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「あ、お父さん。燃料の残りが少なかったよ」


「そういや・・・林行って採って来るか」


マアムの父ーゴルさんーは村の薪担当だ。


俺の父とは違い、ウエストロード侵攻から生還した村の英雄である。


リックも来いよ、とゴルさん。


面倒だなぁと思いつつ、タタタタと走って追いかける。


通常、この国では調理の際はフレイムマウンテンで採られた魔炎石を利用する。


赤い石でその透きとおり具合で純度がわかる。


調理用に国から支給される魔炎石は武器の製造に適さなかったものが多い。


魔炎石に魔力を通すとそれに応じた炎が出る。


純度の高いものなら思いっきり魔力を込めても壊れないらしいが、家庭用の魔炎石は大量の魔力を取り込むと割れてしまう。


場所や仕事によっては純度の高いものを要請するそうだが、ムルル村は近くに松の林があるので魔縁石と併用して使うことで火力を上げている。


高純度の魔炎石でやっていた村もあったらしいが、戦争により高純度の魔石は足らなくなり、軍に回収されたらしい。


「俺とりっくだけじゃそんなに持ってこれねぇよな。リーと教官にも手伝ってもらうか」とゴルさんが広場へと向かう。


村の中心にある広場では軍から派遣された教官たちが子供達に訓練を行ったり、村のお祭りをやったりする。


「あ、ゴルさん、おはようございます」


「おはようございます」と教官たち。


二人は半年前に軍から派遣された教官で、階級はどちらも上等である。


村の12人の子供達に基本的な魔術と格闘術、剣術を教えている。


今日は週に一度の休みなので訓練はない。


しかし、広場では数人が自主的に訓練していた。


ゴルさんが二人に事情を話し、手伝ってくれないかと頼むと二人は快く承諾してくれた。


二人はこうやって訓練以外の仕事も手伝ってくれる。


ついでにリーという子供も引き連れ、俺たちは村の裏にある林に向かった。


林の中ほどまで来るとゴルさんが斧を構えた。


目をつぶり、能力を発動した。


ふん、と斧を一振り。


すると、幹の中ほどまで斧が食い込む。


さらにもう一度叩き込むと木がゆっくり倒れていく。


さすがっすね、とグルツとラルフ(教官)。


ゴルさんの能力『筋力強化』はリーと同じだが、磨き上げた能力は比べるべくもなく、戦闘能力もゴルさんの方が高い。


さすが二角の魔族といったところだ。


魔族にはツノが生えていて、その数で強さが図れる。


ゴルさんは二角。つまり戦闘向きの能力ということだ。


一角はせんとうには不向きとされ、三角は最上級の戦闘能力を有していることの証明となる。


この村には二人の三角がいる。


俺の10歳上、つまり16歳のアル。


彼の能力『巨人王』


古代に滅びた巨人の力を自分に憑依させる能力らしい。


教官たちも最強の能力の一つで、将来、軍のエリートになれるだろうと言っていた。


と言うの、人口1億5千万人のレジックだが、その中でも三角は三百人程。


つまり、0.000001%しかいないエリート能力者の証明になるのだ。


まぁ、俺と違って村の出世頭になるだろう。


そして村長で俺のじいちゃん。


彼の能力「雷帝の両腕」


腕に電流を纏う。


シンプルな能力だが魔法で作り出す電流の数十倍の威力で、微弱な電波により、索敵もできるらしい。


まぁ、あの温厚なじいちゃんが戦っているところなんて想像できないが・・・。


ちなみに、一応・・・俺は二角だ。


二角だが・・・まぁ謎の能力だ。


魔族は生まれつきの自分の能力を知っている。


その発動方法も。歩くことや息を吸うのと変わらない。


自然とできるようになるのだ。


しかし、俺は珍しい方のタイプで自分の能力がよくわからない。


『高速気力回復』


遠い国、和国という国の侍が使う力だと村長が言っていたが、村の皆も、教官も、誰も気の使い方を知らなかった。


しかも、気は魔族は持っていないそうで、この能力を使えないそうだ。


ま、残念ながらハリボテ二角だったと言うことだ。


これからも平和に平和にムルル村で暮らせればいい。


そうやって、ぶらぶらしているうちに十分に木が切れたようだ。


教官たちと一緒に来ればグルフさんの『風術』やラルフさんの『剣術』でこっちで薪にしていけるので楽でいい。


手押し車を置いてあるところまで何回か往復して薪を詰める。


