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某国の女騎士と仲間達の日常物語?  作者: しんり
第1章 女騎士とその仲間達
19/71

19、宗教学会と旅巫子 4

今回もキャラ視点です。

 食事処として選んだのは中級くらいのところで、騒がしすぎず敷居も高すぎず。落ち着いた雰囲気でありながら食事のメニューは誰もが選びやすい内容と金額だった。

 義父上があえてこういった店を選んだのが窺い知れる。

 だが、私としては少し困る。

 落ち着いた所を選んだのは話がしやすいようになんだろうが、ここは一般人が訪れるようなところ。私も義父上も騎士服を着ていて非常に目立つ。だがそれで騒ぎ立てられないのが店の品の良さを感じられる。

 だがそれでもチラチラとした視線が向けられるのは致し方ない。

 視線が向けられている以上、私は仮面を外せない。つまりここでは上司と部下……

 いや、今の私の立場は「国王専属騎士」……正確には国王専属魔導騎士なのだが、そこは私が所属していた関係の違いなので「魔導」の部分は毎度省くことにしている。

 その国王専属騎士という役職は義父上の「魔導騎士団長」より上になる。なにせ国王の側付のようなものだ。いや、側付とはまたちょっと違うが。国王の為だけの騎士とでもいえばいいのか……護衛ともまた違うし、少し特殊な立ち位置ではある。

 国王を守ることは当然だが、国王の片腕としても動く。たとえどんな内容でもだ。いいものも悪いものも、国王が命じればなんでもやる。そこに制限はない。まぁ、あくまで国内での制限に限りだが。ただ、レインニジアの権力を持って多少は他国でも融通することはある。

 故に国王の側に常にいるわけではない。殆ど仕事でいないことの方が多いかもしれない。

 まぁ、そのため、なんだ。うん、あまりこう、人に言えないことも、やる……こともある。ほら、大人の事情というやつだ。そこは気にしてはいけない。そしてそれを誰かに知られてはいけないし、一般人には完全に隠し通さなくてはいけない部分もある。

 国王専属騎士は常に誇り高く、麗しい存在ではなくてはならない。そういう効果を失ってはならないのだ。

 そういうわけで元から被っていた仮面をより強固にして被り続けなくてはいけない。


 あー面倒くさいなー、という心の声も絶対出しちゃ駄目だし、当然態度に出そうものなら国王から扇で往復ビンタを遠慮なく貰うことになるだろう。いや、貰ったことないけど、多分あの国王ならやる。


 話は逸れたが、今の義父上より私の方が立場が上。人の目がある以上、仕事仲間として会話をしなくてはいけない。

 しかも私が上……何度でもいう。私が上なんだ。無理だろう……なんて話せばいいんだ……

 まだ城の中なら以前みたいな上司と部下として話せる。なぜならその状態の方が長かったせいで周りもしっくりきているからだ。

 何より私と義父上を親子だと誰もが知っている。それに甘んじて私が専属騎士になった後もそのままの言葉遣いと態度でやってきた。

 城の外とか、しかも城下町を一緒に歩くなんてそうそうないから! 一緒に城の外に出るのは大体、遠征やら魔獣討伐やらとかそういうのだから人目気にしなくてすむし!


「頼むものは決まったか?」

「はい、黒星団長も決まりましたか? では店員を呼びましょう」

「……そうだな」


 にっこりと笑う私に対して義父上は苦笑を浮かべる。

 多分、ようやく気づいた。ここでは親子の会話なんて出来ないことに。

 いや、義父上も初めから親子の会話なんて出来るとは思っていなかっただろうし、会話をしたいからといって高級な個室部屋に入るわけにもいかない。

 立場的に入っても別に問題でもないのだが……義父上は貴族だし。ないんだけど、それはそれで格式を気にして気軽な会話も出来ない気がする。

 それに出来たとしても、どちらにしろ私としては気まずい。

 うん、それには、ちょっと、私が一方的に気まずい理由がある。大丈夫、義父上は関係な……くはないけど、私が気まずいのだ。


 そもそも私と義父上に血の繋がりはない。当然姿も似ていない。

 私は拾い子だ。しかも拾ったのは国王だ。一体国王がどこで子供なんて拾ってくるんだ普通……

 拾われた頃の記憶なんてもはや覚えてなどいない。どんだけ昔の記憶だと思っているのだ。ちっちゃい頃の記憶なんて印象強くなければ覚えてないものだ。

 ……拾われたことは印象強くないのか、と聞かれても、覚えてないのだからなんともいえない。まぁその当時の私は感情とかそういったものを一切出さなかった可愛くない子供だったらしいので周りに無関心だったんだろう。うん。

