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君と私の幻想曲。  作者: 提灯鮟鱇
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1話 ー私の幻想曲をー

薄明かりが、瞼を通して目に差し込む。

柔らかい布の感触を全身で感じながらも、私はスッと瞼を上げた。

朝、なのだろうか?

太陽の光がふんだんに部屋の中へと入り込み、朝独特の気持ちの良い空気。ぱちくりと瞬きを繰り返しながら、眩しい光に目を慣れさせた。

今寝ている場所はベットの上だろう。

少しだけ視界が高い。

眩しく、灰になってしまいそうな太陽の輝き。


あぁ・・・喉が渇いたな・・・。


カラッカラの体を動かそうにも、全身の水分がない以上どうにも出来ない。

そういえば親友だったあいつは死んでしまった吸血鬼の体をやるなんて言っていたような気がする。

・・・えっ、だったら今の状態ってやばいよね。


そう考えれば自ずと焦りを作り出してしまった。

取り敢えず、血が欲しい。喉が渇いた。

目だけで周囲を見渡す、しかし血なんてそこら辺を歩いている訳がない。

普通では動かない体、最後の力を振り絞れば水場までいけるだろうか?いいや駄目だ、最後の力を使ったら確実に最期を迎えるだろう。最後の力だし。


そして今寝ている現在地も分からないのに水場を探すのも時間がかかる。使ったとしても親友と再会待った無しなのは馬鹿でも分からなくちゃいけない事だ。


どうしよう、そう本気で悩んでいた時だった。

ガチャリと部屋の扉が開かれ、誰かが入ってくる足音が響き渡ったのは。


その人物は泣いている、鼻水を啜る音、時々上げるひゃっくりの様な声からして女性だろうか?そして、硬い履き物を履いてるのか足音には少し鋭さがある。

私は咄嗟に目を瞑った。

さっきまでこの『シアン』の体は機能停止していたんだ。

生きてたりしたらそりゃあどんなに恐ろしい事か、死人が復活とか私だったら笑えない。


部屋に入ってきた彼女は数秒ベットの近くで止まった後、私の体にゆっくりと触れてきた。

抱きかかえる様に膝裏と背中の部分に手を滑り込ませて、壊れ物を扱うかの如くゆっくりと。

彼女がしたいことは要するにお姫様抱っこだろう。何処かに運ぼうとしているらしい。


ということはだ、今彼女は前屈みになっているのであって、私の顔は見えていないということになる。

・・・少し、目を開けても良いだろうか・・・?


恐る恐ると言った感じで目を開ければ、栗色の髪が目に入った。

清潔そうなストレートの髪だ。

その人は私の考えた通り女性で、視線を下に向ければ黒と白のメイド服の様な格好をしていることが分かる。



でも、今の私には関係ない。


釘付けになったのは彼女の首筋。

髪の毛で見え隠れするその肌は病的なほど白く、美味しそうとは言い難いがその皮膚の下に通っているだろう血を想像して生唾を飲み込む。

私が、吸血鬼が欲しい物をこの人は持っている。


声をかけてから・・・了承を得てから吸った方がいいとは思った。

思ったけれど、出来なかった。



彼女が腕に力を入れて私の体を持ち上げたのだろう、体が浮き上がった直後に私は動き出す。

すぐさま彼女の頭を抱き込むように左手で髪を退かし、右手を彼女の左肩にそっと添えた。

突然の異変に驚いたのだろう、彼女は小さく悲鳴を上げて私を降ろした。しかし後ろに下がって逃れられないよう腕に力を入れて食い止める。

ごめんなさい、でも・・・。


喉が渇いて、仕方がないの。


肩から首へと繋がる皮膚に、歯を立てる。

すると、皮膚と歯の間から出てくるのは滑らかな血。

私の・・・求めていた・・・。


血・・・・・・・・・。

・・・えっ、不味くない?


