爆弾投下
放課後の教室にて。
「皆さん、ご迷惑をお掛けしました。本当に申し訳ありません」
と深々と頭を下げる小春。
「いいんだよ。小春。勝手に主の意見も聞かず自分の意見で契約を切った奴が悪いんだから」
毒の混じった言葉を小春の隣にいる漸に投げ掛けた。
「でも、まぁ。おねぇさまを思ってのことですからね。悪いというかなんというか……」
紗智菜は嘆息をしながら言った。
「ほら、漸さんも謝って!」
「小春なんかすっかりキャラが……」
距離を詰める小春に後ずさる漸。
「女は強ですね! おねぇさま!」
「本当に強くなったな。小春。そんな小春も僕は好きだよ」
さらりと小春に告白した桜庭だったが、勿論小春は聞いてもなかった。その代わり、紗智菜と漸の殺気が飛んできた。
「これはなんというか……大変になったな……」
「何が大変になったんですか?先生」
桜庭の呟きを拾ったら小春だったが「なんでもないよ」と流されて、頭を傾げる。言うまでもないが、自分が事の中心にいることなど微塵にも思ってなかった。
小春はあっと何かを思い出す。
「今まで忘れてたんですけど、なんで契約を切る直前キスなんてしたんですか?」
さらりと爆弾発言をかました小春以外の者は固まった。それは、絶対零度のように。
「……」
「……」
「……」
「えっと、聞いてます?」
小春の一言で3人に思考が戻ってきた。
すると、紗智菜が小春の両肩をガッシと掴み目は血が走っている。
「お、おねぇさま! き、キキキ、キスをしたというのは本当ですかぁ⁉ 正直に答えてください。幾らおねぇさまとは言え、そんな冗談とも受けれないのは許しませんからね!」
必死な紗智菜に若干恐怖を覚える小春はコクりと頷く。
その瞬間紗智菜は撃沈し、腰を抜かす。紗智菜は聞こえるか怪しいぐらいの声量で「おねぇさまがキス。人間出もない奴と……。漸とおねぇさまと、キス。あぁ、あぁあああああ」とリピートしていた。
「小春。その時の事を詳しくオシエテクレル?」
ボギィ。
笑顔を絶やさず、手に持っていたボールペンを折った。
「せ、先生?」
(あ、あれ。スゴく寒い……)
「オシエテクレル?」
桜庭の背後から醸し出される黒いオーラが広がっているのを小春は見逃さなかった。
「は、はい。本当に契約を切る直前に後頭部支えられてキスをサレマシタ」
小春は桜庭が怖すぎて直視出来なかった。
「お、おい! 小春! そんな詳細に話すんじゃない!」
漸は顔を真っ赤にしながら小春に抗議するがそれは既に遅かった。
「へぇ。それって小春の“ファーストキス”だよね?」
「あ、えっと。だぶん、そうです」
「ファーストキス、ねぇ……」
バリっ!
桜庭は折れたボールペンをさらに握り見事に粉砕した。
「……ちょっと来てくれる?」
勿論、漸にだ。
ーーヤバイ。
俺、殺される!
「大丈夫だよ。君死なないから」
「っ!」
ーーコイツ、俺の心の声を!
「読んでないから」
ーー読んでる⁉
漸は小春と会ったばかりの時と同じ会話をしていることなど気づかなかった。
一時間後、疲れきった表情で漸は帰ってきた。一方桜庭はまだ怒りに満ちていたのだが小春は気づかないことにした。
あまり、突っ込まない方がいいと危険信号が教えていた。
「漸さん。先生に何と言われたのですか?」
「え、いや。……大したことイワレテナイヨ」
固まった表情でそう答える漸。
(そうは……思わないのですが……。完全に)
小春の部屋にて。
「っで、どうしてですか?」
「何が?」
クッションを抱え、漸の顔を見る小春。
「何って。キスですよ。どうしてですか?」
「え、あ……ってよく聞けるな。平然と」
そう、漸は顔色を変えず何故あの出来事あろうことか抱きつくより何か思ってもおかしくない行為を漸は小春に対してしたのだ。
「契約を切る条件としてキスでもしなければならかったのかなぁと考えていただけです。それ以上に何か?」
「さすが……」
(ド級の鈍感。格が違う)
「ん?」
「契約と関係ない。もう、この話は終わり」
後ろを向いた漸の耳は赤い。
「どういう意味ですか?」
「……」
当然、関係ないという言葉に含まれたニュアンスなど小春は分からなかった。
「はぁ。もう、疲れた」




