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廃ビルにて。
「あなたの本当の名前はなんですか?」
その小春の言葉を境にピタリと動きが止まった沢本。
「小春ちゃんには分からないよ……。報われない私の気持ちなんて分かるはずないじゃない!」
「……」
そう声をあげる沢本。小刀を持っている右手が怒りからなのか震え出す。
「小春ちゃん、愛されない気持ちって分かる? 分かるはずないよね」
「……」
「小春ちゃんって本当の両親じゃなくても愛されてるのに……どうして私は本当の親にも愛されないのよ! どうして、親に痛い思いをさせられなきゃいけないの?」
その言葉で小春は城島の“強奪”スキルを持った理由を悟った。恐らく“家庭内暴力”だと推測した。
固有スキルは力を得るまでの人生を歩んだ想いが関係するのだから、城島も小春と同じ闇を抱えている一人なのだ。
「どんなに頑張っても頑張っても……誰にも見てもらえない……誰にも思われない。家でも学校の中でも。……恵まれている人間はどこまでだって恵まれ、恵まれてない人間はどこまでだって恵まれない。どんなに努力したって……一緒でこれ以上何を頑張れって言うの! 分かるなら教えてよ……」
ポタリと滴が、小春の頬に落ちた。
「……」
小春はただじっと言葉に耳を傾けるしかないのだ。例えここで優しい言葉を書けたとしてもきっと偽善にしか聞こえないのだ。容易に想像できる。
小春自身がその立場になったことがあるからだ。
両親を亡くしたあの日から何人、何十人……関わった人々のほとんどが小春を哀れんだ視線で見てきただろうか?
「あの年で亡くして可哀想ね……」
「きっと辛いだろうに……」
「置いてきてしまったことに後悔してるんでしょうね……」
何度、その言葉が耳で木霊しただろうか?
その度に、小春は苦しくなる。幼き心にも深く突き刺さる。
ーー私は可哀想なの?
ううん、そんなことないもの……。
ーー辛いよ……。
その言葉が辛いんだ……。
ーーお母さんもお父さんも私を置いていってるんじゃない。
最後まで私を守ってくれたんだ。
そんなこと分かっていても、荒んでいく小春の心だったが漸に会ったことで変わったが果たして沢本はどうだろうか?
若葉と会い、力を得て逆に暴走する形になったのだろうか。
その気持ちは小春にもよく分かった。
強くなれた気がしたのだから。
肉体的にも精神的にも。
だからこそ、人をいとも容易く殺めれたのから。
ーーこれが同じ力を持ったもの同士の共通点だ。
「紗智菜はずっと一人だった。紗智菜は誰にも見えてなかった」
沢本の本当の名は紗智菜。
一人称が自分の名前で呼んでいるとなると小春より年齢が可能性が出てきた。
(そっかぁ、この子も私と同じなんだね……)
小春はセーラ服が擦れる音をたてながら、起き上がり、すっと紗智菜を抱き締めた。
「……っ!」
びくりと肩を震わせる紗智菜。
それをなだめるように一定にリズムで背をポンポンと叩く。
紗智からはもう敵意は無い。
「……紗智菜ちゃん、大丈夫。私がちゃんと見るから」
背丈は向こうが高いのだがまるで小さな子供を抱き締めるみたいだと小春は思う。
「そんなの嘘だぁ‼」
悲痛の叫びと言うのだろうか。
それを受け止められるのは同じ類いの人間だけだ。
抱き締める腕の力を強め、大丈夫という言葉を繰り返す。
「本当……本当に紗智菜を見てくれる?」
泣き顔で懇願するよな口ぶりで小春に問う。
「約束する」
小春の言葉で泣き崩れる紗智菜。
そんな紗智菜にただ黙って頭を撫でるそに二人の姿は姉妹だった。
「紗智菜ちゃん、もう帰ろう」
コクりと頷くと力を解いた。
小春もそれに習って解くと一気に疲れが出る。
「小春ちゃん、ごめんなさい」
頭を下げる姿に戸惑うが「大丈夫だよ」と言って手を引く。
帰り道は月夜が明るく照らしていた。
「お疲れ」
「本当に……でも、色々良かったです。今何時だろう」
「さぁ、少なくとも俺が出てきたのは8時だった」
「うわぁ。ヤバイ感じじゃないですか」
小春の脳裏に二人の姿が思い浮かんだ瞬間、萎えたことは言うまでもないだろう。




