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挿絵(By みてみん)


「きみは何処から来ると思う」

 山月やまつきが問う。

「さあ、予言書の通りでしょう」

 海城うみしろが答える。

 場所は作戦室のようだ。

 地下数百メートルに設置された。

 照明は明るいが、室員たちの表情は硬い。

 ……というより、これから始まることを固唾を飲んで身構えている感じか。

「正直言って、きみは『アレフ‐タヴ』の内容を信じているか」

「信じなければ、こんな大がかりな防衛線を張りませんよ」

「まさか、ヤツが東京の山に来るとはな」

「雲取が東京府東京市の地になったのは一九〇一年のことですよ。水源地保全のため、多摩川を囲む山地四万八千ヘクタール余りを山梨県から購入し……」

「が、ヤツが来るのは東京都だ。明治三十四年以前に現れると予言されていたわけではない」

「まあ、そうです」

「質問を繰り返す。きみ自身は予言を信じているのか」

「わたくしは、まあ、半信半疑といったところですね」

「つまり半分は信じていると……」

「山月さんは違いますか」

「わたしはまるで信じていない」

「それで良く『アルファ‐オメガ』の長にまで上り詰めましたね」

「大した組織ではないよ」

「ご冗談を……」

「自衛隊と多国籍軍がヤツを粉砕すれば出番はない」

「それは事実ですが、あなたはそうなると思っていない」

「わたしが思わなくとも、そうなるかもしれん。多国籍軍のゴーストビームは核兵器以上の威力を持つ兵器だ」

「恐ろしいですな。通常兵器で済めば良いのですが……」

「まったくだよ」

「山月さんのエンテレケイアの活躍も見たくありません」

「開発者の一人が何を言う」

「わたくしの気持ちは、ご存じのはずです」

「それは最初のときのことだろう。今では、きみはエンテレケイアが活躍するところを見たいと願っているはずだ」

「技術者としてはそうです」

「が、人間としては違う……という意味か」

「人間と言っては大き過ぎます。わたくし個人の願いとしておきましょうか」

「寿命や事故以外できみが死ぬときは人類が滅亡するときだ」

「そうならないことを願いますね。ところで古代の人間は何故、遠い未来にこの星を襲うことになるスティミアテリコースのことを知ったのでしょう」

「わからんな。『アレフ‐タヴ』のその記述は失われている。あるいは最初からなかったのかもしれん」

「山月さんのお考えは……」

「前者に対しては、わからん、さ。後者に対しては、模写をした誰かが持ち去ったか、あるいは管理をしていた官吏が破棄したか」

「つまり記述はあったと……」

「予言の書とは、そういうものだ。神や神の遣いが地上に降り、土地の王または名もない個人に伝えた、と多くの書に書いてある」

「後付けではなく」

「後知恵で信憑性が増した予言書など、この世にないよ。たとえ一部の者たちに持ち上げられようと、いずれ廃れる」

「『アレフ‐タヴ』は何故廃れなかったのでしょうか」

「隠されていたからだ」

「あの中国を揺るがす大地震がなければ発見されなかったでしょうね」

「ヘブライ語で書かれた予言書が中国の山東省から見つかったときは皆驚いたが、地震で彼の地に向かった日本の救援隊が公にしなければ中国政府に隠蔽されていただろう」

「中国政府は今でも原本を返せと叫んでいますよ」

「すべてが解読できたわけではないから、それは無理だ」

「完璧なコピーがあっても……」

「予言書自体が謎に包まれている。知るものは少ないが……」

「どうして内容の一部が書き換わるのでしょう」

「ヤツらを倒し、その技術……というより科学を理解しなければわからんだろう」

「『アレフ‐タヴ』が羊皮紙に写されたのは幸いでした。あれがもしパピルスであれば欠落箇所がどれほど多かったことか」

「欠落箇所ごとにヴァリアント(異稿本)が生まれ、育てば、解析学者が幾らいても足りんからな」

「今でも足りていませんよ。秘密主義が最優先ですから……」

「一般人に『アレフ‐タヴ』の内容を曝すわけにはいかん」

「考え方によります」

「もっとも内容の一部は子供や大衆向けアニメや映画として、すでに曝されているがね」

「その方法を推進したのは山月さんです」

「一般人には免疫が必要だ。真面な大人なら荒唐無稽な話だと馬鹿にしても流行れば内容を知りたくなる」

「徐々に人口に膾炙する」

「その通り。何事も起こらなければ荒唐無稽な話で終わる」

「確かに……」

「海城先生の本当の望みではないのかね」

「さて、どうでしょうか」

「あと一時間だ」

「真昼の対決ですよ。本当にスティミアテリコースが来るとすれば……。世界各国のレーダーにも、衛星にも、痕跡さえ観測されていないというのに……」

「原文に従えば『存する世界壁破り、至る。』のだから時空間を破って現れるのだろう」


 

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