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某国の女騎士と仲間達の日常物語?  作者: しんり
第1章 女騎士とその仲間達
33/71

33、神隠しと吟遊詩人 8

 上から降るように飛んできたセイレーンの鉤爪がレイナ達の狙う。

 咄嗟にそれぞれが別の場所に避けて飛ぶと、勢いをつけて落ちてきたセイレーンはその鉤爪で地面を大きく抉った。

 レイナはすぐさま腰の剣を手に取り振るうが、地面を抉ったセイレーンはすぐに上空へと避難してしまった。


「え、これ結構不利じゃない? 上空戦得意な奴ここにいる?」

「残念ながら私は回復兼援護です」

「僕もサポートメインです」

「あ、あの、私まだ火炎弓矢フレイヴェロスしか制御できないです……」

「私だって主に剣だよ! 火特性の魔法メインだよ! なんでここに弓使える奴か天属性の奴がいないんだよ!!」


 思わずレイナが叫ぶが叫んだところで現状は何も変わらない。

 火炎弓矢フレイヴェロスも弓矢と思えなくもないが、いかせん火だ。うっかり間違えれば山火事になりかねない。

 レイナもこの魔法は使えるのだがこうも木が生い茂る中を上空でウロウロしている相手に当てられるのかというと自信はあまりない。木々が本当に邪魔なのだ。

 これで自分も浮遊魔法が使えればまったく問題がないのだが、浮遊魔法は天属性の者が得意とする魔法だ。

 地属性のレイナとは相性があまり良くはない。


 浮遊魔法は空を駆ける事が出来る魔法で、主に自分自身に纏わせる魔法となる。

 使い込めば竜人の翼よりも早く空を飛べるとも言われているが、それを実際できることが出来るのはレインニジアでは騎士団にいるバルハードだけである。

 バルハードの属性は「天」。レイナの身近にいる人間で唯一天属性を持っている。

 人間で天属性を持っている者は少ない。殆どが地属性だからだ。

 逆に翼を持っている種族は天属性は多いが地属性は少ない。なので竜人は天属性が多いと言われている。


 そんなわけで天属性は上空戦が得意だ。しかし現時点で天属性の者はいない。

 いや、実はいるにはいるのだが役には立たない。

 何故なら


「うう、すみません、天属性ですが制御できません……」


 これである。

 ネーナは属性「天」特性「火」となっている。

 先程も自分で申告していたが、現在、火炎弓矢フレイヴェロスしか制御が出来ない。浮遊魔法を知っていたとしても自分が弾丸になって明後日の方向に飛んでいって終りという結末が目に見えて浮かぶ。

 多分本人もそれは自覚しているのだろう。浮遊魔法を使おうとすらしないところで察してあげよう。


 しかしそれではどうに戦えというのか。むしろなぜセイレーンが襲ってきたのか。

 まぁ襲ってきたのはこの塀をくぐってきたからだろう。予想ではあるがここはセイレーンの「縄張」だと思われる。

 しかし塀をはっきりとした境界線として作るなんていうのは聞いたことはないが。

 更にここは山の中。

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「魔獣セイレーンの生息地は海のはずなのに、なんで山の中にいるんですかね!?」

「知らないわよ! 引っ越してきたんじゃない!?」

「引っ越しって概念が魔獣に存在するんでしょうか!?」

「知らん!! うわっ、と! ああ、面倒ね!」


 先程から降り注ぐように上からセイレーンの攻撃を受けているレイナ達はそれに避けるのに必死だ。

 降りてきた瞬間に攻撃をするものの、ひらりとかわされすぐさま上空に逃げられる。

 どうやら地の利は向こうの方が良くわかっているようだ。

 そして向こうは此方が攻撃出来ないことを悟ったのか、自分達が攻撃してくる時以外は絶対に下りてこないのだ。

 地味にイラッとする。


「おい、サポート二人」

「あ、はい」

「え、私もですか?」

「アンタも光特性でしょうが! 幻術得意なら人様の魔法も捻じ曲げられるでしょう。私とネーナが火炎弓矢フレイヴェロスを只管放つから上手く木を避けるように方向を調整しなさい」

