15、盗賊とエルフ戦士 9
レイナが動きを止めたことで広間はしぃんと静けさが広がっている。
だが動揺した気配はありありと出ていた。
それは当然残されている盗賊達だ。困惑だったり恐慌だったり、しかしいまだに動けないでいるのはレイナが動かないからだ。
実際レイナもこれからどうしようかな、と特に急ぐわけでもなくどこかのんびりと脳内で考えていたこともあり動かないでいた。
そんな空気を壊すかのようにまったく別の場所から声は発せられた。
「すげぇ! すげぇよ! 姐御!!」
「流石俺達の主っすよ! 格好良かったっす!!」
「しかも国王専属魔導騎士! そんなすげぇ人だったなんて!!」
キラッキラした目の輝きに崇拝という文字が加わった気がする、レイナの舎弟……もといレイナの案内役だった盗賊達。
この空気を前にそんな発言が出来るのは、肝が据わっているのか、空気がただ読めないだけなのか。
というか、今、主とか言わなかったか? 誰だ言った奴、勝手にそんな脳内処理をするな! 認めてないぞ!!
思わずキッと舎弟……いや獣人の盗賊達を睨みつけるが、それすらもやつらのテンションを上げるだけで終わった。
なぜだ、何があいつらの機嫌をよくしているんだ……!
レイナは思わず眉間を押さえそうになったが、それを行う前にまた別のところから声が上がる。
先程まで困惑していた盗賊達だ。獣人達が空気を破ったことでようやく動けるようになったようだ。
「おい! 逃がすな! 騎士だろうがなんだろうがこれだけの人数相手に出来るわけねぇだろ!」
「お、おう。そりゃそうだ! 囲め!」
誰かがそう掛け声をかければ一斉に盗賊達は武器を手にレイナを囲む。ついでに敵と判断された獣人達もだ。
獣人達は囲まれた時点でその周りの者達と何やら言い争いを始めたが、レイナはただ周りを眺めるだけで収めた剣すらも手に取る様子はない。
「流石にこれだけの人数だからな。諦めたか」
「いや」
一応、否定らしい言葉を口にしてレイナは肩を竦める。
「そろそろ時間だと思って」
と、レイナが言い終わると同時に馬鹿でかい破壊音と共にでかい扉が吹き飛んだ。
突然のことに囲んでいた盗賊達はレイナから目を離して扉の方を急いで向く。
吹き飛んだせいで砂埃が舞っている中でうっすらと人影が見えた。と思えば、わっと勢いよく人が雪崩れ込むかのように次々と入ってきた。
全員が同じ服を着て、全員が武器を持ち、全員が竜人であった。
「我らレインニジア国魔導騎士団、竜騎隊である! 大人しく降伏せよ! 抵抗するのであれば武力を持って制圧をする!」
先頭に立つ見た目の若い竜人が広間に響くほどの声で告げた。
身長は高く(そもそも竜人は基本背が高い)体格は竜人にしては細く、しかししっかり筋肉はついていて騎士らしいバランスを保っている。
漆黒の髪が肩まであり、青みがかった黒い角、青緑色の目は敵を前にして釣り上がり鋭くなっている。
黒竜の竜人である彼は先程自分でも名乗り上げていた竜騎隊の一員でもあり、隊長でもある。
そしてそれだけでは終わらない。彼の名をここで述べておこう。
魔導騎士団副団長、アベル・ランティース
副団長自らが自分の隊である、騎士団最速と言われる竜騎隊を伴ってこの場へと参上したのだった。
もちろん盗賊達は抵抗した。
抵抗された為、竜騎隊は武力を持って制圧を始める。それはもう圧倒的で。
なにせ竜人だ。先程までレイナが戦っていたあのボスと同じ種族だ。
そのボスに従っていた盗賊達が複数の竜人相手に敵うどころか、相手にもされるわけがなく。大体一発殴ってそのままお縄についている。
そんな様子をただ眺めるだけのレイナに、先程声を上げた青年、アベルが近づいた。
「こんにちは、レイナさん」
「まさか普通に挨拶されるとは思わなかった!」
「いえ、私達が到着した時点でもう終わってるも同然ですから。正直なところ引率するだけの仕事だったので今は暇でして」
「副隊長が引率だけって……いや、そもそもなんで副隊長のアベルが態々来てるの。そこまでするレベルの相手じゃないでしょ」
「レイナさんからの頼みですから。私が会いたかったのもあるし、運がよければ久々にレイナさんの戦ってる姿も見れると思いまして」
先程まで敵を威圧するような迫力はすっかり鳴りを潜め、にっこりとアベルは笑った。
その笑顔はどこかの何かに似ていて見たことがある気がする。つい最近。いや、ちょっと前に見た。
つい、レイナがチラッと見たのは尻尾をブンブン振って此方を見る獣人達。
そう、アレだ。アレ。あれと似たようなものを感じる。
そういえばよく見りゃアベルの竜の尻尾の先もちょっとユラユラ揺れてる気がする。
え、お前もあっちのと同類だったの? という感じの視線を思わずアベルに向けると、アベルは少しだけ頬を紅潮させて嬉しそうに微笑む。
「レイナさんは私の憧れですから」
おっと、案外身近に崇拝信者がいたぞ! いつの間にだよ!
