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某国の女騎士と仲間達の日常物語?  作者: しんり
第1章 女騎士とその仲間達
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4、東の森騒動と魔法使い 4

「で?」


 仁王立ちで不機嫌を隠そうともせず下を見下すレイナ。

 対してその足元に座り込んでシュンとしている魔法使い見習い、ネーナ。

 何も知らない者がみたらどうみても恐喝にしかみえないこの構図。だがこれでも被害者と加害者は逆ではある。

 ただレイナが被害を受けたらそれをやり返さないと気がすまないだけなのだ。


「お前の素性と今この現状に至るまでの経路を速やかに述べよ」

「は、はい! すいません!」

「早く」

「はい! ええっと……改めまして、魔法使い見習いネーナといいます。ワケあって今この森に住んでます」

「この森は許可なく住み着くことは出来ないけど」

「うう、ごめんなさい。知ってます……いえ、正確には住み着いてるというか野宿せざるをえないというか」

「速やかに」

「はい! 実は私には師匠がいまして! その師匠には私以外にも弟子がいます! そして今師匠は行方不明です! その弟子と一緒に探ったらこの森に師匠が何か力あるものを隠したと知りました! 私達、弟子は修行の為それを巡って今争っています! その争いの途中で貴女様と出会いました! 以上です!」

「…………」

「確かに、速やかに、現状に至るまでの説明、でしたね」


 色々言いたい事は多いけど、とまではシオンは言わない。

 取りあえずこのネーナとその弟子という奴が今回の元凶で間違いないようだ。

 となると先程の火炎弓矢フレイヴェロスは弟子とやらの魔法だろうか。火特性の魔法使い見習いなのだろう。

 さて、ならば後はこのネーナとその弟子を縛り上げて城に突き出せば解決である。

 しかしネーナはともかくその弟子とやらは捕まえるのに少し手こずりそうだ。なにせ先程の火炎弓矢フレイヴェロスの数。

 あれは普通の魔力量ではない。あれだけの数を作成するのには相当の魔力と生成技術が必要だ。

 どうにかしてあの魔力を無効化して縛り上げることは出来ないだろか。

 多分、シオンあたりならそれが出来そうな道具とか持っていそうだが……きっと多大な金額をぼったくられるのがオチだ。その選択肢はない。

 まぁ魔法使いといえば大体体力があまりないものだ。最悪、全力でぶん殴って大人しくさせよう。そうしよう。

 そう方針を決めるとレイナは一つ頷く。


「よし、その弟子とやらを縛り上げる」

「いきなり物騒な発言がきた!?」

「アンタ達が日々やってることのほうが物騒でしょうが!!」

「か、返す言葉もありません……」

「よし、となればまずはその弟子に出会うことが優先ね。で、どこにいるの?」

「そうですね……多分……そろそろ……」


 問われてネーナが少し考える素振りをする。と次の瞬間後方から高笑いが響いた。

 ホーホッホッホ、とまるでフクロウみたいな高笑いだった。声は高い。だからフクロウ自体でないようだ。

 というかその笑い方じゃ高笑いというよりどこぞの老人が笑っているだけにしか聞こえないのだが、別にだからといって指摘してあげる気もない。

 取りあえず声が聞こえるほうを向けば茂みから何かが出てきた。


「どこに行ったかと思えば、こんなところにいらしたのね! ネーナ!」

「はいはい、ここにいましたよ。ヒリカ」

「今度こそ地にひれ伏してやりますわよ!」

「どうせそんなこと出来ませんよー」

「まぁ! そんな口叩けるのも今だけですわ! 私の偉大な魔法をその身に浴びて吠え面かくといいわ!」

「ヒリカの魔法なんて地味に痛いだけじゃない。私の魔法の方が凄いんだから!」

「そのネーナの魔法とやらが先程、無数の火炎弓矢フレイヴェロスを作り出して自分自身に向かっていったのは私の見間違いかしら?」



「お前のせいかよ!!!!!」



 容赦のないレイナの掌が甲高い音を立ててネーナの頭を弾き飛ばした。


 火特性魔法使いってこいつのことか!!


