22、宗教学会と旅巫子 7
そんなわけで宗教学会当日。
城下町はすっかりお祭り騒ぎ。色んな人が集まり賑わっている。ただの学会なのに。
城では魔導騎士団が最後の確認をする為、城門前に全員が集まっていた。
バルハードがひとつひとつ確認をして、そして決まった場所へと騎士達を送り出す。
順番がアベル率いる隊へとなり、こちらも問題もなく確認が終わる。
「そういえば団長はティアナ様の側で護衛だそうですね」
「ああ、何かあったときに一番対処できるのが私だからな。ティアナ様に怪我を負わすわけにはいかない」
「……一応、聞いておきますが」
「なんだ?」
「他意はないんですよね?」
「は?」
「まぁそういう反応ですよね。わかってましたけど」
「アベル、何が聞きたい」
「団長はそういう物事には鈍いな、という話ですよ。いい加減ちゃんと考えないとまたレイナさんが暴走しますよ」
「まて! 何の話をしているんだ!?」
主にレイナが暴走という言葉でバルハードはぎょっとして少し慌てる。
若干身に覚えがある為、聞き逃せない単語ではある。
逆にアベルは自分で言ったことは大したことではないのでそのまま流すことにした。
レイナに協力すると言ったので当然手伝う気はある。自分の為にも。
しかしだ。
手伝う以前に団長自体がそういった物事にまったくもって関心を示さないことに問題があるのでは。
もしかして、この人は初恋というやつもまだなのではないだろうか、とすら思えてくる。
まずはそういった方面に興味を持ってもらうところから始めるべきではないだろうか。女性に拒否反応とかを覚えない範囲内で。
何かを訴えるような目線でバルハードがアベルを見ているが、あえて何も気づかない振りをしてアベルは一足先に神殿へと向かうのだった。
「というわけで、本日は学会時間になるまではレイナ様と共に見回りをさせていただきますね」
「なんでだよ!! なにがというわけなんだよ!! なんの説明もきいてねーよ!!」
場所は城下町。
唐突のユミの出現と発言に思わずレイナのツッコミが入る。
言い終わった瞬間盛大な咳をして顔を背けるレイナ。
数秒後、またユミへと振り返ればそこには穏やかな笑顔があった。
「ええ、何も言ってません。私は何も言ってないわ」
「いや、無理ありすぎだろ。流石に」
「言ってないわ」
「お前、よくそれで隠し通せてるな本性」
「人々の思い込みを甘く見てはいけないよ、見たいものを見せるのが人の心というものだ。グリーン」
「おいやめろ。騎士がそういうこと言うんじゃねーよ」
半目のグリーンに言われ、レイナは再び軽く咳をひとつ。
それから再び目の前のユミへと視線を向ける。
落ち着いた金色の長髪を左右に束ね首の付け根の部分に輪を作った結び方をしている。現在は神殿関係者の制服を身につけているが、昨日までは赤の巫子服を着ていた。可愛らしいが幼さはみせない顔立ちをしていて瞳は黄褐色。
レイナよりは年下でネーナよりは年上、といった感じだろうか。
ちなみに赤の巫子服というのは、女神の塔の国色……国ではないのでこの言い方は変なのだが、まぁここはこのまま国色として話を進めよう。その国色が「赤」なのだ。
レインニジアは前にいった「黒」、女神の塔が「赤」、たまに名前が挙がる魔導技術国ベレルは「青」、武力国家バルディッタは「金・黄」等々、国の基本色。
女神の塔に属しているものは皆、赤の制服を纏っている。教会や神殿に所属するものも赤の制服だ。もちろん多少色味の違いはあるが「赤」の範囲内ならいいのだ。
余談はここまでにして話を戻そう。
ユミは赤の神殿服を身につけていて、片手には掌に乗るサイズの水晶玉を持っている。よく見れば中心に何か刻まれているが何が刻まれているのかはわからない。
見た目はよく占い師や星読、鑑定士等が使う水晶玉だ。
愛用品らしく、片手に持っているのが常のようだ。
「学会が始まりましたらティアナ様のお手伝いへと向かう予定なのですが、それまでは自由に動けるというレイナ様について回りたいと思いまして。色んな箇所にいけば事前に問題の芽を摘めるかと」
「何気に物騒なこといわないで。まぁこっちに特に不都合はないからかまわないけど」
「何事もなかったかのように会話できるお二方の神経の図太さを感じますね。それはさておき学会が始まってからは教会のお手伝いをされるのですね」
グリーンのジャケットのポケットからひょこりと顔をだしてシオンが二人の会話に入る。
さすがにこれだけの人がいて精霊は目立つということで自主的に避難してたのがグリーンのポケットだった。
どうやら今回はあまり儲け話……もとい自分の出番はなさそうだということでそこに引きこもり大人しくしている方針でいるようだ。
シオンの言葉にユミは頷いた。
「はい。資料の受け渡しやら休憩時のお茶配りなどをお手伝いさせていただく予定です。人手も少ないようですので。その事もあり今回は皆様にお配りするお菓子もティアナ様自らがお作りになるそうです」
「え、手作り?」
「はい。今はその準備をされているとか。厨房にそんな人数は入れませんので現在私はお手すきというわけです」
「お菓子も作れるとか、ティアナ様ってすげぇな」
そんな会話もしつつ、レイナ達は神殿周りを見回ることにした。
