もう一つの自分
工事現場にて。
二人を照らすのは月明かりのみだ。
しかし、それは明るく相手の顔を確認するのには何の支障もない。
切り出したのは金髪の少女だ。
「申し遅れました。エミリー·ブラウンです。生まれはアメリカですが育ちは日本です」
聞いてもないことを話すエミリー。
だが、それは小春にとって相手の貴重な情報だ。
向こうは小春の事をあらかた分かっているようだが、小春はほぼ初対面。なにも知らないのだ。
「では、さっそく手合わせ願いますわ」
「話し合い……ではなさそうですが」
「そう申し上げましたが、どうやら小春さんはまともに聞いてはくれないようなので。日本は拳で語り合うって言うんじゃありません?」
エミリーの背後には瓜二つのポニーテールの茶髪の幼い女の子がいた。
はっきり言って二人の女の子の違うところが見当たらない。
無表情でじっと立っている。
不気味というのが小春の印象だ。
「それって、男の子だけじゃないですか?」
「あら、そうですか? 私はとっても素敵なことだと思っておりますよ」
エミリーはそう言った後、力を宿らせた。
小春もそれに習い宿らせる。
「綺麗なピンクですね」
「そうですか。エミリーさんも綺麗な紫色ですね。まるで、毒を連想させるような」
「以前と大分印象がお変わりで。前はもっと弱々しい感じでしたのに。私にその様な物言いが出来るんですね」
「お気に触りましたか?」
「そうですね。菫の花のようなっと言って頂きたかったわ」
「でも、今から“殺し合い”をするんです。遠慮は無用ですよね?」
「そうですね。もう一つ。ニュースで度々報道されている救世主は私の仕業です。ですが……」
エミリーは不敵に笑い、目を細める。
エミリーの武器は双剣だった。刃を光に反射させた。
そして、エミリーが言った言葉は酷く小春を心を揺るがした。
ーーあれは貴女でもあるんですよ
以外な発言に思わず眉間にシワがよる。
(何言ってるの?)
「私の固有スキル“影身”によりもう一つの貴女。真相心理の貴女をコピーしました。貴女が本当に望んだ道を人生を新たな貴女が歩んでるだけですよ」
「……」
「睨まないで下さいな。あれも貴女なのですからね」
大方固有スキルなのは毎度同じだから予想はついていたが、胸の中が少しざわめく。
「さ、行きますね」
エミリーは小春に飛びかかり襲った。
少し遅れを取った小春だが、受け取った。
しかし、息つぐ間もなく斬りかかってくるエミリーは今までとの相手とは違った。
小春は違和感を覚える。
(強い。けど何かが根本的に違う……)
『アメリカ』
その答えは案外簡単に導き出すことが出来たのだった。
エミリーと小春は人種が違った。
基礎が違えば、身体強化をした時にはその違いは歴然だ。
欧米人の方がしがない日本人はより上である。
「受けるだけじゃ、勝てないわよ。芸もないし」
「余計なお世話です。っ!」
小春は足を取られ、その場で仰向けになって倒れた。
直ぐに立とうとするが、腹部を踏まれる。
「じゃぁ、その余計なお世話しようかしら」
「っ!」
エミリーは小春の額に手を伸ばす。
「フフ、では……」
ひんやりとしたエミリーの指先が伸びた瞬間、小春の意識が遠退く。
「夢の世界へご案内……。さ、ゆっくり楽しんできてね?」
エミリーの瞳の感情が無いのを見ると小春は意識を手放した。




