表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
某国の女騎士と仲間達の日常物語?  作者: しんり
第1章 女騎士とその仲間達
44/71

44、賊と貴族と義賊 7

「どういうつもりだ。なんで俺達の邪魔をした」


 明らかに怒っているだろうという声音に吊り上がった目を細めてウェルバと呼ばれた男性はジルを睨みつける。

 だがジルは笑ったままそれを受け止めた。


「おう。悪かった……とはいわない」

「おい」

「ウェルバ。話はしたいけど今はとにかく撤退だ」


 表情を崩さずにちらりとレイナの方を見るジル。それにつられてウェルバもそちらを見てから、やや不機嫌そうに視線をそらした。

 両成敗となった今回だが、あたり一面を爆破したようなものだ。このままでは街の警備兵たちが集まるのも時間の問題だ。


 なんだろう。なんか良いように使われている気がする。


 ちらりとこちらをみたジルを一瞥してレイナはそう思った。

 レイナ達をここに連れてきたのは、もしかして義賊達の仕事を「邪魔」したかったからではないだろうか?

 思わずそんな考えが過ぎる。だがそれを問いただすのもまた後だ。

 まだ砂埃が舞う今のうちに、ジルが言った通り撤退すべきだろう。

 それはウェルバもわかっているらしく、不機嫌そうな表情のままジルの言葉には頷いた。


「仲間を回収してくる」


 そう一言呟いてウェルバは姿を消した。

 先程ネーナと助ける時も突然現れたように感じたが、多分スペルティだろう。俊足系かと思うが黒狼ネラウルフという種族だけに断定は出来ない。

 そんなウェルバをジルは手を振って「まだ返事してなかったんだけどなぁ」と呟いて見送った。

 それからすぐに視線を別方向へと向ける。


「じゃあ、オレはこっちの口を塞いでおかないとかな」

「おい、当事者」


 どこかへと体ごと向き直るジルに声を掛けたのはレイナだった。

 その声が物凄い低音だったことにジルの肩がビクリとはねる。


「当事者……う、うーん、否定はしないけど……」

「もちろん、私達への説明も忘れないよな? うん?」

「お、おう。ちゃんとする。帰ったらするから取りあえず今は現状離脱優先な」

「まぁ、それには同意するわ。こちとら問答無用で巻き込まれた側のようだし?」


 あ、これ、怒ってる?


