10、盗賊とエルフ戦士 4
「いや、俺関係ないからな」
慌ててグリーンがレイナのほうを向くがレイナは手を振ってあしらうだけで終わった。
取りあえず今はそれ以上は喋るなというつもりだったがどうやら上手くグリーンには伝わったらしく、グリーンはやや不服そうにしたもののそのまま口を閉ざした。
「取りあえずこの男については今回は私が面倒をみますのでお気になさらずに」
「いえ、こちらもそちらのエルフが町の警備をしているという話は聞いております。普段でしたら感謝もしたいところなのですがそういう話が出ている為、確信がない状態では何も言えないのです」
「まぁそうでしょうね。それで盗賊に関する情報はまだありますか」
「後は細々とした被害状況ですね」
「ではそちらを聞いたら私達も町中で調べさせて頂きます」
「はい。よろしくお願いします」
領主は深々と頭を下げて礼をする。
ただの騎士とはいえ普通領主がこのように頭を下げることは滅多にない。
それだけ今回の事件が切実なのか。それとも……目の前の騎士が誰なのか気づいているのか。
王都から近いし、領主といえば貴族だ。もしかしたら見たこともあるのだろう。
だがそれは今追及することでもなければ、聞かれても困ることだ。
領主の態度にレイナもまたそれに応えるだけの礼をして返すことでその場を終りにした。
さて、場所は変わって先程の町中の商店街。
その中の軽食が出来る店によって腹ごしらえ。レイナが領主に面倒を見るといった以上、このまま、はい、さよならと別れるわけにもいかずグリーンも共に食事となった。
もちろん事件は解決してないのだからグリーンもレイナから離れるつもりはない。そもそも事件の容疑者となってしまったのだ。むしろはっきり自分は無実だと証明するまでレイナ達についていくつもりでいるようだ。
それぞれが注文し終わると作戦会議へと入る。
「確認だけど、犯人じゃないのよね」
「だから違うっつてるだろ! というか盗賊の中にエルフがいたのだって初耳だ」
「警備の方々は知らなかったんですか?」
「さぁな。あの人達本当に人が良いから気を使って教えてくれなかったのかもしれないな」
「じゃあグリーンさんは白って認識でいくとして、今後は手伝ってもらえるんでしょうか?」
「もちろんだ。俺も疑われたままなんて嫌だし」
疑われたのが本当に嫌だったのかグリーンは腕を組んで眉を吊り上げて怒りを露わにした。
しかしグリーンはどうやらそれだけで機嫌を悪くしているわけではないようで、盗賊の中にエルフがいるということもさらに不機嫌さを煽る要素となっていた。
「そもそもエルフがなんで盗賊なんてやってるんだ。誇り高い種族だぞ」
「どの種族にもつまはじき者ってのはいるものよ。獣人だろうがドワーフだろうが悪の道に走るんだから。知識高いドラゴンですら道を外れるものがいるのよ。エルフだから盗賊をやらないなんてことはないわよ」
「そりゃそうだけどよ……」
「まぁそんなことより、今後の行動についてを話しましょう」
「そんなこと……」
どこか納得できないグリーンがさらに顔を顰めるが完全に話題を切り替えた他の三人の様子を見てそのまま口を閉じた。賢明である。
さて、まずは盗賊の情報確認からだ。
レイナがひとつずつ上げていき、全員と情報の誤差がないかを確認する。
どうやら全員話についてこれたようで認識違いを起こすものはいなかった。よし。
それを踏まえて次は何を確認するのか。
「盗賊は複数存在するのか、しないのか」
「どちらとも言えませんね」
「でも、こんなに近い場所で複数も盗賊なんているもんなんですか? だって城下町近隣でとか自殺行為じゃないですか?」
「逆をいえば王都近隣は金になる木が多い」
「人や商品が集まるからか」
「ちなみに曖昧になってるから説明するけど、王都と城下町は範囲が違うわよ。王都はレインニジアの首都。でかい街そのままを王都というわ。城下町は城の周りのみを指すからね。しかも城がでかいせいで正門前からの前の街、そうね確か一般住宅街辺りまでが城下町だったかな。それ以外は区画事に呼んでいるわよ」
「え!? 城下町って王都のことなんだと思ってました!」
「嘘だろ!? そんな違いあったのか!?」
「レインニジアはとにかく広いですから。そうに区別をつけないとわかりづらいんですよ。区画ごとに領主のような人がそれぞれ管理しているくらいですから」
「大国ってすげぇんだな……」
それを踏まえて、改めてこのクレナラスは都市郊外南部。都市は王都のことなので王都近隣はあっている。
