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某国の女騎士と仲間達の日常物語?  作者: しんり
第1章 女騎士とその仲間達
32/71

32、神隠しと吟遊詩人 7

「で?」

「戦闘に関するものは「怪力」しか持っていません。僕は基本補佐なので……」

「ほうほう、で、特性と属性は?」

「は、はい。属性は「聖」特性は「光」と「闇」です」

「ええ!? 吟遊詩人さん、二特性持ちなんですか!?」


 仁王立ちで威圧しながら質問するレイナに対し、その前に正座で座ってしょんぼりする吟遊詩人が答える。

 その返答に反応したのはネーナだった。

 しかし驚いたのはネーナだけでなく、レイナもユミも二特性持ちには目を見開いた。


 忘れているかもしれないので簡単におさらいをしよう。

「特性」は自分の頑張り次第で身につけることが出来る「火水光闇かすいこうあん

 ひとつの特性を身につけるのが一般的である。ただし一つの特性を得る為にはそれなりの鍛錬や修行が必要で二つ目を得ようとする者はなかなかいない。魔法が好きな魔法使い辺りが複数所持している場合が多い。

 もしくは生まれながらに特性を持っている者もいる。ただやはりちゃんと磨かなければ宝の持ち腐れとなる。


 そんな中で目の前の吟遊詩人は二特性持ち。つまりめっちゃ凄い、ということだ。


「いえ、僕の場合は生まれつきですね。もちろんどちらも磨いていますがまだまだ使いこなすには先が程遠いでしょう」

「嫌味か」

「お願いです! ひねくれた方向で言葉を受け取らないで下さい!」


 目を細めてレイナがボソリと呟けば、がっくりと肩を落として顔を両手で覆い、さめざめと泣いているような体勢になる吟遊詩人。泣いてはいないが。


「なんか妻を責める夫みたいな構図ですね」

「性別逆ですけどね」

「おい、私が悪者のような言い方はヤメロ! というかこいつの女子力の高さもどうかと思うんだが!」


 おかしいだろ! なんで私が男側の扱いを受けねばならんのだ!

 そういわんばかりにユミとネーナを睨みつけるが二人とも肩をすくめるばかり。言っておくが吟遊詩人とユミとネーナでは吟遊詩人に方が女子力高いからな。お前達も私と同じ側だからな。わかってんのか。

