12、盗賊とエルフ戦士 6
気づけば夕暮れ時が夜になっていた。
だがそれも想定済み。人気の無い穴の中を二人は進んでいく。当然明りはない。
グリーンが夜目がきくことも確認済みだ。そしてレイナも目はいい。
歩くスピードも変えずに二人は堂々と進んでいく。道は下り坂になっていてどうやら地下に続いているようだった。
「自分で掘ったのか、これ」
「そういう魔法あったっけ? 俺、属性違うからいまいちその辺しらねぇんだよ」
「地属性なら多分出来るだろうけど、ここまで大きな地下を作るとなると相当魔力は必要よ」
入り口の穴は然程大きくはなかったが中に入って進むと穴は3倍近く広くなっていた。竜の一匹は悠々と行き来できる広さだろう。それが今は真っ直ぐ下へと向かっている。
果たして地下に辿り着けばその広さはどれだけのものだろうか。
しかし、地下にたどり着く前にレイナ達の前に二本の分かれ道が出てきた。
「……右? 左?」
「じゃあ、右」
「なら俺は左な」
どうする? という質問は初めから選択肢にはなかった。道が分かれているなら別々にいけばいいというのがお互いのスタンスだ。
とにかくどちらかが頭を潰せばいいのだ。何かあったときの連絡をとる方法はある。
だからレイナが右といえばグリーンは左にいく。一応先程の魔道具はレイナが持つことにはなっている。ネーナがいる場所に行く必要がないので本当に迷ったときは針が示す逆の方向へ向かえばいいのだ。
レイナとグリーンは了承の意味で頷くとそれぞれに歩き出す。
それからすぐに走り出した。
分かれた先から明りが道を照らしていたからだ。罠や不意打ちなどを気にして慎重にいく必要はもうない。後は探りつつ、出会った者を片っ端から片付けていくだけだ。
周りが明るくなったことで広い洞窟のような場所の全容が見えてきた。
グリーンは走りながら周りを見て回る。そして自分が選んだ道が多分ハズレであることを悟った。
「もしかしてこっち、倉庫みたいなところじゃねーのかな」
所々木箱が積みかさなり、部屋のような空洞がたまにあるがその中には武器だったり、何かの荷物だったりが山のように積みあがっていた。
ついでにたまに見張りだかなんだかが歩いているのを見かけた。気づかれる前に潰した。
元々グリーンもそれなりに強くはあったが二日間のレイナとの組み手でそのレベルは遥かに上がったと思う。
拳を使っての戦闘なんて基本打ち込むだけで大体が終わっていた。それで終わるような旅しかしてこなかったからだ。
しかしレイナ相手ではそれは通用せず、最初はほんの数秒で地にひれ伏してしまっていた。
そこからレイナが色々と教えてくれた。
例えば間合い。例えば剣のようないなし合い。例えば魔法との組み合わせ等々。
様々な組み合わせや力を入れるタイミングなど、見て学んだ。
数時間もすれば簡単に倒れることがなくなった。というか力の差だけでいえば女性であるレイナより男のグリーンの方が何倍もあるのだ。技術が追いついてしまえば勝敗は見えている。
それでも魔法等の組み合わせでレイナが簡単に負けるなんて事は殆どなかったが。
しかもたまにレイナが技術とかそういうのを全部無視した問答無用の一発を打ち込んできたりもする。
そんなものを防ぐすべをグリーンは持っておらず、そのままノックアウトされること数回。
(これ、八つ当たりされてんじゃねーのかな!)
