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目がさめると全裸のおっさんが俺を見下ろしていた。


「うわっ」


「なんだ」


起きたか、と洞窟の外の岩に挿してあったらしい刀とそれに掛けてあった和国の服をとって戻ってきた。


しばし待て、と言ってゴソゴソ服を着始めた。


青いズボンを履き、青い袖のある布を体に巻き、帯を締めた。


さてと、と刀を持つ。


「えっ」


びっくりして声が出る。


しかし、彼は刀を体の前に置いた。


「拙者の名は佐村信定と申す。此度は危ないところを助けていただき誠にかたじけのうござる。

このご恩、いつか命に変えましてもお返しいたしたい。」


なんか地面に頭を擦り付けている。


「うん」


あっ。この人に『気』の使い方を聞かないと。


「しかし、拙者、和国のもの。ご恩を返したいが・・・・。しかし、ここにいるのがバレたら大変なことになる。今は返せぬが、いつか和国と対立したらわしの名を出すが良い。

わしの耳に入ればそなたを助けに参る」


「あ、いや。それよりも」


「なんだ?」


「『気』の使い方を教えてください」


「気の使い方だと?」


ふむ、と佐村が考え込む。


まぁ・・・普通魔族は『気』を持ってはおらんのだが、これで恩に報いたことになるならいいだろう。


どうせ、使いこなせんだろうから、教えたことにはならんだろうし。


あの方を探すのにもこの場所にしばらく留まり、ガンロスに戻るための船を用意せねばならんだろうしな。


「良いぞ。教えてしんぜよう」


「ほんと?」


キラキラした目に一瞬心が痛む。


憎き魔族だが、子供。


それに、ここまで拙者を運ぶのも大変であったろうに。


しかし、嘘はついておらんからな。


「ああ」


「ありがとう。あっ、お腹すいてない?」


「む?まぁ、そうだな」


「ちょっと待ってて」


子供が海に飛び込む。


「なんなのだ・・・・」


子供がいない間にこれからのことを考える。


まず、食料・・・は魚でも食うとして、船を探さなければならない。


まぁ、最悪筏か。


いや、漁村が近くにあれば、使わない船の一つや二つ・・。


「師匠!」


さっきの子供が大きな魚を二匹握って登ってきた。


「早いな。見事なものだ」


「昔からね。遊びで捕まえたりしてたから。


「ほう。やはり漁村か?」


「いや、塩を作ってるんだよ」


ちょっと待ってて、と言い残し、子供が崖を登って行った。


やはり魔族。身体能力はかなりのものだ。


刀を抜き、刀身をみる。


鞘はしっかり浸水を防いだようだ。


しかし、狭いな。


あの子供がギリギリ立てるくらいの広さだ。


拙者は162で、和国でも小柄だったが、それでもここで過ごすのは辛い。


切るか。


しかし、ここの岩盤は大丈夫だろうか。


あぐらをかいて、床に座り、『気』を放出する。


洞窟内に『気』が満ちていき、徐々に岩に染み込んでいく。


かなり高い崖のようだ。


岩も結構硬い。


十分に頑丈だろう。


「師匠。魚焼いてきたよ」


「そうか。ちょっと出ていろ」


子供が洞窟から出ていく。


深呼吸をして刀を腰に構える。


『気』を刀身に集めていく。


「はっ」


斬撃を放ち、洞窟の内部を削り取る。


落ちてくる岩はもう一度放った斬撃で砂となる。


足に『気』を集中させ、落ちてくる前に外に飛び出し、洞窟の入り口をつかんで落ちるのを耐える。


外に砂埃が飛んでくるが、拙者には当たらん。


「すげぇ、何したの今?」


子供が洞窟の入り口近くの崖に片手でぶら下がっていた。


「斬撃を放って洞窟を広くしたのだ」


洞窟に戻る。


普通に動き回れるくらいの洞窟ができた。


これなら筏だって作れるだろう。


「広くなってる、すごいな。魚食おうぜ」


気にさした魚を渡してくる。


「すまないな」


二人でモグモグと魚を食べる。


「遭難してからずっと生の魚ばかりであったが故、火が通ったモノを食べるのは久しぶりだ。塩魚とて、ごちそう」


「ずっと泳いできたのか?」


「ふむ。まぁ色々あったのだ。」


「へぇ・・・」