 それはそれとして。


「そもそもアンタ、元から怪しいんだよ! 何故ついてくる! 名前を名乗れ!」

「あ、えと、怪しいだろうなとは僕も初めから思っていました」

「思ってたんかい!」

「はい! すみません。打算はありました。僕には貴女方についていきたい理由があります。名前を名乗らないのもその為です。しかしそれを今お話しすることは出来ません」

「自分で自分の首絞めてるってわかってんの?」

「絞めていても今このことをお伝えしないと、レイナさん問答無用で僕のこと叩き切りそうだったので」

「おお、出会って一日ですがよくレイナさんのことをお分かりになりましたね」

「黙らんかい。ネーナから叩き切るわよ」

「すみませんでした!!」

「まぁまぁ。レイナさんの性格より吟遊詩人さんの今後のことをどうにかしましょう」

「理由は今回の事件が解決したら必ずお話しします。それでは駄目でしょうか?」

「ほぉ、話す気はあるのね?」

「はい」

「それを信じるとでも?」

「何かあれば真っ先に僕を叩き切ってもらって構いません」

「その前に私達が切られたらどうすんのよ」

「それは信じてくださいとしか言えません。僕自身のことは今は言えませんがレイナさん達の味方であることは確かです」


 そこまで話してレイナはふむ、と考えるように顎に手を当てる。

 目の前の吟遊詩人はじっとレイナを見つめている。その目に揺らぎはない。しかしだからといってそれが信じる理由にはならない。

 現状で吟遊詩人の能力は未知数だ。自己申告など当てにはならない。まだ何か能力を隠している可能性は十分ある。

 正直なところ「怪力」のスペルティを知る前までは何かあってもどうとでもなると思っていた。

 しかし、このスペルティを持っていると発覚してから近くにいる危険性がぐっと上がったのだ。


 巨大な岩を片手で簡単に持ち上げて投げ捨てられる。

 背中を押されただけでも簡単に体をへし折ることが可能な力を持っているということ。つまり背後にいるだけで片手で人を殺せてしまうのだ。

 受身がどうのこうのではない。触れたら終りだ。

 そんな奴を近くに置いていいのだろうか。あまりにも危険だ。


「あの、怪力のスペルティはとても便利で戦闘でもお役に立てます」

「…………」

「補佐も出来ます。身体強化、精神強化も得意です!」

「…………」

「情報収集も得意です。お役に立てますよ!」

「……情報収集は得意な奴既にいるからなー」

「身の回りのお世話ならお任せ下さい! 整理整頓身支度買出し、いくらでも出来ます!」

「お前は何を目指しているんだ」


「ええっと……あ、所持者なしの鉱山知ってます」

「よし! 採用!!」

「ちょっと! レイナさん!!」


 うっかり口を滑らせたレイナにユミのストップがかかる。

 なんだ良いじゃないか鉱山。資源はいくらあっても困らない。


「金に困らなくなっても今現状で私達は困ります」


 ごもっとも。


「というかいい加減、埒があかないわね。いっそ誓約書でも用意できれば良いんだけど」


 正確には誓約書のような効力を持つ魔法なのだが。精神に働きかける魔法なので闇特性が得意とする魔法だ。

 レイナの言葉を聞いて吟遊詩人がはっとした顔を向ける。


「「契約」魔法なら使えます! お任せ下さい!」

「自分で自分を縛る発言すんな! マゾか!」

「いえ、そもそも自分で自分に「契約」って出来るんですか?」


 よっぽど信用してもらいたいのかそろそろ発言が破綻し始めている吟遊詩人。

 ちなみに「契約」魔法とは普通の魔法とは少し違う。ちょっとコアな魔法だ。

 やりようによっては相手を縛ることが出来るとも言われているが、そうするには色々他にも必要になる魔法がある為、そこまで習得している者は多くはない。

 そもそも魔法であれなんであれ相手の自由を奪うものは犯罪だ。処罰対象となる。度合いにもよるが。

 なのでもっとも使われるのは相手と確かな約束をする時が多い。しかしそれでも普通は魔道具の契約書を使用しての方が一般的だ。

 使う場所がそんなにないのと、使える範囲が「約束破ったら(死なない程度に)ぶっ飛ばす」くらいの威力なので、持っていてもあまり意味がない。

 そういうわけでコアな魔法となっている。


「自分で契約かけても自分で解けるしねぇ」

「そこは上手く設定を変えて契約相手をレイナさんにすれば……」

「そこは上手く設定を変えて逆に私に契約かけられそうだわ」

「とことん信用されていませんね!」

「当たり前だろうが!」


 いい加減本当に泣き出しそうになる吟遊詩人がとうとう地面に上半身を倒し土下座のような形になる。ただ手は顔を覆っているので土下座のつもりではないようだ。

 そんな姿を見下ろしてレイナは一つ溜息をつく。


「とりあえず立て」

「しかし」

「いいから立て。埒があかないってさっき言ったでしょう」


 面倒くさそうに言い放つレイナに吟遊詩人は僅かに首を傾げる。しかし立てと言われた以上座っているわけにもいかないので土下座状態だったものから真っ直ぐに立ち上がった。

 立つと今度は吟遊詩人がレイナを見下ろす形となる。だがレイナは納得するように一つ頷いて吟遊詩人を見上げた。


「おし、じゃあ先払いでいいわ」

「え?」


 レイナが口にした言葉が理解できず吟遊詩人が僅かに目を見開く。

 それを見たレイナの口元がニヤリと笑った。




「歯、食いしばれよ」




 という言葉と同時に、ゴッ、と鈍い音が吟遊詩人の頭と体に伝わってきた。

 音だけではない。重く響くような激痛が腹から伝わってくる。


「っ!!」


 思いっきり腹を殴られたようで息がつまり、声も息も出なかった。

 立ち上がったのにすぐさま地面へと膝をつく。

 そんな姿をレイナは殴った手をヒラヒラと動かして見下ろした。




「何一つ明かさずに信じて欲しいとかふざけた事抜かしてんだから、理不尽な暴力ぐらい受け止めなさい。まぁ「先払い」したんだからいきなりアンタに襲い掛かられても一回は見逃してあげるわよ」




