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某国の女騎士と仲間達の日常物語?  作者: しんり
第1章 女騎士とその仲間達
35/71

35、神隠しと吟遊詩人 10

 内界では種族関係なく生活することが出来る。

 それはどこの国も同じで、特に大国レインニジアでは様々な種族が暮らしている。

 魔獣ももちろんその括りに入る。


「まぁつまり、魔獣セイレーンも町に下りて住民登録すればいいってことよ」

「え、え、でもいいんですか? 私達、魔獣ですよ……?」

「この辺の田舎じゃいないだろうけど、王都じゃ珍しくもないわよ。何せ魔人が聖職者っぽいことしてるくらいだし」

「イースさんのことですか。聖職者とはまた少し違いますけど」


 戸惑っていた面々にレイナがそう説明してようやくぽつりぽつりと反応が返ってくる。

 山の中で暮らしているセイレーンも町で暮らしてしまえば草食男子たちは町に帰ってくることが出来るし、セイレーンの婿問題も解決する。事件が解決するから領主の仕事量も減る。

 いい事尽くしじゃないか。


「ふむ、確かにその制度は聞いたことがありますね。こんな田舎でも適用しているのだろうか」

「そもそも差別は女神様が許しません。そういったことから考えても適用されないなんていうことはないでしょう」

「なるほど」


 ユミの言葉に領主が納得するように頷く。

 どうでもいいが女神って単語、都合よく使われてる気がするのは気のせいだろうか。

 セイレーン達も戸惑ってはいるがその目はキラキラと輝いているところを見ると期待はしているようだ。

 しかし、その話で渋ったのは町から来た草食男子達だった。


「けど、本当に大丈夫なのか? セイレーン達が肩身狭い思いとかしないか?」

「見た目が違うってだけできつくあたる奴もいる。彼女達は本当に大丈夫か不安だ」


 次々と男子達が懸念を口にするが、多分一番気になっていることは口にはしていない。

 つまり、町の肉食系女子がセイレーンをいじめないかどうかだ。

 ではなぜ口にしないのか。


 怖いからだ。女子が。


 この辺が草食男子と言われる所以である。

 うじうじうじ、とどうにも渋っている男子共。

 レイナがもういっそこいつら気絶させて強制的に町に送り込んでやろうか、と考え始めた辺りで別方向から声がかかる。


「いつまでもここにいても解決しないだろう? 町に迷惑かけていることは本当なんだ。皆、帰ろう」


 意外にもその言葉を発したのは男性だった。ちゃんと人間の男性だ。

 今、うじうじと喋っていた男達と同じ町からきたであろう男。見た目は頼りないが口にした言葉ははっきりと意思がのっている。


「だが、もしもセイレーン達に何かあったらどうするんだ」

「何かあったら守ってやればいいじゃない。ガイトは愛する人も守れる自信がないの?」

「そ、そんなわけないだろ!」

「なら問題ないじゃない。君達が守れば良いだけの話さ。これ以上、僕達がここにいることの方が町の人にもセイレーンにも迷惑がかかるよ」

「……そう、だな」


 頼りない見た目の割にかなりずばっといいのけた男性。この話の流れからするとどうやら彼はセイレーンに恋する男子ではなさそうだ。

 さて、では恋していないのならなぜこの場にいるのだろうか?

 そんな疑問はあっさりと解決する。


「騎士様にもご迷惑おかけして申し訳ありませんでした。僕達の町のことなのに王都の人にまで来ていただくなんて」

「いや、まぁ今回はちょっと気になった程度だから、そんな事件って程でもないんだけど……」


 男同士の話し合いをしていると思えば、突然レイナの方を向いて綺麗にお辞儀をしてそんな謝罪をしてくる。

 元々事件というほどでもなかった。何もなければそれに越したことはない、と国王も言っていたほどだ。

 その程度だったのだから気にする必要はない。……いや、セイレーンが引っ越してきたのはある意味事件ではあるのだが。


「僕達も散々説得はしていたんですが、なかなか頷いてくれなくて。彼らが頑固だから説得にきた僕達も帰ることが出来なくて日数だけが過ぎていたんですが……でも結果的に町に皆帰れそうでよかったです」