と思い当たる。ただし原因まではたどり着かなかった。しかし理不尽だ。解せぬ。
それにしても騎士であるレイナがここまで格闘技術を習得していることも不思議だった。
騎士ってのはそういうのも会得しないといけないのだろうか。
そう疑問に思ったグリーンは素直にレイナに聞いたときがある。
「……結構な修羅場くぐってきたから」と言って遠い目をしたレイナにそれ以上聞けなかった。聞いちゃ駄目な気がした。
そんなこともあり、今のグリーンはだいぶ経験値が上がっている。
元々強敵を前にしても焦ることや恐怖を覚えるようなタイプではないが(レイナはちょっと怖かった)今は何が出てきても余裕をもって相手が出来る自信も持てていた。
だからといって自惚れるわけではない。常に隙はみせないようにはしている。
そのグリーンが走っていた足を止めた。視線だけで周りを窺う。
それから足元のそこそこ大きい石を大きく蹴った。石が飛び、なかなかいい音が響く。
「なんだお互い気づいてたってか」
石が転がったほうからゆっくりと人影が出てくる。
誰かが潜んでいたことにはグリーンも気づいていた。しかし気配がまったく隠れていないことから本気で潜んでいたわけでもないようだ。
だからこちらも気づいたという意思表示に石を蹴った。無駄なやり取りを省く為に。
出てきた人影をグリーンはその目に映す。
そして
「しかしこんなところで同郷の……」
「お前のせいで俺が疑われたじゃねーか!!」
グリーンの問答無用の一撃が目の前のエルフの腹に決まった。
前言撤回。余裕を持って戦えるとか嘘でした。
頭にくると案外体が先に出るんだな、と足元に倒れた盗賊エルフを踏みつけながらしみじみ思う。
こいつどーしよーかな。取りあえず縛り上げて領主さんに渡して無実証明するかな。
そう考えてグリーンはこの辺に縄が無いかと探す。当然縄なんてものは持ってはいないから現地調達だ。
しかしその探す作業もすぐに中断された。
グリーンの周りに人の気配が一気に増えたからだ。エルフを踏みつけたままグリーンは意識を周りに向ける。
「なんだまだいたのか」
「おいおい、エルフが拳で戦うとか何やってんだ」
「魔法とか使えないタイプー? 何それ笑えるー」
「なに、じゃあエルフらしい戦い方ってやつ教えてやろうじゃん」
わらわらと出てくるわ盗賊エルフ。しかもなんか軽い。実にイラッとするタイプだ。
どうやらエルフはエルフでまとまって行動していたようだ。魔法や弓を中心に遠距離から獲物を狙ったり運んだりしていたのだろう。
グリーンはよし、と意気込みを新たに拳を掌にぶつける。
「イラッとしたからお前ら全員ふん縛ってやる。かかって来い!」
挑発と同時にグリーンは自分自身に強化魔法をかける。足に俊足を付け加えた。
踏みつけていたエルフを踏み台に前に飛び出せば、あっという間にグリーンの正面に位置していたエルフの目の前へと辿り着き、勢いを殺さずそのまま飛び蹴りを食らわせる。
一瞬で一人の意識を飛ばす。そしてグリーンは着地と同時にさらに横にいた仲間に足払いをかけ体勢を崩させすかさず腹に拳を叩き込む。
二人沈めてからグリーンは体を起こし、素早く次の目標へと視線を移すと後方のエルフから火の魔法が放たれる。
グリーンがすぐに振り返るが火の塊は真後ろにまで迫っていて避けられる距離ではなかった。
そのまま火の塊に飲まれる。
「はーはは! なんだよ、たいしたことねーじゃん! つまんねーの!」
魔法を放ったエルフが目の前で焼かれるものを眺めて笑う。だが、すぐにその笑は引っ込んだ。
目の前の炎が消えない。いや、まったく先程から炎の大きさが変わらない。
魔法の火は普通の火とは威力が違う。人なんてあっという間に燃やし尽くしてしまう。
なのにそれが消えない。
なぜだ!