「随分メチャクチャなこと言われてる気がします!」

「吟遊詩人は他人の魔力調整とかも出来るでしょう! 闇特性持ってんだから! 山火事にならないように火炎弓矢フレイヴェロスの火力も調整しろ!」

「結構な無理難題いってくれますね!? いえ、頑張ってやりますが」

「素直でよろしい! ネーナ、そういうわけだから火炎弓矢フレイヴェロスをセイレーンに向かって只管放ち続けろ」

「えぇ!? 本当にいいんですか!?」

「構わん!! とにかくあの目障りな鳥もどき共を打ち落とせればそれでよし!!」


 そういうとレイナは早速詠唱をする。戸惑っていたネーナもすぐさま切り替えてレイナの後に続いた。

 ユミと吟遊詩人もそれを補佐するべくそれぞれに目の前で詠唱する相手の魔力を読み取る作業をし始める。

 先程レイナが言い放った方向調整、魔力調整を他人に委ねることはかなり難しいことだ。

 自分の魔力ならどうとでも調整できるだろうが……ネーナ以外は。

 その調整を人を介して行うということはその人物に干渉しつつ、その人物の魔力をいじらなくてはならない。細やかな調整が必要になる作業の為、かなりの集中力が必要になる。

 何せ一歩間違えれば干渉した相手の魔力を暴発させることも出来るのだから。

 本来ならば干渉など早々容認できることではないのだが、レイナはそれをやれと二人に言った。

 現状が本当に面倒になったのか、別に意味があったのか、特に深くは考えていないのか。


 闇特性は精神に働きかけることが多い魔法なので他人に干渉することもそう難しくはないのは先程の契約魔法の説明でなんとなくわかってもらえているだろう。もちろん闇特性はそれ以外も得意なものはあるが現状は関係ないので置いておこう。

 光特性は見た目を惑わす幻術向きだ。そういった意味では他者の魔法をコントロールするというのはまるで違うとは言い切れないのかもしれない。しかしほぼそういう感覚的な意味合いがだいぶ強いようだが。


火炎弓矢フレイヴェロス!」

「……火炎弓矢フレイヴェロス!!」


 完成した魔法をレイナが放つとそれに一歩遅れてネーナも続く。数は二人とも三本。ネーナは上手く魔力調整は出来ているようだ。とはいえそれでも吟遊詩人が干渉しているから間違って木々に刺さっても山火事にはならないだろう。多分。

 火炎弓矢フレイヴェロスは木々の間を上手く縫ってセイレーンへと向かっていく。木々が避けているのか火炎弓矢フレイヴェロスが曲がりくねって避けているのかはこちらからでは判断できないが、ここもユミが上手くやっているのだろう。