「ああ、じゃあ君達はセイレーンに恋した連中を連れ戻しにきたわけだ」

「はい。まさか全員が全員セイレーンの虜になったわけじゃないんです。それでも町の若い男性達は殆どここに住み着いちゃってますけど……僕のように説得に来た者も何人もいるんですよ」

「説得の方が少数派?」

「恥ずかしながらその通りです。しかも説得が上手くいかずに結局僕達も「神隠し」の仲間入りですけど」

「あーなるほどねー」

「ええっと、ではセイレーン達も一緒に町に帰る、でいいんでしょうか?」

「はい。その方向で是非お願いします」


 そんなわけで今度こそ解決する方向で話は進むようだ。

 そうと決まればさっさと行動に移す。セイレーン達に荷物をまとめるよう伝え、それが終わると皆して山下りが始まる。

 もちろん、先頭はレイナ達だ。

 元々そんなに険しい山ではない。確かに獣道ではあるが、体力あるものなら簡単に通ることは出来る。

 そんな道を歩いているとこっそりユミがレイナに耳打ちしてきた。


「レイナさん、本当にいいんですか?」

「何が?」

「セイレーンを町に住まわすことですよ」

「いいんじゃない。別に悪事をしようってわけでもないんだろうし」

「そうではなくて。あの町ですよ。あの町にセイレーンですよ」

「うん」

「先程は男性が説得してくれましたけど、どう考えても肉食女子VSセイレーンの対決は避けられないかと」

「んなもんわかってるわよ。自分の将来がかかわることだからね」

「ではなぜ」

「私の知ったことじゃないからね。私はあくまで「神隠し」の真相を知りに来ただけだから。町で別の騒動が起ころうがなんだろうがどうでもいいわ」

「領主様の胃に穴があきそうですね」

「知らん!」


 町娘達だって婿探しをしているのは知っている。そこへライバルが増えるのだから騒動はもちろん免れないだろう。

 そんなものは最初から予想できていた。だが、知らん。たとえ領主がストレスで倒れようが私の知ったことではない。

 だがまぁ、町娘達は王都で婿探しを希望しているのだ。そこまで荒れることはないだろう。多分。


 これで今回の「神隠し」の事件は解決だ。

 しかし。


 しかし、なんだろう。

 何かが引っかかるような、すっきりしないような。


 思わず首を捻っていると、後ろからセイレーンが誰かと話している声が聞こえてきた。


「え? 目眩ましの幻術が解けたんですか? どなたかが解除したのではなくて?」

「はい、誰もしていませんね。唐突にあの塀と岩が現れたようでした」

「おかしいですね。私達も誰も解除はしていないのですが……何かに反応したのでしょうか?」

「何か……ですか? 僕達も別段何かをしていたわけではないのですが」

「ええ……ええ、そうですよね。でも、なんでしょう。私、貴方とお話ししているとどうしても気になってしまうことが……」


 どうやら吟遊詩人と話をしているらしい。

 会話はあの門のことのようだ。その会話を聞いてレイナも思い出す。

 何度も行き来した場所だったにも関わらず唐突に現れた門。

 そういえばあれもなぜいきなり現れたのだろうか。

 何かもやっとする。

 また、別の引っ掛かりを感じて今度は眉根を顰めると、唐突に悲鳴が聞こえた。

 それは少し後方。セイレーンの誰かがあげた声だった。

 慌てて振り返ると、セイレーンはとある場所を指差している。

 その指し示す方向へ視線を急いで向ければ


「ラナ!」


 目の前の光景を認識する前に一人の男性が飛び出した。慌ててそれを吟遊詩人が止める。

 良く見れば飛び出した男性は先程渋っていた男共を説得させレイナ達に詫びをしていた者だった。

 今は酷く焦った表情をしている。その理由はレイナにも察せられた。そして舌打ちをする。


「すっきりしない原因がこんな形でわかるとわね!」


 と、言い終わる前に今度はレイナが飛び出す。それを吟遊詩人が止めることはなかった。

 山道であるのにレイナの走るスピードは速い。そして軽い斜面を蹴って小さく飛び腰につけている剣を素早く抜き放った。

 キィン、と鋭い音が森に響く。