そう思った瞬間に炎は動いた。正確には炎の中のグリーンが、だ。
気づけば炎がエルフの目の前に迫っていた。
「ッ!!」
炎を纏った拳を顔面に受けてエルフは意識を失った。
術者が倒れたおかげか、炎がそのまま消える。その中から無傷のグリーンがなんでもないような顔して立っていた。
「ふーん、なるほどねぇ……」
「な、なんなんだお前! なんで無傷なんだよ!」
「おかしいだろ!」
さすがに炎を全身にくらって無傷どころか服すらも焦げていないグリーンをみて周りが騒ぎ始める。
そもそもエルフは魔術に長けている。魔法使いの部類もエルフであることが多いくらいだ。
そのエルフの魔法が効かない。確かに魔法を防ぐ術はあるが、グリーンはそんなものは発動させてはいない。それどころかそういった術をグリーンは身につけてはいないのだ。防ぎようはない。
だが現に傷を負ってもいなければ衣類でさえダメージは受けていないのだ。
同じエルフだから魔法が効かない、なんてことは当然無い。ならばなぜ。
騒ぎ始める周りに構わず、何かを確かめるようにグリーンは拳を握ったり開いたりを繰り返す。
それからニヤリと笑う。
「魔法とか弓とかどんどん使っていいぜ。そんなもん効かねぇからな」
ヒッと小さな息を漏らす音が聞こえるがそんなものグリーンは気にも留めない。
すっと腰を落としてその場を飛び出す。
どさり、とまた一人エルフが地に伏せた。他のエルフがそれを確認する前にグリーンが既に別の相手へと向かっている。
戸惑う相手ほど沈めやすいものはない。
この隙を逃さずグリーンは着実に、一撃でエルフ達の意識を奪っていった。
魔法は先程も証明したとおり効かない。弓は相手が射る前に距離をつめる為弓が意味をなすことはない。
魔砲銃を持っている者もいて、弓より断然早く弾を撃つことが出来るそれはグリーンを捉えると同時に撃たれるが当たる事はなかった。
次の瞬間には魔砲銃がグリーンの手に掴まれていた。
「魔砲銃はちょっと厄介だけど、狙いを定めた場所は弓に比べたら丸わかりなんだぜ。知ってたか?」
そうして掴んだ銃ごと殴り倒した。
体のどこを狙っているのかわかりやすいから避けるのも簡単、というのがグリーンの考えなのだが、その避けるという行為が普通は難しいということは理解していないようだ。
こうして本来エルフが得意とするものを全て無効化したグリーンは多数いたエルフ達を然程時間もかけずに全員叩きのめすことに成功した。
そして縄も見つけたグリーンは次々とエルフ達を縛り上げていく。当然全員領主元行きである。
「にしても、まさかいきなり役に立つとはなぁ」
全員縛り上げたところでグリーンはそんな呟きを漏らした。
そうして懐から一つのブローチを取り出した。
「見た目はただのブローチなのにな。これが「魔法無効効果」常時発動してるとか……魔道具って本当すげぇ」
シンプルな枠に赤い石が嵌ったブローチ。よく目を凝らせば石の中に何かが刻まれているのが見えるが何が刻まれているのかまではわからない。
全部の魔法を無効にするわけではなく、使用者の発動した魔法は有効だそうだ。こんなシンプルなブローチがそこまで使い分けしているとかにわかに信じがたい。
だが実際、敵対する者の魔法を無効にしているし、自分の魔法はちゃんと使用できた。
これは作戦を決行する前に、一応とシオンから渡された魔道具だ。
『エルフがいるのですから一応。魔法を無効にしてくれるブローチです。常時発動型なので特に何かをする必要もありません。ただし効果は24時間です。貴重なやつなので壊さないように』
そういって渡された。ちなみにレイナは遠慮していた。嫌そうに。
初めはこんな便利なアイテムを遠慮するなんて変わってるなって思っていた。
しかし、ここに来て理由を察する。
「貴重ってことは……これ、相当な金額するんだろ。渡された時点で一体いくらなんだよ……」
思わず自分の懐具合を確認したくなったが、今は先を急ぐ為一旦頭の隅へと追いやることにした。
ブローチは絶対に壊さないようにしようと決意を新たにして、気を失ったエルフ達をひとまとめにして隅においやってからその場を後にする。
そういえばレイナのほうはどうなっているだろう。こっちがハズレなら多分向こうがアタリの筈。
なんとなくそんなことも気になったが、多分自分が気にすることでもないんだろうな、と思い直してグリーンは先に進むのだった。
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