 六本のうちの一本がセイレーンの羽に突き刺さる。

 しかし打ち落とすまではいかないようだ。


「うーん、確率低いわね……」

「ヒィィ、無茶言わないで下さい! こんな木が沢山茂っている場所で火炎弓矢フレイヴェロスを当てるほうがどうかしてると思います!」

「飛び道具がこれしかないんだから腹くくりなさい! さっさと次! 只管数打てばどうにかなる!」

「あまり数打たれても僕達の方が力尽きそうですが!」

「結構神経磨り減りますよ、この作業!」

「はい、次! 火炎弓矢フレイヴェロス!」

「うううう! ……火炎弓矢フレイヴェロス!!」


 只管炎の矢が空を舞う光景がそれから暫く続く。しかし何も障害がない空ではやはり避けるのも簡単で。なかなかセイレーンに当てることは出来なかった。

 そうしているうちにレイナやネーナよりも後ろのユミと吟遊詩人が力尽きそうになる。

 やはり非効率的だったか、と思うもののレイナはひとまずそれで様子を見た。それでも魔法を打つのはやめない。

 もう一度魔法を放つとそれがセイレーンの羽に突き刺さり、ようやく一匹を墜落させることが出来た。

 だが墜落したセイレーンは地面につくすれすれで体の角度を変えてレイナ達に向かって飛んでくる。

 それを待っていたかのようにレイナが剣を素早く抜いて自ら間合いをつめた。


「ヒィっ!!」


 悲鳴のような声をセイレーンが上げる。咄嗟に軌道修正して避けようとしたようだが見事にレイナの剣がセイレーンの片羽と肩を切り裂いた。セイレーンは墜落して地面を転がる。

 状況が変わった。

 一匹のセイレーンが地面に墜落したのを切欠に他のセイレーンも地上に向かって次々と降って来る。しかし今までと違い上空に戻らない。

 そのまま地上近くで待機して次々と攻撃を仕掛けてくるようになった。

 だが向こうが何度も近づいてくるということはこちらも接近戦がしやすくなったということ。

 しかし今まで上空にいたものが何故今になって降りてきたのか。


「……庇ってるみたいだな」

「え?」

「いや、というかアンタは用が済んだからさっさと後ろ下がりなさい」

「は、はい!」


 接近戦になったことで遠距離系の魔法使いであるネーナをユミの側へといかせる。

 代わりに先程までユミのそばにいた吟遊詩人がレイナのところまで出てきた。気づけば手には弦楽器らしきものに使うはずのスティックが握られている。普通の弦楽器のスティックとはまた違う形のようだが。


「接近戦なら多少は慣れています。なにせ「怪力」持ちですので」

「そういえば戦えるって言われてたわね」

「はい、お役に立ちましょう」


 そうして絶えず襲い掛かってくるセイレーンへと二人は向かって武器を構えた。

 慣れていると言っていただけに、吟遊詩人の動きはかなり滑らかだった。セイレーンの攻撃を上手く避けて、その流れからスティックで打撃を与えるということを繰り返す。

 怪力も相まって一撃でも入ればセイレーンは思いっきり吹っ飛ばされていった。

 そのまま気絶するセイレーンもいれば打たれ強いセイレーンもいる。そして打撃系の吟遊詩人より鋭い剣を持っているレイナの方を警戒しているらしく、レイナに対しては思いっきり攻め込んでくるセイレーンは殆どいなかった。

 おかげでレイナのほうが吟遊詩人の補佐のような形になっている。

 とはいえ複数で木々を上手く使って自由自在に動いてる相手をなかなか上手く仕留める事は出来ないでいる。

 吟遊詩人の打撃で数匹が気絶した時、二匹が上空へと上がった。そして一度だけくるりと旋回する。

 その行動をみたネーナがはっとして声を上げた。


「レイナさん! あの二匹、「歌」を歌うつもりです! すぐに止めてください!」


 ネーナの言葉にレイナは顔を顰めた。そしてすぐに上空の二匹へと意識を向ける。が、それを周りのセイレーンが許さない。

 まるでそれをさせないように先程よりもスピードを上げてレイナと吟遊詩人に向けて攻撃を仕掛けてくるようになってきていた。


 本来、セイレーンは海の生き物だ。

 魔獣セイレーンは女性の上半身に下半身が鳥で羽根がある。主に女性ばかりだが稀に男性もいる。

 歌を歌い船を誘い人を惑わせ襲うと言われている。

 つまりは「歌」には「魅了」の効果があるのだ。

 歌を聞いたものを虜にさせ自分の思うままに操る効力を持つ。しかもその範囲は聞いたもの全てだ。女性だろうが動物だろうが関係ない。


「というわけで、歌だけは阻止して下さい! 歌を歌うことはセイレーンでもだいぶ魔力消費するようでそうそう歌うことはないそうなんですが、現状命の危機だと察して歌うことにしたんだと思います!」

