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某国の女騎士と仲間達の日常物語?  作者: しんり
第1章 女騎士とその仲間達
21/71

21、宗教学会と旅巫子 6

殴り合いはどんどん過激になっていっているようだ。周りにすっかり人垣が出来ている。

これは急がないと怪我人が出ると思い直してレイナとアベルは足を速めた。


はた、と目が合った。


誰に? 見知らぬ女性に。本当に偶然、レイナの視線と女性の視線があった。

案外すぐ近くにいて、二歩くらい進めば目の前に立つことは出来る。

しかし、それは出来なかった。近くにいくつもりもなかったが、それ以前のことが起こった。

唐突にレイナの二の腕をその女性ががっしりと掴んだのだ。


「は!?」


思わずレイナが声を上げる。女性はそんなレイナを見上げてにっこりと笑った。

凄く、すごく嫌な予感がする。

その予感を察知したのか、少しだけ先行していたアベルが足を止めてレイナのほうを振り返った。レイナと同じように驚くように目を見開くが声は出さなかった。

思わず足を止めてしまった二人にこれ幸いと女性はレイナの二の腕を掴んで勢い良く歩き出す。

向かう先は大通りのど真ん中。大人たちが殴り合っている所。

人垣をかき分けて先頭の人を押しのけると飛び出すようにレイナとその女性は争う者達の横へと立った。


「そこまでです! 両者とも一度手を休めて下さい!」


殴り合う者達に待ったをかける女性。しかしその手は相変わらずレイナを掴んでいる。まるで逃がさないとでもいうかのように。

唐突に現れた人物の制止に殴り合っていた者達が手を止めてその女性をみる。まだそんなに理性は失われてはいないようだ。顔は不愉快そうに歪められているが。


「どこぞかの宗教の方々かと存じ上げます。ここは誰もが行き交う大通りです。人様にご迷惑をおかけする行為は些か問題があるのではありませんか」

「貴女は?」

「私は女神信教の旅巫子です。神々に仕える方達の争いとお見受けして厚かましいかと思いましたが口を挟ませていただきました。あなた方はどちらの宗教の方でしょうか?」

「俺は新大地聖教だ」

「……アルマスティニア教です」


人に迷惑をかける行為と言われて流石に気まずそうにお互い上げていた手を下げたようだ。

そういったことを気にすることが出来るのはやはり宗教という神に仕える立場の者達だからだろうか。ただの一般人だったら関わりのない人間が口出してんじゃねーよ! と一言いわれるだろう。

さて、見事に四つの宗教のうち三つが集まった状態になったこの場。

まるで明日の学会のリハーサルかのような場面だ。非常にいやだが。本当にいやなリハーサルではあるが。

周りにも同じ宗教の者達がいるのだろう。若干ピリピリとした気配も漂ってきている。

今は口を出さないほうがいいだろうとレイナは成り行きを見守っている中、その横にアベルも近づき様子を察してレイナのように口を閉じて動向を見守る。

グリーン達は人垣から出ない程度にこちらを見ていた。自分達まで赴いては引っ掻き回すだけになるだろうとの判断のようだ。

さすが状況判断は察することは出来るようでありがたい。

旅巫子は殴り合っていたリーダー格と思われる二人の顔を見て頷く。


「新大使聖教は己を磨き精進される素晴らしい方々ではありませんか。人様に己の力をひけらかす為に磨いているわけではないのでしょう?」

「そりゃあ……そうだが」

「アルマスティニア教は様々な神を平等に感謝し崇めておられる方々ですね。そんな方達が神に仕える方を非難されるということはその方の崇めている神を否定するようなものではありませんか。それでは平等に神を崇めておられる方が神を否定する行為は他の神が悲しまれますよ」

「それは……」


おや、中々上手い具合に言いくるめているようだ。

しかしそれで納得できていたらあんな争いは起きてはいないだろう。実際周りに漂う空気はピリピリしたままだ。

最後の一押しが足りないまま一瞬沈黙する。

そこでいままでぐっと掴んでいたレイナの腕が引かれた。


「ここは大国レインニジアです。このまま争いを続けるならばこの場におられる騎士の方がこれ以上は見逃してはくれませんよ。この方の制服は国王専属騎士です。いかがなさいますか?」


おおっとー! ここで引き合いに出されたぞ! てか利用する為に連れてこられたのか! なんとなくわかってたけど!


