表
体育館にて。
生徒たちは集合したのはいいものの、列は乱れ収拾がついていない。あろうことか、教師も動揺し適切な指示が言えてないように思えた。教師も人間と言うことだろう。
そのなかで一人だけ不適な笑みを浮かべる者がいた。
「順調ですね……」
やや、興奮気味の声は体育館に響く喧騒により消えていった。
(大丈夫……大丈夫)
小春は大きく深呼吸しながら久々に不穏な心臓な音沈めようとしていた。
「間違ってたらどうしよう……痛っ! 何するんですかぁ」
「気合いだ気合い」
小春にいわゆるデコピンをしたのだが思いの外痛い。
「はぁ、頑張るとしますか」
「よ、救世主サムライ!」
「また、勝手に」
「先生!」
「どうしたのかな? 宮倉さん」
いつも弱気そうな小春だったがその瞳には確かな意思が宿っていた。
「城島さんが見当たらないんです……」
「そ、それはほんとですか‼」
「はい、先程から探してるのですが見当たらなくて……」
次は人を魅了させるような寂しげな表情。
「そうですか。今からでも間に合うはずです。探しにいきましょう‼」
「本当ですか! ありがとうございます‼」
「いいえ、教師として当然の行いです。さっ、城島さんのクラスの授業は……」
「音楽です」
「では、ひとまず音楽室に行きましょうか」
無言の移動が普段なら精神的に辛いものがある。
しかし、今はそうじゃない。
廊下に響く二人の足音。
学校中はパニックに陥っている。二人が抜け出したことなど殆どの者は気づいてはいないだろう。
「着きましたよ」
「あ、はい」
(頑張らないと……)
目の前には少し古風さがある音楽室の扉。中に入るとホコリっぽい臭いと、黒板と、グランドピアノが視界に入る。
そして、ガチャリと鍵が閉まった音が聞こえた。
「城島さん……いないみたいですね。宮倉 小春」
ここ一年ちょっとで聞き慣れたイケメンボイス。
小春はスカートを翻しながら後ろを振り返る。
ゴクリと固唾を飲み込みながら、
「そうみたいですね、桜庭先生」
小春の瞳に映るイケメン教師桜庭。
殆どの女子生徒の心を射止めた顔、声、背、学歴、その他もろもろのステータスが今となっては恐怖さえ感じる。
目の前にいるのはもう教師ではない。
ーー狂人だ。
「宮倉 小春、説明して貰おうか? いや、救世主とやら」
一瞬思考が止まった。
(気づいていたって……)
「それは、想定外でした。しかし、説明してほしいのはこちらの方です。先生らしく教えてもらいますか?」
「えぇ、いいですよ。先生らしく。全ては僕のスリルのため。君を誘きだすためだよ、救世主」
「何言ってるんですか?」
「事実だよ。これが僕さ」
ーーこの狂人、何言ってるの?
いや、理解なんて出来る筈がないな。
まんまと引っ掛かったわけだ私は。