 と、流石に察するジル。巻き込んだ自覚はあるようで若干顔が引きつった。

 言い方を悪くすれば利用したとも言えるのだが、それを態々いうつもりはないようだし、きっとレイナも察しているだろう。

 だが今は言い争いをするつもりはないのだろう。ジルを良い笑顔で見送る体勢をしている。


 取りあえず何かやることあるんだろう? さっさとやって、さっさと連れて帰れや。


 という言葉がその笑顔から何故か聞こえてくるようだ。

 これは後でちゃんと説明しないとな、とジルは苦笑を浮かべながら心に刻む。

 それから改めてジルはレイナ達とは別方向へと向かい、杖を前へ突き出した。



水流槍ウォーターシュペーア



 ジルの魔法の言葉と共に鋭い一筋の水が勢いよく発射される。

 そしてすぐに何かが破壊される音が聞こえた。残念ながら砂埃のおかげで何が破壊されたのかはわからなかった。


 さて、覚えているだろうか。

 これが本来の水流槍ウォーターシュペーアの威力である。

 数ヶ月前のダークエルフが放ったホースの水遣りのような水流槍ウォーターシュペーアではない。

 というか魔法と言って良いのかも謎の水遣りだったけども。

 本来は岩をも砕く威力を持つ水の槍。水特性の魔法である。

 かつて記憶されたモノを是非とも今ので塗り替えておいて欲しい。


 暫く音がした方を見ていたジルは、納得したように一つ頷くとレイナ達の方を再び振り返った。


「うん、終り。じゃあ、この場を離れようか」

「つーか、何したんだ? 今の魔法になんの意味があったんだよ」


 謎のジルの行動にグリーンが首を傾げながら聞いた。

 何かを破壊するのが目的だったように見えたが、果たして本来の目的はなんだったのか。


「馬車を破壊した。これ以上、詮索されない為の牽制だな」

「牽制?」

「おう。今回は色々問題があったんだよ。このまま逃げるとちょっとやっかいだから、脅しをかけたんだ。深追いすると怪我するぞーってな」

「ふーん……? まぁ、とりあえずは今ので問題はなくなったんだな?」

「高確率でなくなったとは思う。確実、とは言えないが、向こうが馬鹿でなければ大丈夫だろう」


 そうかぁ。と納得したのかどうか怪しい返事をグリーンは返すが、それを気にすることはなくジルは歩き出す。

 ウェルバと合流しよう、と言って場所がわかっているかのように迷いなく歩いていく。

 思わずそれを見送りそうになったレイナ達はすぐに、はっと意識を戻してジルに続いた。


「僕達がここに来た意味はあったのでしょうか?」


 声を少しだけ抑えてセイルスがそう聞いてきたが、それには肩を竦めるだけでレイナは返事を返さなかった。

 肩にいるシオンも何も言わなかった為、セイルスもそれ以上は何も言わずにレイナの後に続く。


 それとは別に、セイルスはジルに出会ってから肩にいるシオンがどうも機嫌がよくないように感じていた。

 いや、確証はないのだけども。表情もいつも通りの顔をしているけども。でもなんとなく、纏っている雰囲気とでもいえばいいだろうか。

 あまりいい空気ではないように感じていた。

 けどそれを口にすることもセイルスはしなかった。

 シオンが関わっている事項なら口にしたかもしれない。けどシオン自体のことで本人が何かを言わないなら、自分が口を出すのはお門違いだ。だから違和感を感じても何も言わないし、言うつもりもない。

