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某国の女騎士と仲間達の日常物語?  作者: しんり
第1章 女騎士とその仲間達
29/71

29、神隠しと吟遊詩人 4

「この町の神隠しの話を聞きまして、ここまで足を運びました。私は吟遊詩人ですのでそういったお話は気になるのです。とはいえ興味本位で困っている町を引っ掻き回すつもりはありません。何かお手伝い出来ることがあれば手伝うつもりでした。しかし、話を聞いてこれは王都の騎士の方々が来られるほどの案件ではないだろうか、と思っていたのです」


 吟遊詩人は特に聞いてもいないのに語りだした。流石吟遊詩人。何もなかろうと語り始めるのはもはや職業病では。

 やや伏せっている目をさらに細めて吟遊詩人が笑う。後ろの女性陣が何人か溜息を漏らすのが聞こえた。

 若干、女性達の距離が近づいてる気がするが……気のせい……じゃない! 絶対思い違いじゃない、じりじり近づいてきてる! 本気で怖いな!


「そうですか。確かに私は今回の案件で来ました。領主様の元へ向かう途中で寄り道している暇はないのです。それじゃ!」


 レイナは即座に離脱をした!


「いえ! 少しだけお時間を下さい!」


 しかし離脱を阻止された!


 そういえば呼び止められた理由とかまったく聞いてなかったことに気づいた。

 だが聞いたら逃れられない気がするんだが……

 レイナの不安は顔に出さないまま、改めて吟遊詩人へと向き直る。

 話を聞いてもらえると思った吟遊詩人はほっと息を吐き出した。それからいい笑顔で話を続ける。


「どうか僕も貴女方と行動を共にさせてくれませんか?」

「却下す──」

「申し訳ありません。国王の命もある為、他人の方に協力を求めるわけにはいかないんです」


 思わず素が出そうになったレイナの言葉をかぶせるようにユミが吟遊詩人の同行を拒否してくれた。

 危ない危ない。周りの威嚇につられるように自分も素を出すところだった……

 と、レイナは背中に冷や汗をかきながら、言葉をかぶせてくれたユミに心の中だけで礼をいう。


 ユミには既にレイナの素はバレている。というか隠す気はさらさらなかった。

 城の中枢にまでいてあまり猫は被りたくはないのだ。その何故か中枢まで足を運べるユミには城に出入りするようになってから素で接するようになっていた。

 ユミとしては

「まぁ、国の要になるところにいれば表や裏があってもおかしくはありませんからね」

 とのこと。

 女神の塔でもやはりそういう内情なんだろうか、と思わず呟いてしまえば「旅巫子ですよ」と数日間言い張られた上に、一緒に女神とはなんたるか、というのを只管説かれたことがあった。


 うん、すまん。もう言わない。多分。


 さて、話は戻って吟遊詩人の言葉を即座に拒否してから言われた吟遊詩人はわかりやすく頭を垂れて眉を下げる。

 憂いを帯びた目をして小さく笑った。


「そうですか……いえ、仕方ありませんね。遊びではないつもりではいましたが、少なからず語り部としての話を求めていたことも事実です。出来れば貴女方の側で事実をみたいと思っていたのですが、出すぎた真似をしました。申し訳ありません」


 哀愁漂うその姿に後ろに女性達がほう、と溜息をもらす。

 いや、後ろからじゃ表情見えないでしょうが! というツッコミは不要らしい。

 あ、じゃあこれで用件終わったな?と判断したレイナは「それではこれで」とさっさと挨拶を交わして、今度こそ吟遊詩人へと背を向けた。

 案外、あっさりと終わりそうでほっとした。


 のも束の間。


「ちょっと待ちなさいよ!」


 やっぱり逃げられなかった面倒ごと!

 レイナ達が呼び止めたのは先程から後ろに控えていた女性達のひとり。

 金髪ウェーブのさらさら髪をハーフアップにして甘栗色の瞳がきっと吊り上がった美人系の町娘だ。

 レイナ達の方まで無遠慮に近づいてきては、そのまま睨みつける。


「貴女達、本当にこの人と関係がないの?」

「いや、たった今初めて会話したところですが。というか私達、ついさっきこの町についたんだけど」

「騎士だって言ったわね。嘘じゃないわね?」

「ええ」


 むしろ王都の騎士を相手にそこまで堂々と威嚇してくるお嬢さんが凄いのだが。

 まったくもって睨むのを緩める気配がない。恋する乙女はなかなか度胸が据わっているらしい。

 レイナにそこまで聞いた町娘は息を吐いて、更にもう一度吸う。

 そして勢いをつけて吐き出した言葉にレイナは思わず目を見開くことになる。


「王都の騎士がケチケチしてないで、この人が頼んでるんだから同行くらい認めてあげなさいよね! 人の親切くらい素直に受けとったらどうなの!?」


 親切という方向ではなかったと思いますが!?