そもそもレイナとアベルはもうだいぶ付き合いが長い。それこそアベルが見習い時代からの知り合いだ。お陰でアベルはレイナの猫っ被りも本性も知っている。親友のような間柄だと思っていた。少なくともレイナはそう思っていた。
どうやら違っていたらしい。なぜだ。一体どうしてそうなった……
いや、しかし今はそんなことはどうでもいい。置いておこう。
ひとまず現状の説明をしようではないか。
そもそもなぜここに国の騎士団が来ているのか。
本来ならば国の騎士なんて正式な手続きをしてからでないと派遣されることはない。同じレインニジア国内であろうとも管轄外の場所に行くときは必ず手続きをする。だから騎士が来るのに時間がかかるのだ。
まぁ事件が起こったとすれば手続きは必要ないのだが、前に説明したとおり本隊は城勤めの為、到着はどうやっても遅れる。
ただ、例外はあるが。
今回、事件が起こる前なので手続きが必要だった(盗賊被害は事件じゃないのかと思うかもしれないが、事件として処理する前にサシィータがレイナに掃除役を押し付けてきたお陰で事件として処理をされていないのだ)。手続きをして実際派遣されるまで少なくとも三日以上は掛かっていただろう。
時間が掛かるからレイナは応援を呼ばないと、町でグリーンに言っている。
そう確かにそう言った。
そりゃあんな店の中で誰が聞いてるかわからない場所での相談なんて本当のことを言うわけがない。
盗賊のボスがこちらの行動に気づいていたのも予想済みだった。あの店で作戦の相談している時から予想していたから先程のことに驚きもしなかったのだ。
そういうわけでレイナはこっそりと誰にも言わず城に手紙を送った。速達という名の魔法で送った。しかも騎士団長と呼ばれる相手に直接送った。
大所帯の盗賊共を全員殴るとか面倒くさいことはしない。レイナは最初っから盗賊の頭を潰すことだけしかするつもりはなかった。
残ったのは全部騎士団に回収してもらおう。そうしよう。
え? 手続き? そんなもの魔導騎士団長に直接手紙を送った時点でなしだ。なし。
後は騎士団最速と呼ばれる竜騎隊が来てくれればよし。一日もあれば十分間に合うだろう。
だが一応余裕をもって二日にした。場所は実はシオンが用意した懐中時計のような魔道具、あれも一緒に同封して送って使い方も書いたから心配はない。
こうして勝手に盗賊包囲網は完成していた。
いやーこういう時、国王専属騎士という肩書きは実に便利だ。
そうして現在、レイナの思惑通りに竜騎隊が到着し、盗賊達がお縄頂戴となったわけだ。
着実に蓑虫状態の盗賊達で出来た山がどんどん大きくなる様を見ながらレイナはここにいる必要もなさそうだと判断し、体を反転させて扉の方へと歩いていく。
「レイナさん、どちらへ?」
「あー連れ達を回収してくる」
「ああ、ご一緒してた魔法使い見習いさんと精霊様ですね」
「ついでにあと一人ね。あ、そうそうアベル。そこの獣人達、私を手助けしてくれた奴らだから手心ぐらい加えてやってあげて」
「あ、姐御……!」
「なんてお優しい……!」
「一生ついていきます!!」
「ついてこなくていいわ!!」
「いやいや、気持ちはわかります。そうですねレイナさんを慕う気持ちに免じて私も口添えはしておきましょう」
アベル、今のは聞かなかったことにしておく。
そうしてレイナはさっさと広間を後にしたのだった。
それから数十分。
「あれ、もう終わったのか?」
「はい、一人目回収」
分岐点まで戻ったレイナがグリーンが進んでいったほうへ行けば、直ぐにグリーンを見つけることが出来た。
倉庫らしい場所が並んでいる為、道が入り組んでなく単調だったのと、グリーンがご丁寧に人の気配がある場所を全部潰していってくれていたお陰であまり先に進んでいなかった。
いや、この短時間でかなりの量の盗賊達が道端に倒れていたのを見た。スピード勝負というのをしっかり覚えていたのだろう。ほぼ一撃で沈めていたらしく、争った形跡は殆どなかった。
