恐怖の中から
廃ビルにて。
小春は目の前の光景をうまく飲み込めずにいた。
「大丈夫か?」
「……えっ、あ……うん」
混乱しながらもどうにか返事をする小春。漸は腕の自由を奪っているロープを解く。
腕の外傷は殆どなく強いて言えばロープでうっすら赤くなっていることぐらいだ。
「あの……」
「何があってるか分からないっていう顔してるな。見たまんまだよ。同じ力を持っている人間には干渉できるからな。ちょっと蹴りをいれただけだ」
「そうじゃなくて……」
小春が聞きたいのはどうしてここにいるのかだ。
「ほら、立てるか?」
立とうとするがすっかり腰が抜け立てそうにない。
その事に気づくと漸は手を貸し出し小春を立ち上がらせる。
「ありがとう……」
その声は未だに恐怖で震えていた。
「あんただれ? 新手のコスプレ? それとも小春ちゃんのストーカーか何か?」
いつの間にか沢本は立ち上がり、物騒にこちらに小刀を向ける。
敵意剥き出しの沢本に対し、漸は余裕を持ってるような口ぶりで答えた。
「いや、その選択肢のどれでもない。お前が持っている小刀と同じようなものだ」
「は?」
「だから、お前の小刀の奴と同じ存在って言ってんの。小春、見せてやれ」
「えっ……うん」
戸惑いながらも漸を宿せる。スッと力が入り髪、瞳の色がお馴染みのピンクに染まっていた。
「ま、まさか!?」
沢本は驚愕の色を隠せない。しかし、フッと狂喜に染まった顔になる。
(嫌な感じがする……)
「そっかー。小春ちゃんはかの有名な救世主だったのね。へぇ、面白い。……もっとほしくなったよ。小春ちゃん」
ーー来るぞ、小春。
久々の感覚だった。
頭のなかで響く漸の声は不思議と小春の心を安心させた。それと共に
(どうして、こうなってるの⁉ 戦闘って……もっと穏便に済ませる方法があると思うのは私だけ?)
冷静に状況を把握しなければと目の前の沢本に集中した。
かなりの力で沢本は地面を蹴り、小春に突進する勢いで仕掛けてきた。
「っ!」
ギィィィと耳をつんざくような金属同士が擦れ合う音は小春の刀と沢本の小刀からだ。
二人は勿論、剣道などというものは習っておらず作法も全くもって出来ていない。ただの切り合いという表現があっている。
しかし、人間離れした身体能力の強化により迫力が凄まじい。
実際には、若干小春が押されていた。
原因は気迫だろうか。
小春が攻めることは少なく、受け身が多い。
「小春ちゃんの人生……」
ーー頂戴?
沢本の瞳の色は欲望に染まっていることを小春は気づく。