国王専属騎士という言葉に流石に周りが動揺する。

宗教の者は他国の者だったらしく驚いたような表情をして慌てて頭を下げた。国王専属騎士の名は伊達ではない。

この旅巫子、思いの外したたかなようだ。自分で争いを収める風にしておきながら最終的に権力にものを言わせたようなものだ。

変なのに目をつけられたなと思いつつ、吐き出したい溜息を堪えてレイナは苦笑を浮かべる。


「そうだね。街の警備をしている者が街中での騒動を黙って見過ごすわけにはいかないからね。このままでは全員城へ連行という形になる」


そういって隣のアベルに目配せをする。

アベルは誰が見てもわかるように頷き、腰にかけた剣を少しだけ主張するように鳴らすと一歩前に出る。

アベルの行動に宗教の者達は謝罪をして二度と騒動を起こさないと約束してそそくさとこの場を後にしていった。

騒いでいた者達がいなくなれば周りの人垣達も一気に散っていく。

ピリピリしていた空気はレイナ達の登場によって一気に動揺と焦りに変わったので散るのも早かった。

そうして大通りはいつもより人は多いがスムーズに人々が行き交う場所となったのだった。

残されたのはレイナとアベルとグリーン、シオン。

そして先程の旅巫子だ。

いつも通りの街並みに戻ってから旅巫子は腕を掴んでいたレイナのほうに体を向けて頭を下げて礼をした。


「ありがとうございました。貴女様のおかげで穏便にことを運べました」


そりゃそうだろうけど、案外有無を言わさない力技のような気もしたぞ。


とは流石に言わない。レイナも笑って旅巫子に答えた。


「いいえ。お役に立てたようで何よりだわ。本来なら私達が真っ先に駆けつけるところを貴女に助けられたのだもの。礼を言うならこちらだわ」


ま、お前に遮られただけなんだけどな。


と心の中でつけたす。

実際どっちが先に前に出るかという程度の違いだったし、腕をとられてなければ確実にレイナ達の方が先に止めに入っていた。

ついでに言えば諭すという行為を省いて問答無用で連行という言葉をでちらつかせる予定だったので時間もあまり取られることはなった。

とはいえ善意で止めに入った……と思われる相手にそんな不躾なことは言えるわけもなく。

当たり障りない態度で対応する。


「ありがとうございます。私は旅巫子のアルフェユーミと申します。どうかお気軽にユミとお呼び下さい」

「ではユミと呼ばせてもらうわ。貴女も気づいていると思うけど国王専属騎士、レイナよ。こちらは魔導騎士団副団長、アベル。あと私の知人のグリーンとシオンよ」


多少説明は省いたがグリーンとシオンも側にいる為、一緒に紹介する。

アルフェユーミと名乗った旅巫子はグリーンの横を飛んでいるシオンに少し驚いたような目を向けたがすぐに笑顔になってよろしくお願いします。と二人に挨拶をした。

宗教者には精霊はなかなか崇高な生き物に捉えられがちなので多分そのせいで驚かれたのだろう。

だがそんなことはまるで気にしないようにシオンは挨拶を返す。同じくグリーンも気軽に挨拶をした。

アベルは騎士として軽く礼をするだけとなった。


「唐突に腕を掴んで申し訳ありませんでした。もしやレイナ様達は巡回中でしたでしょうか」

「いいえ。これから神殿に向かう途中だったのよ。その途中で先程の騒動を目撃したの」

「そうでしたか! それはよかった!」


え? なにが?