逆に城下町からは遥かに遠い場所になる。城下町近隣というのはまだ王都内のことになる。
王都内にはそれぞれ騎士が区画ごとに部隊で配置されている。一番多いのは当然城と城下町だ。
しかも本隊は城勤めとなる為、区画に配置されるのは本隊入りをしていない騎士達となる。
騎士達の仕組みについてもまた機会があれば話をすることにしよう。今はこのように認識してもらえればいい。
「区画にいるのは大体が下っ端騎士」だということ。もちろん全てではないが殆どが見習いから上がってまだ経験を積んでいる途中の騎士になる。
つまり何がいいたいかと言えば。
王都近隣で事件が起こったとしても騎士が駆けつける可能性は低い、ということだ。
正確には本隊が駆けつける、だ。下っ端が駆けつけたところで事情聴取くらいしか出来ないだろう。
こういった事情は王都やその近隣に住んでいれば誰でも知っていることだ。
故に王都近隣であるクレナラスで多々ある盗賊被害があったところで早々に本隊騎士が来ることはない。それこそ町に大きな損害が出た、となれば話は別なのだが。
盗賊が複数いたとしても被害がでかくなければ目をつけられることはない。
……ないのだが、塵も積もれば山となるとは今回のようなことをいうのだろう。
被害が重なり、とうとう案件がサシィータのところにまで回ってきたのだ。
つまり、目をつけられたのだ。
盗賊が複数いようがいまいが、掃除することは決定事項となった。
その役目がなんで自分なんだ、とレイナは心の中で愚痴る。
眉間に皺がよってしまったのを指で解してレイナは大きく息を吸って吐いて、気持ちを入れ替えた。
掃除が決定事項ならばなぜ先程盗賊が複数いるかどうかを聞いたのか。
それはもちろん、面倒な手間を省く為だ。
ただの大所帯の盗賊なら普通に叩くだけでいいのだが、複数いた場合、やり方を間違えると逃げられる場合がある。
逃がしてまた別の場所で被害を出されても困る。出来れば全てを捕らえてしまいたい。
その作戦を考えたいのだ。
「今から盗賊の居場所を調べるのは大変かと思いますよ」
「現状でもわかってないのにもし複数いた場合、全部を調べるのは骨が折れるわ」
「じゃあどうするんだよ」
「……そうね。その前にひとつ、グリーンに聞きたいことあるんだけど」
「ん?」
「まず…………」
問いかけられた質問にグリーンは首を傾げつつもそれに答えた。それを聞いてレイナはひとつ頷く。
そして粗方考えておいた一つの作戦をレイナは全員に伝えた。
やや困惑気味になるが食事がきたことで一旦切り上げることになる。その後も別の案が出てこなかった為、そのままレイナの作戦で決行となった。
少々準備がいるため、本日はクレナラスでそれぞれが別行動をとり準備に取り掛かる。もちろん情報収集も忘れない。
そうして準備が整い、決行することになったのは二日後の夕方だった。
そろそろ日が落ちるだろうという頃。クレナラスから一台の馬車が出てくる。
貧相でもなく、だからといって豪華でもない商人やある程度金を持っている人が乗るようなものだ。
少し急いでいるのか穏やかとはいえない速度で馬車は走っていく。
見たところ護衛と呼ばれるものはいなそうだ。外から見えるのは御者のみである。
そして引いている馬車の中には女性が一人。
「あ、あの! 本当に間に合いますか!?」
揺れが激しい中、女性が御者に向かって声をかけた。下手をしたら舌を噛んでしまいそうなくらい馬車が揺れている。
その揺れで落ちてしまいそうな帽子を慌てて女性は手で押さえた。もう片方の手は緊張しているのかドレスの裾をきつく握っていた。
身なりはとても整っていて、首元や手首、耳には宝石がついたアクセサリーが輝く。
白い肌は今は若干青白い。とても元気とは言いがたい顔色だが視線はしっかりと前を見ていた。
「ああ、安心しろって! 今からならギリギリ間に合いますよ」
「でも、あの森を通るんでしょう? 最近、よく出るって……」
「だからこうして速度あげてるんじゃないですか。さっさと通り抜ければ例え出たとしても追いつけやしませんよ」
御者はそう応えると手綱を一度振り上げさらに速度を上げた。
馬車の中から小さな悲鳴が聞こえるがそれは無視をした。
あっという間に目の前に森が迫る。御者はスピードを落とさずそのまま森の中へと入っていく。もちろん最近よく出るという盗賊に出会わない為にだ。
然程広くない森でもあり街道も広い為、そこそこスピードを出していても馬車が横転するなどということはなさそうだ。これなら例え出会ってもそのまま盗賊の方が弾き飛ばされて終りだろう。
そう御者が考えていると不意に目の前が暗くなった。