 ネーナを襲うように魔法が来たからてっきり弟子の方かと思えば、まさかの自分自身の魔法という冗談のような事実。

 というか自分で作り出した魔法が自分を襲うってなんだ。マゾかこいつは。

 さっきネーナのせいで酷い目にあったと思っていたが、さらに酷い事実だった。


「さっきのアレ! 作り出した本人は目の前にいる人物だと!?」

「すいません!」

「なんで自分の魔法に襲われてんのよ!」

「私、魔力は凄く高いんですがコントロールが滅茶苦茶ヘタなんです。それはもう魔法の性質さえ変えてしまうほどヘタで……火の玉を作ろうとしたら、くす玉が出来てしまうくらいにはヘタなんです……」

「なんでくす玉!? 性質云々の前にそもそもくす玉に魔力関係ないよね!? あれ、普通の物体だよね!?」

「そ、それが私にもわからなくて……たまに鳩も飛び出してきたりもして……」

「それ手品だよ!!!!」


 もう一度甲高い音がネーナを襲った。


 さて、ここで一呼吸。


 まだ色々言いたいことはあるが、ぐっとレイナは飲み込んでネーナの前に立つ。

 先程よりもずっと肩を下げてもはやどんよりとした空気を背負うネーナ。先程からずっと泣きそうな顔をしているにも関わらず涙が流れる気配がないのは案外神経が図太いのではなかろうか。

 その横にシオンと先程登場したヒリカと呼ばれた弟子がいる。


 ヒリカと呼ばれた弟子はダークエルフだった。

 ただネーナに比べるとだいぶ容姿が幼い。背も低いし胸もない顔も幼い。だが聞けばネーナと同い年だという。

 元々エルフは長生きの種族だ。そのおかげで成長も遅れているのだろうか……と疑問に思えば


「いえ、多分関係ないかと。エルフの血縁は自分が最高な状態の年齢で成長が止まります。そこから長い時間かけて歳をとるんですよ。なのでその最高な状態になるまでは人間と同じ成長の仕方をするはずです」


 つまり、今現在背が低くて胸もなく顔も幼いこのダークエルフは……


「ちょっと! その哀れみのような目を向けるのはどういう意味かしら!?」


 まったくそのままの意味なのだが口に出さないのが優しさだろう。

 ヒリカはダークエルフらしく肌は褐色で耳は長く髪は淡い金色。目は釣り目だとはっきりわかるくらいに釣りあがっていて、服装はネーナと同じく魔法使いとしてちょっと露出多くない? というものだった。ローブを着てない分、ヒリカの方が肌色は多い。

 そんな彼女はどうやら水特性を持つ魔法使いらしい。


「まぁ、ヒリカの魔法はショボイですよ」

「なんですって! 私の魔法の凄さをネーナが理解しないだけでしょうに! 見てなさい!」


 そうヒリカが声を上げるとすぐさま腕を前に構える。


 魔法を使う際、身振り手振り、詠唱、魔法陣のあるなし等は人それぞれである。

 そうすることで魔力を増す者もいれば何もしなくても魔法を発動させることが出来る者もいる。

 ネーナはわからないがヒリカは詠唱を必要とはせず身振りで魔法を発動させるタイプのようだ。

 そうしてヒリカの指先に体の半分ほどの大きさの魔法陣が浮かび上がる。形からやはり水特性魔法のようだ。


水流槍ウォーターシュペーア!」


 魔方陣から一筋の水が飛び出す。


 じょろろろろ……

 そして周りの茂みにホースで水遣りをするかのように水が広がっていった。


 ちなみに水流槍ウォーターシュペーア。名前の通り水の槍である。

 本来ならば鋭い一筋の水が勢いよく発射され大きな岩をも粉砕する威力を持つ。攻撃力の高い水特性魔法だ。

 それを踏まえてもう一度目の前の魔法を見てみよう。


「……いや、別にもう水遣りとかいいから」

「昨日、雨降ったばかりですし」

「いつまで水流してるの?」

「少しは慰めなさいよ!!」


 まったくやる気のない感想? を受けて流石のヒリカも目を吊り上げて怒る。

 しかし事実いまだに魔法陣からホースからの水遣りのように水が流れ出ている。そろそろ水溜りが出来上がってきていた。

 それにしても一瞬の放水攻撃のはずがここまで弱く今でも水が流れ出ているところを見ると、細く長くという使い方なのだろうか。

 多分だが本人にはそんな気はないのだろう。そうでなければ先程の感想達に怒りを覚えることもないだろうから。その気があってこんな魔法を出しているのだとしたらそれはそれで凄い。精神面が。


