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優しいこと

 私は何のためにこの力を得たのか。


 何を目的にこの力を使ってきたのか。


 それがずっと分からないままだ。



 でも、直ぐそばにその答えがあるような気がした。



 もうすぐ手が届きそうだ。





 工事現場にて。



 小春の息は上がっていた。対し、エミリーは少し疲労を浮かべているが小春まではなかった。

 二人の静かなる死闘は続いていたのだった。

「もう、諦めたらどうですか? 大人しく、私と共に完全なる平和を作ればいいじゃないですか。そうしたら少なくとも私のように悲しみに暮れる者も、復讐心にとらわれる者は居なくなるんですから。何が不満なんですか? 自分の手で人を殺めることですか?」

 小春の中で何かが外れた。

「違う! 私は3人も殺してしまいました。そして、後悔してもしきれません。エミリー……貴女は間違ってるんです」

 エミリーの表情に不満を露骨に出した。

 小春は怯むことなく言葉を紡ぐ。

「確かにエミリーさんはどんなことをしてまでも平和を手に入れたいと覚悟があるのは分かってます。きっと、貴女は後悔する」

「後悔する必要性がどこにあるというの? 戦争や犯罪がなくなる。太古からほとんど人々はそんな日々を望んでいたでしょ?」

 小春は口を結び、エミリーに近づいたかと思えば、

 ばちんっ。

「え」

 思わぬ反撃を受けたエミリーは少し赤くなった頬を押さえた。

 小春はエミリーに平手打ちをしたのだが、小春の目尻にうっすらと涙が浮かんでいた。

 エミリーは小春が何でそんな表情をしているかが分からなかった。

 小春はふぅーっと大きく深呼吸をすると力を解いたのだった。黒髪になると夜に溶け込みそうだ。

 どこまでも澄みきった黒目を真っ直ぐにエミリーに向けた。

「何のつもり? 街がどうなってもいいの? 貴女の所為(せい)で壊れるけど」

 怒りが籠った声で小春に問うが小さく首を横に振った。

「もし、それで平和な世界を築けたとしても次はエミリーさんが壊れてしまいます」

 小春の後ろで黙って見守る漸。

 エミリーは理解不能といった感じだ。

「エミリーさんは誰かを失う苦しさを知ってる。だからこそ、そんな世の中をしたらエミリーさん……苦しむよ」

「だから、どうして私が苦しんで後悔するの?」

「どうしてって、皆の平和を望むぐらい優しい人だと思ったからです。そんなんじゃなきゃ平和なんて望むはずない」

 エミリーは息をを飲んだ。

 エミリーの視界は反転した。

「え」

 何が起こったのか理解ができず、背中を打ったことだけは分かったのだった。

「私の勝ちです」

 小春は変則の背負い投げをしたのだった。

 負けた気がした。

 とことん小春を勧誘しても揺るがない強い意思が確かに垣間見た気がしてはならない。

 どんなことが起こっても這い上がるだろうっと心底分かる。

 正しい道を選ぶことができる“救世主”のような心の持ち主だった。

 

 ーー私と同じだと思ってたのに全然違う。

   ただの思い上がりだった。


 じんわりと目尻が熱い。

 

 

 ーー泣いてる?

   そんな馬鹿な。

   悔しいから?

   願望が途切れたから?

   また一人になったから?

 

 エミリーの頬からポタリと滴が次々に落ちている。

 小春はエミリーが泣いてることに気づくとあたふたし始め「泣かせるつもりではなかったんです。ごめんなさい」と平謝り。

 漸は呆れたような笑みを浮かべながら見ていた。

 エミリーはそんな光景を見てつい笑ってしまった。


 ーーなんなの。

   この人たち?

   こんなんじゃぁ、世界に平和をもたらせない。

   お花畑のこの人たちじゃ、無理ね。

   もう、何もかもがバカらしい。


 クスクスと笑うエミリーを疑問符を浮かべながら傾げる小春。

 乱暴に涙を拭き取り、砂ぼこりを払った。

 少し寂しそうな笑顔を浮かべながら「貴女のことは諦めるわ。……街の爆弾も解除する。安心して」と言い残して去ろうとしたが、右腕を取られた。

 足を止めて振り替えると赤面した小春。

「あ、あの」

「何? 貴女のコピーも消すしもうこんなこともしない。それとも何? 敗者に情けをかけたんなら一刻も早く居なくなりたいのだけど」

 敗者はいつまでもいる理由なんてないのだ。

 あれだけのことをしでかしたのだ。自害するべきでもあった。

 しかし、小春は引き留めた。

 少し、その事に不満が積もった。

「あ、あの……」

「早く言ってくれる?」

「わ、私と友だちになってください‼」

「……」

 辺りに妙に小春の声が響いた。

「どれだけ、頭がお花畑なの……」

 エミリーは思わず本音が漏れた。

「いい? 私は貴女の命を狙ったっと言っても過言じゃないの! なのに貴女はそんな奴にお友だち申請なんかしてるの! お花畑じゃなくて馬鹿なの? それともアホなの? さぁ、どっち⁉」

「あんまり変わらない気がぁ……」

 エミリーは呆れたようなため息をついた。


 その時だった。

「おねぇさま、こんなところにってそちらは?」

 明らかに二人とは違うテンションで聞いてくる。

 小春突然の既視感に襲われながらその人物の名前を呼んだ。

「紗智菜ちゃん……えっと、友だち申請中のエミリーさん」

(その説明にしかたはないな)

 漸が心のなかで突っ込んだ。

「申請中……。エミリーさんとやら勿論おねぇさまの有難い申し入れ断ったりしませんよねぇ?」

 

 ーー黒い。

   背後が黒い!

   おねぇさまって読んでる時点でコイツヤバイ。


「ねぇ?」

「……」

「ねぇ?」

「……………………………………………………はい」





 申し訳そうに微笑んでいる小春を横目に見ながら空を仰いだ。





 ーーなんだかなぁ……。

   






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