 幼い頃の記憶といえば義父上にずっと面倒を見てもらっていたこと、何かをして褒められて頭を撫でられると嬉しかったこととかは覚えている。

 そして騎士団の寮で育ったこと。


 騎士団の寮に子供は基本いない。

 家庭持ちの人は大体どこかに家を建ててそちらに住むからだ。たまに夫婦がいたがやはりいつかは寮を出て行った。

 まぁよっぽど金に困ってなければ、そりゃ寮みたいなむさ苦しいところなんぞに新婚夫婦が住むはずがない。騎士団はそれなりに高収入だ。もちろんランクもあるがそれでも一般人よりは遥かに給金は高い。

 当然既婚者は出て行く。

 あ、むさ苦しいとは言ったが、女性がいなかったわけじゃない。私が騎士になれたように女騎士は結構いる。

 余談だがあの青月団長の奥さんも元々女騎士で寮住まいだった。奥さんが赤天騎士団で、青月団長は言わずもがな青月魔導師団。

 あまり騎士同士は所属を気にしないので大体が皆ひとくくりに「騎士団」と呼ぶ。その為、寮もランクは分かれているが所属は分かれてない。騎士団も魔導騎士団も魔導師団もまとめてランク別に寮に放り込まれる。

 寮といってもなかなか設備はしっかりしていて、寮内で男女はきちんと分かれている。ランクが高くなればなるほど別館、戸建となっていく。戸建で寮と呼ぶとは規模が違うな……


 義父上は魔導騎士団長という立場だったので寮内敷地にある戸建に住んでいた。たった一人なのに無駄に広かった。

 そこに私が加わっても広かった。さらにレイも増えたがやはり広かった。開かずの間とかいまだにあるくらいだ。

 そんな場所で育つと、まぁやはり騎士に親しみをもつわけで。屋敷の外は寮内だ。非番の騎士達によく昔は遊んでもらっていたものだ。その遊んでもらった相手の中に何故か国王も混じっていた。よく連れ出された。外に。

 国王ってそんな暇じゃないでしょ! なんで人攫いみたいに子供を外に連れ出すかな!? 今ならわかる、あれは絶対やっちゃいけないやつ!

 まぁ、そのおかげでレイに出会えたわけだけども。その辺の話は今はおいといて。


 で、遊んでもらうってのは、つまり訓練だ。

 よく考えてみろ。大体が結婚もしてない戦うことが仕事の騎士だ。子供の遊び相手なんて務まると思うだろうか。

 脳筋共……いや、知識が必要な仕事もあるから完全に脳筋でもなかっただろうが……そういう奴らの「遊ぶ」は所詮チャンバラだ。それが白熱すると指導が入る。気づけば子供相手に普通の訓練になるのだ。

 寮内で他の子供もいないからその状態が「普通」と違うことに気づかなかった。そもそも私もそれを楽しんでいた部分もあった……と思う。

 気づけば子供ながらに騎士達の訓練に参加するようになった。誰か気づけ。それが異常だってことに。

 それが普通になって一人で城下町をウロチョロ出来るような年齢になった頃に、初めて町中で遊ぶ子供を見て自分の「遊び」が普通と違うことに気づいたさ……ちょっとショックだった。子供ながらに。


 だがおかげで正式に騎士見習いになったのも早かった。その頃から城に通うようになった。

 そう、そこで出会ったのが運のつき……いや、それは流石に悪いか……だが、本当にそう思ったのだ。当時は。

 ……訂正しよう。今でも思ってる。アレの出会いが私の性格をひん曲げた!


 国王の一人娘の姫に姉のように懐かれたことに!


