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某国の女騎士と仲間達の日常物語?  作者: しんり
第1章 女騎士とその仲間達
34/71

34、神隠しと吟遊詩人 9

 

「「申し訳ありませんでした!!」」


 気づけば男性に続き、セイレーンまでも土下座してきた。

 何事!?


「おい、誰か状況説明しろ」

「はい! すみません! 私が致します!」


 先程までの空気とまるで違う展開に脳内処理が追いつかなかったレイナはとりあえず現状把握のために目の前で土下座している一団にそう声を掛ける。

 素早く反応したのはセイレーンの一人だった。

 理性や知性が高いとネーナは言っていたが、どうやらそれは間違いではなさそうだ。

 先程まで魔獣という姿を見せていたが、現在ではその姿はどこへやら。顔を真っ青にして眉をハの字に下げて今にも泣き出してしまいそうだ。無駄に美人な顔をしているだけにやけに儚げにも見える。


「見ての通り、私達は魔獣セイレーンです。とある事情により現在はこの山で暮らしているのですが決して誰かを傷つけようとは思ってはいませんでした。しかし見た目がやはりコレなので、討伐対象にはなりたくないとこの森に結界を張ったんです」

「ああ、目眩ましの幻術ね」

「はい。塀で物理的にも侵入を遮断していました。仲間が近づけば岩が自動的に道をあけるようにも工夫しています。ですがそこへ岩をどけて皆さんが入ってきて……退治されてしまうかと思い、皆で威嚇したんです」

「威嚇」

「あの! 本当に怪我をさせようとしたわけではなくて! でも多少怖い思いをさせれば帰ってくれると思って! でも皆さんなかなか帰ってくれないし、仲間は怪我しちゃうし、こうなれば多少無理してでも「魅了」を使って町に帰っていただこうとしたんです」

「引くに引けない状態になってしまったということですね。しかし私達にも事情があります。なぜ最初に話し合いをしようとしなかったのですか?」

「わ、私達魔獣ですから……どう見ても武装している方々と話し合いができるとは思わなくて……」

「あー……まぁ確かに。普通はそう思うわね」


 魔獣は害獣扱いだ。見つけたら退治しようとするのが普通だろう。

 しかし、それはあくまで害獣扱いの魔獣への対処だ。

 これだけ知識が高い魔獣ならば「話し合い」も出来るだろうに。

 だがそこまで考えてレイナは少しだけ顔を顰めた。「話し合い」はそれでも難しいのだろう、と。


 一般人にとって魔獣は明らかに自分より強い存在だ。たとえ理性や知識があったとしても恐怖の対象になるだろう。

 王都の人間ならば魔獣に見慣れているからもしかしたらそうは考えないかもしれない。だが魔獣は害獣であることが多いし、設備が整っていない地方では魔獣被害も多い。

 地方の者ほど魔獣は害獣という思い込みは強いはず。そんな相手に「話し合い」が出来るだろうか。

 きっと難しいだろう。思い込みというのはそう簡単に解けるものではない。


「つまり貴女達は今は敵意はない、と?」

「はい」

「話し合いする気はある?」

「もちろんです!」

「よーし、じゃあ話し合いにしようか。ユミ、怪我した子の手当てをお願い」

「はい、お任せ下さい」

「あ、ありがとうございます!」


 敵意がないというのは相手の気配でわかる。なので話し合いに応じることにした。

 魔獣の言うことを信じるのか、と思われるかもしれない。

 だが、レイナの気持ちとしてはイエスだ。魔獣の言うことを信じている。

 今までの経験でもあるし、何より魔獣は獣に近い。人よりも感情が単純なのだ。

 いくら知識等が高くても人のように裏表が大きく騙し合いをするほど複雑な感情は持ちえていない。

 これで魔人なら話は別だが、魔獣はよく言えば純粋な者が多いということだ。

 なので下手な人間より魔獣の方が信じられるということだ。


 怪我をしたセイレーンを治療し、再びレイナとセイレーン達は対峙する。ただしお互い地面に座り込んでいる。

 移動をとも思ったが、なにやら込み入った事情のようなのでとりあえずここで話を聞こうと思ったのだ。

 先程出てきた男性の存在も気になる。なにやらセイレーンのことを詳しく知っているようだが、治療している間はセイレーン達を甲斐甲斐しく世話をしているばかりだった。


「で、セイレーンがなんで山に? 普通住処は海でしょう」

「はい、そうなんですが海を離れざるをえない事情が出来まして」

「その事情というのは?」


「現在、私達セイレーンは深刻な婿不足なんです!」

「婿不足」


「男のセイレーンって本当に少なくて! 最近では出生率も下がっていて人数も少なくなっているんです。異種族の人を誘うにも海にいるだけで害獣扱いされてしまって出会っただけで退治されそうになるんです!」


