43、賊と貴族と義賊 6
「黒狼の亜人で、義賊のまとめ役。よく言う頭領ってやつじゃないよ。あくまでまとめ役なんだってさ。義賊は大体の者が亜人や獣人でまとまってる。もう知っていると思うけど、貧困層の者だったり孤児だったり。あ、でもウェルバはここの街の出身じゃないらしいよ。まだ歳若いのに義賊の皆にとても好かれてる良い子だよ」
ジルはそんなことを話して一つの部屋の扉を開けた。
あれからジルとレイナ達はそう時間を空けずに教会の奥へと赴くことになった。
巫子の男性は穏やかに笑って一つ頷くだけで特に何も言わなかった。
ジル曰く、義賊達がいる場所まで案内するそうだ。
そしてその場所に着くまでの間、ジルは義賊の話をしてくれた。
主に「ウェルバ」と言われる亜人を中心に。
「歳若いって……どれくらいだ?」
「そうだな。そこにいる子と同じくらいじゃないかな?」
といって視線を投げたのはネーナだった。
この中で一番年下なのはネーナだ。そのネーナと同じくらいというなら、まだ少年という域を出たくらいではないだろうか。
そんな子が義賊をまとめているとは、なんとも不思議な感じがする。
扉を開けたジルは自分が先に中に入り、それからレイナ達を中へと促した。
中に入ったレイナは僅かに眉を潜めるが、用途がわかった途端納得した。
「もしかして別の場所にいる?」
「おう。今ここにはいないよ」
その部屋は広々とした空間が広がるやや広めの部屋だった。
人が二、三十人は入れるくらいには広く、壁際には棚や二人用くらいの机はあるが、壁際以外に物は置かれていなかった。
床は石のタイルで出来ていて、歩くたびに音がする。
ジルはその部屋の中心へと歩いていく。
中心へと辿り着いて振り返ると手に持っていた杖でコツン、と床を叩いた。
「「移転魔法」でウェルバ達のいるところまで一緒に行こう」
そういうとジルの足元から徐々に魔法陣が描き始める。
きっとここは義賊達を色んな場所に送る為の場所だろうとレイナは予測した。
だからこそこれだけ広く、床が石で出来ているのだろう。
なぜ教会の中にこんな場所があるかは謎だが、それはあとでユミが追求してくれるだろう。
現状ではレイナには関係ないことであって、教会に関わりのあるユミの方が関心を示す事柄だからだ。
決してレイナが心の中でどうでもいいことなんて思っているわけではない。思ってはいない。ただ単に興味がないだけだ。本当だよ。
徐々に魔法陣が完成されつつある床の上をレイナ達は歩き、ジルの側までやってくる。
それを確認したジルはにっこりと笑った。
身振り手振り、もしくは詠唱をしていない時点でジルが魔法使いとして随分腕がいいことを物語っていた。
これだけの広さだ。移転魔法でまとめて大人数を送ることも可能なのだろう。
「送ってそんなに時間経ってないから、多分巻き込まれることはないとは思うけど注意はしておいてくれよ」
「え?」
「じゃあ、行くぞー!」
「待って! 今の発言をもう少し詳しく!!」
なにやら不穏な発言を聞いてレイナが説明を求めるものの、それは虚しく部屋の中に響いただけで終わった。
ジルの移転魔法は無事、成功した。
そんなわけで目の前には豪華な馬車が襲われている光景がひとつ。
「どうしろと!!?」
「おう。どうしようか?」
「なんでそこを考えてなかった!?」
明らかに「義賊」が「仕事中」の真っ最中。
多少距離があるおかげでレイナ達の存在は気づかれてはいないようだが、だからといってこちらもどうしろと、という状態だ。
ジルが付け足して言うには「実際に見たほうが説明するより早いかと思って」だそうだ。
だからと言って貴族だか商人だかを襲っている現場を見学しようという発想になるのはなぜだ。
当然、このまま合流するわけにはいかない。義賊の仲間入りなど現時点ではお断りだ。
ではこのまま見ていれば良いのかというと、今回は隠しているとはいえ「騎士」という立場上、見逃して良い場面ではない。
若干ユミの視線も痛い。
ではどうすればいいのか。
「まぁ、多少痛い目をみても彼らなら大丈夫だぞ」
