24、宗教学会と旅巫子 9
前半は説明です。
「大地」があり「魔王」がいて「女神」がいる────
ある出来事をきっかけに女神が世界を二分した。
世界の三分の二を捨て、残りを生かした。
女神が結界をはり完全に遮断したそれぞれの大地をこう呼ぶ。
魔力を失いし大地「外界」
魔力が生きる大地「内界」
この世界は魔力が生命の源といってもいいだろう。
世界は「大地」
魔力が大地を巡り、命が芽吹く。生命の魔力が尽きれば命はまた巡る。
かつて世界は魔力を失う出来事があった。次々と木々は枯れ、水は干上がり、生きる者は魔力を失い命が尽きる。
大地はひび割れ、巡る魂すら消滅していく。
死にゆく「大地」に「女神」が嘆いた。
これ以上魔力を失えば世界が滅びる。それだけは阻止しなくてはいけない。
「女神」は世界を二分することに決めた。
まだ魔力が生きる「大地」を結界で囲い保護することで世界の均等を守った。
結界の中で「大地」を維持することで世界を安定させる。
安定することで魔力を失った場所はそれ以上失うことはなくなった。
命を維持するだけの魔力だけが巡る。
「命」だけの魔力がある「外界」
魔法は存在しない。精霊など生きられるはずはない。
種族はかなり激減した。エルフや竜人、ドワーフなどは伝説の生き物となっていた。
外界に住む人種は殆どが「人間」だ。獣人、亜人もいるが数は多くないという。
そして外界には「女神」は存在しない。
「外界」と「内界」は完全に別世界となっている。
外界が内界に接触できない。内界も外界に接触できない。
女神の結界によって全てが遮断されている。地上も上空も地下も、全てが外と内で断絶されている。
だが例外は存在する。
「貿易」「女神の塔」「精霊界」「霊界」
これらが例外とされている。貿易に関しては特殊も特殊。今現在では必要ではない情報なので説明は省こう。
基本、内界と外界は関わりがないと思ってもらえればいいだろう。
おかげで今ではまったく違う文化となっている。
内界が外界を支えている形ではあるが、今ではそれを知るものも少ない。
「大地」と「魔王」と「女神」の関係を詳しく知るものも少ないだろう。
魔王に関してはそのうち嫌でも詳しく知る機会があるだろうから今は置いておく事にしよう。
女神の結界は魔力を一切通さない。つまり命あるものは通ることは出来ない。
植物も当然それに含まれる。海の中ですら結界を境に生態が変わる。
外界と内界で大地が繋がっている場所もあるが、そこにはわかりやすく「壁」がある。
といってもそんなに大きな壁ではない。ただの城壁のようなものが只管延々と大地に続いているのだ。境界線のように。
上に高さは必要ない。上空にはオーロラのようなものがヒラヒラと舞っている。城壁はあくまで目印のようなものだ。
海には流石に建物はない。結界と思わしき部分にやはりオーロラのようなものがヒラヒラと続いている。
結界は女神の塔から伸び、内界を覆っている。
世界の中心に建つとされる女神の塔。だが外界からその姿を見ることは出来ないらしい。
さて、女神の結界について大体わかってもらえただろうか。
では、本題の女神の結界と召喚魔法について説明しよう。
そもそも召喚魔法とは。
「召喚」というくらいなのだから「呼ぶ」のだ。
呼ぶのが魔獣だろうが精霊だろうが人だろうが、呼ぶだけなら別になんの問題はない。
しかしそれは召喚魔法とは呼ばないだろう。どちらかといえば「移転魔法」だ。
じゃあ、なにをもって「召喚」となるのか。
それは接続先によって「召喚」か「移転」かになる。
接続先、とは「どこから」呼ぶかということだ。
同じ内界の者ならば「移転」だ。既に内界に存在しているのだから。
内界に住む精霊、魔獣、人なら召喚にならない。たとえ最高位精霊を呼び出したとしても「移転」だ。
ではそれ以外とは。
例えば「精霊界」
精霊界は大地とはまったく異なる次元に存在する世界だ。妖精、精霊とは基本そこで生まれる。
例えば「霊界」
霊界は「魂の帰る場所」であり、生命の魂は全てが霊界に帰り、そして大地に戻るとされている。魂が存在する場所。
例えば「異世界」
大地とはまったく異なる世界。全ては不明とされていて何があり何が存在して何が起こるのかすらわからない。かなりの特殊ケース。
例えば「外界」
そもそも外界への許可のない接続は禁忌とされてる。
これらから「呼ぶ」のを「召喚」という。
召喚魔法の説明をすればなんとなく女神の結界との関わりも見えてくるだろう。
召喚魔法とは女神の結界の外から呼ぶ魔法。
それは無理やり女神の結界に穴を開ける行為であり、内界のバランスを崩す可能性がある魔法とされているのだ。
上手くやれば結界に触れないことも可能だろう。
