小さな桃の木の下で
ふわり、風に吹かれて、桃の花びらが一片、落ちてきた。
ふと顔を上げると、そこには桃の枝が一本見えた。
「驚いた?」
そこには、師匠が悪戯っ子のような笑みで笑っていた。
「師匠。一体なんなんですか?」
「いやー、あんまり君がぼーっとしてるから、つい」
そこで師匠は急に真面目な顔になった。
「仙界にはなれたかい?」
私は思わず目を瞬かせた。多くの弟子を取っている師匠が、自分のことを覚えているなんて思ってもみなかった。
「は、はい」
どもってしまった私に、師匠はくすりと笑うと鼻歌を歌いながら去っていった。
「??」
それが師匠の姿を見た最後になるなんて、予想だにしていなかった私は、疑問符をいっぱい浮かべながら、師匠を見送ったのだった。
数日後、私の周りがドタバタし始めた。師匠が戦に駆り出されたとのこと。
まさか。仙界でそんなことがあるはずがないと私は駆け回った。けれど誰に聞いても答えは同じ。
あの時の師匠は、このことを知っていたのだろうか。おそらく知っていたに違いない、と私は信じている。
私のような未熟な仙と違い、師匠はとても力のあるお方だ。だから私のような末弟子にまで気にかけてくださったのだ。
いつも難しい顔をした師匠が、厳しいことしか言わない師匠が、あんなことをするなんて、少しは何かわかってもよかったのに。
今更ながら後悔する。そうすれば何か、別な話ができたのではないかと。
兄弟子たちは、誰が師匠の後を継ぐかで争っているけれど、私には関係ない。
私の師匠は彼だけだと、今更ながらにはっきりと感じた。
兄弟子には心配されたけれど、ほかの誰の元につく気にもなれない。私は一人、人界に下ることを決意したのだった。
これが全ての始まり。全てを飲み込む、あの災厄の元凶なのだったーー。
前半部分で終了の予定が、なぜか増えてしまった。
気が向いたらシリーズにします。