と、レイナを見てジルが言う。
思わずレイナは目を細めてしまう。
その発言、こちらの考えがわかって言っているような言葉だ。むしろそうなるようにしたのではなかろうか。
何も考えてなかったどころか、わかっていてやったのだな、と思い至る。
「アンタ、仲間じゃなかったっけ?」
「ちょっと違うっていっただろ? 大丈夫大丈夫、ウェルバにはちゃんと話を通すから」
にぱっと笑っていう彼は表情そのものは無邪気だ。ただし、グリーンほど考えなしではないようだ。
魔法使いといえば一癖二癖もあるような人物が多いが、どうやら彼もその口だろう。
レイナははぁ、と溜息を漏らす。
それから後ろにいる仲間へと振り返った。
「ネーナ」
「はい?」
「アンタ、火熱単爆破使えるわよね」
「ヒェ……つ、使えますけど……いえ、習得はしてますけど、私が使ったら」
「はい! そこはセイルス、補佐!」
「はい。コツは掴んでいるのでお任せ下さい」
言いよどむネーナに対して間髪をいれずにレイナが逃げ道を塞ぐ。
話を振られたセイルスも前回のセイレーン戦での成果とでもいうかのように、快く返事を返した。
ネーナの魔法が制御出来ない部分はセイルスが魔力操作して修正する、という方法だ。
前回とは違い何度も魔法を連発することはないのでセイルスも疲れ果てることはないだろう。
ちなみに火熱単爆破とは火特性の魔法だ。
任意の場所一箇所を爆破する魔法だが、威力はそんなに強くはない。精々数人を火傷させて吹き飛ばすくらいの威力だ。
しかし直撃すれば全身火傷か全身打撲くらいはするだろう。火傷の方がひどそうに見えるが熱源を爆発させるだけで燃えるわけではないから、火傷の度合いは軽い。
観念したネーナは眉を下げてとぼとぼとレイナの横まで歩いてくる。
その後ろにセイルスもついてきた。
「で、どこに放てばいいんですか? ……というかレーチェさんも火特性ですよね? 火熱単爆破使えるのでは?」
「ワタシハ、マホウハ、ツカエマセン。場所はあの馬車に一発とその横辺りに一発でいいわ」
「わぁ、凄い棒読みですねー……うう、わかりました。セイルスさん、補佐お願いします」
「はい。わかりました。……しかし、馬車に直撃させていいのですか?」
「そこは構わん。どちらの肩を持つ気はないから両成敗よ」
むしろそれしか出来ないのだが、あえてそこは言わなかった。
見て見ぬフリをすればここにいる時点で不審者扱いだ。馬車を手助けをしなかったことで義賊の仲間だと思われる可能性がある。
だからといって馬車を助ければ、これから接触しようとしていた義賊達から「敵」認識をされてしまう。
となれば選択肢は限られてくる。
レイナが選んだのは「どちらの味方もしない」だ。
それなりに距離が開いているこの場からの攻撃なら「あ、よくわからなかったけどなにやら揉めて危なそうだったから、鎮火させようとして魔法使いました」と言っても話は通る。
いや、通させる。何しろ嘘ではない。第三勢力は他の奴らの都合など知りはしないのだ。
この魔法で馬車も義賊もふっ飛ばせば義賊の味方だとも思わないだろうし、義賊も簡単に敵認識はしないだろう。
というか側にジルがいる時点で敵認識はしないと思われるが。
「そういうわけで、遠慮なくどうぞ」
「やるのは私なのに……」
やや不服そうにネーナは呟くものの、素直に魔法を詠唱する。
「火熱単爆破!」
大体、1キロ範囲くらい吹き飛びました。
「……もしもし? セイルス??」
「調整、間違えちゃいました。まだまだ練習が必要なようですね」
えへ、と可愛らしい言葉がつきそうな表情をして首を傾げるな。照れる場面ではない。
吹き飛んだものがバラバラと上から降って来る。ここまで飛んできてる。
おかしい。火熱単爆破はこんな威力が出る魔法じゃない。原因はわかってる。
ネーナのバカ高い魔力のせいだ。そしてその調節ミスをしたセイルスのせいだ。
数人吹き飛ばすつもりが、周囲の木やら岩やらを巻き込んで全部吹っ飛ばされました。
砂埃がここまで届いている。
うん、視界が見えづらい今のうちに逃げるべきでは?