しかしそんなことが出来る者は極少数しか存在しないだろう。四大賢者ですら出来るかどうかとも言われている。
内界と外界のことを知っていれば「召喚魔法」を使うことがどれだけ危険かも知っているはずだ。
だがしかし。
時の流れというのは無常だ。いくら重要なことでも当たり前のように存在していては人の心の中では存在が薄くなる。
そして人とは「驕る」ものだ。
結界の重要性を忘れ、それなりに能力が高い者は自分ならば問題なく使用できる、もしくは結界に穴が開いた程度でどうということはない、と思う者も出てくるものだ。
今回はそのケースだといえよう。
そして召喚魔法自体は魔力のリソースは高いが、そう難しい魔法ではない。
なぜなら「呼ぶ」だけだからだ。針をつけた釣竿をたらして引っかかったものを吊り上げるだけのようなものだ。
ここにさらに条件をつければ難易度は当然高くなるのだろうが……
果たして今回は「どこ」から「なに」を「呼ぶ」つもりなのだろうか。
レイナ達がメインの場へ辿り着いて即座に新大地聖教の信者をグリーンとレイナはひとりずつ昏倒させた。
しかし向こうも対処はしてきているのか、対魔法と防御をかねた結界魔法、強固結界を使い始めた。
「いや、流石に結界を素手で壊すほどの技術持ってねぇわ」
「事前に対策立ててる辺りが用意周到ね」
これはどう見てもレインニジアの騎士団への対策だと見える。どの団が出てきてもいいように全員が強固結界をはれる様になっているのだろう。
しかし侮ってもらっては困る。
今回は魔法も剣術も得意とする魔導騎士団の派遣だ。
「どうやら召喚魔法を邪魔されないように何重にも結界をはっているようですね」
「ということはホール内からの援護かしら?」
「きっとそうでしょう。客席から結界魔法を使っていると考えるべきです」
「え、でも周りの騎士団が既に客席に被害が出ないように結界はってるよな?」
レイナ達が飛び出したように、周りの騎士団達も対処は行っていた。
まずは客の安全確保だ。
メインの場から危険なものが客席に及ばないように結界をはる。それは大体毎度のことなので対処は早い。
そして逆に客席から応戦としてメインの場にいかないようにも阻止している。
にも関わらず客席から結界魔法が使われているという現状。
単純に相手の技術が高いのか。遠隔の何かを使っているのか。はたまた何かの魔道具を使っているのか。
騎士団の結界はあくまで被害がおよばないように、とはっている結界だ。高度技術が要する魔法、しかも攻撃ではない援助や防御系魔法では騎士団の結界は防ぎきれない。
だが単純な結界魔法である代わりに、はっている騎士団はその場から動くことは可能だ。それくらいの訓練はつんでいる。
逆に高度な結界魔法を使っているだろう相手はその場から動くことは出来ないだろう。
つまり、騎士団は結界を張りながら客席に入ることが出来るということで。
「他で結界はってるってことは自分は無防備な状態だよな」
「そうですね」
「じゃ、俺が客席の方いってくる。ここにいても役にたたなそうだしな」
「そうね。それが手っ取り早いか」
「よーし、魔力使ってる奴片っ端から殴り倒してくるな!」
いや、魔力使ってるからといって信者とは限らないのだけれど……
という言葉を伝える前にグリーンはさっさと客席へと向かう。
まぁ多分気絶させるだけだと思うから被害はそんなに……多分、そんなに出ないと思うから気にしないでおこう。そうしよう。
「レイナ」
思わずそのままグリーンを見送ってしまったレイナに声がかかる。
声からして誰かはわかっていたが、警戒をつかずに振り向けば予想通りの人物がレイナの側へと来ていた。
「黒星団長」
「召喚魔法を使わせるわけにはいかない。完成までにはどうやらまだ時間はかかるようだ」
「みたいですね。しかし結界が邪魔です」
「致し方ない。魔法剣の使用を許可する」
「え? いいんですか?」
「怪我を負わすなよ。絶対、怪我を負わすなよ。死なせても駄目だからな」
「え? めちゃくちゃ信用されてませんね! 私!」
ティアナの側は今はイースがいる為、バルハードが前に出てきたようだ。
魔法剣とは武器に魔法を乗せること。簡単なようでなかなか制御が難しい魔法だ。
だが魔導騎士団であれば誰でも出来ることで。当然レイナも使用可能である。
魔法剣ならば強固結界も破ることは可能だ。ただし、その分威力が高い。
制御を誤れば結界だけでなく使用者まで死に追いやることも出来る武器だ。
ついでに言えば普段のレイナであれば使用者の有無をあまり気にしない。いや、生死は気にするけど多少の怪我は気にしないどころか迷惑料としてさらにぶん殴ることくらいは平気でする。
そこを気にしての先程のバルハードの言葉である。
流石にしないから。一応今日は「国王専属騎士」だし、ヘタな行動とったら私が国王に殺されるわ!
