曲がった正義
工事現場にて。
耳をつんざくような金属音が辺りに響く。
エミリーの方が手数が多く小春が押されてるように見えた。
それは紗智菜の時のような気迫で押されているわけではなく、ただ単純に実力差だ。
「ほら、小春さん。もっと本気を出さないと、ねぇ! よっと」
「っ!」
小春にエミリーに返す言葉の余裕はない。
一手一手を受け止めるのに必死で、隙あらば反撃しようと神経を張り巡らしている。
しかし、そんな隙などほとんどない。
あったとしても、エミリーに流されてしまう。
そして、とうとう追い詰められ錆び付いたフェンスが小春の背中に触れた。
横目で逃げ場がないと確認すると一層刀を握る力が強まる。それと同時に焦りから冷や汗がどっと吹き出す。
「最後にもう一度問いましょう。小春さん、私と一緒にこの世界に復讐しません? 人知を越えたこの力で恐怖に支配された確実な平和を手に入れませんか?」
エミリーは柔らかな声で言ったがその内容は幼稚であり、本気だった。
目もそう言っていた。
「結構です。あなたの苦しみはよく分かります。私も同じ時期がありました。ですが、それは平和とはーー恐怖に支配によってもたらされた平和とは言いません」
エミリーの目が曇った。
「いいえ。小春さん。もう一人の貴女が活動……言わば断罪をしてる間数字にすれば小さなものですが犯罪被害は減少したのです。貴女の力は、貴女の存在は抑止力になったのです。これは平和の兆しと言わず何と言いましょうか」
刹那ーー。
轟音が響き渡った。
足元が揺れた。
時間にして数秒、地震のようにも感じる。
状況を飲み込む前にエミリーが口を再び動かす。
「私が仕掛けたものです。安心してください。爆破したのはただの三階建ての小さな廃ビル。尤も、近くに人がいたら怪我ぐらいはしてるかもしれませんね」
エミリーの視線の約1キロメートル先には暗闇のはずの空がまるで夕焼けのように染まっていた。
「街は巻き込まない約束ですよね?」
小春はエミリーに問いかけると「そんな約束をした覚えなんかありません。あくまであれは小春さんが来なければ今すぐ……ってことでしたから」と平然に答える。
小春は苦虫を噛んだような表情と共に時間はそうかけられないことを悟った。
ーー小春、焦るな。
落ち着いていけ。
(っでも、早くしないと……。こんなことのために……。犠牲者が出てしまうのに。急ぐしかない)
小春の心情をしてか知らずか漸は言葉を続けた。
ーー焦りと余計な力が入る。
人が巻き込まれないことだけ願え。信じろ。
前だけに集中しろ。
(信じる……)
小春の瞳に闘志の光が灯った。
更新遅くなっています。
今後もそうなると思います。
もうすぐ完結になりますのでそれまでお付き合いください。