「そ、それはそれは……大変ですね……?」

「魅了を使ってもその場限りですし、虚しいじゃないですか! 子を生すなら素敵な夫婦になりたいというもの。共に生涯を生きてくれる優しくて素敵な夫に会いたい! でも出会いがない! もう私達は海を捨てて婿探しの旅に出るしかないと思ったんです!」

「……なんか似たような話を昨日聞いた気がするんだが」

「そうですね。私も聞いた気がします」

「町娘さんがそんなこと言ってた気がしますね。向こうの方はかなり狩る……やる気に満ちていましたが……」

「旅にでて、そうして私達はこの山に辿り着いたんです」


 セイレーンの話を聞いて思わず遠い目をするレイナ達だったが、そんなレイナ達を呟きを無視してセイレーンは話を続ける。

 どうやら山に辿り着いた時点で既に疲労が大きく、暫くこの場で休もうということになったらしい。

 海以外では不慣れなセイレーンには旅は相当大変だったらしく、ここまで来るだけでも辛かったようだ。

 疲れを癒すようにセイレーン達はここでのびのびと過ごした。果実を食べ日陰で休み歌を歌って過ごしたそうだ。

 だがその生活もある日、唐突に変わることになる。

 と、話したところでセイレーンが泣き出した。


「うう、まさかこんな……こんなことになるなんて。私達は誰にも迷惑かけるつもりはなかったんです」

「イルイナ! いつも言っているだろう、君のせいではないと」

「いいえガイト。私達がここへ来てしまったから貴方達を巻き込んでしまったのよ。元凶は私達なの」

「そんなことはない! 俺達は誰一人そんなことは思っていないよ。好きでイルイナ達の側にいるんだ」

「ガイト……でも、でもそれでも迷惑をかけていることには変わりないわ!」

「イルイナ」



「え、なにこれ、なんで茶番劇始まってんの?」

「しかもなんか話の流れが読めてきましたよ」

「まさか本当にユミさんの予想通りの昼ドラ展開に……?」



 思わずユミがにっこりと笑う。

 待て待て待て。そんな展開誰も期待してない。いや、しているのがここにいるけども。


 すっかり二人の世界に入っているセイレーンと先程登場した男性。セイレーンがイルイナと呼ばれ、男性はガイトと呼ばれている。

 そういえば男性は随分と若い。

 そこで思い出そう。レイナ達がここへ来た理由を。

 この町で起こっている「神隠し」。

「若い男性」がいなくなっている。「山」に向かう姿に「女性の歌う声」。

 そして山にはセイレーンがいて婿探しをしている。

 目の前で展開されるセイレーンと男性の二人だけの世界。

 ここまでくれば察せられるだろう。


「あー! 本当に茶番劇だわーーー!!」


 どう見たって、セイレーンに恋する男が自らいなくなったってことじゃねぇか!!


 叫んだレイナの声が山に木霊する。

 どうやらさくっと事件は解決するようだ。


 と、思っていた。







「え? なんでこんなところにいるの?」


 そこはセイレーンが集落にする森の奥。

 詳しい現状を知るため、住処にしている場所へ向かえば案外しっかりしてる家が建ち並ぶ。

 聞けば町の若い男達は大体が今ではここに住んでいるとか。

 ガイトと呼ばれる男性だけでなく、他の男達もセイレーンに惚れ込んでいるらしい。

 声も美しく見た目も麗しいセイレーン。しかも甲斐甲斐しく世話を焼いてくれて優しく、気も使えるとあって、町の気の強い肉食女子達に怯えていた……失礼、言い方を変えよう。町娘達に気後れしていた草食系男子達は一気にそんなセイレーン達に心奪われたということ。