 国王が変わってる人物だってことは知ってた。国王に駆り出された義父上がたまに魂抜かれたようにぐったりして戻ってくることも見たことがあった。

 その国王の娘だ。大体察して欲しい。


 それから私は義父上のように魂を抜かれたような状態になることがあった。


 義父上の気持ちがよくわかった。そして、何があったと聞かれたところで答えられるわけもなく。

 色々溜め込んでいたら、途中でなんかどうでもよくなった。いやーもー本当どーでもいいーって投げやりになった。

 もっとも溜め込んでいたのがその件以外もあったのもある。城に来るようになってからそれに気づいた。

 鬱陶しかった。まだ子供だ。些細な事だって気にするのだ。

 鬱陶しくて面倒くさくてどうでもよくなって。


 仮面を被り始めた。


 そうしたら実にスムーズに進むようになり、非常に楽になった。姫の方はもはや素であたるようにした。その方が楽だった。

 それでも溜まる物は溜まるので、ストレス解消として演習場に行って只管暴れた。うん、若かったから許して欲しい。色々壊したけど許して欲しい。ごめん。

 そんなことして暴れ……めきめきと腕をあげていったら昇格していった。何故かしていった。

 多分、国王の陰謀もあれは含まれてる。

 でなきゃこの若さでこんな地位にたってない。

 で、気づけば国王専属騎士。いや、もう本当いきなりさらりと言いつけられた。日常会話のように「お前、今日から俺の専属騎士な」だぞ。


 なにやってんだよ国王様よぉぉぉ! そんなん望んでなかったってのにぃぃぃ!


 国王の娘で魂抜かれてる私が! 国王の専属になって生きていられると思うか! 無茶振りやめてくれ!

 完全に放心した私は安寧の地である騎士団寮内の中庭で半日ほど倒れて動かなかった。現実逃避というやつだ。

 その時は流石に義父上も私に同情したような目を向けたし、赤天団長と青月団長も苦笑した上で私の肩を労るように叩いた。

 専属騎士になってからまったく環境が変わった。

 騎士団になかなか顔を出せなくなったのがまずいけなかった気がする。

 なにがいけないかって……さっきも言ったが、騎士団長より国王専属騎士の方が上。


 元々、騎士になってからケジメのつもりで敬語を使ったり、義父上ではなく「黒星団長」と呼ぶようにしていた。城の中では。

 あまりにもそちらに慣れすぎて家の中でもそのままの時があったが、まぁその時はまだそれでも支障はなかった。

 だが、私が立場が上になったことで義父上とどうに接して良いのかわからなくなった。

 なにより経験も知識も技術も上の義父上を差し置いて若造の私がこの地位につくとか普通に考えてあり得ないから!

 変な罪悪感沸いたんだよ! その時は!

 後はまぁ周りの思惑もこの時ばかりは気にしてしまった。成長したとは思っていたがまだまだ若かったようだ。

 親子としてのやり取りを素直に出来なくなってしまった。

 元々血は繋がってないし、育ての親だという認識も初めからあったから簡単に距離は開く。それを縮めるのは逆に私には難しかった。

 しかも意地なのかなんなのか、自分が素直になれてないだけというのを周りに悟られるのも癪だった。

 それがずるずる今も続いてる。完全にタイミングを見失った状態だ。

 まぁ、それが気まずい理由のうちの一つ。

 そう、一つだ。

 実はもう一つある。




 義父上は未婚だ。

 そう、未婚なのだ。少なくとも私が女性と仲睦ましくしている姿を見たことがないことから多分恋人もいない。

 同僚である赤天団長は婚約者がいる。青月団長は既に妻もいるし子供も二人いる。

 国王も娘がひとり。

 義父上だけなのだ。そういう話がないのは。

 ないのにも関わらず子供が二人いる。それはどうなんだ。

 結婚って男性だってしたいと思うものではないのだろうか。いくら子供がいるとはいえ! 一度は思い描くものじゃないのか!

 義父上の見た目は悪くない。むしろ今でも女性にきゃあきゃあ言われる人だ。まだイケる。

 地位も騎士団長。とてもいい。そして義父上は三男とはいえは貴族だ。条件はとてもいい。多少年齢がいっていても十分結婚を望む相手くらいいるだろう。

 にも関わらずそんな浮ついた話が一切ないのだ。なぜだ。

 思わず他二人の団長にいい縁談がないか相談したこともあるが何故か微笑ましい笑顔と共に肩を叩かれて終わったことがある。なぜだ。

 く、既に婚約者と妻ももっている身だからといって余裕をもちやがって……! そもそも二人とも人間ではないので寿命は長い。のに何故義父上より早く伴侶とか見つけてるんだ。ずるい。