取りあえず合流したグリーンには、説明を面倒くさがったレイナがかなり省いて「終わった。帰るぞ」だけで済ました。しかしそれでグリーンは納得してしまった。それでいいのか。
そうして次はネーナとシオンの回収である。
多分この先が捕らわれている人達がいる場所だろうと予測して二人は進む。
そして見事に予測は当たった。
「あ、あー! レイナさん! グリーンさん! よかったー!」
「おや、思いの外早かったですね」
鉄格子風に作られた土……いや、岩の中に捕らわれた人々はいた。それなりに広く、どうやらここにひとまとめで入れられているようだ。
まだ入れられてそんなに経っていないのか、中にいた人々は割かし元気そうだった。何せ物珍しいシオンの姿を見て子供ははしゃいでいるくらいなのだから。
尻尾を引っ張られてシオンの笑った顔が少し引きつっている。あれは子供相手だから色々我慢してる状態だろう。いい気味だ。
牢屋の鍵など見つけていないのでレイナはオリハルコン製になった剣で岩の鉄格子を切り刻んだ。
「オリハルコンとかそんな珍しいの、いつの間に持ってたんだ!?」
「作った」
「希少鉱物だぞ!?」
「まぁ売り物にはならないけどね。魔法で作ったオリハルコンって数回使えば壊れるし。原石から生成すれば違うんだろうけど、そこまでやるには四大賢者並の実力ないとだし」
そういってレイナはオリハルコン製の剣をしまう。そもそも鉱物変更という魔法も十分凄いのだ。なにせやろうとすれば火廣金すら作れてしまうのだから。ただし魔法で作ったものなので贋作扱いだ。
鉱物の性能は綿密に魔力を注ぎ事細かに生成をしていけば行くほど元の鉱物に近いものになる。相当の根気と技術は必要だが。
ある程度似せるだけならそこまで注ぎ込む必要はない。
レイナのオリハルコン製の剣もあと二回くらい何かを切れば壊れるだろう。
鉄格子がなくなったことで捕らわれていた人達が中から出てきて喜びをそれぞれに分かち合っていた。
そんな中、グリーンが見知った人物を見つけた。
「あれ、お前なんでこんなとこにいるんだ!?」
「……ああ、グリーンか。久しぶりだな」
最後の方になってのっそりとゆっくりした動きで出てきたのは一人の青年だった。
黒髪で襟足は上に跳ねている短髪で、見た目は中々に格好いいがその表情は無表情だ。いや無気力っぽい感じだ。
服装は地味でもなく派手でもなく、旅がしやすそうな服装である。
どうやらグリーンと知り合いのようであるが、一般人にしか見えないこの青年とエルフの関係とは。
「旅商人だ」
「まだ何も聞いてない!」
「なんとなく聞かれそうだったから先に言った」
「そこの羽虫……んん、妖精と似たようなことしないで。怖いよ」
「心外ですね。でもまぁ似たようなものはあると思いますが。彼とは私も知り合いですし」
「これまた意外な繋がり!」
「商人繋がりだな」
「そうですね」
「商人ってのは人の心読めるのかよ! やめろよ!」
まぁ読めはしないが表情の変化はわかる、と自分の表情は常に無気力そうな青年は言う。
お前、そんな表情で商売って出来てるのか。繁盛はしてなさそうだな……
なぜかシオンとも知り合いだった青年。改めて自己紹介をする。
「改めて旅商人のブルーだ」
「また色の名前!」
「ちなみにそこにいるグリーンの名前は俺がつけた」
「なんで!?」
「森で拾ったから」
「は?」
淡々としたブルーと名乗った青年の言葉に思わずレイナが呆ける。
そこでグリーンが思い出したように掌を打った。
「あ、そうだ。言い忘れてたけど俺、記憶喪失なんだよ」
「そういう大事なことは一番最初の自己紹介の時に言えーーー!!!!」
レイナのドロップキックが見事にグリーンの脇腹に決まったのだった。
気づいたら森にいたそうだ。
名前も自分がいままで何をしていたのかもわからず、荷物もなかった。
荷物どころか服もなかった。下着同然の姿で森の中で突っ立てた。