「目的が同じようで安心しました。仕事の邪魔をしてしまったかと思っていましたので。それと私もこれから神殿に向かう予定だったのです」


わお。私はまったくもってよくない出来事だわ。


「どうか私もご一緒させていただけませんか?」


え、やだ。絶対面倒ごと呼び込みそうなタイプに見えるよ、お前。


「ええ、構わないわ。場所が同じなら共にいきましょうか」


まーここで断ったら印象悪いよね! どうせそこまでわかってて言ってるんだろうけど! こいつ、途中でまた騒動とか見かけたら私を使って止めにはいるんだろうな。そういうことするき満々だよ絶対。


「ありがとうございます! よろしくお願いします」


ユミは良い笑顔で返事をする。

レイナは穏やかな笑顔のままユミをみるが、その心は見事に正反対の言葉で埋め尽くされている。

そんな光景を眺めつつ、レイナの本性を知っている者達はただその顔に苦笑を浮かべるだけで終わった。





「ああ、これはアルフェユーミさん。お久しぶりです」

「お久しぶりです。イースさん。今年もお世話になります」

「いえ、こちらこそ毎度手伝ってもらってありがたいですよ」


神殿につくと前回と同じく神兵のイースが出迎えてくれた。

イースとユミは顔見知りらしく、お互い顔を合わせると親しげに会話を交わす。

なんでもユミは毎年宗教学会の手伝いをしに神殿に訪れるのだそうだ。

神官ティアナの補佐でもあるイースと共にあれやこれとしているようで、旅巫子でありながら結構有能な人材らしい。

そして魔法も得意としているようなので何かあればティアナ達を守ることも出来ると、嬉しそうにユミは言った。


そんな話をしつつ、レイナ達はティアナのいる部屋の隣へと案内される。

ただ先客がいる為、少し待ってもらうことになるとイースに伝えられた。


「え? 黒星団長が来ているの?」

「はい。明日の配置について最終確認だそうです」

「団長自ら来ていたのですね。でしたら私が共に来る必要はなかったかもしれませんね」

「そんなことないと思うわ。団長とアベルでは警備する場所が違うもの。対処もまた変わってくるでしょう?」

「ですが団長のことです。全ての配置と内容を確認されるでしょう」

「そうね……でも今日の確認はアベルがする予定だったのでしょう。そもそもなんで団長がここにいるのか……」

「それもそうですね。後程神殿には行くとは言っていましたが」


不思議そうに首を傾げるアベルに対してレイナが思わずニヤっと笑いそうになるのを必死で堪えた。


これってやっぱりアレだよね。そう、脈ありというやつだよね!


思わずレイナは心の中でガッツポーズをとる。

だってそうでなければ仕事中に神殿にくるなんてことはきっとない。今日の確認はアベルがすることになっていたのだ。

後から神殿にいくとは言っていたとしても仕事を横取りするようなことを本来バルハードがするはずがない。

これは期待せずにはいられない。


そう時間が経たないうちにレイナ達がいる部屋の扉を叩かれる。

そこへバルハードとティアナが入室してきた。


「ティアナ様。わざわざお越しいただかなくてもこちらから赴きましたのに」

「いいえ、こちらにユミさんとレイナ様がいらっしゃるとお伺いしましたから。バルハード様もレイナ様とお話があったようですのでご一緒させていただきました」


イースが慌ててティアナの居場所を作るとそんな会話を交わす。

バルハードもそれに頷いてからレイナとアベルへと視線をよこした。


「すまないな。今日はアベルが来る予定だったのに私が確認を済ませてしまった」

「いえ、お気になさらないで下さい。しかしなぜ団長がこんなに早く神殿に?」

「本当は夕方頃に出来上がる書類を提出にくるだけだったのだが、先程街中を巡回中に宗教同士の騒動を見かけてな。今年は宗教がひとつ増えたから何が起こるかわからない。それもあってその騒動の報告と新しい宗教の確認をするためここに来たんだ。ついでに最終確認もやってしまったんだ。これからアベルに報告に行くつもりだったがタイミングよく来てくれて助かった」