なんて思わず現実逃避してしまうレイナだが、ふと頭の上に影がかかり意識をはっと取り戻す。
「危ない!!」
それは後ろからかかった声だった。
咄嗟に体を動かしたレイナはそれが誰の声だったか判断できなかったが、一つ忘れていたことを思い出した。
そういえば横にネーナがいたことを。
そして頭上には先程吹き飛ばされたと思われる大きな岩が迫ってきていた。
思わず舌打ちをしそうになるのをレイナはかわりに火熱単爆破の詠唱をする。
その場から飛び退きながらレイナはネーナを振り返り、そして頭上の岩へと視線を固定した。
口を開こうとした瞬間、横から一陣の風が通り過ぎる。
なんだ? と思うよりも、魔法の完成の方が早かった。
「火熱単爆破!」
頭上の岩が砕かれると同時に周りを覆っていた砂埃もまた爆風で徐々に消えていく。
視界がよくなったところでレイナと他の仲間達は気づいた。
「……ん? あれ? ネーナはどこよ」
「……いませんね」
飛び退き、地に足を着いた場所の横にユミが来て現状をレイナと共に確認した。
先程までネーナがいたと思われる場所に誰もいないのだ。
あれ? もしかして一緒に吹き飛ばした?
ネーナに迫っていた岩を粉砕する為に放った魔法だったが、もしかして場所が近すぎて一緒に吹き飛ばされたのかと予想したが、レイナは心の中で否定する。
いやいや、私の魔法の威力はネーナみたいにバカ火力ではない。普通の魔法だ。いくらなんでも相当近い場所でなければ吹き飛ばされることはないだろう。
ではネーナはどこに?
姿が見えないネーナを捜す為、皆が首を左右に動かして見渡すと少しずつなくなってきた砂埃の先に人影を見つける。
だが、どうやら一人分の影ではない。
「あ、さすが黒狼」
と、言ったのはジルだった。
あの場所から一瞬でここまでくるなんて瞬発力高いよな、と続けて呟いた声に緊張感はまるでない。
それからすぐにその姿ははっきりと見えるようになった。
腰まである黒髪を編みこんでまとめ、頭上には獣の耳があり帽子のように布を巻いている。シオンのようなふさふさの尻尾がふわりと揺れる。
服装は身軽で動きやすさを重視してなのか肌の露出は多く、左胸と右頬に独特の模様が刻まれてる。金色の吊り上がった大きな瞳をしている少年とも青年ともいえるような男性が庇う様にネーナを抱きしめていた。
「大丈夫か?」
はっきりと聞こえた声はどうやらネーナに言ったらしく、言われた本人は暫く現状を理解できていなかったようでポカンとした顔で男性を見ていた。
その様子に男性が首を傾げる動作をしてようやくネーナも我に返ったようだ。慌てて首を縦に振った。
怪我もしていない様子に安堵したように男性は息を吐くと、ネーナを抱きしめたまま立ち上がり、それから少しだけ離れた。
今一度ネーナの様子を確認してからようやく男性は此方へと振り向く。
「……こっんの馬鹿ジルーー!!」
「えー? オレが怒られるのか?」
容赦なく怒声を上げる男性に不満そうにジルはいうが、すぐににっこりと笑みを浮かべた。
「でも流石だな、ウェルバ。取りあえず話をしよう」
あ、もちろん落ち着いてからだけどな。とジルは続ける。
大体もう予測は付いていたが、どうやら彼が目的の人物。
義賊のまとめ役、黒狼の亜人、ウェルバ。その人だった。




