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桜道

 小林が低くよく通る声で小春を呼んだ。周りは二人に目を向けつつも態度は変えず談笑を続けていた。一部の野次馬魂が疼いているものは、ヒソヒソと話していたが周りからの突き刺さる視線を感知し、渋々引っ込んでいる。

「小春……あの」

「どうしたんですか?」

 甘酸っぱい雰囲気が漂うが、もちろん小春は自分たちからの空気で一部の世捨て捨て人が悪意の壁ドンしていることなど気づきはしなかった。

 小林は小さく深呼吸し、小春に一歩近づいた。周りが息を飲むなか20センチほどの身長差が小春は小林を見上げた。



「小春ーー好きです」



 ついに小林が思い続けた人に告白は言葉はあまりにもストレート。だがしかし、小林らしい言葉であった。小春は状況を飲み込めていないようで目をパチクリとしているが、遠目から分かるほど小林の耳は赤い。


 そして、


「友達としてじゃなくて……小春が、好きなんだ」


 紡ぐように言った第2回目の告白は先程より明確だった。


「えっ……と……」


 小さな声で何とか状況を理解しようと必死な小春。しかし、頭はパニックに陷いる寸前だ。何しろ、小林が自分をそう思っていることなど微塵も気づかないし考えもしなかったのだ。そう、やっと少しずつ理解してくると小春の顔の色はみるみると赤く染まる。

 再びどこからか悪意の籠った床ドンが春風に乗って聞こえた。



「俺は……小春と付き合いたいんだ。……答えてくれるか?」


 

 小林の声は心なしか震えていていた。当の本人は小春の答えがどちらにしろ泣き出しそうだが、今自分の所為で赤面し、必死に理解しようとする姿が可愛くて、しょうがない。いっそのこと抱き締めたい気持ちで一杯なのだが、するりと逃げてしまいそうな小春には逆効果だということを紗智菜に初王子とひっそりと呼ばれているなりに小春をよく見ていて知っていた。



「あの……えっと」



 小春は恥ずかしさにあまり思わず一歩後ろに下がった刹那、


『逃げないでください』


 紗智菜の言葉が小春の脳内から引っ張り出された。その場で踏みとどまり、小林に向き合う。


「あの、透さん……そういうのあまり考えたことなくて……その……」


「いいよ。分かってる。ゆっくり考えていいから」


 そろそろ泣き出しそうな小春の潤んだ目は怯えるように小林を映していた。ふと感じた頭の重み。


「落ち着け」


ーー漸さん。


 小春は隣にいた漸に安心しつつ、もうひとつの高鳴りを覚えた。


「え……」


 それは告白からの鼓動ではなく別の何かの鼓動ということが分かる。感じたことのない不安感と緊張感。ただし、それはふわふわと飛んでいるような曖昧な気持ちだ。



ーー何これ……。


 不思議な気持ちに驚きつつ小林の事を思い出す。今覚えば、小春が一人だったとき、それも漸と会う前から小春を気にかけてくれた。知らないうちに助けられていたことを小春は気づく。そう、思うと申し訳なさで一杯だ。


「私は……」


 しかし、小春の中で恋愛的な好きにはどうしても繋がらない。そう、小林は小春は人間的に好きという感情が強い。その事にははっきり気づいているのに言葉にはできない。その理由は罪悪感だろうか。ここまで自分を助けてくれた恩人に対する裏切りに似ているようで、どうしても言葉が詰まってしまう。


「小春、俺の気持ちなんて気にしないで本心を言ってくれれば満足から。安心して?」


 本心ではない言葉であった。しかし、小春を分かってるこその嘘だ。

 そして、小春もその思いに答えるかのように頭を垂らした。


「……、本当にっごめんなさい!」



「……そっか。……俺こそごめん。泣かすつもりじゃなかったんだ。いや、分かってたんだけど。小春は優しいから泣くだろうなって」


 自分でも気づかないうちに泣いていたようだった。小春ははっとし、涙を拭う。


「でも、透さんが嫌いって言う訳じゃないんだよ。人間的に好きなんです」


「うーん、それ逆に傷つく」


「えっ、あ、ごめんなさい!」


「嘘、嘘。大丈夫だよ。小春、本当にありがとう。じゃぁ、これからも友達でよろしくできる?」


「も、もちろんです。こちらこそ」


「なんだか振られる気はしたんだよ」


「ど、どうして?」


 戸惑いながらも聞き返す小春に小林はクスッと笑いながら、


「だって、小春は誰かのこと好きでしょ? どうしようもなく。違う?」


「居ないよ。そんな人。気、気のせい」


「そんなはずないよ。ずっと見てきたんだから。自分の胸に聞いてみてよ。上手くいくことを願ってるよ」


 後悔なんて微塵も感じさせない輝かしい笑顔に安心するが、瞳の奥にある悲しみには未来永劫小春は気づくことはなかった。


ーー私はそんな人居ないよ。透さん。









「やぁ、初王子。いい告白だったよ」

「城島、お前見てたんだ」

 

 人混みから少し離れた体育倉庫の壁にもたれ掛かった小林に声をかけた紗智菜。その表情はニヤケ面だ。


「情けない顔してるね」

「当然だろ? 振られた訳だし」

 

 唇を尖らせる小林ない言動に笑いが止まらない紗智菜に目を細める。


「おねぇさまの前ではあんなに強がってたのにね。よく頑張ったよ。そして、おねぇさまへの助言。どういう意味?」


「何となくだけど、確信はあるよ」


「なにそれ。矛盾してる」


「じゃぁ、アイツかぁ。んーまっ、おねぇさまがいいならいっか」

 

「城島は知ってるのか。ソイツどんな奴?」

 

 紗智菜は腕を組ながらこう言った。


「どうしようもなく、青いわ」


 小林の頭に上に疑問符を浮かべるほど比喩的な表現だった。しかし、紗智菜は楽しげに口角をあげていた。


 


あと2話で完結予定です。

よろしくお願いいたします‼

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