38、賊と貴族と義賊 1
説明回です。
大国レインニジア。
山を囲っているが全て建物が山を囲っているわけではない。
城下町が栄える場所にそれはそれは大きな城が建ち、その後ろに山が聳える。そしてその山を挟むかのようにまた大きな城が建っている。
丁度反対側にある城を「離宮」と呼んでいる。
離宮側は自然が豊かで大きな湖もあり、同じ王都内でありながらまるで別荘地かのような趣となっている。
実際に貴族達の別邸も離宮側に多く、商売人も足をよく運ぶ。
そして離宮自体は王族の住まいとして使うことが多く、ここで働いている者達も王族の生活を支える者達ばかりとなる。
とはいえ、現在正統な王族といえば国王のツォリヨとその娘一人のみ。
先王も王太后もいない。先王の兄弟はいるが、皆自由奔放……んん、いや、自分の意思を尊重してこの城から出て行っている。
その為、現在離宮に住んでいる王族は国王の娘の王女のみとなる。国王は基本、本城で仕事している為あまり離宮に帰らない。
だだっ広い城に一人……と思うかもしれないが、離宮は重役がいないお陰で見習い場所ともなっている。
騎士だったり、新人文官に見習い侍女だったり、そういうものが訓練だったり練習だったりにも使用している。
騎士の場合は見習いではなく城働きになったらここで一通り習うことになる。近衛兵も再びこちらで指導を受ける。
そんなわけで城に見合っただけの人数は揃っている。それどころか下手したら本城より慌しいかもしれない。
けれども本日の離宮はほんの少し、ほんの少しだけ静かだった。
丁度昼時。
城の一般開放されている食堂は大いに賑わっている。いつも以上に賑わっている。
というのも、現在一般人に混ざって城に働く人達もこの食堂を利用しているからだ。
城で働く人達の為の食堂ももちろん用意されている。だが、今現在改装中ということで使用できない。その為、いつも食堂を利用している人達は一般人に混じってこちらの食堂で昼飯を食べているというわけだ。
中にはそれなりに有名な人物もいることから、いつも以上にざわついていたりする。
その注目を集めているうちのひとつ。
カウンター席になっているそこは中で働く人たちがチラホラ見えるが、だからといって中の様子まではわからないように上手く区切られた場所。
そこへ男女が座り、食事をしている。
その後姿を見かけた騎士見習いのレイは声をかけることにした。
「青月団長にフロンさん。こちらで食事なんて珍しいですね」
声をかけられて、二人は振り返る。物を食べている様子がないところから見て、声を掛けられる事がわかっていたのだろう。
二人はにっこりと笑って返事を返してくれた。
金髪の長髪をハーフアップにして結び、本紫色の瞳が優しそう微笑んでいる。
エルフで魔法使い。
青月魔導師団長、ノアファーロ・レッタティスカ
もう一人はふわふわのベージュの長髪、飴色の丸い瞳が可愛らしい女性。ノアファーロと同じ制服を着ている。
こちらは人間の魔法使い。
青月魔導師副団長、フロン・ベーティーソン
二人ともおっとりしたような見た目だが、中身は相当凄い人物達だ。
「こんにちわぁ。レイ君、久しぶりだねぇ」
「やぁ、こんにちは。グリーン君は昨日ぶりだね」
レイに挨拶を返した二人は横にいた人物へとそのまま視線を向ける。ノアファーロに声をかけられてグリーンは軽く返事を返した。
レイはこの食堂に入る前にグリーンと偶然出会い、二人で食事をとろうという話になったのだ。
すっかり騎士団に馴染んでしまったグリーン。どこの団に顔を出しても必ず顔見知りがいる状態になったようだ。
それでも騎士団長に覚えられるというのは騎士達にとったら羨ましいことこのうえない。
レイは昔からの付き合いがあるため、騎士見習いではあるがこうして会話することを許されている。
誰が許す許さないって話ではないのだが、なんとなく人の目というのは気になるものなのだ。
だがもう昔からの光景でもあり、そもそもバルハードの息子として名が通っているのもあって騎士見習いだが誰かが文句を言ったり嫌がらせがあったりということはない。まぁ、今は、だが。
「君達もここで食事かい?」
「はい。反対の食堂は今日は使えないし、グリーンさんとも会ったのでここにしようかと思って」
「そういやぁ城の食堂は厨房を挟んだ反対側なんだって?」