ユミがレイナ達を「様」をつけて呼ぶのがどうにも歯がゆかったららしく、主にグリーン辺りからそれはやめてくれ、と抗議され、現在はユミは「さん」付けで皆を呼ぶようになった。余談である。
見回りも特に揉め事が起こることもなく、ただ会話して出店を見て食べて周って時間が過ぎていった。
これではただの観光客だ。ある意味間違いではないが正しくもない。そもそもなぜ買い食いをしているんだ。警備の癖に。
というツッコミは誰もしない。全員がなんらかしら買って食べてるのだから全員共犯だ。レイナに至っては町の人から「お疲れ様です! これどうぞ!」といってタダで貰うくらいだ。何か言うほうがヤボである。
さらに余談だが、その間交わした会話といえばユミの女神の話がメインだった。
メインというより只管ユミの「女神様は」「女神様の」「女神様からの」「女神様は素晴らしい」を永遠と聞かされ続けるコースだった。
どうやら相当の女神信者らしい。
そうして訪れる宗教学会開始の時間。
ホールにたどり着く前にレイナ達はユミとは別れた。
劇場のようにいくつかの入り口の扉がある廊下を通り、レイナ達は一つの扉からホールへと入る。
そこには既に大勢の人が集まっており、ほぼ満員状態となっていた。騎士団も色んなところへ配置されている。
メインとなる場所には白いしっかりとした長机が置いてあり、全部で4つひし形におかれている。
その机が置かれてる場所より奥に大きな大理石のような板が客席に見えるように立てかけてある。ホールどこからでも見える程のでかさだ。そこには魔法陣が描かれており、この魔法を発動させることで自分の用意した資料をその石に映すことが出来るようになっている。
本来は自分のイメージを映し出す魔法なのだが、もちろん上級魔法だ。それを既に存在するものを映し出すことに切り替えることでだいぶ簡単な魔法へと変わっている。その代わりどの物を映すのか指示を出す魔道具が必要となる。
各所に設置された魔道具とメインの場所に置かれている一つの魔道具。あれが音を拾い反響させホール全体に音を伝える役割をするので後ろの方でもしっかり見聞きが出来る仕掛けになっている。
もうここまでくると魔道具って何でもありなんだな、と思えてくる。
「さて、先程プログラムの紙を頂きましたがメインで話し合いや補佐をするのが大体一団体、十人前後となっているようです」
「女神信教だけは主催や準備やらで少し多いのよね」
「はい。そのようです。後は護衛も兼ねてレインニジア騎士団の方々もメイン側へと行くようですので人数はそれなりに多くなるようです」
そこで黒星団長はティアナ様の側に控えているはず、とレイナは思い出す。
なにやらバルハードは小まめに赴いてはティアナに話を聞いたり、手伝いなどもしているようだと小耳に挟んだ。
娘としてはいい傾向でニヤニヤが止まらない。ただし心の中だけで。
それはさておき、レイナはユミから貰ったプログラムの紙を取り出す。
そこには本日の参加者の名前と人数も書かれていた。
女神信教
神官ティアナ、神兵イース……他十二名。
新大地聖教
司教ファーマ、司祭ユア……他八名。
アルマスティニア教
司教レーベスト、司祭カトロア……他六名。
アンファマーユ教
司教グレンディア、司祭ハイナスト……他六名。
主に名前の上がっている人物達がそれぞれ進行していく流れとなる。
最初に今年やってきた活動やら成果やらの発表となり、その後休憩を挟んでから意見交換となっている。
その意見交換が問題の箇所だ。
その為、実は前半はそう警戒しなくていい。ピリピリしたり嫌味が飛び交ったりするが概ね平和だ。それなりに。
レイナ達は客席をすり抜け、出来る限りメイン近くまで近寄る。
警備用に出来てるスペースがあり、そこで足を落ち着けた。
学会中は適度に動き回るが主にはこの場所をメインにして動く予定だ。大体グリーンとレイナが交互に行ったり来たり。
シオンが動く相手についていくことで魔道具を使って言葉のやり取りも可能にしてる。
魔道具便利すぎだろ。
時間を確認しているとそろそろ始まるのか、メインの場所にそれぞれの宗教団体が入ってきた。
「なんか想像してたのより年齢若いの多いな」
「そりゃ毎度派手な争いしてるんだもの。相手もそれ前提で揃えてくるに決まってるでしょうが」
入ってきた面々をみてグリーンがポツリと呟く。
警備用スペースが周りから少し遮断されていることもあり、レイナは若干素を出してグリーンに応える。
「それ前提って……初めから戦力として揃えてくるのかよ。恐ろしいな」
「流石に本格的なのはいないわよ。どちらかというとストレス発散だからある程度位が高くて、色々不満がたまってそうなのを連れてくるのよ。若いのはまだ達観出来てないからここで発散していくって寸法」
「……なるほど」
納得出来たような、なんか釈然としないような、そんな表情をしてグリーンは頷く。
そしてタイミングよく宗教学会が開始される鐘の音が響いた。
神殿に響く鐘の音を聞きつつ、レイナがメインの場に視線を向ければ赤い神殿服に身を包んだユミと視線があう。
にっこりと微笑み返してくるユミ。
……なんだろう。特に含みはない笑みだが、嫌な予感しか感じない。