 それが良いことなのか悪いことなのかは、セイルスの中では関係ない。ただ、シオンがそうしたいという気持ちにただ寄り添っていたいだけなのだから。





「ジル、準備は出来てる」


 その声が聞こえてきたのは、歩き出してそう時間は経たないうちだった。

 気づけば砂埃は落ち着いていて、襲撃場所から少し離れた場所にいた。少なくとも襲撃場所から今いる場所は見ることは出来ないだろう。

 ウェルバの周りには十数人の獣人や亜人達がいる。彼らが義賊の仲間なのだろう。

 そこへレイナ達が近づけば、ジルがすぐさま杖で地面を叩いた。


「じゃ、すぐに移動するぞ」


 本当にすぐだった。

 気づけば全員部屋の中にいた。教会のあの一室だ。


「え? 早くね?」


 思わずという感じで漏らしたグリーンの言葉に、他の仲間もつい頷いてしまう。

 だって、魔法陣すら浮かんでいなかった。動作といえば地面を叩いただけだ。


「おう。魔法じゃなくて魔道具を使ったからな」


 そういってジルが懐から一つの道具を取り出した。

 見た目は小さな箱だ。ただし、表面に細かい凹凸があり、一部に術式が浮かび上がっている。

 ベレル産の移転用魔道具だ。王都でも実はよく使われている。

 移転する場所をあらかじめ決めて物を送るために使用する。

 しかし、今回の場合では魔道具を使用するにあたって問題点があるのだが……


「ちょっと待ってください。魔道具で「人」は運べません」


 そう。魔道具は「人」は運べない。正確には生き物なのだが今回の対象が「人」なので、人という括りを使おう。

 かつても少し話題に出たが、魔道具では魂が入っているものは扱えない。耐え切れずに壊れるのだ。

 詳しい魔道具の話についてはいずれ話すことにしよう。取りあえず今は移転魔道具で人は運べないという内容が重要になる。


 ユミに指摘されて、ジルは少しだけ唸るように声を漏らすと、次の瞬間にはにぱっと笑った。


「まぁ、そこは魔法の上乗せってことでひとつ」


 笑って誤魔化す、というか、それで話を流して欲しい、ということだろう。

 ジルの移転魔法は、いつもは「送る」ことしかしないのだ。帰りはその魔道具がなくては帰って来れない、という。

 自力で帰ってきてもいいんだが、足が付くようなことはしたくない為、極力移転魔法をしようするのだと説明された。

 これはその為に改良した魔道具だという。

 正直なところ、はいそうですか。と納得出来るレベルの話ではないのだが、今はそちらに論点をずらすわけにはいかないので一旦話はそれで納得しておくことにする。


「ところでお前達、誰なんだ。なんでジルと一緒にいる」


 ごもっとも。

 むしろ今更の質問ではあるのだが、先程の状況では聞くに聞けなかったのだろう。

 多分、義賊の誰もが思っていることを代表でウェルバが聞いてくる。

 まぁ、そうだよね。と思いつつ、レイナがその問いに答えようと口を開くが、ちょっと強めに床を叩く音によって遮られる。

 ジルの杖を叩く音だ。


「うん。その説明も必要だな。でも、その前にウェルバとその仲間達。ちょっと正座しようか」

「…………」

「ウェルバ」

「……だが」

「正座、しろ」

「…………」


 ジルが再び床を杖で叩く。早く正座しろよ、と言わんばかりに。

 へにょりとウェルバの耳が垂れ下がった。

 そうしてウェルバを先頭にそろそろと義賊達はジルの前に正座をし始める。

 その恐る恐るという態度はまるでこれから怒られる親と子。もしくは教師と生徒のような構図だ。


「おう。なんで正座させたかわかってるよな」

「……あの、ジルさん……」

「ネッタだって今回の件、無謀だってわかってただろう」

「それは……」

「ちょっと最近、調子に乗りすぎだ。もしあのままだったら、確実に何人か捕まってたぞ」

「そんなはずは!」

「ある。だから止めたんだ。それなのにお前達は強行した。相手は貴族だぞ。オレ達よりも色んな伝手も武力も権力もある。そう何度も同じ手に乗るはずがないだろう」

「…………」

「本当はお前達、さっき押されてたんじゃないのか? あの爆発がなかったら返り討ちにされてたんだろう。今回は運がよかっただけだ。それを肝に銘じろ」


 気づけば全員の耳と尻尾は垂れ下がっていた。

 逆にジルの長い尻尾はパシン、と床を叩き続けている。

 思わず傍観者としてそんな光景を眺めてしまったが、なるほどなるほど、とレイナはいくつか合点がいく。


 初めからこの男は、あの襲撃を台無しにしたかったのだ。

 多分、口で言っても言うことを聞かない義賊達に力ずくでわからせるために。

 そして私達は本当に偶然、居合わせてしまったのだ。

