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某国の女騎士と仲間達の日常物語?  作者: しんり
第1章 女騎士とその仲間達
20/71

20、宗教学会と旅巫子 5

 宗教学会が開催されるのは数週間後。

 その間にどの隊がどこに配置されるのか、誰がどのように対応するのかを騎士団が決める。

 そしてレイナは国王専属騎士として派遣された為、この騎士団の指示内には入らない。

 所謂自由枠ということで特定の場所への配置とはならなかった。

 城は赤天騎士団と青月魔術師団が残っている為、黒星魔導騎士団全員の出動が決まった。黒星に所属する者達は全員出動と知らされた瞬間、呻きながら崩れ落ちたという。

 人々が集まるホールにバルハード率いる隊が。神殿の周りにアベル率いる隊が配置された。

 隊の組み分けでまた歓喜する者と崩れ落ちる者の姿があったとか。

 神殿周りの方がただのお祭り騒ぎになってるのを見守ってるだけでいいのだから配置された者は喜ぶだろう。


 さて、自由枠のレイナはというと。

 今回はシオンとグリーンをお供につけて赴くこととなった。

 というかシオンは大体レイナに引っ付いているので仕事があれば大体いる。商品売り込みの為に。

 そして前回知り合ったグリーンは何故いるかというと。


 一言で言ってしまえば国王に気に入られた。


 恐るべし記憶喪失。国王の前に連れて行っても己のマイペースさを失わなかったグリーン。

 本来ならば不敬だと怒られる所を、逆に面白いといって国王に気に入られた。多分、国王としてはオモチャを見つけたような感覚なんだろうが。

 そんなわけでいつの間にか城に滞在することになった。本人はよくわかっていなかったようだが、レインニジアという大国に興味を引かれたらしく毎日色んな場所に行っては色んな体験や経験をして充実な日々を過ごしているようなので、まぁ気にしないでおこう。

 最近では騎士団に顔を出して鍛錬をしたり街の見回りなどを一緒にしているらしい。人助けは性分なのかなんなのか。

 元々腕はよかったグリーンなので、今回はレイナが指名してこちらへと来て貰っていた。

 ちなみに同じく前回行動を共にしていたネーナは城で大人しく草むしりと魔法勉強中である。

 今回は一緒について来てもらっても被害が酷くなるだけだと予想がつくので、当然声はかけなかったし、かける理由もない。

 そんなわけで自由に動き回れる国王専属騎士枠は三名となる。


 そうして宗教学会が行われる前日。

 最終確認の為、レイナ達は再び神殿へと赴くことになった。

 今回はバルハードではなく、アベルが共に行くことに。


「なんかまだ前日だけど既にお祭りみたいに賑やかなんだなー」


 城下町に繰り出したグリーンはいつもと違う様子をみてそんな感想を漏らした。

 それにアベルが頷いて状況を語る。


「各所から色んな人々が集まるからな。遠くから来る者は何日も前からレインニジアに来て観光を楽しむ者もいるから、店としては稼ぎどきでもあるんだよ」

「そんなに人集まるのか?」

「ああ。大体が宗教団体の者達だが人数が多いな。それだけ信仰心が高いということなんだろう。後は……まぁ……色んな意味で話題の学会を見たいっていう人々が凄く集まる」

「凄く集まる」


 少し遠い目をしたアベルに思わずグリーンがアベルの言葉をオウム返しで呟いた。

 既に色んな出店が出ていて子供から大人まで色んな人が通りを歩いていて賑わっていた。馬車が通る道すらも人々で溢れている。凄く集まってる。


 グリーンが騎士団によく顔を出しているせいか、アベルとグリーンはだいぶ親しい仲になったようだった。

 年齢もちか……多分近い。エルフも竜人も見た目で判断できない為はっきりとはわからないが。

 グリーンにいたっては記憶喪失な為、自分の年齢すらもわかっていない。多分、レイナとそう変わらないだろうとシオンは言っていた。


「ところでグリーン。今回の宗教学会で集まる宗教についてはもう覚えましたか?」

「ば、馬鹿にするなよ! ちゃんと勉強したぞ」

「ほぉ、では復習するとしようか」

「ぐ……わかった」

「レイナは復習する必要ななさそうですね」

「ええ。でも今回から新しい宗教が加わったときくわ。私も聞いておくことにするよ」


 シオンに話がふられて今まで黙って歩いていたレイナが口を開く。

 そんなレイナにグリーンが半目になって視線をよこしてきた。


 おい、大変失礼な態度だな。グリーン。


 レイナは心の中では呟くが口には出さない。

 なぜなら今はそんな口調は使えないからだ。

 今回、レイナは完全に国王専属騎士として動く。無駄やたらに叫んだり動いたり殴ったりすることが出来ないのだ。

 その為、常に穏やかな笑顔を浮かべて落ち着いた喋りをする。

 グリーンは普段のレイナを知っているだけに、今のレイナに違和感しか覚えなくて喋る度にそんな視線を向けてくるのだ。

 もう今日だけで片手以上の回数をそんな視線を向けてくる。いい加減慣れろ。

 そんなやり取りをシオンは楽しそうにニコリと笑ってみている。こいつはこのやり取りを心で笑って楽しんでいる雰囲気を感じる。ワザとレイナに話を振ってきてるようだから間違いない。