「入れ違いにならずによかったです」


というかまた宗教争いあったのかよ。どんだけ今年は血の気が多いんだ。


思わずうんざりとした気持ちでレイナは呟く。もちろん心の中で。

それにしても前日で既に数件そんなことば勃発しているようでは当日の学会は一体どうなることやら。


「レイナ、ついでにお前達の方も確認しておいた。内容はこの紙と地図に記入してあるからよく見ておいてくれ」

「ありがとうございます。私の方はだいぶ自由な形になっているので少し面倒でしたでしょう?」

「まぁただの確認だけだからそう時間はかからなかったよ。既にレイナが仕上げてくれた書類の内容そのままだ。変更は特にはない」

「ならよかったです。グリーン、貴方もよくこれを見ておいて。明日の私達の行動内容が書いてあるから。といってもそんな細かい指定はないけどね」

「ああ、わかった」


それから各々確認を済まして一足先にバルハードは神殿を後にした。

ティアナとユミが明日のことで話し合いがある為席を外し、騎士団関連の書類を貰いに行く為、レイナとアベルはイースの案内で別の場所へと移動中だ。

流石に騎士関連のものだったのでグリーンとシオンは部屋で待機中である。

一つの小さな応接間のような場所に案内され、それから再びイースは隣にあると思われる書類を取りに部屋を出て行った。

イースが出て行ったのを確認してレイナは大きく伸びをする。

ここに来てようやく専属騎士の仮面を取ることが出来たのだ。


「なんかご機嫌ですね。レイナさん」

「あ、わかる? いや、ようやく黒星団長にいい話がもっていけそうだなって思って」


そう。先程のバルハードとティアナの姿を見かけてから内心嬉しくてたまらないのだ。

それを今まで堪えていたのだが、伸びをしたのと一緒に顔に出ていたようだ。

そんなレイナをみてアベルはなんとも言えない表情を作り出す。


「……あまり団長をいじめないであげて下さいね」

「いじめてないけど!? だって、団長だっていい年でしょ。そろそろ婚姻くらい考えるべきだって思うじゃない」

「あの、かつてそれで失敗していると……別の団長から伺ったことがありますが」

「…………反省はしてる」

「レイナさん……」

「だってー! 団長だって幸せになって欲しいじゃない」

「十分幸せだと思いますが……」


それとこれとは違うのだ、とレイナは言ってアベルは苦笑を浮かべる。

それからアベルは少しだけ視線を彷徨わせてから少しだけ俯いた。

珍しいアベルの態度にレイナは思わず首を傾げて聞いてみた。


「どうしたの?」

「……あの」

「うん」

「……レイナさんは……」

「私?」

「はい。その……レイナさんは考えないのですか?」

「何を?」

「…………婚姻を」

「は?」

「あの、レイナさんは結婚したいと思わないのですか!?」


はっきりとしない物言いだったのが、最後だけがばりと顔上げて勢い良く聞いてきた。

顔を上げたアベルの頬が赤いのは興奮しているせいか。なぜ興奮しているかはわからないが。

レイナは聞かれた内容に思わずきょとんとした表情を浮かべてから、うーん、と考えた。


「考えたことないなぁ。確かにそういう年齢だけど」

「好きな……方とかは?」

「同じくそういうの考えたこともないかな。団長は貴族だけど私は違うからそこまで拘ることないし、したいと思う相手もいなかったし」

「でもしたくない、わけでは……」

「どうだろう。でも私よりも先に団長に結婚してもらいたいかな。私はそれから考えることにする」

「わかりました」


何がわかったのか。

考えながら視線が斜め上当たりにあったのをレイナはアベルへと再び向ける。

そこには先程のような頬の紅潮は消え、何かを決意したような表情をするアベルがいた。


「私も団長が結婚できるよう協力します」

「え! 本当!?」

「はい。出来る限り、早く、縁談がまとまるようお手伝いします」


なんとここに来て協力者が増えた。

力強くアベルが応えるとレイナは素直に喜んだ。

ならばバルハードとティアナの仲をより前向きに応援できるではないか。まさにレイナの心はそれに尽きる。

なんとなく二人の気持ちの思惑が別方向なような気がしなくもないが、意見は一致している為、特に気にしないでおこう。


当然ながらレイナはアベルの気持ちには気づいていない。

アベルがレイナに尊敬とはまた別の感情を持っていることに。

それに今後気づくのかどうかは、きっとレイナ次第だろう。


少なくともバルハードにはいい迷惑が増えただけなのだが。


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