 セイレーン達が事を荒立てたくないということでひっそりとここで暮らしていたという。

 いや、十分事件になっていますけどね。

 さて、そんな男女が住まう集落へ足を向けたレイナ達。

 そこの広場と思われる場所で丁度木漏れ日が当たるところに木のテーブルが置いてあり、茶器を置いて茶を飲んでいる人物を発見した。

 若い男性ばかりの集落に妙齢の男性が一人。身なりも随分といい。




「いやいや! アンタ、町の領主じゃないのかーー!!」


「あ……どうも」


「「あ、どうも」じゃねぇ!! さっさと家帰れぇぇぇ!!!!」




 思わずレイナが相手の頭をスパーンと引っ叩いてしまったのはしょうがない。

 自分が騎士であるということはこの際忘れることにした。








「帰ろうとしたんです」

「そうか」

「……あんまりにも居心地がよくて」

「そうか」

「…………ひたすら惰眠を貪っていたら数日経過してしまいました」

「仕事しろや領主ーーー!!」

「嫌だーーー!! 休みが欲しいーーー!!」


 よっぽど嫌なのかテーブルに伏せて泣き出す領主。それを頭を撫でて慰めるセイレーン。

 やめろ。そんなことするからこの領主が帰らないんだろうが。

 もはや完全に自分が騎士だということを放り出して領主と対峙するレイナ。相手も仕事を放棄しているならこちらだって放棄する。畏まる必要などあるものか。

 大体、ここで惰眠を貪っている間は夫人がどうしていたと思っているのだ。


「領主がサボっている間、夫人が町を支えてんだぞ。申し訳ないと思わないのか」

「うう、メイラ……メイラも心配しているだろう。わかっている、わかっているんだ。私のことなんて気にしていないといいながら心配でしょうがないという顔を隠さないメイラは可愛いだろう」

「うるせぇ。奥さん自慢とか今いらないから」

「負担をかけているのだろう。そうだ……メイラもここに連れてこよう。二人で癒されよう」

「おい、ヤメロ。町放棄すんなよ」

「嫌だーーー! 帰りたくないーー!! でもメイラには会いたいー!!」


「いい大人が駄々捏ねてんじゃねぇぇ!! お前達もこいつを慰めんな! ますます帰らなくなるだろうが!!」


 思わず蹴り飛ばしたくなる衝動をどうにか堪えつつ、領主を慰めようとするセイレーンを散らす。

 母性本能だかなんだか知らんが純粋に慰めようとする気持ちは今はいらない。本気でいらない。


 別のセイレーン曰く、領主は相当ストレスが溜まっていたそうだ。

 神隠しの件で町の者から色んな事を言われつつ対処をし、町の維持をし、王都へ報告書を作成し……とやっていたら不眠不休が続いたという。何せ毎日のように誰かが館に乗り込んできたらしい。

 息子がいなくなった、働き手がいない、仕事が滞る、今すぐどうにかしろ、と主に町に奥さんからそんな苦情がきていたとか。

 あの町の女性、本当怖いな。

 そうして疲れきった領主を自分達が原因とわかったセイレーンがここに招待したという。

 まず現状をきちんと話し、解決につなげたかったようだ。しかし疲れきっている領主をみてまずは休むことを勧めたらしい。

 そうしたらあまりにも居心地のいい場所に領主が住み着いてしまったという。

 よっぽどストレスが溜まっていたようだ。

 泣きながら布団から出なかったとのこと。

 大丈夫かこの領主。


「帰りなさい」

「う、うう……嫌だ……」

「強制送還されたいか」

「うぐ、う、ううう……」

「レイナさん、これ以上はやめておきましょう。本気で駄目になってしまいますよ領主様が」

「そ、そうですよ。そっとしておきましょう」

「おい、領主帰さなきゃ事件解決しないし、私達も帰れないぞ」


「さぁ、領主様帰りましょう」

「夫人も帰りを待ってます! 大丈夫何も怖くありません!」


 なんという変わり身の早さでユミとネーナは領主の説得へと入る。

 しかしそれでも領主は頷かない。案外頑固だな。

 そこで今まで成り行きを見ていた吟遊詩人が口を出してきた。


「セイレーンの婿探し、町の人手不足……もとい神隠し事件、両方を解決するいい方法がありますよ」


 にっこりと笑って言う言葉にいち早く反応したのは領主だった。

 ばかりと顔を上げて涙に濡れた顔を吟遊詩人に向ける。


「詳しく!」





「町に帰ればいいんです。領主さんも男の人たちも。そしてセイレーン達もです」





 はっきりと告げた内容に領主がぽかんと口を開けて呆ける。

 似たような表情でユミとネーナが吟遊詩人をみた。

 しかしレイナは吟遊詩人の言葉に手を打った。



 なるほど。確かにその手があった。



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