 赤天団長ゼスタは銀狐アルジャンクスの獣人、青月団長ノアファーロはエルフだ。

 ゼスタは義父上より若干見た目が若い。しかし見た目の若さだけなら国王の方が若い。

 だがそれをいうならばエルフの方が年齢的にまだまだ見た目若いはずなのだが、実はノアファーロの見た目は義父上と同じだけ年をとっている。

 ノアファーロは「友や妻と共に生きていきたい」と願って自らにそういう魔法をかけているのだとか。

 ただし本当に自分の寿命まで縮めているのかどうかはわからない。命に関わる魔法は高等技術なのだ。それを青月団長が使えるかどうかは知らない。見た目だけ変えているのかもしれない。本人が満足そうにしていたのでそれ以上は聞いたことがない。

 ……青月団長はその性格もモテる要因の一つなきがする。やはり性格か。いや、しかし、義父上だって性格はいい。誠実で真面目で……昔は少し違ったらしいが。

 見た目も地位も性格も、どれも劣っている気はしない。なのに何故恋人や結婚に繋がらないのか。

 既に二人子持ちというのがマイナスなんだろうか。いや、しかし、そんなの私がレイを連れて家を出ればいいだけの話で、私の貯金だけでも十分余裕をもって暮らすことも出来る。邪魔だというなら即家を出て行く覚悟はある!

 ……というような話を団長達にしたら物凄い勢いで止められたので、あまり話題に出さないようにしているが。


 ならば好みの問題か。

 そう思ってかつて私は義父上に様々な女性をお勧めした。送り込んだこともあるし、送り出したこともある。

 そりゃあもう色んなタイプの女性を見繕って探して、義父上にお勧めした。

 そんな日々が続いて



 義父上が顔を真っ青にして意気消沈して家のテーブルに突っ伏してた。



 初めは何かあったのかとかなり心配したのだが、赤天団長と青月団長から「連日女性を送り込むのはやめてやれ。このままだとアイツが女性嫌いになる」「気持ちはわかるけど、こういうのは本人達の気持ちも大切だから、ね」と言われてようやく自分が原因だと気づいた。

 流石に反省した。やりすぎたと。

 しかし、しかしだ。

 やはり義父上の横に生涯を共に生きて欲しいと思える伴侶を得て欲しいと思うのだ。

 義父上は多分、そういうものに出会える一番の時期に私達の面倒をみて過ごしてきた。私達はそれで幸せだったが、義父上はどうだろうか。

 義父上は幸せだったのだろうか。これからも幸せであるのだろうか。

 私達がそれを邪魔しているのではないだろうか。

 このまま私達が義父上と共に過ごしていいのだろうか、と。

 思い始めたらキリがなく。

 一度失敗したせいで余計にもやもやしてしまった。


 自分の居場所を考えて義父上との距離のとり方に余計迷いがでた。


 それが気まずい理由その二。ほら、一方的でしょ。

 私が一方的に気まずいのだ。





 そんなことを気にしていたら食事も終盤に差し掛かっていた。

 会話? もちろんそんなに弾むわけがない。

 むーりーでーすー! 特にこんな場所で親子会話なんて出来るかー! 国王もその辺を予想して物事をいえー!

 しかし、食事は美味しかった。追加で頼んだ料理も美味しかった。腹も腹八分目で丁度いい。

 タイミングを見て義父上がさっぱりした飲み物も頼んでいた。

 こう、スマートに娘相手にこんなことも出来るくせに……なぜ、なぜ恋人がいない……!!

