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 自衛隊と国連多国籍軍による最初の攻撃で使用されたのは通常兵器……。

 ファーリイサクトース用に改良された戦車から発射された砲撃とランチャーから発射されたミサイルだ。

 収束性の大きなメーザー砲、レーザー砲が、それに続く。

 が、まだ後者の攻撃指令は出ていない。

 ものの数秒後、ファーリイサクトースの左指器に砲弾とミサイル、双方が着弾。

 激しい火花と白煙を上げる。

 ゆらゆらと緩い風に棚引く白煙が晴れるとファーリイサクトースの腕がにょっきりと伸びる。

 ダメージを受けず、異界から雲取山上空に突き出てくる。

「効かないようだ」

 双眼鏡を用い、現場で出来事を目撃した指揮官が呟く。

 が、まだ砲撃とミサイル攻撃は終わらない。

 連続発射が続いている。

 つまり様子を探っている段階なのだ。

 辺りの騒音が凄まじい。

 連続する発射音。

 連爆する破裂音。

 それらが間を置かず、固唾を飲む隊員たちすべてに降りかかる。

 けれども、まるで効果がない。

 白煙が晴れれば、また少し、ファーリイサクトースがこの世界へと侵入している。

「攻撃を切り替えます」

 現場責任者である総括長が判断を下す。

 政府機関と幕僚長に連絡が届く。

 ……と、そのとき、奇怪な音が総括長の耳に届く。

 スティミアテリコース出現直前、現地隊員たちすべてが聞いた、あの音とは違う。

 あの音ならぬ奇怪な音とは……。

 けれども矛盾するようだが、あのときの音にかなり似ているようにも感じられる。

 理屈ではなく肌感覚でわかる音の親和性。

 つまり、それは……。

 スティミアテリコースの咆哮だ。

 この世界に侵入を始めた異形の咆哮が聞こえるということはファーリイサクトースであるところのスティミアテリコースの頭部がこの世界に侵入したということだ。

「メーザー及びレーザー砲、攻撃開始……」

 総括長が己の緊張を隠し、物静かに隊員たちに命令する。

 その命令を待っていたメーザー及びレーザー砲の攻撃担当者が一斉にファーリイサクトースの、この世界に食み出た部位をロックオン。

 ついで射出……。

 現場で確認されたファーリイサクトースの姿はヒトに近い。

『アレフ‐タヴ』と呼ばれる預言書に記載された通りだ。

 もっとも胴体が一つで、腕が二本、足が二本、首が一本、その上に頭が一つというかなり大まかな意味でだが……。

 細かな部分ではヒト型の異形。

 ファーリイサクトースの首は細く長い。

 その上に、ほぼ球形の頭部が乗っている。

 その頭部に髪はない。

 今のところ目も鼻も耳も口もない。

 単にのっぺりとしているだけだ。

 が、表面で色が蠢いている。

 我々の世界に侵入したファーリイサクトースの頭部は黒色に見える。

 けれども単に一色の黒ではなく地色の黒の上を赤と紫と青と黄色が流れるのだ。

 同心円状ではなく無秩序のパターンを取りながら……。

 その蠢きが見る者すべてを恐怖させる。

 心に不安を呼び醒ます。

 もしかすると予期せぬ催眠効果があるのかもしれない。

『アレフ‐タヴ』に、そのような記載はないが……。

 我々の世界に侵入したファーリイサクトースの細い左腕と頭部。

 腕は、ヒトでいえば、肘関節まで侵入している。

 左腕の肘部分までと球形の頭部にメーザーとレーザーが相次いで命中……。

 ジリジリと攻撃対象を加熱する。

 その様子を、上空から戦闘用ヘリコプターが記録する。

 数本のメーザー及びレーザーがファーリイサクトースの左腕及び頭部を正確に直撃する。

 この世界のモノならば呆気なく炎上/破壊されるだろう。

 が、ファーリイサクトースに害はない。

 ファーリイサクトースに向けられたメーザー及びレーザーすべてが各部位に命中する傍から乱反射する。

 人類には知り得ぬ何らかのシールド/結界が張られているのだ。

 コヒーレントな音波と光波を弾いている。

「埒が明かんな。いくら兵器が強力でも相手に当たらなければ意味がないだろう」

 幕僚長が事実を見切る。

 徐々に浮足立つ現場の統括長に命令する。

「ゴーストビーム攻撃に切り替える。波の収束範囲をくれぐれも間違えないように……」

「了解しました」

 統括長が幕僚長の命令を受諾する。

「現在のメーザー及びレーザー攻撃をゴーストビーム攻撃に切り替える。なお波の収束範囲をくれぐれも間違えないように……」

 統括責任者の命令にメーザー及びレーザー攻撃がピタリと止む。

 ファーリイサクトースにゴーストビームが放たれるまでの刹那、辺りが静寂に包まれる。

 静寂を破るのは、まるで悲鳴のようなファーリイサクトースの咆哮だ。

 キャーッ、や、ヒャーッ、とも聞こえるし、キルヒャーッ、ケルヒャーッ、と叫んでいるようにも感じられる。

 かと思えば、グール、グーウ、グールと低く唸る。

 形はヒト型だがファーリイサクトースは獣らしい。

 現場で闘う隊員たちの印象だ。

 が、その獣が異常に強い。

 もしもゴーストビーム攻撃を受け、なお無傷ならば、次にはどんな手が打たれるのか。

 空恐ろしい予感が隊員たちの胸を大きく揺さぶる。


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