第二話:『オルトゥガ防衛戦』その三
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「ジル!」
砦の廊下を進んでいたアルベルヒは、見慣れた背中を見つけて声をかける。
「どこ行ってたんだ、探したんだぞ! いや、そんなことはいい、それより副隊長殿を見かけなかったか? 早く指示を仰がないと」
振り向いたジルを見て、アルベルヒは眉を顰めた。
「おい、そのビリビリになった上着はどうしたんだ? まさか戦ったのか!?」
「アルベルヒか、逃亡奴隷たちはどうした?」
「もうその呼び方は妥当じゃない。彼らはおそらくゴルドヴァのスパイだったんだ。砦と町に混乱を起こすのが目的だったらしい」
ジルは少し考えるように目を閉じる。
「何をやられた?」
「え? ああ、確か砦にあった大砲と武器庫の剣弩が壊されてたみたいだ。それと見ての通り砦と町に火が放たれた」
「奴らと交戦したのか?」
「いや、見張りの兵士が何人か殺されたが、その後は行方をくらましている」
「…………」
アルベルヒはジルの肩に手を置いて行った。
「早く司令官代理を探そう。火事を何とかしないと」
「もう殺されてる」
「な、何だって!」
「それに、早く何とかしないといけないのは火事じゃない」
静かにアルベルヒの目を見つめ返すジル。その光にたじろぎながら、アルベルヒはこの悪夢がまだ当分続くのではにかという予感に駆られる。
「どういうことだ……?」
「攻めてくるぞ――この町は包囲されてる」
そして予感は現実のものになると知るのだった。