「なっ!?」
目の前は確かに広い街道だった。けれど今はそこにでかい壁がある。
慌てて引いて勢いを落とすがそんな急になんて止まれるわけもなく。止まれないなら曲がろうとして馬の向きを変えるが急な転換だった為、馬車がそのまま横滑りしてしまった。
勢いがついたまま馬車は目の前の壁へと激突する。
「きゃああああ!!」
突然の激しい揺れに馬車の中にいた女性は馬車の側面に勢いよくぶつかりそのまま気を失ってしまった。
馬もそのまま横転し、乗っていた御者も反動で馬車から放り出される。
幸い頭は打たなかったが全身を地面に打ち付けることになった御者は倒れたまま咽た。
暫くしてようやく息が整い御者は起き上がる。そうして一気に顔を青褪めた。
馬車の周りには多数の盗賊で囲まれていたのだ。
「ひっ!」
小さな悲鳴を上げると御者は後ろを振り返り倒れた馬車の方を見ようとせずそのまま一心不乱に走り森の中へと逃げ出したのだった。
盗賊達は逃げ出した御者の方は見ようとせず馬車の方へと近づいていく。
「なぁ、アレ追いかけなくていいのかよ」
「あ? あんなんどうでもいいだろ。捕まえても殺しても金になんてなんねーよ」
「まぁそりゃそうか。しかしなかなか上等な獲物がひっかかったもんだぜ」
「どいつもこいつも同じこと考えやがるぜ。さっさと通り過ぎりゃ襲われないと思ってんだからな」
「楽でいいよな。ちょっと魔法で壁作るだけで自滅してくれるんだからな。さて、さっさと回収すんぞ」
「おい見ろよ。女がひとりだけだぜ。しかもなかなか上等な服着てやがる」
「なら馬車ごと回収しろ。解体は向こうについてからだ」
「おう」
それぞれ役割が決まっているのか、盗賊にしては統率がとれていて手際が早い。多数いた盗賊達はあっという間に馬車ごと不思議な膜で包むとそのまま運び出し、森の中へと消えていった。
唐突に出来た壁は盗賊が見えなくなるとボロボロと崩れ、元の街道へと戻っていく。そして然程時間もかけずにまるで何事もなかったかのような静けさが戻ってきていた。
……かと思えば、近くの茂みがガサリと動く。
「……体いてぇ……」
「お疲れ。戻ってくるの早かったわね」
茂みから出てきたのは先程逃げ去った御者で。その御者とはまったく別の方向から女性の声が聞こえてくる。
上の方から僅かに葉がかすれた音がすると御者の隣に人が降ってきた。
「……お前、どうやって追いかけてきたんだ」
「企業秘密。にしても案外似合ってるわね。それ」
「そりゃどうも。おかげで髪はバリバリするわ、耳は引っ張られて痛いわ、挙句に受身もとらないようにしたせいで全身痛いわでボロボロだっての」
「エルフが御者してたら完全にアンタも誘拐される対象になるでしょうが。みすぼらしい位が丁度いいのよ。ああ、なかなかの演技だったわ」
「そりゃどうも! あんな三文芝居でも引っかかってくれて嬉しいぜ!」
耳に張り付いた糊をベリベリと剥がしながら御者……グリーンは少し投げやりになって応えた。
そんなグリーンを適当に流しながらこの場に出てきた女性、レイナは小さな小瓶を取り出した。
「ほら脱色剤。シオンがいうには数滴かければ元の髪色に戻るそうよ」
「なるほど。本当便利なもん持ってんな」
「……高いけどね」
「金取るのかよ」
金と聞いて一瞬使うのを迷ったがグリーンはその小瓶の中の液体を頭に振り掛けた。そうすると元の黄緑色の髪へと戻っていく。
先程まではどこにでもいる御者を装う為、髪色も変え、耳を隠し、服装もやや貧相なものへと変えていた。
当然、盗賊に怯えて逃げたのも芝居であれば、その前の馬車の中の女性とのやり取りですら芝居だ。
となると自然と馬車の中の人物が誰であるか予想はつくだろう。
「ネーナの奴、本当に気絶したの?」
「多分、シオンが気絶させた」
「マジか。あの妖精そこまでやるのか」
「なんか「狸寝入りでは絶対バレそうなので私の方で意識を落とします」っていってたぜ」
「怖いよ!! 言い方!」
しかもあの妖精なら物理で意識落としてそうでさらに怖い。
いや、もうその辺のことを考えるのはよそう。とにかくまずは最初の作戦はうまくいった。
後はレイナとグリーンが次の作戦へと移ればいいのだ。
そう。これがレイナの考えた二日前に考えた作戦だった。
私の中で曖昧になったので城下町と王都の違いを明確にしました。当作品での設定であって本来の意味と多少違うところもあります。区画のお話はまた別のお話で。
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