「魔力が小さいくせに強力な攻撃魔法ばっかり習ってるからそんなことになるんですよー」

「技術はいくらあってもいいのではなくて!そもそも初歩中の初歩魔法すらもまともに発動できないネーナに言われたくはないですわね!」

「は、発動はできてます! ちゃんと発動してますー!」

「ふん、何をおっしゃているのかしら。火の魔法を維持する基礎で火ではなくて石炭をポロポロと生産し続けたのは記憶に新しいのではなくて!」


「いや、なんつーかそっちのほうが凄いわ。石炭生成」

「火の基礎で石炭が出来るって魔力量云々とかいうレベルの話なのでしょうか?」

「さぁ?」


 なにやらネーナとヒリカが言い合いを始めた横でいまだに魔法陣から水がちょろちょろ流れて水溜りが出来ている場所に小動物が水を飲みに来ているという場面を座って眺めていたレイナとシオン。

 もう既に二人のやり取りに飽き始めている。

 それでも二人の言い合いは止まらない。


「さっきだって水の刃を降らせる魔法でただの(ひょう)を一瞬降らせただけで終わったくせにー!」

「ちなみに水特性持ちで氷生成ができるのは貴重ですよ」

「私は繊細なのよ! 貴女みたいにドカドカ大穴空けたり火柱上げたり周りを巻き込むような馬鹿な真似はしませんわ!」

「てことは報告に上がってた被害は全部たった一人の仕業か」

「う、うるさーい! チー三タカビーの癖にー!」

「それやめなさいっていってるでしょう!! お馬鹿!!」

「多分、魔力小さい、背が小さい、胸小さいの三セットに高飛車をつけてチー三タカビーの略だと思われます」

「そういう解説求めてないから」


「「さっきから地味に心を抉る様な会話を横でしないで!!」」


 息ぴったりのツッコミが横で座っていたレイナとシオンに入る。

 だが二人に特にダメージはない。なぜなら最初から何のやる気もない横槍の会話だったからだ。

 その二人の横からいまだに水は流れでている。鳥達が集まってきて水浴びをし始めていた。

 レイナはこちらは気にするなとでも言いたげにネーナ達に向かって手を振る。

 釈然としないもののお互いまだすっきりしないのかネーナとヒリカは再びお互いの罵り合い……口喧嘩を始めたのだった。


 口でのやり取りは完全に子供喧嘩のはずだし、ヒリカに至っては魔法使い見習いらしく本当にショボイ魔法しか繰り出すことが出来ない。

 だが馬鹿みたいに魔力が高いであろうたった一人の人間のせいで子供の喧嘩が命に関わる死闘へと変えている。

 しかも全方向を巻き添えにする形で。


「……もうこのまま二人をまとめて縛り上げて城に突き出して帰りたい」

「悪くない意見だとは思いますが、多分それでは解決しないと思いますよ」


 思わず漏れたレイナの帰りたい願望にシオンは賛成の意を示すが、不穏な言葉が続いた。

 そのことにレイナは首を傾げる。


「なんでよ」

「確かに二人を城に突き出せば()()()騒動は収まりますが、釈放されたらまたここで争いを始めるからです」


 シオンが答えた内容に、そういえば……と思い出す。


 そもそもなぜこの二人がここで争っているのか。それを先程聞いたばかりではないか。

 二人の師匠がこの森に力ある何かを残していったのが原因だ。

 つまりその何かがある以上、たとえ今捕まえて大人しくさせてもネーナもヒリカもまたここに戻ってきてはどちらが先にそれを手に入れられるのか、と争いを始めるだろう。

 今は解決しても根本的な解決には至らないということだ。


「……でもネーナだけどうにかすればなんとかなりそうな気もするけど」

「どうにかするつもりあるんですか? 貴女が?」

「いや、ないな。それはない」


 面倒の一言が脳内に浮かんだ時点でレイナが自発的に動くなんて事はしない。

 ではこの先どうするのか。


「根本的解決をしましょう。まずはその師匠とやらが残した「何か」を確認すべきですね」

「まぁそうなるか。ならさっさと確認しにいくとしましょうか」


 よっこいしょ、と声をかけながらレイナは立ち上がり、それに合わせる様にシオンも羽ばたいてレイナの顔の横へと浮かんだ。

 そして近くではいまだに口喧嘩を繰り広げている魔法使い見習い二人。

 取りあえず「何か」を確認する為にはそれがどこにあるかを把握しないといけない。

 そしてその情報を持ってそうなのが目の前の二人。

 ならばさっさとこのやり取りを終りにするしかないだろう。

 そう決断するとレイナは足元から片手で握れるくらいの小石を2つ掴む。


 そしてその小石は目の前の魔法使い見習い二人に向かって思いっきり投げつけられた。


 なにやら鈍い音が2つ響く中、さらにその横では魔法陣からチョロチョロと水が流れ続け、気づけば動物達の憩いの場へとなっていたのだった。


●1456

◎2

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