 レイナは剣を交わせたものを自らの力で弾き、その反動で後ろへ下がる。

 そうして目の前にあるものを改めて眺めた。


「そういえばそうだったわね。神隠しの新しい噂では最近では()()()()()()()()()()()って」



 剣を構えてそう呟けば舌打ちが返ってきた。


「王都の犬か」

「そういうアンタ達は野犬ってところか。たく、今回はこういう輩とは会うことはないと思ってたらそうでもなかったみたいね」

「フン、よく喋る犬だな」

「どうせ神隠しに便乗して人攫いしてんたんでしょうが。 ここ最近住み着いた山賊ってところかしら」


 レイナがそういって鼻で笑えば目の前の相手の目が鋭くなり睨みつけられる。

 その後ろには少し離れて数人の似たような服装をした者がいる。どれもくすんだ色をしていて、口を布で隠し頭巾を被っている。

 そのうちの二人が何かを抱えている。それはどう見ても人で。

 先程レイナが口に出した「女」と「子供」だった。


「ラナを……その女性と子供をどうするきだ!」


 先程の男性が声を張り上げる。冷静なタイプかと思っていたが、どうやらそうでもないらしい。

 ラナ、というのは多分女性の名前だろう。そう考えてはた、と気づく。


「あれ? あの女性って昨日の昼間私達に声を掛けてきた町娘さんじゃないですか?」

「あの肉食女子代表……いえ、とても気丈な女性の方ですね」


 思わずぽつりと零してしまった言葉をそっと訂正するユミに対してネーナはそっと目をそらす。

 そう、山賊らしき人物に抱えられているの女性は昨日吟遊詩人と出会ったときに声を掛けてきた女性だった。

 どうやら気絶しているらしく、ぐったりとして今は動くことがない。子供の方も頭がだらりと下がっていて動かない。

 死んでいるわけではないだろう。そうでなければ攫う意味がないのだから。


 声を上げた男性の質問に応えることはなく、レイナと対峙していた人物が微かに鼻で笑う気配がするだけで終わる。

 そして先程レイナの剣を受け止めた武器を大きく振り上げた。

 目の前で対峙しているレイナは身構える、が、すぐにそれは間違った対処だと気づいた。

 なぜなら振り上げた武器の柄の部分が上を向いているからだ。刃が下を向いている。

 何かある、と思った瞬間、激しい光が一帯を覆った。


 武器に仕込まれていたであろう閃光弾だ。


 油断した。咄嗟に目を覆って被害はないが再び目の前を見ればそこには誰一人いなかったのだ。

 逃げられた。そう遠くにはいっていないはず。


「レイナさん! 右です! 僅かに木々が揺れています」


 視線を張り巡らせれば吟遊詩人から助言を貰う。すぐさまレイナは駆け出した。迷っている暇はない。

 間違いではないだろう。確かにこちらから違和感を感じる。

 少しだけ意識を後ろに向ければネーナ達も追ってきているのがわかった。そして多分セイレーンだろう気配も数人感じられた。

 これだけいればいざという時はバラバラになって捜すことも出来るだろう。だがそれも杞憂で終わる。

 少し走れば先程まで対峙していた一団を見つけた。だが遠い。追いつくにはもう少しかかりそうだ。

 しかし相手も馬鹿ではなさそうだ。追って来たこちらに気づき方向転換をする。

 面倒な、と心の中で毒づきながらレイナもそちらへ向かう。が、それがよくなかった。


 少し経つと一団との距離はあいていた。

 どうやら向こうはこの山のことをよく知っているようだ。木々の避け方と妨害できる地形を理解している。

 服が統一されてる時点で普通の山賊と少し違う気がしていたが、どうもこれは組織ぐるみかもしれない。

 だがそれは今考えることではない。このままではますます距離があいてしまう。


 スペルティで「俊足」はレイナも持っている。むしろレイナが持っているのは「縮地」だ。

 しかしこれだけ入り組んでいるところで使うには逆に自爆技になりかねない。「瞬間移動」ならまだしも「縮地」ではこれだけの木々を避けて駆けることは相当難しいのだ。数ミリでも読み間違えれば自分の首が飛びかねない。