 え、というか吟遊詩人の押し売りでもされている!? 

 思わずぎょっとして三人は町娘を見るが、それでも町娘の態度は変わらない。それどころか仁王立ちまでしている。


「本当わかってないわね! この人はこう見えてすっごく強くて優しいんだからね! うちらの町にいるひょろっこいなよっとした男共なんかよりずっと頼れるんだから! この間なんて町に入り込んだ魔物を退治してくれたのよ! 凄いでしょう!」


 いや、目の前の吟遊詩人もひょろっこくてなよっとしてる男に含まれるんじゃないんだろうか。

 あ、いや、案外筋肉ついてるからそうでもないのか? 

 しかし、自分の町にいる男性への評価が凄い。というかその男性達が今回の神隠しの被害者ではなかっただろうか。


「あの、その男共を一応助ける為に私達はいるんですけど……」

「ふん、あんな頼りない男共なんて一生帰ってこなくても良いわ! いえ、親御さんが可哀想だから生死くらいは知りたいわね。私の兄も被害者だけど正直どうでも良いわ。あんな見た目だけに拘って馬にすら乗れない男なんてきっと誰も婿に貰いたくないでしょうよ」


 町娘の言葉に後ろに控えている女性達も、うんうんと頷いている。

 いやいや、しかし若い男性がいなくなったら困るのはこの町ではないだろうか。

 ユミがそんなことを聞き返せばまたしても町娘はふん、と仁王立ちのまま鼻であしらう。


「本当にどうでもいいわ。だって、私達は皆王都に行く予定だもの」

「え!? ど、どうしてですか!? 町を出ちゃうんですか?」

「違うわよ。王都で婿探しをしてくるの」

「婿探し」

「そうよ! この町の男達ときたら本当力もないし、向上心もないし、やる気もないし、そのくせ綺麗なものには拘るし! お前が女子か! って言いたくなっちゃうわよ! そんな奴ら貰うくらいなら王都で婿を探してきたほうが断然いいわ。そこの貴女、女性でも騎士になれるって凄いじゃない。なら上手く王都で騎士や騎士見習いの子を見繕ったほうが全然素敵だわ!」

「まぁ、王都の騎士達は見習いでも相当訓練はするからね」

「でしょ!? 別に上等な暮らしがしたいわけじゃないから貴族とかどうでもいいけど、騎士様でも騎士見習いでも、草食系男子でなければいいのよ! そういう男性にこの町に来て欲しいの! そしてこの吟遊詩人様は強いし優しいし、見た目も素敵なんてもう理想じゃない!? ちゃんと自分の意見も言えて、それでも引く時はひき、相手を立てるときは立てるなんてもう、是非とも旦那様にしたいじゃない!」


 そういうことを本人の目の前で言っていいのか肉食系女子よ。

 しかし、どうやら本人はまったく気にしてないらしく町娘に対して「ありがとうございます」とにっこり笑って言う辺り、確かに度胸はあるのかもしれない。度胸……というものかどうかはわからないが。

 言われた町娘は顔を真っ赤にして、それでもキラキラした目で「いえ! 本当のことですから!」と応えている。

 そういう姿は恋する乙女なんだけどね。先程までの言動は完全に狩りに行く気満々ではあったが。

 後ろで同意していた女性達もきっと同じ肉食系なのだろう。町娘と先程からまったく同じ行動をしているくらいだ。


「けど、ちょっと意外ね。あれ程睨んでたくらいだから私達に嫉妬でもして喧嘩ふっかけてくるのかと思ったわ」

「まさか! 騎士にそんなことする無謀さはないわ! ただ吟遊詩人様のことをあしらっている風に見えたからお願いしにきたのよ。嫉妬は確かにあったけど、それを実際ぶつけるほど馬鹿じゃないわ。そんなことしてる暇があったら吟遊詩人様に猛アタックするわよ!」


 おおっと! この肉食系女子、割といい子だったがかなり強いぞ!


「そういうわけだから、吟遊詩人様の願い、聞いてあげてよね」


 ん? なにがそういうわけなの?


 いきなり話を元筋に戻されて思わずレイナもん? と首を傾げそうになるが、何かを言い返す前に町娘は「それでは吟遊詩人様! お仕事頑張って下さいね」といい笑顔を振り撒いて帰っていった。後ろにいた子達もそれぞれ吟遊詩人に声を掛けてちっていく。

 きちんとその女性達の対応を笑顔でする吟遊詩人もさすがだが、レイナ達は完全に話についていけてない。

 思わずポカンとしてその光景を見送ってしまった三人がようやく正常に脳内が動き出したのは目の前に吟遊詩人だけがいる状態の時だった。


「それでは、今後もよろしくお願いしますね」


「まだ一言も了承を述べてないのに、既に決定事項になってるー!!」


 にっこりと笑う吟遊詩人に思わず叫んだレイナ。

 これって一種のホラーだろうか、と思わずネーナは思った。

 了承してないのに勝手に決定事項にしてる吟遊詩人の行動も空恐ろしいものがある、とユミは思う。


 不可抗力とはいえ共に行く流れになってしまった以上、無碍に断るわけにもいかない。信用問題として。

 さっきと同じ理由で断れば良いが、正直なところそんな極秘事項の案件でもない。精々隣国と厄介ごとは起こさないにこしたことがないってだけの話だ。先程のユミの言葉に深く突っ込んだ話を振られていたら断ることが出来なかったくらいだ。

 簡単に吟遊詩人が折れてくれたからすんなり行きそうだったのだが……もしや先程の町娘の行動も読んで身を引いたのでは?