「そうだよぉ。その方が効率が良いって言ってたねぇ」
「言ってた? 誰が?」
「アタシよ! 迷惑かけちゃってるわね。ごめんなさいねぇ、今日だけは我慢して頂戴」
フロンの言葉にグリーンが質問すれば、その答えは別のところからやけに通る声で返ってきた。
聞こえた声の方へグリーンが振り向けば、ぎょっとしたように目を見開いてから固まる。
声は低かった。しかし喋り方は女性だ。話す内容から厨房の人だと思った。女将さんとか、そういう。
しかしそこに立っていたのはすらりとした長身の、がっしりとした体格の男性だった。
黒紫色の長髪を頭の上でくくり、左側だけ四本ほど編みこみがされている。
瞳も黒紫で吊り目で鋭い。だが笑っているおかげでキツイ印象は与えない。目の下に独特の隈取がされている。
厨房の人間なのになぜか鋭い爪。しかも黒い。立ち姿や仕草は女性を思わせる動きだ。
「……ええっと、男?」
「ヤダ~~! そうやって判断迷ってくれちゃうなんて久々の反応で可愛いわぁ。フフ、ウブな子は好きよー」
グリーンの反応に目の前の男性らしき人物は嬉しそうに頬に手を添えて、逆の手ではグリーンの頬をその黒い爪で突いた。
一瞬グリーンの背筋がぞっとして鳥肌が立ったが、仰け反ったりしたら失礼だと思い耐えた。
その様子が手に取るようにわかった男性はさらに嬉しそうに笑う。
「可愛いし、なかなかいい男じゃない。誠実な態度は高評価よ。初めまして。アタシはスペキラ。この食堂を管理する主人よ。あ、間違っても宮廷料理人とかってガラじゃないから同じ扱いにしないでね」
「宮廷料理人じゃない、のか?」
「そぉよ! あんな堅苦しい料理、アタシには無理無理! ここは酒場がメインなの。食堂は副業よ。ま、今じゃ副業の方が盛り上がっちゃってるみたいだけどね」
そう。元々は城で働いてる人向けの息抜きの為の酒場だったものが一般人の食堂へと大きく拡大されたのだ。
食堂についてはまたその内、暇な時にでも語ることにして、今回はそろそろ別の話をしよう。
「あ、そうそう。こ~んな喋り方や仕草だけど、立派な男よ。アタシは魔獣、殺人蜂の働き蜂なの。宜しくねぇ」
「え、魔獣? 魔人じゃなくて?」
「人型だけど魔獣ね。かつての女王様は完全に獣姿だったけど子供は人型ね。その辺の仕組みはアタシにもわからないわ。でも働き蜂は大体こんな姿よ。覚えておくといいわ!」
「スペキラの場合は自己申告だったからちゃんと魔獣で登録されているよ。魔人と魔獣の区別は僕らにはまったくわからないからね」
「やだ~! アタシ達でもわからないんだからノア達にわかるわけないじゃないのぉ!」
「そうかぁ」
「そうよぉ!」
あはは、うふふ、なんていう笑い声が聞こえてきそうな和やかムードだが、本当に種族判定そんなゆるゆるでいいのか。
それとも魔人や魔獣にとって種族という呼び名は特に関係ないのかもしれない。
「そういえばぁ、今日はレイナ君は一緒じゃないんだねぇ」
「姉さんは今日は事務処理で別の部署に行ってるはずですよ。食事もそっちで済ますんじゃないでしょうか」
「そっかー残念。レイ君がいるならレイナ君もいると思ったんだけどなぁ。ねぇねぇ今度、レイナ君に魔導師団まで遊びに来てねって言っておいてねぇ」
「いいですけど……あの、実験台とかに使わないで下さいね」
「しないよぉ! 実験台候補ならたくさんいるし、それにレイナ君ならちゃんとした彼氏として欲しいもん」
「……え、レイナって女だよな?」
「ああ、姉さんって何故か女性によくモテるんです」
フロンがうっとりとして口にした言葉にぎょっと驚いたグリーンが思わずレイにそんな確認をしてしまう。
レイも苦笑してそれに返した。
レイナはなぜか女性にモテる。猫を被っていようがいなかろうが、どちらでも同じ結果だった。
確かに身長は高いが決して男らしい体つきをしてたり、格好いい顔立ちをしているわけではない。顔は確かに整っているが。
しかし現に目の前のフロンは「彼氏にするならレイナがいい派」と主張する者のひとりだ。ちなみに何故かこの意見に魔導騎士団の副団長であるアベルも同意してる姿を見かけたことがあるらしい。なぜだ。
彼氏だとか言っているがフロンは基本恋愛事に興味は持ってはいない。興味を持っているのは魔法研究だけだ。