「そうだ、『気』の使い方を教えて欲しいのであったな」


「うん」


「そもそも『気』とは、体に宿りし生命の力。それ故、1日に使える『気』は限られておるが、使い方次第で、いろいろなことができる。例えば・・・・。」


串に気を込める。


そして洞窟の壁に投げる。


串はまるで鉄であるかのように、突き刺さった


「このように物質に伝導させ、強化させたり」


手に気を貯める。


地面を軽く殴り、岩を砕く。


「このように身体を強化したり」


刀に気を溜め軽く振るう。


斬撃が飛び、壁をえぐる。


「上級者となると斬撃を飛ばすことができる」


「す、すげぇ」


「うむ。では、まずお前が気を作れるかやってみよう」


子供を座らせる。


「体を流れる生命の力。そこから気を集めるのだ


「どうやって?」


「眼を瞑れ」


「うん」


「拙者が今からお前の体に気を流す。感じ取ったら体の中でそれを掴んで引き出す」


「わかった」


まぁ、できるはずがないのだがな。


昔、貿易をしていた頃、和国人ではない人間や、魔族に気を教えようとしたことがあるらしい。


しかし、彼らは気を生み出すことができなかったという。


拙者も海を渡り、旅をする中で何度か気があるか確かめたが、気を持っているものは存在しなかった。


しかし・・・・


「これは・・・・・?」


ドクンと心臓が大きく鼓動する。


「何故だ?」


「あったの?」


「ん?ああ・・」


「この、おじさんの引っ張ってるやつ?」


「感じ取れたのか?」


「うん。これかぁ」


・・・・・どういうことだ?


「体を覆うように全身から放ってみろ」


「うん」


少年の体から『赤い気』が噴き出す。


あまりの勢いに思わず後ろに倒れた。


「!? 色付き?」


和国でも珍しい色付き。


太守や殿の家系しか持ち得ぬ力。


まさか・・・・・


「お、お前、母の名前は?」


「えっと、花。三島花っていうんだよ。」


ガンと殴られたような衝撃が走る。


数年前に海難事故で行方不明になって10年。


まさか・・・・ここだったなんて。


「もう死んじゃったんだけどね」


「え・・・」


「僕を産んですぐにね」


「なんてことだ」


少年は体から出る気に驚いて、体をじっと見つめている。


やっと任務が終わるのは嬉しいが、これは・・・・・戦争が起こりかねん。


「この赤いやつは?」


「ああ。それが『気』だ。今は全身から放出されている。出力出しすぎだ。もっと減らせ。・・・・・む?」


子供の体からは踏ん張っていないと吹き飛びそうな勢いで『気』が溢れ出している。


「こうやって発動するのかぁ。俺の能力」


「能力・・・魔族のか?」


「うん。『高速気力回復』っていうんだけど、魔力を使って気力を回復させる能力みたい」


「そ、そうか」


少年の体からは異常な勢いで気が出ている。


「『気』を体の中に吸収するイメージで止めてみろ」


「うん」


少年の気が消える。


「できた!ありがとう」


「あ、ああ」


「次は何す・・・あれ?」


少年が倒れる。


「気を出しすぎたんだろう。あんな勢いで出して何十秒間か持ったのがおかしい。

明日もう一度来い。

お前に気の使い方を教えてやる。」


「わかった。おじさんありがとう。」


「うむ。」


子供はひょいひょいと崖を登って帰って言った。


慣れている。


やはり魔族。しかし、確実に和国の血を受け継いでいる。


しかし、花様は亡くなっておられたのか。


このような異国の地でさぞや辛かったであろう。


まさに痛恨の極みであるが仕方があるまい。


あの坊主の言うことを信じるならどうにも間に合わなかったであろう。


しかし、難しいことになったな。


花様の忘れ形見とはいえ・・・もうすでに後継は決まってしまったことを考えれば、ここで何も知らずに暮らすのが幸せであろう。


しかし、運命というものは不思議であるな。


ガンロスで捕まりかけたが、怪我の功名である。


せめてあの坊主に気の使い方を教えてやろう。

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