夢の世界
ーーどうするべきか
漸は小春を抱き抱え、エミリーの表情を見た。エミリーが何をするつもりかは漸は想像もつかない……が小春に何らかの危害を加えることは明らかだ。既に加えられているが。
小春のは心なしか苦しそうだ。
ここから退却するのが一番の策だが町全体に何かあったらもとこともない。
何をしでかしておかしくない力に溺れたエミリー。
小春を見ていたからかより、そんなエミリーが惨めに見えたのは気のせいではないだろう。
紗智菜も桜庭も溺れた。
しかし、小春は幾度もなく救ってきた。
本人は無自覚だろうが周りの人間はその事に気づいている。
今回も彼女を、力に溺れた者を救うことが出来るだろうか。
今のところ考えている真意は分からないままだ。
呼び掛けても起きない小春をただただ待っているのはもどかしいく、苦しい。
恐らく、エミリー本人しか起こせないだろう。
それでも、淡い期待を抱き呼び掛ける。
エミリーは『目覚めさせる』と言ったのだ。
ただの言葉のあやだというのも否めない。
漸にはその可能性にかけるしかないのだった。
何らかのタイミングがあるならば、漸は何度も呼び掛ける。
『起きろ!』『小春!』『目覚めてくれ』
何度も何度も繰り返すが目覚める気配さえ感じなかった。
エミリーは工事現場のフェンスに背を預け、時が来るのを待っていたようだった。
まさに今の状況は手も足もでないという言葉がぴったりであった。
下手に何かすることは出来なかった。
小春は教室からまたあの暗闇の世界に戻っていた。
しかし、小春は膝を抱え震えているようだ。
ーー助けて。
何度も小春の名前を呼ぶ漸を見ながらエミリーは口元を隠しながら笑っていた。
(ったく、人が苦しむ姿は本当に面白い)
エミリーが使った固有スキルの“幻夢”から逃れるのはエミリーが目覚めさせるのを除き一つしか方法はない。
それは小春自身が夢であると気づくことだ。
つまり、明晰夢という状態にならなければならない。
夢と気づけば自ら目覚めることが可能。
明晰夢体験者や意図的に視ることができるならスキルの効果が薄れる。
しかし、明晰夢を視るには個人の洞察力が必用だ。
夢というのは不安定でどこかに矛盾点があり、現実では絶対に起こりえないことおきる。
それが夢なのだ。
例えば指の本数が一本多かったり、少なかったり。
壁か通り抜けられることができたり。
叩いても痛みを感じなかったりと様々だ。
しかし、どれも夢だと気づくのが前提だ。
あくまで確認のためである。
やはり一番は洞察力なのだ。
エミリーは更々夢と気づくのが解決方法だと教えるつもりはない。
もう少しだけあの二人を眺めていようじゃないかと漸たちを横目に思っていた。
「腐った世界を救うためにも貴女が必要なのよ。小春さん?」