 は! いやいや、こういうのは巡り会わせだって青月団長がいってたじゃないか。私がまた余計なことをするわけにはいかない。


「たまにはこういう場所も悪くはないな」

「そうですね。息抜きには丁度よさそうです」

「ふむ、今度は部下も連れて来てみるか」

「そこは恋人とか……!」

「ん? なんだ?」

「いえ、何でもありません。ちょっと喉が詰っただけですのでお気になさらず」

「そうか。水を貰うか?」

「大丈夫です。一息もつきましたし、そろそろ神殿にむかいませんか?」

「そうだな。……まぁ仕事だからな」

「……そうですね」


 思わず二人して溜息をつきそうになった。仕事の内容が宗教学会についてだということを思い出したからだ。

 そうは思っても行かなくてはいけない。腹は満たされたが足は若干重い。

 それでも歩いていれば到着する。

 そういうわけで到着したよ、神殿に。

 城下町を過ぎた西側にそれはある。神殿とか施設とかでかい公園とか、そういうのがまとまっている地区だ。

 事前に連絡は来ていたらしく、ひとりの青年が出迎えてくれた。


「お待ちしておりました。私は神兵のイースと申します。お見知りおきを」

「もしや……魔人ですか?」

「ああ、はい。最初は誰もが驚かれるのですが、ちゃんと正式な神兵です。夢魔ですがたいした力はありませんよ」


 そういってイースと名乗った青年は笑った。

 多分、朗らかに笑ってるつもりだろうが顔つきのせいでちょっとあくどい笑みになってる。

 目つきは鋭く眉もきりっと上がっている。目元は紫色の隈取がある。耳と角があって短い薄紫色の髪をしていた。

 内界では女神の方針で種族に隔たりはない。それは魔人も同じだ。

 でも流石に女神に仕える魔人ってのは然う然ういない……と思う。多分。神兵魔人とかイースが初めてなので他にいるかどうかは知らない。語彙力に凄い圧を感じるな、神兵魔人。

 まぁ、普通の人だとなかなか神殿に魔人がいると疑いそうだが、ここは女神の神殿だ。かなりその辺のチェックは厳しいはず。彼がいう通りれっきとした神兵なんだろう。

 イースの案内で神殿の奥へと案内された。

 神官がこの先で待っているそうだ。そこで詳しい話が進められるわけだ。


 一つの部屋に案内されるとそこにはソファに座るひとりの女性。後ろに侍女のような巫子が控えていた。

 私達の姿を確認すると女性は立ち上がる。その姿は丁寧の一言で、顔には穏やかな笑みがあった。


「お初にお目にかかります。神官ティアナと申します。どうぞこれからよろしくお願いいたします」


 そうしてティアナと名乗った女性は丁寧にお辞儀をした。

 耳元に掛かるゆるく波打つ黒髪がさらりと流れる。

 まさに淑女とはこういう人のことをいうのだろうという見た目と仕草。服装は神殿の制服だが、きっと貴族のようなドレスを着ていてもまったく違和感はない。

 長いであろう黒髪を頭の後ろに一纏めに綺麗にまとまっている。少し伏せ目がちの新緑色の瞳が優しい雰囲気を出している。

 歳は私よりは年上だろう。そういえば初お目にかかるといっていたが、どうやら義父上とも初対面らしい。

 まぁ騎士団は何か事件が神殿で起こったりするか、この宗教学会の護衛くらいしか関わりがないからね。

 祭事の護衛は大体書類申請のみで配置などは城の役人の役目になる。


 私と義父上もティアナ様にご挨拶をする。神官という立場は多分義父上の騎士団長と同等くらいの立場だろう。なので「様」「殿」をこちらはつける。特にその辺に拘りはないようなんだが、なんかそういうことになっているらしい。

 それから一言二言、義父上とティアナ様が会話を交わし、ふとティアナ様がくすりと笑う。


 ……あれ、これは。


 こう、ティアナ様は女性らしい女性という雰囲気だ。守ってあげたくなるような雰囲気とでもいうか。

 そして私よりも年上。義父上よりは年下だろうが、そう年が離れているようには見えない。多分。

 予想ではあるのだが、義父上は騎士団長という立場から守ってあげたくなるような人がタイプなのではないだろうかと思っている。

 そういうタイプを相手にしていると義父上の雰囲気がやわらかくなるのだ。そう、今みたいに。


 あれ、これ、もしや、いいのでは?


 なにがって、アレだよ。恋人としてだよ。

 ティアナ様はまさに理想では!? 義父上との雰囲気も悪そうに感じない。

 これは期待していいのではないだろうか! いや、むしろしたい! むしろそうなってほしい!

 そうとなればここは娘である私が気を使うべきでは。何しろこれからも二人は出会う機会がある。仕事だから顔は合わせるというものだ。

 さりげなく二人きりにするのも私の役目ではなかろうか。

 うん、それはいい考えだろう。決して出歯亀なことはしない。そっと気を使うだけだ。余計なことはしない。





 そう決意しているレイナだが、既にスコンと忘れている。

 かつて女性関連で失敗し、反省していることに。

 決して頭の回転が悪いわけではないのだが、どうにも家族には甘く鈍いところがあるのがレイナだ。

 もう既にその思考自体が大きなお世話だと、気づくことはなかった。



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