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還らざる翼  作者: pal
35/44

逮捕された明雄

「ぅ・・・ここは?」

目が覚めた時、一条はすでにベッドの上に寝かされていた。


「お兄さん・・」

ベッドの横で美沙が一条の手を取っている。


「美沙か・・・・」

一条は美沙に気がつくと起き上がるために腕を動かそうとした。


「痛つー」

ズキン!と痛む腕を見ると包帯が巻かれていた。



「手術したばかりだから、まだ動いちゃダメだよ・・」

美沙は安静にするよう一条を促す。


「手術したのか?」

「右腕の骨に銃弾が引っかかっていて、取り除く手術をしたんだって」

「撃たれたのか・・」

「おぼえてないの?」

「近くの草むらに飛び込んだまでは覚えてるんだが・・」


そこで一条は明雄のことを思い出す。


「そういえば、佐野はどうした? たしか、あの場に一緒にいたはずだが・・」

「明雄君は無事だよ。お兄さんが入院したことも明雄君が教えてくれたから・・・」

明雄は無事と聞いて一条はホッとした。


「そうか・・・よかった」


しばらくのあいだ、沈黙が2人のあいだに流れたあと、一条は美沙の手の上に自分の左手を重ねて語りだした。


「美沙・・・お前には謝らなければいけないな・・・」

「なにを?」

「お前を遠ざけようとしたことだ・・」

「そんな・・・もういいよ・・・今はそばにいてもいいんでしょ?」

「もちろん・・・。だが、聞いてほしい・・・」

「うん・・」

「特攻隊に志願したとき、俺は自分の意思を貫ける自信がなかった。特に、お前に会ったら、会い続けたら、後悔するかもしれないと思った。だから、お前に会うのをやめようと思ったんだ」

「そうなんだ・・・」

「特攻隊に志願した以上、いつかは会えなくなる。ならいっそ、嫌な男を演じれば、俺のことは諦めて新しい恋人を見つけるだろう。そう思った」


美沙は黙ったまま聞いている。


「けれど、本当に諦めきれなかったのは、俺の方だった・・・。だから、お前の窮状を耳にしたとき、自分の強がりに限界を感じたんだ・・・・・・。」

「よかった・・・・・」

美沙はホッとしたようにつぶやいた。


「よかった?」

「うん、ほんとはお兄さんに嫌われたんじゃないかって、不安だったの・・・・」

「そうか、本当にすまなかったな・・」


一条がそう言い終わると、トントンと扉をノックする音が聞こえた。


「一条さん・・・お目覚めかしら?」

看護婦がそう言いながら入室してくる。


「あ、看護婦さん・・たった今目覚めたところです」

美沙がそう言い終るや否や、3人の男がドカドカと押し入るように入ってきた。


看護婦は思わず小さく「あっ・」と制止しようとしたが止めようもなかった。

あまりの無礼な態度に一条はムッとした。


「どちら様でしょうか?」

一条が問う。


「失礼、我々は海軍特別警察隊の者です」

そう言って男たちが敬礼するので、美沙の手を借りながら、一条も無理を押して起き上がり敬礼を返す。


「なんのご用でしょうか?」

「じつは・・あなたの腕の怪我についてお聞きしたいのです」

「異なことを、これは米軍機による銃撃の怪我ではないのですか?」

「ところが、あなたの腕から取り出された銃弾は米軍のものではなかったのです」

「どういうことでしょう?」

「線条痕から、近くにいた官憲の拳銃から発射されたことがわかりました」

「ではその官憲が私を撃ったと?」

「調べでは、その官憲は米軍機の攻撃で即死したのではないかと推測されます」

「では、誰が私を撃ったというんですか?」

「我々は重要参考人として佐野明雄1等航空兵を拘束しました」

「佐野が!?」


横で聞いていた美沙も驚いていたが、黙って続きを聞いていた。

「なぜですか?」

「それは、これからの取り調べで明らかになると思われます」

「バカな!・・証拠はあるんですか?」

「あなたが倒れていた場所に官憲のものと思われる拳銃が落ちており、その拳銃から佐野明雄1等航空兵の指紋が検出されております」

「信じられん・・・」

「いずれにしましても、佐野明雄1等航空兵を重要参考人として尋問が行われる予定です。その前に被害者であるあなたに、思い当たる節がないか意見を伺いたいのですが」

「そんなものあるわけがない、意見と言うなら、あいつに、佐野に会わせてもらうわけにはいかないんですか?」

「会ってどうされるんですか?」

「あいつに真相を問い質すんです!」

「それは我々の仕事です。残念ながら会わせるわけにはいきません」

「だったら、情状酌量を!被害者である私が求めます!」

「情状酌量の件は上に伝えますが、今回の件は重大な軍規違反にあたるため、認められる可能性は低いでしょう・・・・・。他に意見が無いのであれば小官らはこれで失礼いたします」


男たちは再度敬礼して部屋をあとにした。

一条は絶望的な思いで部屋から出て行く男たちを見送った。

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