オーラ
教室にて。
「小春さん。ちょっと手伝ってくださいませんか?」
「私、担当じゃありません」
朝来て早々に桜庭に話しかけられ、小春は後ずさる。
「こうもしないと話してくれないじゃないか。小春」
急に先生から、恋人のような話し方に代わる桜庭。
(先生なのにこの人大丈夫かな……)
最近の桜庭は……今に始まったことじゃないが押しが強い。その理由は紗智菜にあった。
「はぁ……」
「どうしたんですか? 城島さん」
遠い目をしながらため息をつく紗智菜。授業中もずっとこんな感じだった。
「え、あ……。別にあんたに期待してないし。はぁ……おねぇさま」
不敵な笑みを浮かべ、教科書の間から何やら取り出す。
「ほほう……。これをあげると言っても?」
「そ、それは!?」
「この間撮ったばかりの最新版さ。どうだい?」
「て、手を打とう」
「はい、で。何があったの? 小春に」
手に持っているものに彷彿とした表情をしながら話し始めた。
「先日、お泊まり回したんですよ。おねぇさまの家でー」
「な、なんだと‼」
「落ち着いて。それでー恋ばなしたんですよ。おねぇさまには幸せになってほしいなって。どうやら、恋をしたこと無さそうですよ? 鈍感です。小林君に勝つくらいに。あんたも気づいてると思うけど小林君はちゃんと自分の気持ちに気づいてるはずですが、おねぇさまはまるっきりダメみたいです。」
「それで?」
紗智菜は目を閉じ、諦めたような口ぶりで言った。
「小林君、どさくさ紛れってと言うのは違うかもしれませんが抱き締めたらしいです」
紗智菜は見た。桜庭の背後にどす黒のオーラーが漂う瞬間を。
「参考までに聞かせて貰えるかな? 誰を?」
笑みを絶やさず、嫉妬を滲み出す桜庭に恐怖を覚えた。
「お、おねぇさまにです」
思わず敬語になる紗智菜。
こいつに伝えたのは間違いだったと思った頃にはまさに後の祭りだった。
「ふーん。そう。小林が小春を……ねぇ。それってちょっとやそっとでは小春は誰の気持ちも気づかないってことでいい?」
有無を言わせないその顔だ。
「そ、そうです。せ、先生の猛烈なアピールも気づいてないようですし。悪ふざけ認識でしょう……たぶん」
「そ、ありがとう。じゃ、授業だからもうイクネ」
「いってらっしゃいませ‼」
「ふぅー」
(大丈夫かな……おねぇさま)
「ねぇ、城島さん。先生と何話してたの?」
クラスメートの名前も知らない女子生徒だ。
「そうねぇ。ま、悪魔との対話って感じですかね?」
「何それ?」
「悪魔よ、悪魔。いや、魔王かしら」
首を傾げる女子生徒だが、それが分かることは一生なかった。
無理矢理手伝うことになった小春は今資料室にいた。
大きな世界地図やら運ぶのを手伝って欲しいのだが勿論しようとすれば桜庭一人で可能だ。
「これでいいですか?」
小春より30センチほど高い地図を持っている姿は、槍を持ってる少女に見えた。
「ありがとう、小春」
ニッコリと笑って見せると、
「先生、名前で呼ぶのは構わないですが親しみを込めて言うのは止めてくださいますか?」
桜庭は小春の頬に優しく触れながら熱が籠った声で言った。
「それは、僕との関係がばれるからかい?」
小春は表情も変えず、桜庭の手を離し、
「あながち間違ってませんが、誤解されるのは困るんです。……先生は知らないでしょうが。女子の嫉妬は怖いので」
「そっか。ごめんね」
「あ、謝ることはないですよ……。気を付けて貰えれば……」
「僕たちは同じ力をもつ同士。これからも危機があるかもしれない。その時は僕が君を守るよ」
「心強いです……へ?」
桜庭は方膝をを付き、小春の手をとり甲に軽く口づけをした。
まるで騎士が忠誠を誓うように。
「何を……」
小春は口をパクパクしながら、赤面していた。
「これは僕なりの信頼の証だよ」
「は、はぁ」
その瞬間を資料室のドアがあくと、出てきた人物は桜庭の顔面を蹴った。
「何してんだ。このエロ教師!」
「漸さん!?」
「よぉ、小春。どこに行ったかと思えば……小春、何かされたか?」
「え、あの……」
漸から目を反らす小春。
(口が裂けてもいえないよ。黒歴史だ……)
「ったく、君はいつも僕の邪魔を。ま、いいさ。今回目的達成したわけですし……ぶあ! 何するんだ、二度も」
さらに蹴った漸は資料室から連れ出し小春に注意したのだった。
「いいか、小春。今お前は何びきかの獣にいつ襲われてもおかしくないんだ。ビッチに成り下がりたくなかったら、一人でいるな。分かったか」
「う、うん。分かりました」
漸は大きくため息をつき、「っで何されたんだ?」と聞くが小春は口を閉ざす。
「……キス」
「え、あ。何で知ってるんですか!」
「チョロいな。小春」
「かまかけたんですね……。でも、手の甲ですし大したことじゃ……」
「よし! お前はバカだ。オオバカだ」
「酷いですっよ……て何してるんですか?」
漸は何処からか持ってきたのか消毒液を吹きかけている。
「いや、見て通りの消毒。除菌だ」
「そこまでしなくても……」
そして、漸は宣言した。
「小春、よく聞け。俺は3人目の保護者になる!」
「おかしいですよ……漸さん」
「いいや、何らおかしくない! ビッチなんかに小春をならせないためにも!」
こう宣言する漸だったが、数日後紗智菜が受け取ったブツによりちょっとした事件が起きた。




