く、とても美しくそして人に興味を持ち様々なところに顔を出している。

 そんなことをいい続ければ当然興味が出るであろう領主。接触を望むがそう簡単にことは運ばない。

 何せいままで悪事を働いておきながら逃げ切っている貴族だ。警戒心は相当強い。ジルの信用も手の内の殆どを明かし、様々な情報、技術を提供しつつ、身元の情報まで調べ上げられた上でのものだ。

 ちなみにジルの身元は捏造されている。やったのは当然レイナだ。国の上層部が動いての捏造なのでそうそうバレることはない。

 警戒心の強い領主が調べ上げれば精霊と言われる貴族は辺境の小さな街を治めている男爵だとわかり、妻とひっそりと暮らしているという。

 まずはひとめその姿を確認しよう、と領主がジルにその貴族との接触を望んだ。

 ジルは笑ってそれを了承する。


 ここで次の段階へと移る。

 セイルスとアルフェユーミが貴族側へと接触する。自分自身も貴族となって。

 用意した男爵の爵位を使い、ジルの紹介で領主のところへ行くことになる。

 セイルスは元から決定ではあったが、その付き添いがなぜユミなのか、というのは単なる消去法だ。


 ウェルバ達は街の住人である時点で駄目。ウェルバ自体は住人ではないらしいが、活動拠点がここであるので同じことだ。

 グリーンは顔は悪くないが、素直すぎる性格が腹の探りあいをしなくてはならない場所では無理。

 ネーナは貴族としての雰囲気が皆無なので無理。

 レイナは顔が知られている場合があるのでこちらも無理。

 というわけで、それらしい振る舞いも腹の探り合いも出来るであろうユミがセイルスの付き添いとなったわけだ。

 二人とも着飾るときちんと貴族に見えたので問題はない。セイルス辺りは顔が整っているせいで逆に少し目立つがそれはそれで領主の場所ではいい効果を発揮するだろう。


 セイルス達は領主と接触する際に、ユミだけは裏の世界に興味があるふりをしてもらうよう頼んである。

 二人はそのまま貴族として会場に行ってもらう予定だ。

 ただしユミは客として、セイルスは餌としてだ。

 会場での役割分担も決まっている為、その間は領主の館で貴族らしく暮らしてくれればいい。

 どうでもいいことだが、セイルスが貴族としてレイナ達……正確にはシオンの側から離れるのを少し渋った経緯がある。

 眉をひたすら垂れ下げて明らかにしょげているセイルスを前にシオンはいい笑顔で見送った。

 トボトボと別所に歩きながら何度も何度も振り返る姿はドナドナされる子牛……むしろ大型犬のようだったとか。シオンは只管笑顔である。

 本当にどうでもいい話なのだが。


 さて、無事セイルス達が領主邸に乗り込む事ができ、それ以降は例の売買が行われる日まで待つだけとなる。

 もちろん、ジルやセイルス、ユミは潜伏しているだいだに領主邸を探ってもらってもいる。

 魔法を使い、手紙のやり取りもしているがそれなりの順調らしい。

 ただ、少しだけ不穏な内容も届いている。


「護衛が三人、ねぇ」


 届いた手紙を宿の自室でレイナは確認する。

 現在はレイナとシオンしかいない。ネーナとグリーンは義賊達のところに出向いている。


 後日判明したことだが、ウェルバとネッタは実は富裕層の住民だった。ただし、ウェルバはその家に世話になっているという形だったが。

 その家自体がどうやら義賊の手助けをしているらしく、上手い隠れ蓑になっていたようだ。

 義賊として働く時以外は上品な服を身につけていて、振る舞いも大人しいものだった。確かにこれならそうそう正体が判明することはないだろう。

 ただ義賊達の全員が富裕層というわけではなく。やはり孤児、貧困という面々が多かったようだ。

 そしてレイナ達が赴いた教会も義賊側だ。

 それを知ったユミが最初に出会った巫子の男性にだいぶ難色を示した。


「義賊とはいえ人から強奪するような方たちに教会が手助けしているというのはいかがなものでしょうか」

「ですがこの街は既に腐食が激しいのです。何か行動を起こさなくてはきっと正されないでしょう」

「女神様は平等を求める尊い方。たとえ悪しき者達でも暴力で解決するなど……」



「領主は反女神派の新大地聖教ですよ」

「打倒反女神派!! 死すべし!!(意訳)」



 そんなわけで握手を交わす程の協力体制となった。女神信教ってやはり物騒なのでは……


 意外にも義賊に接触する場所などは簡単に見つける事ができ、情報交換は容易いものとなっていた。

 だがいまだに謎になっている貧困層の場所についてはウェルバも巫子の男性も情報をこちらに与えることはなかった。

 何か事情があるのだろうと察せられたのでレイナも深く追及はしなかった。現時点で貧困層に接触を取る必要はないし、場所を知ったところで何か出来る訳でもないのだ。


 さて、話は今現在に戻ろう。

 レイナが読んでいる手紙は領主邸に潜伏している三人から届いたものだ。

 そこに書いてある内容にレイナは眉を潜めた。


「領主……クレバス伯爵の護衛ですか?」

「そのようね。常に三人の誰かがそばにいるようよ。屋敷の中でも誰かしら横にいるみたい」

「へぇ……」


 手紙を眺めているレイナの肩にシオンが乗り、一緒に手紙を見る形となった。

 どうやら取引までの下準備は順調だが、屋敷内での証拠探しは難航しているようだ。

 それが先程挙げた護衛の三人の存在。


「一人が領主につき、後二人が屋敷内をうろついている、と」

「おかげで屋敷内を迂闊にうろつく事が出来ないみたいね。部屋一つ一つに感知機能のある魔道具まで設置しているようで」

「よほど警戒心が強いのか、かなりの小心者なのかでしょうね。しかし、感知機能の魔道具って相当高いですよ。それを全部の部屋に設置してるってよほど優雅な生活を送っているようですね」

「その護衛以外にだって屋敷で働く人間はそれなりにいるだろうし。あまり無茶は出来ないわね」

「まぁ、屋敷の証拠はおまけのようなものです。無理に動くよりは当日まで大人しくしていたほうがいいでしょう。ただし、ジルの方はもう少し頑張ってもらわなくてはいけませんが」

「そうね。そうでないと当日は私達が動けないからね」

「どうやらジルの魔法使いとしての才能はかなり高いようです。それでも護衛の存在が邪魔になっているというならば、その三人の情報も少し欲しいところですね」

「そうね。"扉"の可能性もあるわね」

「関わりがあるかどうかというだけで大きく作戦の内容が変わりますからね」


 二人でそんな会話をしつつ、レイナは返信の手紙をしたためる。

 そうして横にある小さな魔法陣がかかれた紙の上に置けば一瞬で手紙が消えて、魔法陣が書かれた紙も燃えてなくなる。

 灰も残さずに消え、手紙は無事、領主の所にいる三人の誰かの下へと届いただろう。


 さて、予定されている取引まではまだ日数がある。

 それを確認してレイナは明日の雑技団で使う小道具の整理へと向かうのだった。


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