45、賊と貴族と義賊 8
国から貴族の行っている悪事の証拠を掴んでくること。
その為にこの街に来たこと。義賊と敵対するつもりはないこと。
国に雇われた雑技団であること。
という説明をした。
嘘ではないが本当でもない。自分たちの身分は現時点で明かすことは出来ない。
そもそも国王からそう命令されているのだ。自分たちの判断で勝手にそれを翻すことは出来ない。
そんなわけで「雑技団」設定のまま話をする。レイナの名前は当然「レーチェ」だ。
話し終わると少しだけウェルバは考えるような素振りを見せた。
それからふと、視線をネーナの方へと向けた。
「お前も、雑技団の一員なのか?」
「え? は、はい。そうですよ」
「……魔法使いだと思っていたが」
「あ! は、はい! 魔法使いですが、今はレーチェさんのところでお世話になっているんです。まだまだ見習いですので、旅をしながら色々学んでいるんです」
なんで魔法使いが雑技団に? と口には出されていない疑問を察知したネーナが慌てて説明をつけたした。
これももちろん事前に話して決めた設定だ。大体旅している雑技団なんてそれぞれが事情を抱えている者が多いのだ。ネーナのような魔法使いで雑技団にいることは然程珍しいことではない。だからといって多いことでもないのだが。
だがそれで納得したのか、ウェルバは一言「そうか」といって頷いた。
「雑技団のような華やかな場所に少し似合わないと思っていたのだが……事情があるんだな」
「えっと、はい。そう、ですね……」
「だが、魔法使いならあまり体力はないだろう? 辛くはないのか?」
「え? あ、いえ、それは全然! 皆さんとてもよくしてくださいますから」
体力がないなんてことはない。何せ普段は山の草刈しているのだから。
とは流石にいえない。うん、言えない。騒動起こした罰で山の草刈してるなんて、情けなくて言える訳がない。
しかし、それはそれとして。やけにウェルバはこちらの心配をしてくる。
もしや、そんなにひ弱に見えたのだろうか? むしろ貴方を吹っ飛ばしたのは私なんですが……
しかしその事実も吹っ飛ばした元凶と知られて怒られるのが怖いので言うつもりもない。
それを誤魔化すかのようにネーナはウェルバのしっかり見つめてからへらりと笑う。
すぐにウェルバは顔を反らして俯いたので、あ、バレた!? と一瞬ひやっとしたネーナだがったが、暫く経っても特に何もいわれなかったので、あれ? セーフ? と思い直した。
「ほほぉう」
と、そんな声を漏らしたのはユミだった。
その声にネーナが振り向けばユミはとてもいい笑顔でネーナとウェルバを交互に見ていた。
「どうしました?」
「いーえ、いーえ。私のことは是非ともお気になさらずに」
本当に心の底から面白……いやいや、嬉しそうな声と笑顔を貼り付けてユミはネーナにそう告げる。
不思議そうに首を傾げるネーナだったが、それ以上の追及はしなかった。なぜかユミの笑顔が怖かったので。
何故だか微妙な空気になってしまい、思わず沈黙が続くとコホン、と小さな咳払いが義賊側から聞こえ、そこへ視線を向けると一人の女性がいた。
「私の意見だけど、正直いって信じられないわね」
先程ジルが「ネッタ」と呼んでいた女性だ。切りそろえた前髪と肩下まである後ろ髪は青色をしている。大きな瞳はこちらも澄んだ青で、すらりとした体型に細長い尻尾と丸っこい耳。
青鼠の亜人だと、ジルがレイナ達に説明してくれた。
まぁ、信じられないものも仕方ない。自分達の立場を証明するものは何もないのだから。
しかも国から国に属してる貴族を陥れるような内容だ。本当に? と疑わしくもなる。
そこは信じて、としか言い様がない。
だが正直なところレイナにとってもは信じてもらおうが信じてもらえなかろうが、あまり支障はない。
なので必死になって信じてもらおうと話もしなければ、特に作り話も作らなかった。
仲間になるつもりがあるわけでもない。ただ、目の前の義賊が自分たちにとって邪魔なのかそうじゃないかの把握がしたかったのだ。
それと謎の情報源。
これは少しやっかいだと思ったから先にこちらに接触したのだ。もちろんそんなことは話すわけにはいかないが。
さて、レイナにとってはどちらでもいいこの状況。では、どうやって話をつけようか?