腐ったような匂い、ドロドロとした舌触りはいいのだけれど、喉に通す時の異物感。

肌に歯を刺す感覚は、柔らかくて心地よいものだ。しかし・・・。

それを差し引いても自ら好んで飲みたいとは思わない味。

少しだけ、吸って後悔している。


だが、歯を押しつける事はやめない。

味が悪かったって、私は今喉が渇いているんだ。背に腹は代えられぬ。

それに不味いからと吸血をやめるのも、なんだか罪悪感があった。

口を開いたら「不味い」って言っちゃいそうなくらい不味いけどね。自分から吸っておいて、不味いというのもあれだし。


力が沸き上がってくる感覚を覚えた。

吸血した効果だろうか、吸血鬼なのだから納得がいく。

もう大丈夫だろう、そう思い首筋から口を離す事に。


歯を引き抜いて、すぐさま両手を口元に当てる。


「・・・うっぷ」


その場で体を縮め苦しさに耐える。

不味いとは言わなかったが、これは完全にアウトだろう。

でも仕方ないじゃないか・・・後味が尋常じゃない程にクソ不味い。

息をする度に体中を駆けめぐる苦々しさ、罪悪感、ここから先を考えるのは私の精神的にもダメージが大きすぎるため割合させて頂こう。


「し、しあん、お嬢、しゃま・・・っ!?」


首筋を押さえて口を振るわせるのは、メイドの様な格好をした彼女。

『シアンお嬢様』少し噛んでいたが、私の事をそう呼ぶと言うことは本当に使用人の方なのかもしれない。


彼女はその場で崩れ落ち、大きな瞳でこちらを見つめる。

私の方がベットという高い位置に座っているので、見上げられるという方が正しいような気がしてきた。

うん・・・美女だ。


大きな黄色の瞳をしていて、睫が長い。顔のパーツも良し、肌は血が通っているのか疑いたくなるくらいに白いが、濃い栗色の髪の毛が引き立って良い味を出している。

まぁ、血が通ってることはさっきの吸血で証明されたんですけどね。


彼女は放心状態となり、少しだけ頬を赤らめている。

息も荒いし、血を吸われたことで激怒し、そして混乱しているだろう。

まずは謝ろう。


「あ、あの・・・いきなり吸ってごめんなさい」


こちらが全面的に悪いのだ。正直に謝って、まずは彼女の怒りを静めた方が良いに決まってる。


「い、いえ!!シアンお嬢様は悪くありませんのん!!」


・・・あれ?

聞き間違いだろうか、面白い語尾が付いていたような気がする。


「只今お冷やをお持ち致しますのん!!少々お待ちくださいですのん!!」


聞き間違いじゃなかったですのん。

風を切るように、部屋を出て行ってしまう彼女。

私はそれを見届けてから口の中に残る悪魔と戦うため、膝を抱きかかえるようにして寝っ転がった。



_________________



ごくごくと、コップに注がれた透明な水を一気に飲み干す。

はぁ・・・ただの水がこんなにも美味しく感じる日が来るとは思わなかった。やはり水分とは大事なものなのだなの再確認する。


「お代わりをお注ぎしますのん」

「えっ?・・・あぁ、いや、大丈夫」


血を吸っても、まだ本調子は出ないのだろう。彼女の言葉への反応が遅れてしまった。

それに血の味が抜けない。なんというか、そう、個性的な味の血だ。

水をあと何杯飲んだって消えないだろう。個性が強すぎる。


ちらりと目の前に立つ彼女を見てみると、今にも倒れそうなほど顔色が悪かった。

いや、元から病的な程白かったけど、今はこう・・・真っ青。

どう考えでも原因は私である。


「ごめん、私の事はいいからで寝てください」

「大丈夫ですのん!・・・と言いたいのですが、さすがに魔力が半分以上無くなってますのん。お言葉に甘えさせて頂きますのん」


うん、そうしてください。

魔力が半分以上無くなっているということは、私が魔力という物を吸ったのだろう、血と一緒に。

私の頭の中で<MP>という単語が出てきたが、抹殺する。


「その前にお嬢様、使用人という身分である自身が大変おこがましいとは思いますが、少し説教をさせて頂きますのん」


おぉ、説教。

懐かしい単語だ。前世では48歳というなかなかの歳だったので、そういう機会は殆どなかった。

少し気分が上がり、正座なんてしちゃってみる。


「シアンお嬢様は大変危険な状態でした。現に私はお嬢様が死んでしまったと思いましたし、お嬢様が本能的に私の血を吸わなければ確実に死んでおります」


真剣になると語尾が普通になるんですね、驚愕しております。


「吸血鬼は不死故に活動する為に膨大な魔力を使います。それを血に混ざっている魔力で補えるという事はご存じですね?」


へぇ、知らなかった。


「アンデット系の血は不味いから要らない、正論です。ですが魔力を補える棺桶でも寝ないなんてこと、これからは絶対に言わないでください」


あ、君って人間じゃなかったのね。

通りで肌が驚きの白さ。


「毎日欠かさず、棺桶の中で寝てくださいまし。生きてくださいまし。ご両親の、お坊ちゃまの側で眠りたいと言って、自ら死を選ばないでくださいまし」


お願いです。そう言って、静かに涙を流す彼女。

そうか・・・シアンはそうやって死んでいったのか。

胡散臭い私の親友も言っていた、両親と兄を亡くして、心を閉ざしてしまったと。


6歳の少女なんだから寂しいと思うのも普通だろうし、こんなにも幼い頃に家族を失うなんて心底辛いだろう。

でも私には、シアンの痛みを完全には分かってあげられない。

分かってあげられないけど・・・。


分かろうとする、努力はしてみたい。


「うん・・・。生きるよ、生きたいなぁ」


動ける体を使って、目の前で私の為に泣いてくれている優しい彼女を抱きしめる。

すると、彼女も私を抱きしめ返してくれた。


「ありがとうございますのん・・・ッ!!


シアン、ごめんね。

私が今日から貴女になってしまうけれど・・・。

貴女を愛している彼女は、貴女が取った行動、感情を知っている。

貴女が生きた証はちゃんとあるんだ。

だから、ごめん。


私は、親友がくれたチャンスを無駄にしたくないんだ。


自分の中で放った言葉を鼻で笑ってしまう。

無駄には出来ない、したくない。



私は自分の人生を・・・

幻想曲(ファンタジア)を、奏でてみせる。



そうと決まればさっそく行動だ!!

周りを見渡して、まずはなにからしようかと考える。

しかし、私の視線はある一点で止まった。


壁に括り付けられていたのは、大きな鏡。

その鏡が光で反射し映し出している2人の一方は、今私が抱きしめている彼女である。

そしてその彼女が抱きしめている女の子が、異常だった。


長くもなく短くもない艶のある黒髪、ぱちぱちと瞬きをする真っ赤な瞳。

雪を連想させる真っ白な肌に、健康的なピンク色の頬と唇。


・・・誰だこの美少女は。

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