 利用された。私達を巻き込んだほうが危険が少ないと判断されて使われたのだろう。


「本当はアンタが義賊を止めようとしてたんだ?」


 思わずレイナが口を挟めば、ジルは「おう」と一言答える。


 言っても聞かない義賊達を取りあえず送って、頃合をみて自分も移動して何かをするつもりだったのだろう。

 何をするつもりだったのかはわからない。だが多少のデメリットは背負うつもりだったのだと思う。

 そうでなければ、きっと今ここで説教などしてはいないだろう。


「巻き込んで悪かった。でも、その方が安全だと思ったんだ。だって、完全な第三者だったからな」


 ジルが割り込んでしまえば義賊の関係者だとバレる可能性がある。でも、レイナ達が割り込んでも「第三者」なのだ。

 つまり「あ、よくわからなかったけどなにやら揉めて危なそうだったから、鎮火させようとして魔法使いました」だ。

 本当にこの言い訳が通る状態に持っていこうとしていたのだ。


 実際はネーナが全部吹っ飛ばしたおかげで、全てを有耶無耶にすることが出来たのでその言い訳をする必要もなくなったのだが。


「あそこで私達がしゃしゃり出てなかったらどうするつもりだったのよ」

「ちょっと口出して焚きつける予定だった。けど、その必要もなくキミが正しく判断してくれたから助かった! あの威力は想定外だったけど!」

「それはこっちも想定外だったわ! てか、ヘタすりゃ仲間が怪我したかもしれないじゃない」

「ああ、それは大丈夫。多少の怪我でへこたれる奴らじゃないからな。なぁ、ウェルバ」

「……悪かった」


 唐突に話を振られたウェルバは一度ピンと耳を立ち上げてジルを見たが、すぐに視線は反らし、間を置いてから謝った。

 いまだにパシンパシンと床を叩くジルの尻尾に、まだ彼が怒っていることが窺い知れたのだろう。

 先程の邂逅では邪魔されたウェルバの方が怒っていたが、感情が先走ってのことだろう。落ち着いてしまえばどうやらウェルバの方が分が悪そうだ。

 ジルは暫くそのままウェルバを見続ける。ウェルバは少し視線を右往左往させてから覚悟を決めたようにジルを見返してきた。


「今回は俺の判断ミスだ。咎は俺が受ける。だから他の奴らはこれで許してやってくれ」

「ダメ」

「ジル」

「ダメ。今回からお前達は仕事から外れろ。一度のミスで命はなくなるんだ。お前達はミスをした。だからもう義賊としての命を失ったも同然だ。義賊から外れろ」

「ジルさん!」

「ネッタ、お前も外れろ。……って、言いたいけど、流石にウェルバ一人でブレーンは任せられねぇからな。ウェルバとネッタで「責任」はとれ」


 ひときわ強くジルの尻尾が床を叩くと、ネッタと呼ばれた女性は肩をビクリと揺らした。


 そんな少し気まずい空気が流れる部屋で完全に傍観者になってるレイナ達はこっそり視線だけで会話をする。


『え、私達ここにいていいんですかね?』

『部外者だぞ。なんか込み入った話してるみたいだけど、聞いてていいのか?』

『でも、私達は義賊に会いたいといってしまった手前、勝手にいなくなるわけにもいかないのでは』

『そうなのよねぇ。けどあまり深い内情を知るにはちょっと状況把握が少なすぎて危険な気もするのよ』

『とはいえ僕達がここから抜け出す方法もないのではありませんか?』

『出来れば中立の立場でいたいわね』


 と、無言でここまでの会話をした。きっとしたと思う。

 無言で視線が動く中、小さく溜息を漏らすものが一人。


「ジル」


 レイナ達の沈黙を破って声を掛けたのは、シオンだった。


「いい加減、こちらの話も聞いて下さいませんか。そちらの事情は私達がいなくなってから話し合ってください。これ以上は聞くに堪えません」


 シオンにしては珍しい物言いだった。

 セイルスは先程まで感じていたものは間違いではなかったと確信する。

 シオンは今、不機嫌だ。


「……おう。悪い。それもそうだよな」

「それから、ソレ……いえ、やっぱりいいです。それこそ今口にすることではないでしょう」

「おう。なんか、ごめん」

「謝罪はいりません。とにかくこちらの事情をお話ししても?」

「そうだな。ウェルバ」

「……ああ」


 シオンの言葉にジルは苦笑しながら頷く。それからウェルバに声を掛ける。

 状況を察したウェルバも正座から立ち上がった。多少よろけたのはご愛嬌だ。うん、慣れないと痺れるよね。足。

 しっかりと立ち上がれば、ウェルバはレイナ達へと視線を向ける。


「改めて聞く。お前達は誰で、俺達に何の用がある?」


 こうして改めて義賊とレイナ達は対面する。 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