「詳しいわね!?」

「実践派だったもので! 師匠によく色んな巣穴に放り込まれては色々自力で学習させられました!」

「むしろよく生きてるな!?」

「あのセイレーン達、魔獣ですが上半身は完全に人間の女性とまったく一緒のところをみると知性や理性はかなり高いと思われます! 本来なら腕も鳥の羽であることが多いのですが……多分、それなりに進化していると思うので気をつけて下さい!」

「いや、応援だけじゃなくて手伝いなさいよ!」

「歌う状態に入ったセイレーンは簡単な魔力の膜に覆われている状態なんです! 火炎弓矢フレイヴェロスは聞かないと思います!」

「もっと! 有益な情報求む!!」

「歌を拒むには「消音効果」の魔法がいいと言われていますが、対象者が自分のみの魔法に限ります!」

「すげぇピンポイントな魔法きたな! コアすぎるだろそんな魔法! そんな魔法持ってる奴、挙手!!」


「…………」

「…………」

「…………」

「ですよね!! 誰も持ってないってわかってたわ!!」


 消音効果の魔法は、その名の通り音を消す魔法。対象にするものに魔法をかけることで有効にするのだが、自分だったり相手だったり物だったりで効果も多少変わってくる為、術式も実は微妙に違う。

 ついでに言えば聞きたくない、もしくは聞かれたくない話などをしたかったら「結界」をはればいい。

 つまりは消音効果の魔法は持っていてもあまり意味のない魔法だ。何せ消音で消したい音なんてものは大体結界をはればどうにかなるのだから。

 持っているとしたらコアな魔法好きな奴くらいだろう。

 まさかこんなピンポイントで、まるで対セイレーン用とでも言わんばかりの使いどころがあるとは誰も思うまい。


「ネーナ、別の方法!」

「ええと……ま、魔道具とか……」

「却下! 今回はそういう便利な羽虫がいないって知ってんだろぉぉがぁぁぁ!!」

「ヒィィ! す、すみませんー!!」

「羽虫……」


 羽虫ことシオンのことである。

 思わず呟いてユミは微妙な顔つきになるが、それ以上はツッコミを入れるつもりはないようでそのまま押し黙った。


 そして気づけば上空二匹のセイレーンは魔力を溜め込み、今にも口を開こうとしていた。


 音を防止する結界でもきっと魔力の乗ったセイレーンの歌声は防ぐことが出来ないのだろう。だからピンポイントの消音効果魔法なのだが、ないものはない。

 どうする!? と考えを巡らせるレイナに、横にいた吟遊詩人がセイレーンから目を離さずレイナに話しかけた。


「もしかしたら僕の「歌」で防げるかもしれません」

「出来るの!?」

「打ち消しを狙えると思います。……けど、僕の「歌」は少々特殊です。こちらも覚悟してやらなくてはいけません」

「現状それ以外にないならやるしかないでしょ! この際、多少の傷やら衝撃は我慢するから、お願いするわ」

「わかりました」


 レイナの許可に吟遊詩人が頷くと、どこからか取り出した楽器を構える。……本当、どこから出したそんな大きなもの。今まで持ってる素振りなかったのに。

 そんなことを思いつつも邪魔しに来るセイレーンをレイナは剣で威嚇する。

 上空のセイレーンと楽器を構えた吟遊詩人が上を見上げてタイミングを見計らう。そして同時に口を開いた。

 その時。






「っっすみませんでした!!!! どうかお許し下さい!!!!」






 唐突に響く謝罪の声。

 思わずセイレーンすらも動きを止めてしまうほどの声。

 そして気づけば




 レイナ達の前にスライディングしてきたであろう筋を地面に残して綺麗な土下座をしている一人の男性がいた。




 え、何これ? どんな展開なの?




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