美沙の友達
南井たちが追い払われたことで美沙は安堵のため息をつき、へたり込んだ。
「木下さん」
明雄はすぐさま駆け寄って美沙の手を取った。
「大丈夫?」
「ありがとう、大丈夫」
美沙が明雄の手を借りて立ち上がる。
払い腰の際に落ちた帽子を拾い上げて、埃をはらうと中学生はゆっくり近づいて美沙に声をかけた。
「君、大丈夫?、怪我はない?」
「大丈夫です、助けてくれて、ありがとうございました」
「いやいや、3対2ならなんとかなると思って、助けただけだから、お礼なら彼に言って」
美沙が礼を述べると、中学生はやや謙遜して、明雄の背中をポンッと叩いた。
明雄は照れて頭をかいた。
「佐野君、その痣・・・・大丈夫?」
美沙が明雄の左の額の痣に触って訊く。
「痣?・・ああ、さっき殴られたからかなぁ・・。でも多分大丈夫だよ。痛くないし」
「ならいいけど、あまり無理しないでね・・」
「ところで、君はなんであの連中に絡まれてたの?」
中学生は尋ねるが、美沙は答えあぐね逡巡する。
「木下さんは、最近転校してきたんですよ」
美沙の代わりに明雄がそう答えた。美沙の母親が結核であることは、故意と伏せた。
「ああ、転校生だったのか、どおりで見かけない子だと思った」
「あの連中、あの様子だとまた君にちょっかい掛けてきそうだから、気をつけてね」
そう言われて美沙の顔は曇り、「どうしよう・・・」と明らかに動揺していた。
「じゃあ、これからは僕が一緒に登下校するよ」明雄が提案する。
「でも、帰りはお母さんのお見舞いがあるから、・・・」
「お見舞いもつきあうよ」
「いいの?」
「もちろん」
「あの人達3人だけど、大丈夫かな」
そこで明雄は少し悩んだ。
「うーん・・・」
「あの、もし君達が迷惑じゃなかったら、僕もつきあおうか?」
「え・・・?」
中学生からの予想外の申し出に2人は顔を見合った。
「いいんですか?」
「僕はこの学校の近くに住んでるし、放課後、僕が来るまで学校で待っていられるならね」
「待ちます、待ちます、すごく助かります」
「よかったね・・」
「うん」
2人は思わず手を取り合って喜んだ。
「あの、お名前をうかがってもいいですか?」
美沙が尋ねた。
「僕は一条、一条仁です。君たちの名前は?」
「僕は佐野明雄」
「わたしは木下美沙です」
「よろしくね」
「よろしくお願いします」
一条は明雄と美沙とそれぞれ握手を交わした。




