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ーーーー二日前
ザブーン ザブーンと波の砕ける音。
アー アーとカモメの鳴き声。
そんな静寂とも騒々しいとも言える朝、今日も俺は目を覚ます。
体を起こし、ゴシゴシと目を擦る。
うちのジジとババは先に浜に行ったらしい。
今日は潮かけだったな、とつぶやき、大きな欠伸をする。
春のまだ少しばかり肌寒い空気が体の奥深くまで染み渡る。
そろそろ・・・・
「おっはよーーーー」
短髪の女の子が引き戸を勢いよく開く。
マアム、一つ年上でお姉さん風を蒸すところがあるが、まぁ、概していいやつだ。
「・・・おはよ」
「なぁに、ぼさっとして・・・。もうみんな浜に行く頃よ?」
「わかってるよ」
よいしょと立ち上がる。
「さ、行くわよ!」
「あいよー」
マアムに手を引かれて外に出る。
まだ大分暗い。。
海風がブワッと顔にぶつかる。潮の匂いがする。
「ごめん、マアム、もうちょっとゆっくり歩いてくれる?」
「ん、わかった」
村の広場を抜け、丘を降りると浜がある。
まばらに生えた草が揺れている。
村の大人たちが今日の作業に使う道具を点検している。
「おお、マアムちゃん。今日もリック連れてきてくれたのかい?」
「ったく、ちゃんと自分で起きなさい。マアムちゃん、いつもありがとうね」
じいちゃんとばあちゃんは俺を信頼していない。
「おはようございます。今日は自分で起きてましたよ」
「そうだよ、じいちゃん。俺は起きてはいたんだよ」
起きては・・・ね、とマアム。
くすくすと周りが笑う。
「なんだよ、みんなして」
ひとしきり笑い、周りの皆が作業に戻っていく。
じゃ、うちはみんなのご飯作りに行くから、とマアムが手を離し、村へ戻って行く。
さ、やるか、と村の皆が荒潮桶を持ち、まだ暗い海に向かう。
魔族の国『レジック』。
その極西に位置するムルル村は塩作の村である。
ムルル村は裏に林があるため、燃料が手に入れやすく、近くに大きな川がなく、潮流が早い。
塩作とは薄暗い海に入り、桶に海水を入れ、引桶運ぶところから始まる。
大人たちは背負子で運べるが・・・・・ああ、彼はまだ一つも重いようだ。
そうこうしていると引桶に海水がたまる。
溜まった海水を塩田に霧状に撒く。
そして熊手で溝付けする。
リックやドリ、トイなどはここらでくたくたであるが、アルやジェームズなどは疲れの色が見えるものの談笑する気力がある。
日が昇り、空気を温め、塩田が輝き始めた頃、村の女たちが朝飯を運んでくる。
朝の定番は塩の握り飯と味噌汁である。
列に並んでいると味噌汁の・・・鰹節の香りが食欲を誘う。
お盆を受け取り、みんなから少し離れて座る。
グーとお腹がなるがまずは味噌汁だ。
冷えた体はこれを求めている。
かじかんだ手でお椀を持ち、
まだ湯気が立ち上る味噌汁をズズズと啜る。
ごくんと飲み込むとまず胃、そして全身に味噌汁が染みていく。
体は温まった。
次はこれだな。
握り飯を手に取る。
もう待ちきれない。
がぶりと大きな一口。
海の香りが鼻から抜け、温かいお米は噛むたびに甘みが奥から溢れてくる。
自分たちが作った塩を作った海で食べる。
最高の贅沢だ。
まだこの後大変な作業が残ってるけど・・・。