 アベルは何故か微笑ましそうにレイナのほうをみるので、これはこれでレイナは複雑だ。

 気を取り直すようにレイナは小さくひとつ咳をする。


「まずは参加する宗教団体を全部あげてみましょう」

「はい。ではレイナさんの代わりに私があげていきましょう。今回参加する団体は主催の女神信教を含めて4つの団体です。女神信教、アルマスティニア教、新大地聖教、アンファマーユ教となります」

「あーと、新しく参加するのがアンファマーユ教ってのだっけ?」

「おや、ちゃんと覚えているようですね。それぞれの宗教については私がご説明いたしましょう」


 女神信教……言わずと知れた女神を崇める宗教。女神の塔が国を通して支援している。


 アルマスティニア教……様々な神様がいると信じられ、色んな神様がいるから世界が支えられていると説く宗教。例えば太陽神、豊穣神等々、役割がそれぞれ違うとされている。


「アルマスティニア教はどちらかといえば精霊崇拝にも近いですね。太陽神は火の最高上位精霊としていましたし。精霊は神の生まれ変わりだとも言われています。違いますけど」


 説明しておいてさらっと否定するのもどうかと思うが。

 まぁ精霊本人がそういうのだからそうなんだろう。

 ちなみに、アルマスティニアという名前は創世神話からとっているそうだ。

 創世神話に「大地マルマスティニア」という神がいる。それを少しもじってアルマスティニア教とつけたのだとか。

 創世神話は様々な場所で色んな形で残っている。いずれ語ることもあるだろう。


「次に、新大地聖教。簡単に言ってしまえば反女神派の集まりです」

「え!? それいいのか!? 色んな意味で」

「まぁ、ちゃんと活動はしているぞ。どうも女神の塔が国を管理している部分があるせいで「神」という存在として認められないんだそうだ。新大地聖教にこれといった神は存在しない。人々こそがこの世界を築き上げていると考えられていて、人として優れている者を信仰の対象としているようだ」

「そうですね。例えば「愛し子」がその対象でしょうか。おかげで愛し子が見つかると保護という名の拉致をしていきます」

「……なぁ、シオンの説明が辛辣に聞こえんだけど」

「安心して下さい。そう聞こえるように言ってます」

「なんでだよ!!」

「そもそも私達精霊にとって宗教なんてものはただの妄言です。ありもしない物を自分の都合の言いように作り出し語っているだけに過ぎません。しかし、それで心救われる者もいることでしょう。たとえ虚言であろうとも言の葉の威力というのは絶大ですから」

「……なんか難しい言いようだけどよ、つまりシオンは宗教が嫌いなんだな」

「別に嫌いではありません。私にはただの道化師たちの集まりにしか見えないのです。だからまぁ自然とこういう言い方になってしまうのでしょう」

「精霊様の考えは根本的なものから違うと聞きます。私達が信じている宗教が踊り狂う道化に見えてしまうのも致し方ないことなのでしょう」

「いえ……そこまでは言ってませんが……まぁいいでしょう。そういうわけでちょっとだけ新大地聖教は過激派になりますが、人々の可能性を伸ばそうとする団体なのでそれなりに広まっている宗教です」

「ふーん。でも反女神派なんだろ? いいのかそういう奴らがここに来て」

「女神信教はそういうのも拒まない。むしろ反対意見があってこその学会だと言い放つくらいだからな。新大地聖教も別に女神を非難したいわけではない。ただ信じられないものが別のものを信じただけに過ぎないんだよ」


 そういうものかーとグリーンは相槌を打つ。


 というか、ちょっと過激程度で済んでたらこの学会だってここまで盛り上がってないんですけど……


 というツッコミを入れたいのを口を引き締めることでレイナは我慢する。

 シオンがなかなか辛辣な言い方をしていたが、あながち間違いではない。

 なんだかんだと人を集め有名どころとなっている宗教はそれなりに権力を持っている。愛し子を保護するというのも国は認めてはいないことだ。特に明言はどこの国もしてはいないがだからと言ってどの国も保護することを許可は出していないはず。