意識がはっきりせず只管ぼーっとして、いい天気だったから日差しが気持ちよくて思わずそのまま寝そうになったところにブルーが突然目の前に現れて吃驚して意識が完全に覚醒したとのこと。
いや、その辺はどうでもいい。
あまりにも何もない、本当に記憶すら何もない状態の名もないエルフに流石に同情したのか、ブルーが無償で衣類と暫く生活できるだけの金を与え、不便だからと「グリーン」と呼んだ。
髪が黄緑で周りが緑だからけの森にいたから「グリーン」
じゃあ、そのままでいいか。ってことでエルフは自分の名前としてグリーンと名乗るようになった。
「そんで状況把握の為に旅をしてたんだけど、それが思いの外楽しくてさ。何もかもが新しいことだらけで面白いのなんのって。記憶を思い出したらこの新鮮さがなくなっちゃうと思ったから自分の記憶を探すのをやめた」
「やめるなよ! なんで変な方向にポジティブなんだよ!」
「旅してたら絶対どっかで知り合いにあうだろう。天涯孤独って感じじゃなさそうだし。俺」
「そんなポジティブな天涯孤独な人はいないでしょうね。そこまでアウトドア派なら孤独でもないと思います」
「だよなー。まぁだからそのうち会えるなら今は今で楽しんでおこうって」
「えっと、会えないかもしれないと思わないですか?」
「エルフって寿命長いし、生きてる間に流石に内界一周くらいは出来るって! そしたら一人くらいは出会うんじゃねーかな」
「ポジティブというか天然というか……」
記憶喪失であることを忘れていたというのだから凄い。
しかしそれでよく今まで一人でやってこれたものだ。
そうか。そこで「万能力者」が役に立ったわけか。
なんでも卒なくこなし、色んなものを見て吸収して覚える。
なんていう運のよさ。
思わず脱力して座り込むレイナを疲れたのかと心配するグリーン。
お前のせいだよ、と口に出す気力もない。
そうこうしているうちに騎士団が仕事を終えたのか、アベルがレイナ達に合流した。
何故ここに騎士団がいるのか、ネーナやグリーンに聞かれたが無視をした。だがしつこく聞かれたので、そういうこともある! と無茶振りをした。なぜかグリーンはそれで納得した。お前、本当にそれでいいのか。
アベルはこのまま盗賊達を率いて城へ撤収するとのこと。
捕らわれていた人々も騎士団が保護をするということでブルーもついでに王都へ一緒に行くことにしたようだった。
彼には相方がいるらしく、丁度買出しに相方がいっている間に被害にあったので多分、相方が王都にいるだろうとブルーは言う。
そうか、相方がいるのか。それならその無気力な顔でも商売できるよな。よかったな。
準備が終わってアベルがレイナ達も一緒に帰るかと誘うが、領主への報告もあるためこのままここに残ることにした。
「そうですか。それでは一足先に城へと帰還しますね」
「騎士団長によろしく伝えといて」
「そこは是非、ご自分でされてはいかがですか。きっと喜びますよ」
「……まぁ、気が向いたら」
「あ、そうそう。レイナさん。実は伝言が」
「え?」
「サシィータ様が「無断で騎士団動かしたことは今回使用した経費ということで相殺にしておきますので、使った分の料金はご自分で支払って下さい」とのことでした」
「あのヤロォォォォ!! 何が何でも必要経費で落とさせない気か!!!!」
なにやら色んな感情が篭ったレイナの叫び声が洞窟にこだまする。
それを締めとして今回の事件は終了した。この後、恙無く領主にも報告が終り、感謝もしっかりされた。
ここで唯一よかったと思えることは、町で使った馬車代とか服代とかは領主が全て持ってくれたことだ。
国王や宰相なんかよりもよっぽどここの領主の方が尊敬すると心の中でレイナは崇めておいた。
ありがとう領主。事件解決してよかったね領主。
エルフ戦士の話はこれで終了です。
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◎7-2
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