 なら強化魔法はどうだろうか。木々を避けながらスピードを上げることは可能だろう。

 しかし残念ながら強化魔法は初歩しか覚えていない。瞬間的に能力を上げるものしか扱えない。

 山賊達との距離はもうだいぶあいている。追いつくまでの間強化魔法をかけ続けていることは出来ないだろう。

 なら小刻みに強化魔法をかけ続ければいいかとも思うだろうが相手も馬鹿ではない。何か別の対処もするだろうし、そんな小刻みに強化魔法をポンポン使えるわけでもない。

 なんでって、強化された体は使った後は程度は違うが反動があるからだ。体を無理矢理酷使するのだから当然といえる。初歩ならピリッとした痛みがする程度だが連続で使えば使った箇所が暫く痺れて使えなくなるだろう。それでは意味がない。

 上級になれば強化魔法にそういった反動が出ないような魔法も組み合わせることで身体能力を上げることも出来るというが、もちろんそんなものレイナは出来ない。

 では、どうするか。


「レイナさん、僕がどうにかしてみます」


 いつの間にか後ろへと近づいていた吟遊詩人がレイナの考えを読み取ったように声を掛けてきた。

 どうするのか、と聞けば吟遊詩人はにこりと笑う。


「僕の歌は身体強化が出来ます。効果は全体、かけたい相手に。歌っている間、効力は続きます」

「え、そんな便利なもんもってたの!?」

「はい。便利ですが……少し前もいいましたが僕の歌は少々特殊でして」

「あー言ってたわね。まぁいい、時間が惜しい。頼むわ」

「はい。どうか決して耳を塞がないで下さいね」


 ん? と思わず首を傾げそうになるが器用にも吟遊詩人は走りながら楽器を構える。……本当に器用だな。これくらい出来ないとやはり吟遊詩人は務まらないのだろうか。

 そうして魔力をのせて楽器の音をならし、吟遊詩人は声をのせ







 ────放送できない周波数────







 ……のせたのは周波数、いや超音波だった。



「!!?!?!!?」

「ぎぃやぁぁぁぁぁぁ!!!?」

「ヒィィィ!? み、耳が!?」

「いやぁぁぁ!! 痛い! いたぁぁぁ!!」

「まて! まてまてまて!! ストップ、ストォォォプ!!」


 レイナの叫び声で超音波という名の振動が止まる。

 吟遊詩人は首を傾げていた。いや、傾げたいのはこちらのほうだ。


「今の、なに!?」

「僕の「歌」です」

「歌ちがう! 声ちがう!」

「残念ですが僕の口と喉から発せられているので、歌ですね」

「嘘でしょ!? どうやったら普通人が発声することが出来ない音を口から出すことが出来るわけ!?」

「さぁ……実は僕もよくわからなくて。歌を歌おうとするとこの声になるんです」

「声じゃない! それはどう聞いてもただの殺人的超音波!!」

「しかし、一応歌詞もちゃんと歌っているんですよ?」

「あれで!? あの謎の音で!?」




「僕、凄い音痴らしいです!」

「音痴っていうレベルじゃねぇぇぇ!!!!」



「どうか我慢して下さい! 追いつくまでの間です!」

「いやぁぁぁぁ!!」




 そうして再び口ずさんだ「歌」によって森が震える。何故か物理的に。

 森も震えるが聴いてるものの脳内も震えた。そりゃあもうぐわんぐわんと揺れている。

 それでもレイナは強化された体で走った。物凄いスピードだ。思わず涙目になるほどだ。

 ちなみに身体強化は強化魔法とは違う。スペルティになるのだがこちらの説明はまた後日。

 そうしてレイナは山賊に追いついた。ちなみに歌を聴いていた味方全員強化された為、レイナ以外も追いつく。

 セイレーンは耳がよすぎて撃沈していたがこれはもうしょうがない。しょうがないんだ。

 追いついたことで歌が止まる。

 むしろ全員止まった。動きが。

 そして何故か山賊もぶっ倒れていた。どうやら「歌」が聞こえたらしい。

 強化はされないが耳……いや、脳がきっとやられたのだろう。

 これって強化意味ないのでは? 歌だけで山賊倒せてるじゃないか。




 音痴ってなんだっけ?




 と呟いてレイナもその場でぶっ倒れたのだった。


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