 しかしそれなりに力を持っているせいでのらりくらりと国の目をすり抜けてアレコレやることは多い。

 もちろん新大地聖教に限った話ではない。

 どこの宗教もなんだかんだで犯罪ギリギリのラインをやり取りしている。

 女神信教だけはさらに上に女神の塔という上司がいることで規律はかなり守られているが。もっとも完全にとはきっと言えないだろう。

 数年前にどこぞかの田舎の教会がそこの領主と手を組んで色々悪さをしていたことが学会に上がり糾弾されたこともあった。

 なんだかんだで結局宗教ってのは様々な欲が内に蔓延る人という生き物が管理する団体だ。

 そういうものを持ち得ない妖精や精霊にとっては色んなことを説いてまわる人々は道化にしか見えないのだろう。

 だからこそシオンは思ったことをそのまま口にしただけに過ぎないのかもしれない。


「さて、では最後に今回新たに参加するアンファマーユ教」

「そういやアンファマーユってどこかで聞いたことあるな」

「……まぁアンファマーユも創世神話に関連する名前だからな」

「そうなのか」

「ではまずその名前の由来になったアンファマーユとは」

「とは」


「創世神話に登場する神のうちのひと神。絶対悪神アンファマーユ」



「邪教じゃねぇか!!!!」



「うん、落ち着けグリーン。気持ちはわかるが落ち着け」

「いや、だって、普通におかしいだろ!?」

「うんうん、わかるよ。誰もがきっとそう思うだろうね。だって絶対悪神って創世神話で一番最悪の邪神だからね。でも残念ながらこのアンファマーユ教はちょっと違うんだよね」

「は?」


 思わずポンポンとグリーンの肩を叩いてレイナが首を横に振る。

 わけがわからないという顔でグリーンはレイナを見るが視線を向けた途端、レイナはいい笑顔で笑った。


「絶対悪神アンファマーユを頂点に置く事でその下の者達はその行いを心に留め、反面教師として正しい行いを精一杯やっていこうというのがアンファマーユ教なんだよ!」


「いや、やっぱり意味わかんねーよ!!!!」


 レイナの説明に力いっぱい声を張るグリーン。

 思わず声をだして笑いそうになるのをレイナは堪えた。なぜならレイナも初めてアンファマーユ教の説明を聞いた時、グリーンとまったく同じ反応をしたからだ。


 いやー普通に誰もがそう思うだろーやっぱそう思うよねー


 しかもこれがちゃんとした事実なのだ。アンファマーユ教はその邪悪な名前とはかけ離れるくらい真っ当で真面目な活動しかしてない。

 飢えている人がいたら自分の食べ物を分け与え、困っている人がいれば手を差し伸べ、そして己は常に欲に溺れることなく清く正しく慎ましく。そうして自分を磨くことで自分も他のものも幸せに導かれるのだという行いをしている。

 いや、まったく、なんという理想で非現実的。

 だが綺麗だからこそ美徳で憧れ崇拝される。夢に夢をみるような宗教だ。

 そういうわけで実害は一切ない宗教であり、今のところ特に目立った行いもない。

 出来てまだそう年月が経ってないからというのもあるだろう。


 年月だけでいえば一番古いのは女神信教。

 次点で新大地聖教。まぁ反女神派だからね。

 そしてアルマスティニア教。

 今回初参加、アンファマーユ教となる。


 初の四宗教となる為、盛り上がりの規模が予測できない。

 今まで三宗教でもかなりの被害が出ているのだ。そこに一つ加わることで一体どれだけ学会が悲惨に……いや、盛り上がるのかは誰も予想はつかない。

 そのせいかなんなのか、去年よりもどうやら集まる人はだいぶ多いようだ。

 よく見れば大通りのど真ん中で怒鳴りあいの殴り合いがあるほどだ。


 ……ん? 殴り合い?



「毎度毎度ふざけたこといってんじゃねーぞ!」

「それはこっちの台詞だ! くだらないことばかり述べて! おまけに直ぐに手を出すとは浅はか極まりないな!」

「はん! てめぇらの中の弱々しい信仰心なんざガツンと活を入れてフッ飛ばさないとまともにもなりゃしねぇからな!」

「下賎極まりないな! 他の神を否定することしか出来ない奴らなど所詮暴力しか振るえない頭弱い奴らの集まりにすぎん!」


 おおっと、これはさっそく問題か。

 レイナが思わず隣をみればアベルが額を押さえて空を仰ぎ見ていた。

 レイナもまた小さく溜息をもらしてからアベルに声をかける。わかってますよ、と返事をしてアベルは肩をすくめた後、歩き出す。

 数人が殴り合っている大通りへと。

 レイナもまたアベルに続いていく。一応、腰についている剣に手をかけながら。


 まだ前日だというのに宗教争い……もとい、宗教学会の余波は既にでているようだ。


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