そしてリーと俺が村まで押していく。


リーの『筋力強化』はこういう時に頼りになる。


リーは16で村の子供達のまとめ役だ。


村の中でもアルに次ぐ短距離戦闘能力がある。


教官派遣は昔からの伝統らしい。


戦場での生存率を上げるために5年に一度村に教官が来て子供達に戦闘訓練を施す。


大人たちは定期的にじいちゃんの指示で訓練することになっている。


ここムルル村はレジックの極西、いつ他国に侵攻を受けるかわからない。


6年前の第二次ウエストロード侵攻では戦車という武器で苦しめられたそうだ。


俺の父もそこで命を落としている。


人間は魔法を使えない代わりに恐ろしい武器を使う。


前回、汎用機関銃という新たな武器を導入した人間たち。


どんどん強くなっていく人間に負けないために俺たちも頑張らなきゃいけないんだ。


村につき、薪を燃料置き場に置いたら塩作りが再開する頃だった。


垂船という木箱を塩田の中心に組み立てむしろを引いたら、8時間ほどかけて乾燥させたかん砂を柄振を使って集め、垂船に入れる。


上から海水をかけ、砂についている塩の結晶を下のため池に貯める。


溜まったかん水を釜屋に運ぶ。


はぁ・・おわったぁ、とドリ。


彼は『悪臭』の能力者で一角だ。


明日から訓練かぁ、とトイ。


彼は『構造把握』の能力者で一角だ。


「おいおい、ちゃんと訓練するのは大事なことだぞ。いつミスガルドが攻めてくるかわからないんだからな。お前らみたいのも必要だ」


声をかけてきたのはアル。


「まあ、俺らががんばりゃいいっしょ。あいつらは、まぁ、才能ないし・・・」とジェームス。


ジェームスは『火術』の能力者。


14歳で二角だ。


彼らがこの村の代表になるだろう。


まぁ頑張ってもらいたいものだ。


「お、おいらだって頑張ってるんだ」とドリ。


「そうだよ、僕らだって・・・君たちみたいな能力さえあれば・・・」とトイ。


確かに・・・・


「二人の能力は強い方だよね。アルは特に。いいよな、お前らは。」


何か考え込む様子のアル。


「そうか、そういうことか」


「何・・・?」


「いや、なんでもない。だが、お前らの不平はわかった」


「いや、不平ってわけじゃ・・・」


「じゃあ、俺は村長のところに行ってから帰るから」


「あ・・」


二人は浜へ戻っていく。


「なんだろう」


「なんか嫌な予感が」


ザブーン  ザブーンと並みの砕ける音。


茜色の夕日が海に反射してひどく眩しかった。


「まぁ、いいよ。とりあえず俺疲れた」


「僕も」


「おいらも」


グーとゾルブの腹が鳴り、俺とトイは吹き出した。


「な、なんだよ」


「いや、別に、ぶっ」


「も、もー『悪臭』使うぞ」


「や、やめてよー」


トイが逃げ出す。


「きったね。俺を囮にするなぁぁぁ」


「ま、待てぇぇ」


あははは、と僕らは笑った。


塩作りでくたびれていたはずの僕らだったが結局暗くなるまで遊んだのだった。


星が綺麗に瞬いた頃、家に帰った。


家ではばあちゃんが魚を焼いていた。


能力『魚釣り』のトイのおじいちゃんが釣ってくれたらしい。


じいちゃんはウエストロード、つまり一番近い都市に要請する物資をまとめていた。


レジックには通貨がない。


各都市で生産したものを四つの大都市でまとめ、村に分配するのだ。


「おお、おかえり」「おかえり」


「ただいまじいちゃん、ばあちゃん」


二人はとても優しい。


親がいない俺を寂しいと思わせないように一生懸命頑張ってくれている。温厚でほとんど怒らない。


魚と飯を囲炉裏を囲んで食う。


最後にご飯にばあちゃんが味噌で味付けしたごった煮のスープを入れてくれた。


美味しい。


ばあちゃんの料理で俺はこれが一番好きだ。


もう一杯おかわりして、軽く汗ばむくらい体が温まった。


それから、俺とばあちゃんは先に布団を敷いて寝る準備をしたが、じいちゃんは何かの書類を書いている。


「おやすみ」


「「おやすみ」」


ばあちゃんに抱かれている。


赤子の頃から嗅いでいるからだろうか・・・とても落ち着く。


ばあちゃんに抱きつき、ぎゅっと目を瞑る。


ばあちゃんが頭を撫でながらやさしく歌ってくれる。


次第に体から力が抜けていき、俺は意識を手放すのだった。


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