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還らざる翼  作者: pal
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初上陸

飛行適性試験を無事合格した明雄は、ひとまず結果報告と助言へのお礼を一条にした。


「試験に受かったか、良かったな」

明雄の肩をポンと叩き、自分のことのように一条が喜んでくれる。

そのことが明雄にとってはとても嬉しかった。


「ありがとうございます、お陰様で本当に助かりました。偵察に回されなくて良かったですよ」


その言葉を聞くと、慌てて一条は掌で明雄の口をさえぎった。

「シッ」

人差し指を自分の口に当てて、周囲を伺いながらさらに言葉を続ける。

「不本意ながら偵察になったヤツもいるのだ。不用意な発言はするなよ」


言われて明雄はハッと気が付いた。確かに試験に不合格になった人間もいるのだ。

そう考えると、今の発言は明らかに不合格になった相手のことを考えていなかった。

「すみません、今のは失言でした」

「うむ、わかってくれればそれでいい」

そう言って一条は明雄にニッコリ微笑んだ。


「ところで、明日は待望の初上陸の許可が下りるだろう」

「特に用事が無ければ、明日、俺に付き合ってくれ」

「別に構いませんが、何かあるんですか?」

「それは今はまだ内緒だ」

一条は微笑みながら、(たず)ねる明雄にそう言いながら目配せをした。


翌朝、朝食を終えると各自いそいそと身支度を始める。

七つボタンの制服に身を包み、班員同志で服装に乱れがないか確認しあう。


もし、先輩や上官の機嫌が悪ければ、ボタン一つ外れているだけでも、

「貴様はボタンが要らないんだな?」

などと難癖をつけられて全てのボタンを引き千切られてしまう。


せっかくの上陸をボタンの縫い直しで無駄にはしたくない。

そのため、上官の身嗜みだしなみ点検前の確認は真剣そのものである。


身支度が整い、外出希望者全員、練兵場で整列し上官による服装点検を受ける。

問題がなかったので、そのまま隊列を組んで門を出たあとに解散した。


「佐野」

門を出てすぐ、声を掛けられた。声の方向に振り向くとすでに一条が待っていた。

「すみません、お待たせしてしまって」

頭を手で撫でまわしながら、ややバツが悪そうに明雄は頭を下げる。


本来なら後輩として先に門外で一条を待つ、つもりだった・・・。


「では、行こうか」

だが、一条は特にとがめることもせずに、歩きだした。

「どこへ向かうんですか?」

倶楽部クラブさ・・・」

訓練生の外出先が指定食堂、または倶楽部クラブと呼ばれる指定場所であることは知らされていた。


ゆえに別段驚きもしなかったが、なぜ付き合えと言ったのか、

また、内緒話の時に多くでる一条の癖が気になっていた。


バス停まで徒歩で向かうと、そこからバスに乗り込む。

一旦、最寄り駅まで向かい、そこからさらに別のバスに乗り換えて目的の場所へ向かう。


バスの中は予科練生だらけで、ほとんど貸し切りに近い状態であった。

車窓から流れる景色をながめながら、一条はく。


「佐野、お前、美沙みさを覚えているか?」

美沙という名前を聞いて、明雄は一瞬ドキリとした。

明雄にとって初恋の相手でもあるし、忘れようがない。だが、何と答えて良いか迷った。


「なぜ、そんなことをくんですか?」

「いや、もし覚えているなら逢いたいかと思ってな」

「覚えてはいますが、何年も前のことなので、顔などはうろ覚えですかね」


明雄は美沙が初恋の相手だということは、故意わざと伏せて答えた。

一条は「そうか・・・・・」としか言わなかった。

「そろそろ降りるぞ」

目的の停留所へ近づくと、一条が下車準備をうながした。バスが停車すると同時に同乗していた練習生が一斉に下車した。


みんなが一斉に降りるので、明雄は少々面を食らった。

「ここでみんな降りるんですか?」

「指定先は限られているし、外出できるといってもそんなに自由が効くわけでもないからな」

一条はいかにも仕方ないような言い方をした。


「あそこだ」

一条が指さす先に1軒の古ぼけた木造家屋があった。大き目ではあるが、2階建ての一般の家のようだった。

倶楽部クラブというから、どんな場所かと思ってたんですが。なんか普通の家ですね・・・」

明雄が期待外れのように言った。どんな場所を想像してたのか、と一条は思ったが、

「意外と、思いがけないことがあるかもしれんぞ」と言った。








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