 もしそうならこの吟遊詩人とやらはそれなりの策士かもしれない。

 何はともあれ、レイナ達は吟遊詩人の同行を許可することとなったのだった。






 ところ変わって、ここは領主邸。

 あれからすぐにここへ訪れたレイナ達は快く迎え入れられ応接間で現在待機しているところだった。

 メイドさんが入れてくれた紅茶がやたらと美味しい。

 なんてのんびりとしていれば一人の女性が応接間へと入ってきた。


「まぁまぁ! 吟遊詩人様じゃありませんか。こちらにお越し頂けるなんて、わたくしもっとめかし込んできましたのに!」

「これは夫人。お久しぶりです。態々滞在場所までご用意して頂いて感謝につきません」

「いいのよ、貴方の語りは私の癒しですもの。あら、いけませんわ。私としたことがとんだご無礼を致しました。騎士様。私はこの地を管理してる領主の妻、メイラ・ティーファスと申します」


 実に品がいいと思われる女性はレイナ達にも丁寧に挨拶をした。

 しかし領主ではなく、なぜ夫人の方が姿を現したのか。

 その疑問はすぐに解決された。


「実は主人は数日前から行方不明ですの」


 思わず口に含んでいた紅茶を噴出すところだった。

 あれ? 神隠しって若い男だけではなかったのだろうか……? それとも領主は若いのだろうか?


「失礼ですが……そのティーファス男爵は、お歳は……」

「私と同じ年齢ですので、残念ながら若いとは言い難いですわね」

「え、えっとでは、神隠しとは関係ないのでしょうか……?」

「わかりませんわ。唐突に姿を消しましたので……まだ仕事も山とある上に、町では神隠しなどという人攫いが起こっている現状でいなくなってしまうなんて、領主失格ですわね」


 はぁ、と溜息を漏らす夫人に、レイナは夫人は旦那の心配してないのでは? と思う。

 それもこれも先程の町娘の姿を思い出すと、どうしてもこの町の女性って相当強いのではというある意味確信のような思いがあったからだ。

 夫人も例外ではないのでは? 心配されないってことは領主も草食系男子か。


「これ以上の不在は私も町の者も許しませんわ。いい加減見つけ出さなくては!」

「いえ、しかし、人攫いであった場合、領主の命の安全が……」

「いいえ! そんなものではありませんわ。だって、我が家にはいまだに何もありませんもの。そういうった部類ではないと思っております。しかしもう既にいなくなって数日経っておりますわ。飲まず食わずではそろそろ体が限界というもの」

「うん?」

「人攫いではなく何かの事故であるならば衰弱しているかもしれません。帰れない事情があるやも。急いで捜さなくてはなりませんわ。本当に困った人。私の手を煩わせるなんて……ああ、でも家は維持しなくてはいけませんわね。ちゃんといつでも寝れるようにシーツも替えていますし、すぐにお出しできるように常備できる食事も用意いたしておりますし」

「夫人。もしや案外混乱していますね」

「いいえ! いいえ! まさかこの私がそんなことありませんわ! 主人が不在の今、私が家の町を守らねばならないのです。ほかの事に時間を割く予定はございませんのよ」

「その時間を出す為に夜遅くまで頑張っているのでは。目の下に隈が……」

「あら、いけませんわ。このような顔で人前に出るなんて領主の顔に泥を塗ってしまいますわね。ほほ、ちょっとだけ席を外しますわね」


 なんだかんだとアレコレまとまりのあるようなないような話をばっと話し、夫人は立ち上がるとそっと横についていたメイドに支えられ部屋を退出していった。

 ちなみに此方の話は一切してはいない。

 思わず夫人をそのまま見送ってしまい、そのまま沈黙するが吟遊詩人が不意に掌を打ち、ああ、と声を出した。


「なるほど。これがツンデレというやつですね!」


 うん、多分間違いじゃないけど!


「それ、今言う必要なかったかな!」


 思わずレイナはそんなツッコミをしてから、どっと疲れを感じて座っていたソファの背凭れへと倒れこんだのだった。


 この町の女性、強い。


最近、メインキャラよりサブキャラの方が個性強いのでは?と思い始めてきました。

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