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行方

 小春の心情を聞いた漸は酷く混乱しているようだ。

「ど、どうしたんですか?」

 と、問いかける小春であったが若干硬直状態漸には届いていなかった。ただひたすら、「いや、まさか」などの自問自答を繰り返す。

 卒業式から大分時間が経ち生徒や保護者がちらほら帰っている様子が見えた。残ってる生徒がまだ大半だが、小林と小春の話に夢中な様子。


「小林君、振られたってよ」

「あーらら。ま、あのほぼほほ完璧小林君だって振られることぐらいあるわよ」

「宮倉おしいことしたな。宮倉は人生最大のモテ期かもしれないのに。うーん、おしい! 乙女ゲーで言えば美丈夫ときゃっきゃウフフ出来るチャンス‼‼」

「だから、山田。二次元の話と繋げるな‼」



「あのな、小春……」

「ったく、まどろっこしいのよ!」

 漸の発言を遮ったバカデカイ声の持ち主は以前から小春と愉快な仲間逹を見守ってきた紗智菜だった。仁王立ちを綺麗に決め、顔は鬼軍曹に近い表情をしている。

「どうしたの? 紗智菜ちゃん」

 突然現れた紗智菜に対し極々素朴に問いかける。

 紗智菜は小春をちらっと見て、ゆっくりと首を横に振る。

「どうしたの? じゃないです。おねぇさま! どうしてそんなに鈍感なんですか」

「へ?」

 小春がすっとんきょうな反応をするなか紗智菜はヒートアップする。

「よく自分の気持ちに耳を傾けてください! その感情の正体は一体何かを! さぁさぁ!」

「えっと……」

「ちょっと、待ってよ。紗智菜。俺は思うが気づかなくてもいいと思うぞ」

 ストップを掛ける漸に白い目を向ける紗智菜。

「は? 当の本人はこの状況を蔑ろにしてもいいかもしれないけど、振り回されていた私達のこのモヤモヤはいつ晴らしてくれるというの! それはそうと漸。あんなに頑張った鈍感王子から成り上がった初王子は残念な結果に終わったというのに! あんたは、おねぇさまとのことをうやむやにしてこれからもなにも変わらずに仲良しこよしなんて許せるのは小学生までよ!」

 と心のうちを言い切った紗智菜はスッキリした様子だった。

「ま、ともあれ。おねぇさまが問題」

「え」

 紗智菜はやれやれといった表情で小春に近づく。

「おねぇさま。先程漸に言ったおねぇさまの気持ちはとっても素晴らしきものです」

「はぁ……」

「はっきり言っておねぇさまは鈍感すぎます。なので、この恋のキューピッドの紗智菜様が導いて差し上げます」

 小春は目が点になるなか紗智菜は燃え上がる。

「きっとおねぇさまはそんな感情は初めてですよね。特定の人に心が揺れ動く。けれども辛いけど嫌ではない胸の締めつき。おねぇさまそれは恋……いえー初恋なのです‼」

「……ちょまってよ。紗智菜ちゃん。話についてけないよ」

 そう言いながら赤面する小春。小春の反応をばっちり確認した紗智菜はニヤケ顔になりながら踵を返す。

「やれやれ。若者は青春を楽しみたまえ。年寄りは退散しますかなぁ」

 ガハハハと笑い声をあげる紗智菜。赤面し動けない小春は見送るしかなかった。


「その、小春? あいつの言うこと真に受けなくていいからな」

 恐る恐る声を掛ける漸だったがしかしその瞬間衝撃を受けた。小春はその場にしゃがみこみ両手で顔を覆い隠していた。しかし、耳まで真っ赤な姿は隠せてなかった。

 何となく漸は小春を呼び掛けるのを躊躇した。今にも消えてなくなりそうな雰囲気は出会った当初から変わってはない。

「あの……漸さん」

 か細い声で呼ぶ小春は未だを隠している。

「これは……その、なんでもないです」

 何かを発する躊躇している様子の小春。そんな様子を見ながら居たたまれなくなる漸。

 二人の雰囲気は甘酸っぱい。

 世捨て人が干からびそうだ。


「小春」

 低ボイスで呼ぶ漸の声色は何やら決心したようにも聞こえた。名を呼ばれた小春は反射的に顔を上げる。

「ひゃえ!」

 小春の腕を掴み、立ち上がらせた勢いで漸は自分のところへ引き寄せた。

 小春は恥ずかしさのあまりそのまま硬直状態になった。

「ぜ、漸さん⁉」

「小春。俺は人間じゃない」

 耳元で悲しそうに呟く漸の言葉に頷く小春。

「小春はどう思ってるか分からないけど。一度契約を切る頃前ぐらいから……」


 ーー好きだ。


「え、あ、あの……」

 小春を閉じ込める腕を少しだけ強める。

 どう反応をしていいか分からない小春は口を驚きでぱくぱくとさせるだけだった。

 しかし、これだけは分かった。漸にそう言われて嬉しくないハズがないと。

 じんわりと自分がどんな感情を抱いているのか気づき始める。

「こんな風に言ってあまり小春を混乱させたくもないけど、ごめん、言っちゃった」

 申し訳そうに言う漸に心が痛む。

(私もきっとおんなじ気持ちなはず。恋愛なんてよく分からないけど。確証なんてどこにもないけれど)

「そんなことないですよ。うれしいです。漸さんにそう言ってもらえて。いつも助けてくれてありがとうございます。これからもどうかよろしくお願いしていいですか?」


ーー漸さん、好きです。


 目を合わせながら告白を受けた漸は沸騰したヤカンのようになった。


 パシャリと近くでシャッターを切る音が聞こえた。

「歴史的な写真ゲットー! おねぇさまおめでとうございます‼」


 折角の告白の余韻が一瞬で消え去った。


「紗智菜ちゃん、もしかして見てたの」

「はい! バッチし! なんともおねぇさまらしい素晴らしい告白でしたとも、はい! おやおや漸殿は今は使い物にならなさそうですな!」



「漸さん、大丈夫ですか!」

 小春のせいだよと言いたくても気力がない漸だった。

 ただ……

「小春、好きだよ」

 と、若干の悪戯を込め小春を再び赤面させた。

「お暑いですな。ここは南国ですな。おねぇさま、かわいい!」

 そう言いながらまた初々しい二人を眺めながらシャッターを切った。






 『有名な救世主のサムライだけど世のためではない』

   

  終わり。


長い間、ありがとうございました。

拙い文章でお見苦しいところもあったと思いますが皆さんのお蔭で完結することが出来ました。

9月から『クラスメイトの斎藤の運命は奇怪的です』を投稿しております。

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