 そう言い放つレイナを思わず呆けた表情で吟遊詩人は見上げた。じくじくと痛む腹を抱えながら今言われた言葉をどうにか噛み砕いて飲み込む。


「それはつまり……ついていっていいんですね?」

「まだ信用はしないけどね。ま、いつまでもここでどうでもいい会話してるよりは効率的でしょうよ」

「レイナさん、ちなみに本音は?」

「会話のやり取りがひたすら面倒くせぇ」

「ええ……あの、私には行動も本音もどっちも酷いように感じるんですが気のせいでしょうか……?」

「気のせいじゃないわね」

「そこは気のせいだといって欲しかったですー!!」


 ずっと見ていたネーナが少しだけ顔を青くしてそんなことを叫ぶが、レイナはどこ吹く風。まったくもって気にしない。

 何せ相手を気遣うつもりなど毛頭ないのだから。ただ流石に全力で殴ったわけではない。

 暫く動けなかった吟遊詩人が深く息を吸ってから再び立ち上がる。途中で呻くような声が漏れたが、本人が何事もなかったように振舞ったのでレイナも聞かなかったことにした。

 立ち上がった吟遊詩人の顔には笑顔がある。


「いえ、ありがとうございます。レイナさん。この程度で今のまま同行が許されるなら安すぎるほどです」

「え、ええ……でも、貴方に非がなかった場合、殴られ損ではないでしょうか?」

「それはないですよ。先程も言いましたが僕も打算はあるので、非がなかったということはないでしょう」

「そ、そういうものですか……?」

「そういうもんよ。折り合いつけたんだらこの話は終了にするわよ」

「はぁ……わかりました……?」


 どこか納得ができないらしいネーナはとにかく首を傾げるばかりだ。

 だが殴った側のレイナも殴られた側の吟遊詩人もこれで納得しているのだから、これ以上話を続けるのはそれこそ堂々巡りだ。

 なのでネーナも疑問に思いながらもそれ以上話を続けることはしなかった。

 その横でユミはただ黙って流れを見守っている。そんなユミの姿をネーナが目の端で捉えてから、この場で疑問に思っているのが自分ひとりであることを悟った。


 あれだろうか。よく言う「拳で語る」というやつなんだろうか。


 それだったら自分にはわからない世界だ、とネーナは自分なりの解釈をした。

 もちろんそんなものではないのだが、口に出さずに心の中だけの考えだった為、その間違えを誰も指摘することは出来なかったのだった。


 一区切りついたところで、改めて現状を把握しよう。

 目隠しの幻術を取り払った場所には木で出来た塀があり、よく見れば緩く円をかく様に聳え立っている。

 何かを囲っているような塀。その区切りと思われる部分は巨大な岩で塞がれていた。

 多分、ここが「門」だろう。

 きっとこの中には何かがある。その何かは今回の事件と関わりがあるであろうこともわかる。


「少し時間はかかったが、中の調査といきますか」

「そうですね。これで事件が解決すればよいのですが」


 岩がどいてくれたおかげで中に入ることが出来る。何がこの先にあるのか。

 レイナとユミがまずはその塀の先へと進んだ。

 しかし、すぐに足を止める。

 後ろにいたネーナと吟遊詩人が急いでレイナ達へと追いつく。


「レイナさん!」


 ネーナが声を掛けると同時にざわりと木々が揺れた。

 そして唐突に響き渡る甲高い音。しかも一つではない。複数の音が混じっている。

 それにはっとしたのは吟遊詩人だった。



「気をつけてください! この”声”はセイレーンです!」



 吟遊詩人の声が響くと先程までの甲高い音が鳴り止む。いや、音ではなく「声」だ。

 そしてそれはレイナ達の前へ現れた。

 上空から複数の女性。


 の、姿をした下半身は鳥のようで背には羽根が生えている。



 魔獣、セイレーンが襲い掛かってきた。



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