「じゃあ、オレが保障してやるよ」
そういったのは義賊側の魔法使い、ジルだった。
「ジルさん!」
「まぁまぁ。オレ、目はいいんだって知ってるだろう?」
「ですが……」
「何かあればオレが責任持つよ。ね、ウェルバ。それでいいよな」
ジルが言う言葉に納得出来かねるネッタが渋るように呟けば、会話の方向はウェルバの方へと向かった。
彼はまとめ役。判断を下すのは最終的にウェルバになるようだ。
「……ジルがそういうなら、それでいい」
「ちょっと、ウェルバ!」
「ネッタ。今までジルのそういう勘はハズレたことがない。大丈夫だ」
「っ! ……わかったわ」
なんと。気づけばレイナが一言も言葉を口にすることなく解決してしまった。
渋々了承の言葉を口にしたネッタは一瞬だけネーナの方をみた。しかしすぐに視線を反らしてウェルバへと向き直る。
ネッタの視線には気づいていたが、すぐに反らされたことでネーナも意味を捉えかねて僅かに首を傾げるだけで終わった。
それにしても先程から見ていて、ジルという人物は不思議な存在でならない。
ジル自身は「仲間ではない」といった。しかし発言力はある。先程説教したのがいい証拠だ。
そして義賊達からの信頼も厚いようだ。なにせジルの一言でレイナ達は敵ではないと証明された。
だが、なぜ出会って間もないレイナ達をそのように手助けするのか。
会話も殆どしてはいない。この中の誰かの知り合いではない。シオンなどジルに出会ってから不機嫌のままだ。
そう。なぜかシオンは不機嫌なまま。理由がまるでわからない。
一体、ジルとはどんな「人」なのか。
今現在ではまだなんとも言えない。危険といえば危険だが、ウェルバ達からの信頼とレイナ達への手助け。まぁ先程は問答無用で襲撃に巻き込まれたのだが。それでも要注意人物という程の印象は受けなかった。
もっとも情報が少ないのだから判断するにはまだ早いのだろうが。
「で、アンタ達は俺達に何をして欲しいんだ」
「結構潔いわね。何して欲しいってわけじゃないんだけど……私達は貴族達の悪行の証拠が欲しいのよ」
「そんなの、私達だって欲しいわよ。貴女達だけでどうにかしなさいよ」
「こちとら証拠見つけなきゃ国から強制強盗犯に仕立て上げられるんだから黙って協力しろ!!」
「さっき何して欲しいわけじゃないって言ってなかったっけ!?」
「前言撤回しよう。手伝え」
「前言撤回する場所おかしくない!? しかも手伝えって頼みごとですらないじゃない!」
「煩いわね! あまり時間かけると問答無用で強盗犯に仕立てようとする某宰相とかが後ろに控えてるのよ!! こっちの身の安全が切実に掛かってるんだから何を言われようが協力してもらうわよ!」
某宰相といったが、実際には国王だ。あの国王なら絶対やる。絶対やるったらやる。
だが流石に国王がとは言えないので国王の言うことは絶対言うこと聞くマンの宰相へと矛先を変えた。どっちにしろ間違ってはいない。
先程までは義賊に信用してもらう云々と考えていたが、ジルのおかげでぐんと方向が変わった。主に自分にいい方向に。
ならば利用しない手はない。誰が好き好んで犯罪者になどなるか。
全力で回避したいところだ。その為に有利に働いている義賊と手を組む話は繋げておきたい。
そんな思いがにじみ出たのか、レイナが言い放った言葉を聞いて義賊達が同情の目を向けてきた。
いや、きっと気のせいだ。そんな目はなかった。
そんな目を向けられてもレイナはフンっ! と背を少し反らす。
気にしてない。気にしてないといったら、気にしていないのだ。
「……おう。まぁそうだな。オレは別にいいと思うよ」
「……まぁ、拒否する理由もないしな。証拠探しの大変さは俺達もわかってるしな」
「……人手はどれだけいても困ることはないし……そうね。手伝ってあげてもいいかしら」
何だお前ら。何故急にそんな優しげな言葉をかける。
さっきと同じ眼差しをこちらに向けるな。視線がやかましい。
「レーチェさん。大丈夫です、私たちも頑張りますから」
「レーチェさん。女神様はちゃんと見ていてくれます。きっといい事ありますよ」
「レーチェ。俺達仲間だからな。どんどん頼ってくれていいからな」
「レーチェさん。疲れたら僕の曲で癒してあげますから、遠慮しないで言って下さいね」
「レーチェ。ご愁傷様です」
「やかましいわぁぁぁぁぁ!!!! 黙って手伝うだけでいいわぁぁぁぁ!!!!」
何故か後ろにいた仲間達にも優しい言葉をかけられ、レイナは叫んだ。
やめろ。虚しい。国王専属騎士の存在って……
「それで? 具体的にどうするつもりなんだ。何も考えてなかったわけでもないんだろう?」
そう切り出してきたのはウェルバだ。
場所は相変わらずあの広い教会の部屋のまま。人数もそのままにそれぞれが思い思いの所に座ったり立ったり。
ちなみに、この間に先程説教されてた義賊達は頭を下げてジルに謝り、謹慎という形で暫くはなりを潜めることになったらしい。
今回怒られたのも、今回の襲撃事件は相手側の罠である可能性が高かったようだ。実際同じ場所で何度か襲撃も繰り返していたらしく、既にジルがこの場所は危険だと、別の場所に切り替えたほうがいいと助言済みであったそうだ。
