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還らざる翼  作者: pal
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兄弟姉妹

次の日から美沙の母に言われたこともあり、お見舞いには行かず、明雄の家で過ごすようになった。

お見舞いはなくとも、南井たちが美沙に対して何をしてくるかわからず、不安だったからだ


明雄の家になった主な理由は、美沙の家に近いことだった。もう一つの理由は、女子の部屋に上がり込むことに、明雄と一条の双方が抵抗を感じていたことだった。明雄の家から美沙の家までは道を挟んだ真向かいにあるので、一条と一緒に帰路につけば安心である。


とにかく、そのような状況が続いたせいか、いつの間にか美沙がイジメの対象から外れたことは幸いだった。


イジメがなくなってからも、3人は一緒に遊ぶことが多くなっていた。


夏休みに入ると、3人は午前中は明雄の家で宿題をして、午後は近くの川で水遊びや釣りを楽しんだ。


勉強が苦手な明雄にとって、夏休みの宿題ほど嫌なものはなかったが、美沙と一条が一緒であることが、その苦痛を和らげていた。


ただ、計算問題だけは苦手であることに変わりはなく、その点は美沙も同じだった。よく2人で一生懸命に頭を抱えては「う~ん・・う~ん・・」とうなっていた。


そんな2人をて、横から一条が宿題をのぞき込んでくる。


「それはこの公式を使うんだよ」

「公式ですか・・?」

「そう、まだ習ってない?」

「ちょっと貸してごらん、」

一条は明雄の横に教科書の図形に数字を書き入れ、ノートにその数字を当てはめた公式を書く。

美沙も横からのぞき込んだ。


「この数式でいてごらん」

2人が言われるままに計算すると、ある数字が導き出された。

「そうそう、それがその問題の答えだよ」

一条が嬉しそうに2人をめた。

問題が解けたことも嬉しかったが、一条にめられたことが2人にはもっと嬉しかった。


「じゃあこれは?」

明雄は少し調子に乗り、次の問題を一条に見せた。

「これは、別の公式を当てはめればいいのさ。この数字はここに、この数字はこっちへ・・・」

「じゃあこっちは?」

「こっちはさっきと同じ公式だね・・・って自分でかないとダメだろう。俺に全部解かせる気か」

途中で明雄の意図をさとった一条はやんわりと明雄をたしなめた。


「あ、バレちゃった・・。すみません」

明雄は悪気なさそうに謝った。


隣で見ていた美沙はクスクスと笑っていた。


「2人とも面白いね。佐野君も調子よすぎだよ。」

「そんなにおかしかった?」

「うん、なんか・・・」

「なんか・・・なに?」

「兄弟がいたら、こんな感じなのかな?・・・って、ふと思った」


美沙がしみじみとこぼすので、明雄がたずねる。

「兄弟いないんだ?」

「うん、わたしが生まれてすぐ、お母さんが病気になっちゃったから」

「そっか、僕も兄弟はいないからなぁ」

「兄弟、欲しいと思ったことない?」

「あるある」

兄弟が居ないという点で、境遇の似た明雄と美沙は意気投合した。


一条は蚊帳の外といった様子であったので美沙がく。

「一条さんは兄弟いるんですか?」

「僕は4人兄弟の末っ子だからね、上に3人いるよ」

「そうなんだ、いいなぁ・・・わたしもお兄さんが欲しかったな」

「んー、僕としては弟か妹が欲しかったなぁ・・」

「一条さんみたいな人がお兄さんだったら嬉しいなぁ」


明雄がそう言うと美沙も同意した。

「あー、そうそれ、私もそう思った。一条お兄さま、いいよね」

「兄妹なのに苗字はおかしくない?呼ぶなら仁お兄さま?というか、さま?」

「そう、一条さんは恰好いいからお兄さまでいいの!これからは一条さんをお兄さまと呼ぼうかな」

美沙はそう屈託なく答える。


「おいおい、勘弁してくれ」

「わたしが妹じゃイヤ?」

美沙が珍しくむくれた顔をする。

「そうじゃなくて、『お兄さま』と呼ばれるのは恥ずかしい。せめて『お兄さん』とかにしてよ」

いつもは大らかそうな一条だったが、この時は本当に嫌がっているようだった。

美沙も一条の反応が芳しくないので一条の意見を汲む事にした。

「わかった、じゃあ、お兄さんね?はい、決定!」


美沙がかなり強引な性格だったことは一条にとって意外だった。

また、明雄にとっても美沙が大人しい女の子という認識が間違っていたと思わせる出来事だった。


「じゃあ、次は佐野君の番だね」

「え?僕?」

「そうそう、佐野君も兄弟になるんだよ」

「いや、いいよ僕は・・」

「ダーメ、わたしは佐野君とも兄弟になりたいの。なんて呼んでほしい?明雄君でいい?」


食い下がる美沙に押されて困り果てた明雄は、一条に助け舟を出してもらおうと視線を向けたが、一条は顔をそむけ視線を上にらす。


『あ、逃げた・・』と明雄は思った。

一条が逃げた以上、明雄は美沙に抗えきれず、美沙の意思を受け入れることにした。


「わかったよ、木下さんの好きにしていいよ」

「やった!」と美沙は満面の笑みを浮かべる。

「明雄君は何月生まれ?」

「僕は12月生まれだよ」

「そっか、わたしは6月生まれだから、わたしのほうがお姉さんだね。これからお姉ちゃんって呼んでいいよ」

「えー、やだよ、そんなの。恥ずかしいよ」

「年上のいうことは聞かなきゃだめだよ」

「学年は一緒じゃん!」


2人のやり取りを横で聞いていた一条はうつむいて笑いをこらえていた。


「一条さん、なんとか言ってくださいよ!」

明雄が声をかけると一条は笑いをこらえきれなくなり、思い切り大笑いした。

「っ・・くっくく、あっはははははは・・・」

笑いが収まった後、一条が諭すように美沙に声をかけた。


「木下さん。呼び方なんて仲良くなればそのうち変わってくるから無理を言ってはダメだよ。ね?」

そう言われて美沙は押し黙り、やがてポツリと言う。

「わかったよ。でも、二人ふたりにはせめて美沙って名前で呼んでほしいよ」

「だってさ、佐野君?」そう言って一条は明雄に話を振った。


「じゃあこれからは、美沙ちゃんって呼ばせてもらうよ」

「お兄さんも美沙って呼んでね」

「ハイハイ・・」


その日から徐々に明雄と美沙は下の名前を呼び合うようになった。




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