自覚はあるのか、心の中で弁解はする。
それにやろうと思えば召喚魔法を使っているユアの周りの結界だって黒星団長クラスなら一太刀でどうにか出来るだろうに。
もちろんそれをやれば周りもタダではすまないだろうが。
しかし召喚魔法も完成させるわけにはいかない。使用者ならびに周りの人々にも大きな被害を出してはいけない。
その辺の舵取りが難しいのだろう。
バルハードとレイナは魔法剣を発動させる。
取りあえず周りの邪魔な信者達から退場してもらおう。
そう考え一歩前に出ようとした時、バルハードの前に人影が遮る。
「邪魔をさせるわけにはいかんな」
そういって立ちはだかったのは司教ファーマだ。
うわ、面倒くさ!
一瞬だけそんな表情を覗かせるバルハードだったがすぐに顔を引き締め、立ちはだかった相手を睨みつける。
きっと「威圧」にも耐えうる相手だろう。立場的に。使うだけ無駄と考えて睨みだけを効かせたのだが、それをどう勘違いしたのか自分の方が上だと判断され何故か鼻で笑われる。
「たかが騎士ごときが召喚魔法を止められると思うたか」
たかが司教ごときが騎士団長を止められると思ってるのか。
その言葉は飲み込んだ。バルハードもレイナも。多分、ここで言ってはならない言葉だと思う。
世の中には面倒くさい立場というものがあるのだ。ついでにいえば今回は騎士団としては怪我人を出したくはない。
「レイナ、ファーマ様は私がどうにかするからお前は召喚魔法の方を頼む」
「怪我はさせちゃ駄目ですよ?」
「はぁ……そう言われるだろうと思ったよ。丁重に扱う。まぁ場合にもよるだろうが」
司教というくらいなのだから多少は魔法やらなにやらが厄介になってくるだろう。その場合というのが多少不安だが黒星団長ならばうまくやってくれるはずだ。
レイナは頷き、召喚魔法が行われてる場所へと向かう。
気づけば周りを囲っていた結界がいくつか剥がれている。どうやらグリーンが着実に信者達を気絶させているようだ。
レイナも周りにまとわりついている信者達を魔法剣で結界を壊し、ひとりずつ沈めていく。
召喚魔法の完成度は8割といったところか。案外進むのが早い。
「先に進ませるわけにはいきません!」
「宗教信者のくせにしぶといね!? なんでもう立ち上がってるの!?」
「こういう時の為の肉体改造!!」
「なんか方向性違くないかな!?」
なんと沈めた先から再び信者が起き上がりだす。見た目は一般人の癖になにやら鍛えている模様。
沈めては起き上がり、沈めては起き上がり、さながらゾンビのようだ。
え、これ、いっそネーナ連れてきて手違いで一発ふっとばしたほうがいいのでは?
同じことの繰り返しになっている現状に苛立ち始めたレイナがそんなことを考えていたら、召喚魔法の9割が完成していた。
まずい! このまま同じこと繰り返してたら間に合わない!
もう腹をくくるしかない。大丈夫、入院とかにならなきゃいくらでももみ消せる! 多分!
レイナは一度信者達から離れ、魔法剣を大きく振りかぶろうとした、その時。
「そこまでです」
キンッ、と甲高い音が響くと同時にその声もホールに静かに広がった。




