第二話 誕生からの早すぎる決意
私が生まれ変わったと理解した後に思いついたのは輪廻からの解脱だった。
生まれ落ちて一日目にして既に生まれ変わりを後悔し始めていた私は、二日目の朝を空腹で迎えた。腹が減ったと伝える術が泣くことだけだと知っている私は、「おぎゃあおぎゃあ」と極力控えめに発することでプライドを欠片残す。
「おっぱいですね、姫様」
流石に泣き声への素早い対応は王家の人間への配慮が行き届いている、などと感心しながら恐らく初めて対面する母親よりも少し年上に見える女性が私を抱き上げた。そしてあろう事か、「どうぞ」と言いながら躊躇なくその女性は胸を露出させ、私に乳を与えようとしてきたのだ。
驚きに固まる私を見て、女性は「あらあら」と微笑むと、「今日からは私が乳母ですよ」と言った。
この苦行、輪廻転生、そこから逃れるためには解脱しかない。
生誕二日目にして一日目を超える衝撃に仏教徒であった私に思いついたのはまずそれだった。
この苦行を乗り越えたとして、自分のことは自分で出来る年齢を迎えるまで一体何日自分のプライドを切り崩していかなくてはならないのか、それを考えただけで途方もない時間だった。生を受けた喜びは勿論あるが、それを超える辛さが確かに存在した。どこか遠い国の名も知らない種族では、子が生まれたときにこれから起こる苦楽に涙し、死んだときは苦楽から解き放されたと祝福すると聞いたことがある。正に私の現在の心境はそれに近かった。
ここでの生を全うしたところでまた転生をすれば、同じように記憶を持ったまま生まれ変わらない保障がどこにあるだろうか、それであるならば解脱をしたい。
輪廻転生から解脱するために今世の生を全うしよう。
そう心に深く決めたのであった。