幻夢
「どこ……ここ?」
小春が立ってるのはただただ暗闇の世界だ。
そこで感じる黒い感情。
こちらまで不快に感じるほどだ。
見えるのは己の体がうっすらと分かる。
歩けば上も下も左右も判断がつかず、精神的におかしくなりそうだ。
間もなく小春は立ち尽くし、何があったのかを考えるが一向に思い出せそうにない。
暗闇の世界を眺める。
しかし、ただの暗闇なのに吸い込まれそうな感覚を覚え目を瞑った。
すると、僅かながら安堵し思考を巡らすが何かに阻まれたように思うように頭が働かない。
諦めて目を開けると暗闇の世界に一筋の光はぼんやりと漂っている。
導かれるように光へと近づく。
腕を伸ばし光へ触れる。
「あっ……」
すると、光が膨張し暗闇の世界を光が支配する。
あまりの眩しさに目を瞑る。
暫くするとそこは暗闇の世界でも光が支配するところではなく、見慣れた教室だった。
教卓の近くには、桜庭を囲むように小林、紗智菜、若葉、岸がいた。
それは、間違いなく小春と親しい友人だ。
四人に話しかけようとするが思ったように声がでない。何かに拘束されている気分だ。
「……っ!」
そして、自分だけが取り残されている気がしてはならない。
誰にも気づいてもらえず、誰にも見えない村な存在になってるようだ。
体は動かず孤独感だけが生まれる。
あの四人に気づいてもらえないだけ。
ただそれだけなのにどうしようもなく苦しくなった。
同時刻。
漸は小春からリンクが離されていた。
小春の意識がなくなったと思ったらエミリーが楽しそうにこちらを見ていた。
「何をした」
冷たく低い漸の声だ。
「大したことしてませんよ? ただ、小春さんを夢の世界へご案内しただけです。まぁ、あちらの世界に呑み込まれているかもしれませんけど」
「どういう意味だ」
「あらあら、そんなに怖い顔をして。それほど小春さんのことが大事ですのね? ま、いいでしょう。私は固有スキルを二つ持ってるの。真相心理を映し出す“影見”。その者の不安、恐怖を夢として与える“幻夢”。その夢はその者を呑み込むまで人間の一番恐れていること孤独を感じさせるの。でも、それはそのスキルの本当の能力ではなく、目覚めさせた後服従させるのが目的ですわね」
「服従させてどうするつもりだ。いくら力を持っていてもエミリー、お前はガキだ」
諭すように言うと、エミリーはフッと鼻で笑い見下すような眼差しで漸を見た。
「貴方に名前を呼ばれるのは不本意ですね。ですが、この力は人知を越えたものですよ。貴方も知ってるはずですよ。そのつもりでさえあれば、この世界なんて赤子の首を捻るより簡単にとまでは言いませんが、容易く朽ちらせることが可能」
エミリーの意見は漸も分かっている。
漸自身も契約する時に小春に似たようなことを言ったのだから。
「小春さんには私の願いを手伝ってもらおうと掛け合ったのですが、残念ながら私が想定していたよりとても心が綺麗でしたね。ですから、強行手段に及んだわけですが……」
悪寒がするほどの笑みを浮かべ、
「最初からこうしとけば早かったですね。さぁ、小春さん目覚めたいのは何時でしょうね?」




