番外編 小林くんのこれまでのご様子 上
小林くんの恋模様です。
一人称で送りいたします。
小林 透。つまり、俺は医療関係の仕事に就く両親の間に生まれた。
共働きで一緒に過ごすのも少なかった家庭だったが、幸せだった。何の不自由もない俺の人生。
でも、ある日を境に変わってしまったと言えるかどうか定かではないが、俺の心情は揺らいだのは間違いないだろう。
そのある日と言うのは、一大イベント『修学旅行』だ。修学旅行2日目にして立ち寄った歴史ある博物館。
俺にはよく分からなかったが、此処にある展示品は価格にするのが難しいほどの価値があるそう。そう、よくしゃべる館長が楽しそうに言っていた。
小一時間ほどすると集合場所の博物館横、駐車場へと向かった。もう既に生徒が半分程集まって、話に花が咲いているようだった。
俺も、仲のいい奴等と主に館長の愚痴になりかけていたが。
そんなこんなで10分経ったがどうかぐらいだろうか。突然、耳をつんざくような、正しく爆音がここら一帯にに鳴り響いた。
思わず耳を塞ぐが、おかしくなりそうなくらい鼓膜が揺れた。周りのクラスメートが叫び声をあげる。
音が収まり、その方向を見ると俺たちが居たあの博物館が煙をあげていた。
数分すると、警察が俺たちを安全な場所へと誘導されその後のことを知ることが出来なかった。
その日のうちに俺たちは地元へと返された。帰りの新幹線には数人の姿が見えないまま。
数日後、クラスメート一人と同学年二人があの爆発によって亡くなったことが、目を伏せたままの桜庭先生がら聞かされたときの混乱は酷いものだ。
そりゃそうだった。知っている人間、若しくは友達がある日突然、この世から消えて逝ったのだから。
俺もその一人で、数日体調がおかしく寝込んでいた。
暫くして、あの爆発から唯一俺たちの学校で生き延びた奴が居る。それは、普段大人しい小春だった。
その頃だろうか。
俺が小春に恋心を抱いたのは。
そう、きっかけは小春が教室から飛び出して、学級委員である俺が探しに行ったとき。屋上のフェンス背を預け、寝ている小春。その目元にはうっすらと涙が浮かんでいた。
男は女の涙に弱いとはよく言ったもので、そんな小春の涙を綺麗だと感じたのだ。
その感想はきっと不謹慎であろう。
そう、思いながらも感じてしまったものはしょうがないだろう。
暫くして、小春は毎日浮かない顔をして、時より酷く辛そうで。
俺はどうする事も出来なかった。
それまでが、ただのクラスメートで挨拶と事務的な会話を交わすだけの関係でしかない。
ーーどうしたんだ?
という一言もかけられずに。
試験では努力すればいい点が取れる。こればかりは俺はずるずると引きずって、行動することが出来なかった。
そう、こういうやつを小心者って言うんだっけ?
親からの期待を背負い、『お前は有能だ』という視線を度々受けるが、俺はそんな出来たやつじゃない。
寧ろ俺は無能じゃないかと思う。
卒業間近に迫る、ある日だ。
「透くん、ちょっといいかな?」
細めの黒いフレームの眼鏡に少し高く結った髪型が特徴の唐木だ。3年の時クラスが離れ、話す機会もなかった。
懐かしささえ覚えるほどに。
唐木に連れられ訪れたのは、屋上だった。
3月の風は肌が突き刺さるように冷たく痛い。
「どうしたんだ? 急に」
「あ、うん。今日、透くんを呼んだのはね」
その時の唐木は酷く、辛そうな顔をしていた。
小さく呼吸しスカートをキュッと握りしめた。
ーー私、透くんの事が好きだったの。
俺は声を出すことも出来ず、ただただ驚いた。それとは反対に唐木はニッコリと微笑んでいた。
そして、
「透くん、大丈夫だよ。答えを期待して言った訳じゃないの。だって、ほらもうすぐお別れだから。それに、透くんの気持ちも知ってるから」
そう言われたら俺は言葉を失ってしまう。
何て言ったらいいか俺には答えを導き出すことはできない。
「本当にごめんね。本当に伝えたいことはそれじゃなくて……何て言えばいいのかな? そうだな……」
さっきまで微笑んでいたと思っていた唐木の表情は、妙に痛々しく見えて。
それに、俺は一体今、どんな顔をして唐木の言葉を待っているだろうか?
「ちゃんとあの子にも伝えてよ。透くんの気持ち。あの子はきっと言わなきゃ分からない鈍感みたいだから。どっかの誰かさんみたいにね」
夕日から照らされて、そう言い終わった唐木は俺の言葉を待たずにして、「さよなら」というのを最後に立ち去っていった。
錆びたドアの音が閉まると世界は静寂に包まれた。
なぁ、唐木。どうしてそう笑ってくれるんだよ。
もっと俺を責めてくれれば、何か唐木に答えを返せたかもしれないのに。
それに、小春は俺じゃない誰かに恋をしてる。
俺だったら笑えないし、応援もできない。
なのに、どうして背中を押そうとするんだよ。
なぁ、どうしてだ?
新連載始めました。