ただ彼女の見た目はすこぶる可愛い。小動物のようにちょこちょこ動いてその度にふわふわの髪がなびき、くりっとしたつぶらな瞳で見上げられれば誰もが可愛いと呟いてしまう。
そんなフロンへの求婚は日々絶えないそうだ。
彼女の隣にいる男性は日々違う男性だとか。実際、そうなのだ。
しかし、決して男性をとっかえひっかえしているわけではない。
彼女はただ拒まないだけなのだ。後は勝手に男性が離れていく。そう、男性から近寄ってきたのに男性から離れていく。
実はそこに彼女の困った性格が災いしている。
先程もいったが、彼女は魔法研究にしか興味がない。つまり。
彼女の中で、彼氏=実験動物、という扱いなのだ。
狂魔法学者という彼女。見た目に反してやることはエグイ。
死ぬような実験はしないが、ボロボロにはされる。心身共に。体の方は回復魔法がある為、即回復させられるが。
一度体験するとトラウマになるとすら言われている彼女の実験内容。
近寄ってきた男性は逃がさない。次の日にはベッドの上だ。
そんなわけで長続きする男性はいないのだ。究極のマゾでない限り無理だろう。
だがそれでも求婚されているのだから世の中の男性は忍耐強いのだろうか。
そしてそんな彼女が唯一うっとりとして語る人物がレイナなのだから世の中本当にわからないものだ。
「レイナ君はぁ、猫被ってるときは紳士的で格好良いし、素の時は物怖じしないワイルドさがあって格好良いし、それでいて国王専属騎士という将来の有望さ。素敵よねぇ」
という解釈らしい。
グリーンにはまったくよさがわからない話である。只管首を傾げるだけだ。
そんなやり取りをしつつ、レイとグリーンはノアファーロとフロンの隣へと座りそれぞれがスペキラに直接注文して昼食をとることにした。
丁度食事が届いたところでスペキラが思い出したかのようにノアファーロへと声を掛ける。
「そういえば最近、オランジュイ辺りが物騒なんだってぇ?」
「ああ、やはり耳に届いてたか。まだ決まってはいないけど僕達、騎士団も動くみたいだよ」
「やぁね、貿易の要なんだから早く解決して欲しいわ」
「今回ばかりは勝手に動くわけにもいかないからね」
「女王様の判断待ちってわけねぇ」
一般人もいる為、少しだけ声のトーンは下げて二人は会話をする。
レイは会話している内容に心当たりがあった為、口を出さずに聞くだけに留めたが、まったく何も知らないグリーンは素直に疑問を口にした。
「オランジュイって?」
おっと、疑問に思ったところが違ったようだ。
そういえば彼は記憶喪失者だ。まったくもってそんな素振りを見せないが、彼に過去の記憶はない。二度も言うがまったくもって本人も気にしてないので誰一人として気にしたことがないのだが。
そんなグリーンにノアファーロがくすりと笑って逆に聞き返した。
「グリーン君は他の国のことも忘れているのかい?」
「多分。俺が知ってる国はレインニジアとベレルくらいかな」
「魔道具で日常的によく聞く名前だからね、ベレルは。そうだね。折角だから同盟国の簡単な説明でもしておこうか。今後の参考にでもするといいよ」
「お、それはありがてぇ!」
今ではレインニジアに腰をすえているグリーンだが、またその内には自分の記憶探しという名目で各国に旅にでようとは思っているのだ。国について事前に知っておけるなら知っておきたい。
そんなわけでノアファーロから簡単な国の説明が始まった。
「内界の国は八カ国。全部、同盟国だよ。ツォリヨが……現国王が即位してから全ての国での同盟結成を成し遂げることが出来たんだ」
「レインニジアが実力主義で伸し上がれるようになったのも陛下のおかげね」
「そうだね。まずは同盟国の要、大国レインニジア。説明する必要もないね。国王、ツォリヨ・オルティア・ツイフィードが治めているよ」
「我が国の国色は黒ですよぉ」
「レインニジアを中心に、オランジュイ、ベレル、バルディッタ、ハストヤート、ソ・イート、ゴマナバーケン、サハンナ・ナパの八カ国となるね」
さて、では簡単にどんな国か、治めているのは誰かと国色だけ述べていこう。
人物紹介の方が長くなってしまった為、説明回ももう少し長引きます。
今回の話は色々盛り込んでいるため、前回の神隠しの話よりも長くなる予定です。お付き合い頂けると嬉しいです。