しかし最近仕事がうまくいっていて、調子に乗っていた義賊達が罠であっても切り抜けられると自信満々に言っては決行に至ったらしい。
具体的な案もなく。どうにかなる、という意気込みだけで実行。逆にジルの罠である可能性が高いという情報は調べた結果であるから信憑性は高かった。
そして実際待ち伏せをされていて義賊達は押されていた、というのがあの襲撃の事実だったようだ。
この話の途中で、義賊達の情報源はどうやらジルであるということも判明した。
「まずは情報ね。領主である伯爵がどういったことをやっているのか」
「多分、似たような情報しか持ってないと思うぞ」
「でもアンタ達は実際見たのだってあるんでしょう? そういうのが聞きたいのよこっちは」
「貴女方はどんな情報を提供してくれるの?」
「……犯行現場特定とか」
「出来るのか!?」
ネッタに問われてレイナが答えた内容にウェルバが大きく反応する。
レイナはちらりとシオンの方を見た。シオンはそれに対してにっこりと笑うだけ。
うん。知ってるわ。アイツなら絶対そういう情報知ってる。
かつて人身売買の会場も知ってるとかのたまった奴だ。間違いない。
「ええ、できるわ」
「今、それを教えてもらえることは出来るか」
頷いたレイナにウェルバが食い気味に聞いてくる。
レイナはその言葉に返事をせずに、ただ顔をシオンへと向けるだけで先を示した。
ウェルバもそれに続く。
二人に視線を向けられたシオンはただにっこりと笑ってから、自分はジルの方へと視線を投げた。
そしてゆっくりと手を上げる。
人差し指と親指をくっつけて丸を描いて指し示す。
思わずジルが額に手を当てて唸った。
「いやー……うーん、それはちょっと……」
シオンは笑ったまま首を横に振る。
「えーと、情報交換は? オレも色々情報出すから」
シオンは笑ったまま逆の手で外の扉を指し示した。
「…………ウェルバ、ちょっと席外すな」
「……ああ、いってらっしゃい」
少し肩を落としたジルがシオンが指し示した扉へと歩き出す。もちろんシオンもそれについていった。
色々察したウェルバはただそれをそっと見送る。
ジルとシオンが扉をくぐるとパタリと静かに閉められた。
若干気まずい空気が流れて、そのままの状態で数十分。
「伯爵は悪徳商人や盗賊達とも手を組んでいるでしょうが、その辺の証拠は屋敷にしかないと思われます。ならば犯行現場を押さえるのが一番いいでしょう。丁度この時期にこの街で人身売買が裏で行われます。会場も伯爵が確実に関わっているとみて間違いないですね。その現場を押さえるのが一番手っ取り早いでしょう。もちろん、それに便乗して屋敷にあると思われる証拠も手に入れたほうがいいですね」
帰ってきたシオンがニッコリ笑ってつらつらと喋りだした。
一緒に帰ってきたジルは苦笑を浮かべている。
ウェルバが視線だけでジルに何があったかを聞いているようだったが、ジルは首を横に振るだけだった。
本当、何があった。どんな交渉してきた!?
「ちなみにジルと情報の擦り合わせもしまして、現状で伯爵が秘密裏に行っていることとして、まずは武器売買。申請が必要な取引ですが申請に出されてる武器の種類とは違うものが裏に流れているようです。
次に相場の詐称ですかね。取引されたものを伯爵の領で売る時に値をいじっているようです。ただし大きな誤差はその場ではなく少しずつの値上がりのようです。しかも全体的に上げているおかげでパンを買うだけでもそれなりの金額になりつつあるみたいですね。
ここであまり問題になっていないのは、住民が殆どが富裕層であるからでしょう。そうなるように作り上げたというべきですかね」
「ああ、貧困層が見つからないから物価の平均値が上がってるのか」
「そういうことですね。その辺の話はまたジルかウェルバ辺りにでも後程きくことにしましょう。
次に、盗賊達。正確に盗賊といっていいのかどうかですが金品巻き上げはあるようですので盗賊でいいですね。ぶっちゃけ、街の警備兵がそれにあたります」
「警備兵が!?」
「上手く使い分けているようですね。人も選んでいるようで。他国の商人には手を出したことはないようです。警備兵が多いのは確認済みですが、警備兵というより監視のようですね。ただ街を見て歩いているだけが多いようです」
「表ではしっかり警備してますよーって見せかけて、裏では街で犯罪を起こしてる……ってことですか?」
「ええ。しかも犯罪起こしても自分達でもみ消すことも出来ますしね。いやいや実に用意周到」
「悪質ですね」
「そして人身売買ですね。ここで一つ、ご注意しておきたい事があります」
「え、なによ」
「殆どの人身売買は芸術品もしくは嗜好品の傾向が多い中、この街で行われている売買は実験目的のものがメインのようです」
「実験?」
「魔術の「生贄」、「人体実験」、「魂」の研究。そういった物に使われる人を売買する場所です」
さらりと告げたシオンの言葉に周りの者達がヒュッと息を飲む。
「人身売買において、最低最悪の取引会場です。そして一歩間違えれば自分が「売り物」になる可能性もある場所でしょう」




